ってあるから、王一の長兄の素行について他人の知らないことをたくさん知 0 ていたのである。 そこで彼は娘にどなりつけた。 「何をいうか ! おまえは魔窟でばかり日をくらしているろくでなしの道楽息子と結婚するつ 1 もりか」 そして彼は、娘が学校へもどるまで彼女の部屋へとじこめておくようにと召使たちに命令した。 彼女は気ちがいのようにとんで行って、父親にくってかかったり、哀願したりしたが、父親のほ 彼よ、きわめて冷静な男で、娘がまくしたてているあいだ、 うは、すこしも相手にしなかった。 / 。 詩を口すさんだり、書物を読んだりしているのであった。娘が憤怒のあまり、娘としていうまじ き言葉を吐くと、彼女のほうをふり向いて言った。 、いた。このごろの娘を悪く 「おれは最初からおまえを学校へやらすに家におくべきだと思っ、 ( するのは学校教育だ。もし、もう一度やりなおせるものならおまえもおまえの母親のように、 字がよめなくても貞淑にそだてて、早く善良な男のところへ片づけたいくらいだ。そうだ。いま からでもそうするそ ! 」とっぜんどなりつけられたので、娘は気がひるみ、父親がおそろしくな 地それから一一人の男女は、ひどく美しい、絶望に満ちた手紙を、たがいに書き合った。そして両 家の召使たちは買収の金でふところをあたためながら、はげしく往復した。けれども青年は家に 大 ばかりとじこもってくよくよするばかりで、睹博にも遊びにも行かなかった。両親は、彼が悶々 と思いわすらうのを見ても、どうしたらいいかわからなかった。王一は間接に警察署長にわいろ を贈ろうとした。署長は、わいろはすぐ受けとるほうだが、今度ばかりは手を出そうとしなかっ
ちのことを調べていたところなんだ。これはと思うような娘は、たいてい知っている。うちの長 男には県長の弟の娘で十九になるのと婚約させようと思っているんだーー善良な、いい娘だよ。 ししゅう もう家内も、その子の刺繍ゃなにかを見たんだ。美人ではないが、貞女らしい。ただ一つ困って いるのは、長男のやつめ、自分の妻は自分で見つけるなどというはかな考えをもっていることだ 南のほうでは、そんなことがはやっているのだそうだね。おれは長男に言ってやった。 L こ では、そんなことをするわけにはいかん、好きなのがあったら、正妻とは別に第二夫人にすれば いじゃないか、とね。せむしの子は、家内が家族のなかから誰か僧侶にしたいと言っているの で僧侶にしようと思っている。からだの立派な、ちゃんとした子を坊主にするのはもったいない からね」 王商人は兄の家庭のそういった事柄には全然興味をもっていなかった。どの息子でも、早晩、 結婚しなければならないのはあたりまえで、自分の息子だって気そのとおりである。だが息子の 結婚のことなどに彼は時間を浪費したくなかった。そんなことは妻の責任だと考えているので、 すべて妻にまかせているのである。ただ、嫁として迎える女は、健康で、働きもので、葭節でな ければならない、 とだけ言ってある。王商人は兄の長話にがまんができなくなって言った。 「その娘たちのなかに、弟の嫁としてふさわしいのがいますか。弟みたいに一度結婚したこと のある男に、よろこんで娘を嫁にやる親がいるでしようかね」 けれども王一は、こういう風流な問題については、決してせきこんだりはしなかった。あれこ れと、彼自身が見たのや他人からきいた娘たちの記憶をゆっくりと思いめぐらしてから、やっと 返事をした。
ようなことを思いふけるのがつねであった。心中にそんなことを感じてくると、王虎は、おのれ のひげに向って、つぶやくように言うのであった。 ( その人間は、おれなのだ ! ) 王虎がこんなにも長男にたいして愛情を抱いているということから、一つの奇妙な事件が起っ た。それはこうだ。学間のあるほうの妻が、長男が毎日彼のところへ召されることを聞いて、あ る日、自分の娘を飾りたてて彼のところへつれてきたのである。はなやかな新しい衣裳を着せて いた。その色は、じつにあざやかな淡紅色で、手くびには小さな銀の腕環まで巻きつけ、黒い頭 髪をピンクのリポンで結んでいる。こうして娘の父の注意をひこうとしたのである。王虎は困っ てしまい、女の子にはどう言ってやったらよいかわからないで、眼をわきへそらせると、妻は気 持のよい声で言った。 「この小さい娘も、あなたに見ていただきたいとねがっています。この子は、あの男の子にち っとも劣らす丈夫で、美しゅうございます 王虎は、順番で彼が夜の闇のなかを訪れるときの彼女しか知らないので、こんなことをいう彼 女の勇気に、いささかたじたじとなって、義理で、つぶやくように言った。 「女の子としては、かなりきれいだな」 , しかし娘の母親は、それでは満足しなかった。彼は、ほとんど娘の顔も見ないでいうのだから、 なおさらである。そこで彼女は、さらに一押しした。 いえ、旦那さま、ちょっとでも、この子を見てやってくださいまし。この子は、ありふれ た子ではございません。あの男の子よりも三月も早く歩きましたし、二年たらすですのに、四つ
自分のからだを元の腕にびったりおしつけ、脚をからみあわせんばかりにして踊った。それから、 ほかの娘がいると、かならす彼をからかい、笑いながらいうのだった。「あんた、元兄さんと踊 るときには、しつかり抱かせなきやだめよ。兄さんったら相手を壁におしつけておいて、ひとり で踊るのが好きなんだから」それからまた、こんなことも言った。「元兄さん、あなたは、そり ゃいい男よ。でも、女なら誰でも用心しなきゃならないほどいい男でもないことよ。あたしたち のなかには、もう好きな人をきめているひともあるのよ 愛蘭は友達のまえでこんな冗談を言ってみんなを笑わせるので、もともと大胆な娘たちは、い よいよ大胆になって、元と踊るとき、はすかしけもなく、からだを押しつけてきた。彼は彼女ら の大胆さをやめさせようと思うのだが、愛蘭がなおも図にのってひやかしそうなので、一生懸命 がまんしていた。すると、臆病な娘たちまで、彼と踊るときには、につこり笑い、もっと大胆な 男と踊るときより大胆になって、うわ目をつかったり、笑ってみせたり、力をこめて手を握った り、腿と腿とをすりよせたり、女性が自然にお・ほえた技巧をつかうのであった。 ついに元は、夢や、愛蘭に紹介されて知った娘たちの奔放さになやまされ、もう二度と愛蘭と は一緒に行くまいと思うのだが、老夫人がいまでも、「元、あなたが愛蘭と一緒だとわかっている ので、わたしも安心なのですよ。あの子が、ほかの男の人と行ったときでも、あなたも一緒だと よ、つこ。 思うと気がやすまるのです」としばしはいうので、行かないわけこよ、 それに愛蘭も元と一緒に行くのをよろこんでいた。な、せなら、元は背が高くて、風采もわるく なく、友達のなかには彼をつれて行ってやるとよろこぶ娘もいたので、彼女は彼を見せびらかし て得意になっていたのである。こうして、元のなかには、心にもなく情熱の火が燃えあがらんば
は う な つ に 帰 っ た 彼 は わ ろ の 金 額 が す く な す き た と さ と た が あ く 小 139 なばをき さ屋 っ王ける 王て 気で 察し、しら でれ へで 突はいは し力、 のて ぶあ 斧、の 气な輪と と王通王の鳴たを老を しむ 一そも ・言そ のば とをきそてあ 。言呉わ だま して へれ ノ、の しをなナ い関ん謝銀く か責 に艮の るば 父ま った 阜て いき たふ持な 召か彼ろ い彼殿か 金わ配た しる てそなち ししよ て広長娘 しな ぬほけをしカ し間 ん投署も にが いま 誘し病暑 ぬナ日 て気長をてか分こ し向 の贈 と立 どて娘も れわなほ で去 しっ名き ほ力、 カし、 っ女 人ち 最カ う者・、つ 間一で簡 でま誰単上わ王そ 等カ 地 か分なかか手る ・つ 、た署 な 、ら大に 分をなかめ の 、に ′つ ろては の にす解 、わす 大 ( 三 ) っ ん てさ人 、せ 家たを 、 - 氏は持 し、 と 解せで く せ たたた にそに な持る はれに なたも 自 の 格 て 自 は の め 惑 さ る よ う し、 と 張 ん 。士をに と 、ろ と日 。めかわ し う そ う に 威はる決着たは 、き会を物か敷た と面件着な屋 の し 、にて と る 。当 相 けてば 非を周 る のあは り と っ 、あぎ入 かなすすあた長で娘 つろか う う よ ら と し 、た ら っ腰自 、け 彳寺 、いたけ の つでか 。大牢 戸 つ通ろなも死れ彼ん 聞 0 り、 を ち 。た 員 任 が お そ 、は を使な り の の の いをカ と し ら ろ しそ / 、嬢悲 いよー しをかな任 、貴だをせ ら 男はそ 、タヒの なオ 。がた中 し ま 、ら の の ついをはは に - ー 1 よ お娘冷 っ 冫立にけでん く を し て ら も 娘 ま う な と を し 力、 に静指 使 はた泣 い て っ 彳丁 . 人のたわこ る死はは他 。女で島か , & あ レナ 、のう 腕 のさ身か権 をだけ長な の し、 と で う き つ牢わ て屋み 。けれ 娘にが し、の 力、 、たら にしな 。力、のカ、 け命ろ て令う から金 ・つ そ 。ん 、で 人従も はたか だちわ れはな 冂 も年カ 結をぎ 婚引り と と し、 っ彼
138 た。みんな絶望した。長男は食事もしない。首をくくって死んでしまうなどとロばしるありさま であった。王一も、まったく気が気でなかった。 あるタ方、青年が愛する人の家の裏のあたりをうろうろしていると、非常門があいて、愛人の 手紙をとどけにくる役の小間使が、そっと出てきて、彼を手招きした。彼はどぎまぎし、おそろ しかった。しかし情熱にかられて門をくぐると、そこの小さい庭に愛人が立っていた。彼女は、 すっかり覚悟ができていて、気が強く、いろいろな案を持っていた。けれども、顔を合わせると 言葉は容易に出てこない。紙に書く言葉のようこよ、 冫。しかないのである。青年のほうは、決してく るべきでないところへきているのだから、見つかったらたいへんと、びくびくしていた。しかし 娘のほうは気が勝っているし、それに学問があるから、あくまで願望を貫徹しようとしていた。 彼女は言った。 「わたしはもう旧式な人々にはかまいませんわ。どこかへ一緒に逃げましよう。わたしたちが いなくなったのがわかると、世間体があるから、きっと結婚をゆるしますわ。父はわたしを愛し ているのよ。わたしは一人娘で、母はなくなっていますの。あなたは長男でしよう。だから、な んとかしてくれますわ」 しかし青年が彼女の情熱にこたえて駈落するまえに、庭に面した扉があいて、不意に警察署長 があらわれた。娘の使いをする小間使にきらわれた下男が復讐のために密告したのである。署長 は従者たちに命令した。 「あの男をしばって牢へ入れろ ! おれの娘の名誉を台なしにしようとした男だ ! 」 愛人の父が警察署長で、誰でも監獄へほうりこめるということは、王一の長男にとって不運の
124 まで行かぬうちに、夫人が声を張りあけてこういうのが耳にはいった。 「うちの子は一人も軍人になっていないことをうれしく思うわ。とても下等な生活ですものね。 若いものを粗野に平凡にしてしまいますよ」 王一は、そわそわして答えた。「そうだな , ーーおれはちょっと茶館へ行ってくる」 あばたは伯父夫妻が死んだ息子のことを思いだして、そっけない態度をしたのだとは知りよう がなかった。すっかりしおれかえって門のところまできた。すると、そこに王一の第二夫人が立 っていた。最近うまれた赤ん坊を両手にだいている。彼女も青年の話をきいていたのであるが、 席をはすして、彼よりもさきに門のところへきていたのであった。一 彼女は、なっかしそうに彼に 言った。 「たいへん結構な勇ましいお話でしたわー 青年は、すっかり気をよくして母親のところへ帰った。 三十日間、あばたづらの甥は自分の家に滞在した。彼の母親が、この機会を利用して、許婚の 娘と結婚させたからである。その娘を母親は、彼のために数年まえにえらんでおいたのである。 嫁は近所で絹織物をしている人の娘で、その父親は、貧乏でもなく、他人に使われる労働者でも なか 0 た。紡績機を持 0 ていて、二十人ほどの徒弟をつか 0 て、さまさまな色の繻子とか花模様 の絹布などの反物を製造しているのであるが、町に同業者がすくないので、相当に繁昌していた。 娘も、その職業に精通しており、春さきの寒さが、いつまでもつづいたりすると、自分のあたた かい肌でカイコをかえしたり、また徒弟たちがつんでくる桑の葉でカイコを育てたり、マュから 糸を繰ったりすることもできるのである。この家族は、一代前に他郷から移り住んできたので、 いいなずけ
も利益がございませんー 王虎は重な言葉であいさっしてから、剣の威力を示すべきときがきたと見て - とって、ぶつぎ ら・ほうに言った。「そうだ。しかし、わしには権力がある。ていねいにお頼みしてもいかんとな れば武力で頂戴するだけだ」 こんなエ合にして王虎は甥を懲らしめて、またその地位にすわらせ、また同じようにして、そ の県城および彼の全領土にたいする支配力を確保したのであった。 全領土が確保され、治安が維持されるのを見とどけると、彼は、わが屋敷へ帰り、冬の終るの を待った。そうするうちに、来春になったら大規模な征服戦をはじめようとの夢想が湧いてきて、 四方へスパイを放ったり、いろいろ作戦計画を練ったりするのに毎日いそがしくなった。そして 年こそ老いてきたが、まだこの全省をわが手におさめて、わが子にゆすることぐらいは多分でき るであろう、と空想に心をおどらせるのであった。 まったく「その長い冬のあいだじゅう、その夢想にばかり王虎はとりすがっていたのだ。しか し、じつにさびしい冬だった。あまりさびしいので、ときどき、ついわれを忘れて、女たちのい る後房へ行きかけたほどだった。けれども、そこへ行ったところで仕方がない。学間のない妻と 地その娘たちがいるはかりで、何も彼らに話すことはなかった。だから、ひとりで、ゆううっそう に坐っているだけで、自分と彼らとは何の関係もないと思っていた。ときどき彼は、学間のある ほうの妻はどうしているだろう、と考えた。彼女は娘を海岸のほうの学校へ入学させるためにつ れて行って、、娘の学校の近くに住みつき、それつきり帰ってこないのである。一度、彼女は娘と 一緒に罎った写真を送ってきたことがあった。そのとき王虎は、しばらくそれをながめていた。
136 二つに裂いてしまった。それをつなぎ合わせて、どうにか判読できた。彼女の筆蹟はカづよく美 しかった。はじめに儀礼的な文句があり、つぎに、なぜ大胆にもそのような手紙をだすか、その 理由が説明してあった。「わたくしもまた自由な魂です。なにごとにおいても父母に強制される ことをこばみます これは遠まわしに彼にたいする愛情を表現したものであった。 ,. 冫 彼よよろこびのあまり、われを 忘れるほどであった。 こんなエ合で恋愛がはじまった。そのうちに二人は、どんなにさかんにやりとりしても、手紙 だけでは満足できなくなった。なんとかして逢いたい。そこで一、二度、娘の家の裏門で会った。 二人とも顔には出すまいとしているが、じつはおそろしかった。だから、会ってもあわただしく 別れてしまった。頻繁に手紙を往復したり、召使にたくさんの金をやって口どめしたり、手紙に 変名をつかったりなどしているうちに、この恋は、ますます燃えさかってきた。二人とも、ほし いものはがまんできない性質だから、恋愛でも、のんびりとかまえてはいられなかった。三度目 の逢いびきのとき、青年は熱情をこめて言った。 「もう僕は待てない。あなたと結婚しないではいられません。だから父に打ち明けます」 彼女も、それにたいして、しつかりと答えた。 「あたしも父に、もしあなたと結婚できなければ毒をのんで自殺すると申します」 そこで二人は、それそれ父親に話した。王一のほうは、長兄がそのような良家の少女を好きに なったのをよろこんで、すぐにこの縁組みをまとめるつもりになったが、娘の父親のほうは頑固 で、あんな男には娘はやれぬと強硬であった。彼は警察署長という職掌がら、ス。 ( イを諸所に放
の子ぐらいのロがきけます。わたしがあなたにおねがいしたいことは、この子にも勉強させて、 あの男の子とおなじように、あなたのあとをつがせていただきたいことでございます」 王虎はびつくりして言った。 「女の子は軍人にすることはできんじゃないか ? 」 すると娘の母親は、しつかりした、気持のよい声で言った。 ういう学校が 「軍人にできなければ、学校へやって何か芸を習わせましよう。このごろは、そ たくさんあるのですから、旦那さま、 とっぜん、王虎は「旦那さま。という、ほかの女はだれも使わない言葉で呼ばれたことに気が ついた。この妻は他の女たちのように彼を「ご主人さま , とは決して呼ばないのだ。彼は、まご ついて、なんと答えたらよいか考えっかす、あわてて子供のほうへ眼をやった。まったくかわい らしい子である。まるまるとふとって、ちいさな赤い口をうごかして微笑している。眼は大きく 黒いし、手はふつくらしているし、爪はほっそりとして非のうちどころがない。彼が爪に目をと めたのは、母親たちがよく、愛する子供にそうしてやるように、この母親もまた娘の爪を赤く染 つめてやっていたからだ。足には小さな。ヒンク色の絹の靴をはかせている。子供が母親の手の上で とびはねるので、母親は一方の手で両足をおさえ、片手を胸のあたりにまわしている。王虎が女 の子をながめているのを見て、母親は、しすかに言った。 「纏足はさせまいと思います。学校へやって、このごろあちこちにあらわれたような近代的女 性にしたいと田 5 います 「そんな娘は嫁にもらってくれる人があるまい」王虎は、きもをつぶして言った。