アタランテがそれを拾うすきにひき離し、これを三度繰り返してついに勝って彼女を妻に得 マジック・フライト ました ( 背後に障害物を投げながら逃げる、いわゆる呪的逃走のモチーフです ) 。 さて、英雄たちは九日間オイネウスに歓待されたのち狩り場に向かいますが、猪はさすが に強く、二人がその牙にかかり、一人は手元狂った仲間の槍に当たって命を落とします。し けもの かしついに、ますアタランテが獣の背に矢を射込み、ついでアムピアラオスが目を射、そし わきばら てメレアグロスが脇腹に止めを刺しました。 おおいのしし 大猪の皮はこれを討ちとった者に賞としてあたえられるという約東でしたが、メレアグロ スは皮を得ると、好意をもっていたアタランテにあたえてしまいます。しかし、母アルタイ アの兄弟たちは女に賞をとられることを恥とし、メレアグロスが要らないなら近親の自分た ちが得るべきだと主張して、アタランテから皮を奪いとります。メレアグロスはこれに怒り、 伯父たちを殺してふたたび彼女に皮をあたえました。 事を成し終えた英雄たちが帰り着くよりも早く、「猪退治さる」の報は王城に伝えられま すが、それと同時にアルタイアの耳には、兄弟がわが子に殺されたという悲報も入ります。 つづいて運びこまれる遺体。彼女はそれを見るなり、前後のみさかいもなく例の箱の所へ とんでいくと、燃えさしの薪をとり出し、燃えさかるかまどに投げいれます。薪はたちまち まき やり いのしし

燃えっき、こうして別のところにいたメレアグロスは、突然の死にとらえられたといいます メレアグロスの物を伝、んる最古のホメロス作ロ叩には薪のエピソードはなく、これは後代、 昔話の「生命の指標」のモチーフを応用してつけくわえられたものでしよう。昔話でよく見 さ られるのは、冒険者が家に残していった木が枯れたり剣が錆びたりしたときに、旅先のその 男の死を知るという話ですが、その他、特定の物と人の寿命の結びつきを説くものに、へそ おぼ の緒を水に入れるとその子どもは溺れ死に、火に入れると焼け死ぬとする迷信、冥界に各人 に割りあてられた長短さまざまのロウソクがあり、燃えっきると地上の人も死ぬとする考え 方などがあります。ここではアルタイアは、一時の怒りから息子の「生命の指標」をみずか らの手で縮めたのです。 ◆ヘラクレスーーー不条理の難業′ ヘラクレスはギリシア神話中最大の英雄とよばれるだけあって、その行動範囲は遠くギリ 雄シア世界の外にまで及んでいます。そのため、歴史時代の各地の王家がヘラクレスの子孫を せんしよう 僭称したばかりでなく、異民族、たとえば北方の遊牧民スキタイの王族や小アジアのリュデ こ・つえい 英 ィアの王家さえもヘラクレスの後裔とされる伝説がつくられています。 Ⅳ ヘラクレスという名前は「ヘラ女神の誉れ . を意味しますが、皮肉なことに、その一生は ◆ めいかい 0

らとり出し、火を消して箱の中にしまいこみます。こうしてメレアグロスは、不死身といわ れるほど立派に成長します。 ところがある年のこと、収穫祭で神々に初穂を捧げる季節になりましたが、オイネウス王 はなぜかアルテミスにだけ奉献するのを忘れてしまいました。女神はこれを怒り、巨大な いのしし 猪を送って、カリュドンの土地を荒らし人畜を害させます。そこでオイネウスはギリシア くら 中から英雄をつのり、狩り競をもよおします。ここに参集したのは、メレアグロスはもとよ り、ゼウスの双子の息子であるカストルとポリュデウケス、テセウス、アルゴ船の隊長とも なったイアソン、アキレウスの父ペレウス、その他名だたる面々の中に、紅一点アタランテ の姿も見えます。 じよじようふ この女丈夫についても面白い物語があります。彼女は生まれるとすぐ、男子を欲していた めすぐま 父親に山に捨てられますが、雌熊の乳を呑み猟師に育てられます。のち両親と再会しますが、 雄親の勧めるような結婚をする気がありません。求婚者が現われるたびに徒競走を挑み、敗れ た男をつぎつぎと殺すのです。まず求婚者に走らせ、後からアタランテが追いかけて、追い 英 つくと殺したといわれます。しかし最後に、アプロディテから三つの黄金のリンゴをあたえ られたヒッポメネスが登場します。彼は走り、追いっかれそうになるとリンゴを一つ落し、 り・よ・つし

すが、投獄されたヨセフをャハウェの神が守ります。ギリシア神話中でもこのモチーフはし ばしば現われますが、テセウスの後妻パイドラと義子ヒッポリュトスの物語は、劇にもなっ てことによく知られています。 つぎに、「破滅の手紙」のモチーフも、旧約聖書『サムエル記』の一挿話にちなんだ「ウ リヤの手紙」の名で知られるものです。ダビデ王は兵士ウリヤの妻バテシエバをわがものに しようとして、ウリヤを呼びよせ、手紙を持たせて戦場へ送り出します。将軍にあてた手紙 には、ウリヤを敵の精鋭の中に孤立させ討ち死にさせよとあり、ダビデはこうしてまんまと 思いをとげたのです。このモチーフはオリエントあたりからギリシアに入ったものと考えら れますが、世界各地の昔話にも見出され、文学作品、たとえばシェイクスピアの『ハムレッ ト』第五幕でも利用されています。 のろ ◆メレアグロス・ーー母の呪い : おおいのししが カリュドンの大猪狩りの中心人物メレアグロスは、その地の王オイネウスとアルタイアの 子ですが、実の父は軍神アレスだともいわれます ( 系図の③を参照 ) 。彼が生まれて七日目の モイライ こと、運命の三女神が部屋に現われ、かまどの薪を指して、この木が燃え尽きたときにメレ アグロスの命も尽きるだろうと言いました。これを聞いたアルタイアは、その燃え木を火か まき

索引 ( 神名・人名・事項 ) プロクルステス 50, 90 プロメテウス 6 ー 22 , 32 , 99 , 104 , 106 文化英雄 16 , 18 ベガソス 27 , 50, 74 , 77 , 78 へシオドス 15 , 103 , 165 34 へカトンケイルたち 28 , 33 , 152 「仕事と日々」 「神統記』 12 , 99 , 102 9 , 12 , 25 , 34 , 40, 125 , 132 『イリアス』 132 , 142 , 195 『オデュッセイア』 95 , 99 , 51 , 77 , 95 , 114 , 120 ホルコス ( 誓約 ) ポントス ( 海 ) マ行 マイア 41 26 , 52 27 へスティア へスペリデス へパイストス へべ ( 青春 ) 30, 42 , 43 ー 44 86 10, 11 , 41 , 62 41 , 89 ヘラ 42 , 48 , 56 , 62 , 65 , 83 , 107 , 180 , 他頻出 ヘラクレス 20, 27 , 41 , 83 ー 89 , 93 , 94 , 117 ヘリオス ( 太陽神 ) 10 , 45 ベルセウス 6 , 27 , 54 , 71 ー 76 ベルセポネ 44 ー 46 , 54 , 94 , 100, 160 ー 163 , 他 ヘルメス 11 , 35 , 46 , 63-64 , 74 , 187 ー 190 , 他 ペレウス 81 , 106 , 110 ヘレネ 94 , 106 , 108 べレロポン 76 ー 80 , 他 ヘロドトス『歴史』 118 ペンテウス 66 , 143 ホーライ ( 季節の女神たち ) 12 , 40 ポセイドン 91 , 他 ホメロス 36 , 50 , 55 , 74 , 77 , 43 , 50, 70, 78 , 83 , マルペッサ 115-116 ミダス 119 ミノス 91 , 172 ー 174 ミノタウロス 91 , 92 ミュートスとロゴス 1 , 204 ムーサイ 7 , 41 昔話のモチーフ 13 , 76 , 83 ムネモシュネ ( 記憶 ) 27 , 41 メタモルポーシス ( 変身 ) 193 , 194 , 200, 203 , 他 メディア 90 , 91 メティス ( 知恵 ) 40 , 54 メドウサ 27 , 74 , 77 メネラオス 108 メレアグロス 80 ー 83 , 87 モイライ ( 運命の三女神 ) 20, 26 , 35 , 40, 80, 116 モスコス 166 ー 170 ラ行 ラビュリントス ( 迷宮 ) リュカオン 143 , 147 レイア ( レア ) 27 , 31 , 65 レダ 94 , 106 56 , 59 , 134 ー 138 , 他