ワン・ルン いまでは王龍は、一人の人間と一頭の牛だけでは、耕作しきれないほど土地もふえ、一人の人 小さな部屋を建て増して、隣家 間では間にあわぬほど収軈もふえてきたので、ロ。 ( を一頭買い、 の陳に言った。 「お前さんの持っている土地をおれに売って、ひとりじやさびしいだで、家へきて、おれの畑 を手伝ってくれねえだかね」陳はよろこんでこの申し出に応じた。 天は雨のほしい季節に雨を降らせてくれた。稲の ~ 田がのびた。小麦を刈ってとり入れをすませ ると、そのあとへ水をひいて二人は稲の苗を植えた。王龍は、この年ほどたくさん稲をつくった ことはない。雨が多かったので、これまで乾いていた畑が、稲作に適する田になった。やがてと り入れの時期がきたが、彼と陳だけでは手が足りないほどのすばらしい豊作だったので、王龍は 村の男を二人やとって、とり入れをすませた。 黄家から買った土地で働いていると、没落した大家の、ぐうたらな若旦那たちのことが思いだ ←された。彼は二人の子供にきびしく言いつけて、毎朝かならず畑へつれ出し、牛や ( をひくよ 地うな、小さい手でもできることをやらせた。たいした仕事はできないにしても、せめて日光の暑 さや畦を行ったりきたりする疲労だけでもお・ほえさせたかったのだ。 大 しかし阿藍が畑へ出ることはやめさせた。もう彼も貧乏人ではないからだ。今年のように、 れまでにないほどゆたかな収阯があるからには、そうしたいと思えば作男をやとうこともできる 身分にな 0 たのだ。彼は収穫物を入れておくのに、また一部屋、建て増しした。さもないと、家 ホワン こ
ン 0 《ウォー 怪談・奇談田代「一千稔訳 1 ジャングルの足跡厨川圭子訳森の生活ルデン》富田彬訳 1 ム 00 ) ) 完 メルヴィル川 ワ】っ 0 3 4 鯨全三冊 日本の面影田代 = 一千稔間人間の絆全四冊 守屋陽一訳 富田彬訳 1 アンドロクリーズ ォルコット 0 各 吉田勝江訳 と獅子市川又彦訳間ダ・フリン人飯島・淳若草物語全二冊 ォルコット 0 ギッツング 0 若き日の 全二冊 ・ジ , イス 00 昔気質の一少女全二冊 蜘蛛の巣の家佐藤利吉訳Ⅱ 芸術家の肖像 飯島淳秀訳 87 吉田勝江訳 ヘンリ・ライクロフトギブシン′ 0 ・ウルフ 0 ・ ォルコット 0 の手記栗原元吉訳 間ダロウェイ夫人富田彬訳 加ライラックの花の下松原至大訳 ドスン 0 ォルコット 0 文化果つる 《熱帯林の 全二冊。 1 、人のいとこ ところ 蕗沢忠枝訳各間緑の館 ロマンス》守屋陽一訳 1 / 村岡花子訳 1 赤 永遠の処女全二冊・ , ネディ花ざかりのローズ 鷹の井戸松村みね子訳 村岡・佐川訳 1 学 ヘミングウェイ 0 ・トウ = イ , 囲 2 トム・ソーヤーの冒険 文林檎の木三浦新市陽はまた昇る及川進訳 1 佐藤利吉訳 1 ィールズクージー 外 岩よさらを石一郎訳王子と乞食寺井康雄訳 1 フォーサイト家物語石田英一一・井 録 ヘミングウェイ 0 全三冊上宗次・ 8 間 《ワシントン・・ジ = ームズ側 5 女相続人 殺人者・狩猟者 目 臼田昭訳 111 ロ」郎訳 スクエャー》蕗沢忠枝訳 1 ヘミングウェイ 文海に行く騎者村みね子訳 ジャロの雪竜ロ直太郎訳 公子至大訳 ム 0 ネット 0 角月と六ペンス厨川圭子訳スケッチ・・フック田部重治訳小 公女ル・野上訳 ウエプスタ トワイス・ 雨 西村孝次訳 5 トールド・テールズ柏倉俊三訳間あしながおじさん厨川圭子訳 9 TJ ・モ ソン 0 赤 毛厨川圭子訳緋文字福原麟太郎訳Ⅱ続あしながおじさん村岡・町田訳 1 TJ ・モ 手 紙西村孝次訳 8 伝記物語守屋陽、一動物記全九冊 内山賢次訳 0- 0 ・ 0 : 0 ・ ( 0 : 0 : 0- 00 1 人 1 人 -0- つ」っけり 0 0 アッシャア家の崩壊 誘 1 ー - 11 11 1 ー人 11 1 ー 1 ・ー - 1 よ 惑厨川圭子訳 5 佐々木直次郎訳 1 東洋航路西村孝次訳モルグ街の殺人事件 内山賢次訳 8 佐々木直次郎訳和森のロルフ全二冊
238 「よく考えて思い出してくれ。やせぎすの若者だ。年のわりに背丈の高い、まだ一人前になっ てねえやつだ。あれが女を買うなんて夢にも思っていなかっただ」 女は思いだした。 「そういえば二人づれのがいたよ。一人はひどく偉ぶった、何でも心得ているような眼をした 若い男で、帽子を横っちょにかぶって、一人は、お前さんがいうような背丈の高い、柄の大きな、 早く一人前の男になりたくてうすうすしているような若い衆だったよ」 「それだーー・それだて , ーーそれがそうだーーそれがうちの息子だ」 「それで、そのお前さんの息子がどうしたっていうの ? と女がきいた。 勢いこんで王龍は言った。 「つまりな、今度奴がきたら、追い出してもらいてえだーー大人しか相手にしねえとか何とか 口実は何でもかまわねえだがー」そのかわり、あの子を追っ払ってくれたら、そのたびにわ しは二倍の銀を払うだよ」 女は笑って本気にしなかったが、急に興味をじたらしく、言った。 「働らかなくてお金をもらえるとな 0 たら、誰た 0 て、いやだなんていう人いないわよ。あた しだって、もちろんそうだわ。事実、あたしのほうだって、大人ならおもしろいけど、子供はお もしろくないわ」 彼女は、そう言いながらうなすいて見せて、色 0 ぼく王龍を見た。彼はそのみだらがましい表 情に気色が悪くなって、急いで言った。 「それじゃ、そうしてくれよ」
に大声で言った。「のつけろ、と言われたから、のせてきたんだとよ。掛合いもしねえでさ。馬 鹿のなかの馬鹿とは、この野郎のことだ。のせる前に、いくら頂戴できますかってきくもんだ。 よくお・ほえとけ、馬鹿野郎め ! 掛合いをしねえでのせていいのは外国の白人だけだ。あいつは 気が短かいが、行けと言われたら信用してのせて行っても大丈夫だ。あいつらは馬鹿で、まぬけ で、ものの値段を知らねえさ。そのくせ。ホケットから銀貨を水みてえに流し出すんだ」きいてい た人たちは、みな笑った。 王龍は何も言わなかった。この南の都会の人たちのなかにいると、何も知らないので、まった く身のちちむ思いがする、と思った。彼は一言も返事をせす、車をひいて立ち去った。 ( だけど、これで明日は子供らに食わせられるだ ) 彼は心で肘を張ってそう考えたが、そのと きふと、夜になったら車の損料を払わねばならないことに気がついた。これでは損料の半分にも、 まだ足りないのだ。 彼は朝のうちに、もう一人、お客をのせた。このときは、ちゃんと掛合って値をきめてからの せた。午後は一一人客があった。しかし、夜になって車の損料を払ってしまうと手に残ったのは鋼 ←貨一枚であった。とり入れのときに一日じゅう働いたよりもはげしい労働をして、たった銅貨一 地枚しか稼げなかったのか、と、ひどく情ない気持で小屋へ戻った。そのとき、ふと故郷の土地の 思い出が、あふれるように身をつつんた。めすらしい体験をしたこの日一日じゅう、故郷の土地 のことは一度も思い出さなかったが、いま思い出してみると、ひどく遠方にはちがいないが、そ Ⅱこには彼を待っている彼自身の土地があるのだ。そう思うと気分がやすまり、彼は小屋へ入った。 小屋に入ると、阿藍は一日の乞食かせきでビタ銭四十枚ほどもらっていた。銅銭にすると五枚
なった土地に種子を蒔いた。牛や種子、や鋤が必要なのだが、それ以上借金できないときは、人々 は土地を売り、田畑の残った部分に種子を蒔いた。王龍はこういう田畑を、どんどん手に人れた 9 しかし人々は金がどうしても必要たった。だから彼は安く手に入れることができた。 しかし田畑を売ろうとしない人々もいた。彼らは種子や鋤や牛を買う手段がない場合には娘を 売った。彼らのなかには、王龍か金持で、勢力家であり、そして親切な人だと知っているので、 彼のところへ娘を売りにくるものもあった。 彼は、まもなく生れる孫のことを考え、息子たちがみな結婚したら、そくそく孫が生れてくる ことを考えて、奴隷を五人買った。二人は十二歳で、大きな足と、たくましいからだっきをして いた。それよりも若い娘二人は家族一同の小間使にし、一人は蓮華につきそわせた。社鵑が年老 いてきたし、末娘がいなくなってから家ではたらくものがなくなったからである。ある日、彼は この五人を一度に買ったのであった。決心したことはすぐ実行できるほど彼は裕福だったからで ある。 それからほどないある日、一人の男が七歳かそこらの小さな、弱そうな女の子を抱いて売りに きた。王龍は、その子があまり小さくて、弱々しいので、最初は、ほしくないと言ったが、蓮華 がこの子を見て気に入ってしまい、駄々をこねるように言った。 「あたし、この子がほしいわ。こんなにきれいなんですもの、いまっかっている子は下品で、 いやなにおいがするので、好かないのよ」 王龍も、よく見ると、美しい、おびえたような眼をしており、痛ましいほどやせている。王壟 は半分は蓮華のきけんをとるために、また半分はこの子に食をあたえてふとらせたかったので、
側に陳も埋めてやりたかった。けれども息子たちは承知せす、不平を言った。 「お母さんやお祖父さんと一緒に使用人を葬むるのですか。私たちも死んだら陳と一緒になら なければいけないのですか」 冫。しかないし、老年のため、家のなかにもんちゃくを起したくなかっ 王龍は彼らと争うわけこよ、 たので、陳を土壁の入口のところへ埋めた。そうしたことで彼は自分をなぐさめて言った。 ( そうだ、これでいいだ。あの男はいつもわしを災難からまもってくれた守り神だったでな つけた。 彼は自分が死んだら陳と一番近いところへ埋めるよう息子たちにいい それからというもの、王龍は、土地を見に行くことが前よりもすくなくなった。陳が死んでか ら、一人で行くのは心が刺されるように痛んだからである。彼ははたらくことに疲れた。一人で ごっごっした畑地を歩くと、骨が痛んだ。そこで彼はできるかきり多くの畑を小作に貸すことに した。そこがたいへん肥沃な土地だということが知れわたっているので、人々はあらそって借り たかった。王龍は一尺の土地でも売るという話は全然しなかった。一年かぎりの契約で値段を協 ←定して貸すだけだった。このようにして彼は、それが全部自分のものであり、依然として自分が 地手のなかに握っていることを感じた。 そして彼は雇人のなかの一人に命じて、家族とともに田舎の家に住まわせ、阿片の夢にばかり 大 耽っている叔父夫婦の面倒をみさせた。三男の憂鬱そうな眼つきを見て、彼は言った。 「さあ、お前もわしと一緒に町へ行くだ。白痴の娘もつれて行こう。わしのいる居間でなら、 あの娘も暮せるだろう。陳が死んでしまったで、お前もこの家ではさびしすきるだろう。陳がい
328 「兄さんが言ってたがな、お前は勉強したいそうだな , 少年は、ほとんどくちびるをうごかさすに答えた。 「はい 王龍はキセルをはたいて拇指でゆっくりと新しい煙草をつめた。 ・「そうか。つまり野良仕事をしたくねえというだな。わしには息子が何人もいるのに、畑に残 る息子は一人もいなくなるわけか」 ・及よこ がにがしけに言ったが、少年は何も言わなかった。夏のリンネルの長い白い着物を着て、 だまって立っていた。ついに王龍は、その沈黙にむかむかして、どなりつけた。 「なんで黙っとるだ。野良仕事をしたくねえというのは本当か ? 」 三男はまた、たった一言、「ええ」と答えた。 この息子を見ていると、考えこますにはいられなかった。老齢の自分にはこんな子供たちは手 - ・ におえない。苦労の種だ。重荷だ。どう扱ったらよいか見当もっかない。まるで子供たちからひ どい目にあわされているような気がする。そこで彼は、またどなった。 「お前が何をしようと、わしの知ったことじゃないわい。あっちへ行け」 少年はさっさと姿を消した。王龍はひとりで坐り、結局息子たちよりもあの二人の娘のほうが よかった、と心のうちで考えた。一人は、白痴ではあるが、ほんのすこしの食物と、おもちゃに する小きれしかほしがらないし、一人は結婚して家にはいないからだ。タ闇が部屋に忍び入り、 ただひとり部屋にいる彼をつつんだ。 それでも、怒りがおさまると王龍はいつも息子に思うようにさせるのが常だったが、こんども。
134 らとその富とのあいだには大きなレンガの塀があるだけであり、この塀だって、彼が毎日重い荷 物をかついでいる天びん棒で二、三度突けば崩れてしまうにちがいない、と知っているので、よ けい熱心にきいていたのである。 春の不満に加えて、いまや新しい不満がひろまってきた。それは、あの青年やその仲間が、自 分たちの持っていないものを金持どもが持っているのは不当だという意識を、この小屋の住人た ちの心にひろめたからである。彼らは毎日このことを考えるようになり、夕方になると集まって そのことを話しあった。その上、毎日、毎日、 いくら働いても稼ぎはすこしもよくならないので、 若い連中や元気な男たちの心には、雪どけの水に溢れながれる大河の潮のように、狂暴な欲望を たたえた潮が、さからうことのできない勢いで、満ちあふれてきた。 しかし王龍は、この有様を見、彼らの話を聞いて、彼らの怒りに何ともいえぬ不安を感じたが、 しかし、もう一度この足で故郷の土地を踏みたいと思う以外になんの望みもなかった。 王龍はこの都会で、たえす何か新しいことにぶつかるが、するとまた理解しがたいことにぶつ かった。ある日、空車をひいて客をさがしていると、そこに立っていた一人の男が、武装した兵 士の一隊につかまえられた。男が抗議すると、兵隊たちは、その顔の前で銃剣をひらめかした。 王龍がびつくりして見ていると、一人、また一人と、つぎつぎにつかまってゆく。つかまった男 たちが、みな自分の腕で稼いでいる貧乏人であることが王龍にもわかった。そのうちに、また一 人っかまった。この男は、彼と同じ塀の下 0 、しかもすぐとなりの小屋に住んでいる男である。 ぼうぜんとしていた王龍は、このとき不意に、その男たちが、なぜ自分たちは好な好まないに
212 「社鵑をあたしの召使にしてもいいでしよう。あたしはこの世の中で一人・ほっちなのよ。あた しがまだ口がきけないうちに両親は死んでしまって、叔父はあたしが美しくなるとすぐに、これ まで送ってきたような生活に売ってしまったので、あたしは一人・ほっちなのよ」 彼女はこう言いながら、美しい眼の隅から、いつもたくさん用意してあるきらきら輝やく涙を 流した。こんなようすで彼女に見上けられると、彼は彼女の頼みを拒みかねた。その上、女に召 使が一人もなかったということも事実だし、彼女がこの家ではひとりだということも本当だった。 阿藍が妾のめんどうをみるとは、まるで考えられないことだった。彼女は蓮華に話しかけもしな ければ、この家に彼女がいるということも、まったく黙殺していた。そうなれば、他には叔母が いるだけだが、叔母がのそき見したり、せんさくしたり、自分のことを話しに蓮華に近づくと思 うだけで、がまんできなかった。だから、社鵑でも結構だと思ったし、他に召使にくるような女 を誰も知らなかった。 だが、社鵑を見るときの阿藍は、王龍がかって見たこともない、また彼女にそんな面があると も知らなかったほどの深い不機嫌な怒りで腹をたてた。杜鵑は王龍から粭金をもらっているのだ ホワン し、また自分が黄家で老大人の部屋づきであり、阿藍は大勢の台所奴隷の一人にすぎなかったこ とを忘れてはいなかったが、阿藍と仲よくする気は十分にあった。彼女は、はじめて阿藍に会っ たとき、ていねいに呼びかけたものである。 「まあ、なっかしい。また同じ家に住むようになったわね。あんたが主人で第一夫人ーーあた しの御主人・ーー変れば変るものねえ ! 」 しかし、阿藍は彼女をじっとみつめていたが、この女が誰で何者であるかがわかってくると、
369 大地 ( 一 ) あわてて茶を出した。彼は最近生れた孫が見たいと言ったりした。そして、ひどく忘れつはくな っているので、おなじことをなんどもきいたりした。 「わしの孫は何人になったかな ? 」 一口かがすぐに答える。 「男の子が十一人に女の子が八人ですよ」 彼はおもしろそうに笑ってい 「一年に二人すっふえて行くのじゃな。わしにも数がわかるて。そうじやろうが ? 」 彼はしばらくそこに腰をおろして、周囲をとりまいている孫たちを見まわす。孫たちはもう背 丈の高い少年になっている。彼は、これらの孫どもを、どんな子だろうと眺めて、ひとりごとを つぶやく。 「あの子は、わしの父親に似ているな。あの子は劉さんにそっくりじゃ。この子はわしの子供 のときとおなじじゃて」 そして孫たちにたすねる。 「みんな学校へ行っとるのか ? 」 「行っていますよ。おじいさん」みんな、さまざまな声で一緒に答える。彼は、またたすねる。 「四書を習っているか ? 」 孫たちは、この頭の古い老人をけいべっして、若々しい澄んだ声で笑う。 しいえ、おじいさん、革命が起きてから、だれも四書なんか勉強しませんよ」 彼はちょっと考えてこういう。