フレーザー - みる会図書館


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1. ABC殺人事件

そして、サンドイッチを食べてしまい、葡萄酒を飲んでしまうと、やっと彼は個人的な話題に はいっていった。 「ペクスヒルからいらしたのですね、フレーザー君 ? 」 「そうです。 ・ヒグリーはうまくいきましたか ? 」 ヒグリーですって ? ミリい・ ヒグリーですって ? 」フレーザーは、その名を不審そ うにくりかえしていった。「ああ、あの娘ですか ! しいえ、私はなにもしませんでした。それ 彼は言葉をきった。その手は、神経質にひとりでによじり合わさった。 「なんでここに来たのかわかりません、彼は急に喚いた。 「私にはわかりますよ」ボワ口がいった 「そんなはずはありません。どうしてわかりますか ? 」 「君がここに来たのは、だれかにいわねばならぬような何かがあったからです。君は、正しかっ たのです。私はそれに適した人間です。さあ、話してごらんなさい ! 」 ボワロの安心させるようなようすが効果をもたらした。フレーザーは、感謝するような、ふし ぎな柔順さで、彼を見つめた。 「そう思いますか ? 」 「もちろん、そう思いますとも」 192

2. ABC殺人事件

「べティー ・・ハーナードは殺人狂に殺されたのです。真実を語ることだけが、犯人を追及する助 けになるのです」 相手の眼はしばらくミーガンのほうにむけられた。 「ほんとうなのよ、ドン」彼女がいった。「自分の感情とかひとの感情とかを考えている場合で はないわ。すっかりうちあけなければならないのよ」 ホワ口を見た。 ドナルド・フレーザーは、疑わしげに、。、 「あなたはどなたです ? 警察の方ではないんですか ? 」 「私は警察よりいいのです」ボワロは別に意識した横柄さなしにいった。それはただ彼には囈実 をいっただけにすぎなかった。 「この方にお話しなさいな」ミーガンがいナ ドナルド・フレーザーは降伏した。 はっきりしなかったんです . 若者がいった。「彼女がそういったとき、ぼくはその 「ぼくは とおりに思ったのです。ほかのことをするとは思いませんでした。あとになってーーたぶん彼女 の態度に何かあったのでしよう。ほくはーー・そうです、ぼくは疑いはじめました」 「それで ? 」ボワロはそういって、ドナルド・フレーザーの正面にすわった。その眼は、相手の 眼をのぞきこんで、催眠術でもかけているようであった。 「ぼくは、疑ったことで自分を恥ずかしく思いました。でもーー・でもやつばりぼくは疑いました : ぼくは海岸までいって、彼女がカフェーを出るところを見張ろうと思いました。そして実際 110

3. ABC殺人事件

ドナルド・フレーザーはしずかにいった。 「私自身、一時はそう思いましたもの」 「夢のせいですか ? 」ボワロは、すこし青年のほうによってから、こっそりと声を落していった。 「あなたの夢には、きわめて自然な解釈がっきます。それは、妹さんのイメージがあなたの記憶 の中ですでに消えてしまって、そこに姉さんがはいってしまっているということです。あなたの 心の中でマドモワゼル・ミーガンが妹さんとかわってしまっていて、あなたは故人にたいして、 そんなに早く不実でありたくないと思うものだから、それをおし殺そうとしているわけです。こ れが夢の解釈ですよ」 フレーザーの眼はミーガンのほうを見た。 「忘れるのをおそれてはいけません。彼女は、忘れないでいるほどの値打ちはありません。マド モワゼル・ミーガンは百人中の一人ーーーりつばな心の持ち主です ! 」 ボワ口がやさしくいった。 ドナルド・フレーザーの眼が輝いた。 「そのとおりだと思います」 私たちはボワ口をとりまき、あれこれの点を明らかにするように質間をした。 「ボワロ、あの質間のことだがね、君が一人々々にきいたーーーあれには何か要点があったのか 「あるものはたんにじようだんだった。しかし私の知りたいと思うことはわかったーーーフランク 314

4. ABC殺人事件

蛇ドナルド・フレーザー しようすい この青年をみて、私はすぐに気の毒になった。その蒼い、憔悴した顔と、とほうに暮れたよう な眼つきとは、彼がどんなに大きな打撃をうけたかを物語っていた。 「とすると、だれかにうちあけるというようなことは ? たとえばカフェーの給仕仲間とか 「そういうことはないと思います。べティーは、あのヒグリーって娘がたまらなかったんです。 あの娘を下品たと思っていました。ほかの人たちは新しいし。べティーはひとにうちあけるたち じゃないんです」 呼鈴が、娘の頭の上でけたたましく鳴り出した。 彼女は窓のところにいって、のり出して見たが、はげしくくびをひいた。 「ドンですわ : ・・ : 」 「ここに、つれて来てください」ボワ口がいそいでいった。「わが刑事どのの手にはいるまえに、 私がきいてみたいことがあるのです」 ノーナードは電光のように台所から出ていくと、すぐにドナルド・フレーザーの手 をひいてもどって来た。

5. ABC殺人事件

しいえ、けっして」 「ほんとに、まじめな真実ですか ? 」 「そうです」 クラークは、にが笑いをした。 「そうですね、ボワ口さん。私は、アスコットこま、 冫。しかなかったのですが、車に乗っている人た ちを見た印象でいえば、アスコットの婦人帽はふつうの帽子よりも、ずっとばかげていると思い ますね」 「きまぐれだとおっしやるので ? 」 「まったく気まぐれです」 ボワロは微笑して、ドナルド・フレーザーのほうをむいた。 「あなたは、今年は、いっ休暇をとりましたか ? 」 こんどは、フレーザーが眼をみはった。 「休暇ですか 2 ・八月のはじめの二週間です , 彼の顔は急にふるえ出した。私は、その質間が、彼の愛した娘を喪ったことを思い出させたか らたとわかった。 ボワロは、しかし、その返答にあまり注意をはらわないようだった。彼はソーラ・グレーのほ うをむいたが、その声にはわずかな変化がみえたように思 0 た。それは緊張した感じで、質間は するどく、はっきりしていた。

6. ABC殺人事件

るのだった。 「そうよ」 しばらく沈黙があってまたフレーザーがいった 「警察は ? 何かしているのかい ? 」 「いま、二階にいるわ。べティーのものを調べているんでしよう」 わからないのかい ? 」 「だれだか見当がっかないのかい ? 彼はロをつぐんだ。 彼は、感じやすい、臆病な人間らしく、あらあらしい事実を口に出すのを好まないのだった。 ボワロはすこし前に出て、質間をはじめた。彼は、自分のたずねることがつまらぬ些事ででも あるかのように、事務的な、味もそっけもない声でいった。 「昨夜、ミス・・ハーナードが、どこにいくか、あんたにいいませんでしたか ? 」 フレーザーは質間にこたえたが、まったく機械的に話しているようだった。 「女友だちとセント・レオナードにいくといってました」 「あんたはそれを信じましたか ? 」 「ぼくは 急に自動人形に血がかよい出した。「なんていうことをおっしやるんです ? 」 彼の顔はそのとき威嚇的になり、急激な感情でけいれんしたが、これでは娘がおこらせるのを こわがったわけだなと私にもわかった。 ボワロはすにいった。 109

7. ABC殺人事件

台所の戸が開いた。 「ああ、いらっしゃいましたねーケルセー刑事がいった。 クローム刑事が彼をおしのけて入って来て、ボワロと、二人の見知らぬ人間とを、それぞれち らりと見た。 ・ミーカノ・く ノーナードに、ドナルド・フレーザー君」ボワ口が二人を紹介していった。 「こちらがロンドンから見えたクローム刑事ーそう説明してから、彼は刑事のほうにむいて、 、、ス・バーナードやフレーザー君と話をしていた った。「あんたが二階で調べているあいだに、 んです。何か事件の手がかりになることが見つけ出せるかと思ってね」 「はあ、そうですか ? 、クローム刑事はいったが、ボワロのほうは念頭になく、二人の新顔のほ うに気をとられていた。 ボワロは広間にさがった。ケルセー刑事が彼を送りながら、 「何かわかりましたか ? 」 しかし彼は同僚のほうに気をとられていて、返事を待ちはしなかった。 私もボワロといっしょに広間に出た。 「何か思いあたったかね ? ー私はきいた。 「ただ犯人のすごい度胸だけだよ、ヘイスティングズ 私は、彼のいうことがすこしもわからないといい返すだけの勇気がなかった。 っこ 0 112

8. ABC殺人事件

彼はがっしりした、りつばな若もので、ほとんど六フィートの背丈があり、きれいというので はないが、気持のよい、そばかすだらけの顔で、頬骨がたかく、燃えるような赤い髪をしていた。間 「どうしたんだい、 ミーガン ? 彼はいった。「なんだってここに連れて来たんだい ? たのむ から、話してくれーーぼくはきいたんだけどーーベティーが : : ・こ 彼の声は消え入るようになった。 ボワ口が椅子をすすめ、青年はその上にへたばりこんだ。 私の友人はポケットから小さな水筒をとり出すと、食器棚にかかっているコップのひとつをと って、その中身をついで、いった。 「のみたまえ、フレーザー君。楽になりますよ」 若者はいうことをきいた。そのブランデーが顔にすこし赤味をつけた。彼はきちんと坐りなお して、もういちど娘のほうを見た。彼のものごしはまったく静かで、よく自制がきいていた。 「あれはほんとうかね ? 」皮ま、つこ。 彳。ナ「べティーがーー死んだーー殺されたというのは ? 」 「ほんとうよ、ドン」 彼はまるで機械的にいった。 「ロンドンから来たばかりかい ? 」 「そうよ。。ハバが電話したの」 「九時一一十分の汽車だね ? 」ドナルド・フレーザーがいった 彼の心は現実からしりごみして、ただ安全のために、こんなつまらない些事の上をすべってい

9. ABC殺人事件

・ヒグリ かりで。それから、ドンのことをすこし : : : あの娘も、あのカフェーの同僚の、 ーがきらいだと申しておりましたーー・・それから、カフェーの経営者のメリオンてひとのことを一一 : ほかのことはおぼえていませんわ : : : 」 人して笑いました : ・ 「妹さんは ごめんなさい、フレーザー君ーーー逢うはずになっていた男のことを、何かいいま せんでしたか ? 」 「いいませんでした」ミーガンが苦々しくいった。 ボワロは、四角の顎をした、赤髪の青年のほうをむいて、いった。 「フレーザー君ーーーひとつ、過去のほうに頭をむけてみてください。君は、あの運命の晩にカフ ーにいきましたね。君のはじめのつもりでは、そこでべティー ・・ハーナードを待ちかまえるつ もりだった。君がそこで待っているあいだに、だれか君の気のついた人間はおもい出せませんか な ? 」 「あのへんはたくさんの人が歩いていました。とてもそのうちのだれかをおもい出すなんてでき ません」 「失礼ですが、おもい出そうとはされているのですか ? どんなに気が顯倒していてもですな、 眼は機械的にーー・意識せずに、しかし正確に見ているものなんですよ : : : 」 「だれもおもい出せません」 青年は頑固にくり返した。 ー・ドローワーのほうにむいた 0 ボワロはため息をついて、メリ 「伯母さんから、たびたび手紙は受け取っていられましたね 2 ・」 工

10. ABC殺人事件

ドナルド・フレーザー 4 第三の手紙 カーマイケル・クラーク卿 ()i r Carmi chael Clarke) 準備 ボワロの演説 スエーデン経由で ・クラーク レディー 犯人の人相 四插話 九月十一日、ドンカスター (Doncaster) 1 1 ロ 一一 0 四