眼 - みる会図書館


検索対象: 大地(三)
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1. 大地(三)

156 「射ち殺せ ! 片つばしから射て ! 」 護衛兵たちは、し 、っせいに発射した。大きな部屋のなかが、全部、銃声と硝煙に満たされた。 硝煙が情れると、六人の兵士は死体となって横たわっていた。 王虎が、すぐに立ちあがって命令した。「この死骸をはこんで行って、この者どもを代表とし てよこしたやつらに言え、それがこの回答だとな ! 」 しかし護衛兵が若者たちの死体を引き起そうと身をかがめる前に、 一つの奇妙なことがおこっ た。王虎の息子は非常に落ちついた子で、平生、自分のまわりに起る事柄は、ほとんど見向きも しないように見えるのだが、いま彼は、父もはじめて見るほどの凶暴な無我無中なようすで躍り 出した。そうして若者の死体の一つの上に顔をふせて、しげしげと見つめ、それから一つすっ、 すばやくあちこちさわってみたり、大きくみひらいた狂気じみた眼で眺めたり、ぐったりしてい る手足を凝視したりしていたが、やかてきっと父の顔を見て、父になかって大きな声で言った。 自分のやっていることがわからないようすであった。 「あなたは殺してしまったーー・ひとりのこらす死んでいます , ーーーこの兵士は、ぼくも知ってい ますーーーにくの友達です」 そして、とっせん王虍がなんともいえない恐怖をおばえたほど絶望的な眼を、父の恨に釘づけ にしていた。息子の眼のいろには、父をそっとさせるものがあった。父は眼をそらし、弁解じみ た口調で言った。 「こうしないわけこよ、 冫しかないのだ。そうしなければ、ほかのものを煽動し暴動を起して、お れたちを殺すようになるのだ」

2. 大地(三)

く、ただ働くことと勉強だけに熱中したからで、その夜はぐっすりと眠った。こんなふうに大地 はしばらくのあいだ彼をいやしてくれた。 それでいながら、彼の心のうちには、すでに情炎に火がついていた。 一日二日すると彼の気持 はまた変って、落ちつきがなくなった。それである日、あの女が教室にいるかどうかと思って、 そっとふりかえって見た。彼女はちゃんといて、ほかの学生の頭越しに二人の眼があった。彼は、 すぐに眼をそらしたのだが、相手の眼は、しつこく追ってきた。彼は彼女を忘れることができな かった。また一日二日してから、彼は入口で、前から考えてもいなかったのに、つい口から出し てしまった。「今日、散歩に行きませんか」彼女はその深みのある眼を伏せてうなすいた。 その日、彼女は手を握りもせす、いつもより離れて歩くような気がした。黙りがちで、話もは ずまなかった。すると、驚いたことに、元の心に、あべこべな気持が起った。それまでは彼女か ら手をふれられるのもいやだし、あまり近く寄られるのもいやだと、はっきり思っていたのであ る。それだのに、しばらく歩いて行くうちに、手を握ってもらいたいような気がしてきたのだ。 別れるときでさえ、彼のほうからは手を出さなかったくせに、彼女のほうから手を出してくれそ うなものだ、そうすれば、こちらも出さないわけこよ、 ~ ~ しかなくなるではないか、と田 5 って見てい た。しかし、彼女は手を出さなかった。彼は、なんだかだまされたような気持で家に帰ったが、 そんな気持になったことに腹がたち、恥かしくなり、もう金輪際、女なんかと散歩はしない、自 分には仕事があるのだ、と心に誓った。その翌日は、男はよろしく孤独に生き、学問に精進し、 女を遠ざけるべきだと痛烈な文章を書いて、おだやかな老教師を驚かせ、その夜は、あの女を恋 しなくてよかったと、百回も自分に言いきかせた。それからしばらくのあいだ、彼は毎日農園に

3. 大地(三)

244 しかし彼は、なにも言わなかった。軽蔑をこめ、黙って見やるだけで、言葉をかけようともせ す、馬をできるだけ早く走らせ、乗馬の脚の早さに誇らかなよろこびを感じた。護衛兵の普通の 馬とは、まるでくらべものにならなかった。だから、彼について行くには、彼らは自分たちの馬 をあわれなほど鞭うたねばならなかった。それでいながら、いくら走ったところで自分が囚人で あることを彼は知っていた。詩もうかんでこないし、美しい風景も眼にうつらなかった。 こうした強行軍の二日目の夜、彼は父の家についた。馬からおりると、急に心の底まで疲れを おぼえ、父がいつも寝る部屋のほうへ、ゆっくりと歩いて行った。兵隊や召使どもが、そっとう かがっているのには眼もくれす、会釈もしなかった。 ところが、もう日が暮れているのに、父は寝室にはいなかった。ぶらぶらしている衛兵にたす ねると、「将軍は広間のほうにおいでになります」と答えた。 これを聞くと、元はすこし腹がたってきた。いすれにしろ、父の病気は、そうひどくはなく、 自分を家につれ戻す策略にすぎなかったのだ、とひそかに思った。そして、父を恐れすともすむ ように、そうした策略に対する怒りを、わざと燃えたたせた。大地にしたしんだあのたのしい孤 独な日々のことを考えると、父に対する怒りを新たにすることができた。しかし、広間にはいり、 父のすがたを見ると、怒りは、し 、くらかやわらげられた。それが策略ではなかったことを、自分 の眼で見ることができたからである。父は彫刻した椅子の背に虎の皮を投けかけた上に腰をおろ し、火のいつばいおこった火鉢をかかえていた。毛のふかい羊皮の服にくるまり、高い毛皮の帽 子をかぶっていながら、それでも父はひどく寒そうにしていた。皮膚は古びた革のように黄いろ かみそり 、眼は熱のために乾いて黒く落ちく・ほみ、剃刀をあてない頬の髯が灰色でざらざらしていた。

4. 大地(三)

な幅の広い田舎式の寝台に近づき、とばりを開いて身を投げ出し、内側の壁によせてたたんであ った青い花模様の古ぶとんにくるまった。横になったと思うと、もう眠っていた。そして、むか しながらの家の深い静寂のなかで、身と心をやすめたのであった。 やっと眼をさましたときには、もう夜になっていた。彼は暗闇のなかで身を起し、とばりをさ っと開けて、部屋のなかに眼をやった。壁に四角に切った孔からさしこな弱い光もなく、どこを 見ても、やわらかい、物音ひとっしない暗黒のみであった。根をさましてみると、自分ひとりな ので、これまで経験したこともないほどやすらかな気持で、彼はまた横になった。彼が眼をさま すのを待っている召使が近くにいないことまでが、彼には気持よかった。いまのと一、ろ、隅々ま でしみわたっているこの静寂以外、なにも考えたくなかった。物音ひとっきこえなかった。眠っ たまま寝がえりをうつ粗野な衛兵の寝言も、石敷きの中庭にひびく馬蹄の音も、いきなり鞘から とも甘美な静寂があるばかりだった。 引き抜かれる長剣の金属性の音もきこえなかった。ただ、い ところが、ふいに物音がきこえた。静寂をやぶって中の部屋で人の動きまわる旨と話声がきこ えてきたのである。元は寝がえりをうって「とばりの隙間から、たてつけのわるい、飾りのない l) 扉のほうへ恨をやった。扉がそうっと、すこしすっ開いた。ローソクの光が、そしてその光のな 地かに人の頭が見えた。それから、その頭がひっこむと、こんどは別の頭がのそきこみ、その下に、 もっとたくさんの頭が見えた。そのとき、元が身動きをしたので寝台が音をたてた。すると、た ちまちは、静かに、すばやくとじられ、部屋は、ふたたびまっくらになった。 元はもう眠れなかった。眼をあけたまま、横になり、早くも父がこのかくれ家をつきとめて、 自分をつれもどすために人をよこしたのだろうか、と考えた。このことに思いあたると、けっし

5. 大地(三)

334 を考えていた。彼が女というものを考えたのは、これがはじめてであった。彼は、あの女のこと を、ながいあいだ考えていたのである。そして、その眼のことをおもい出し、かってはその騰が しまめのう 蒼白い顔のなかで、つやのない縞瑪瑙のように冷めたかったことをおもい出した。しかしいま、 彼が話しかけると、その眼が、それ自身のもつあたたかい美しさに明るく輝くのを見たのであっ た。それからまた、彼は彼女の声がいつもきれいなことや、その豊かさが彼女の静かな態度や、 うわべの冷やかさとは似つかわしくないことをおもい出した。それにしても、それは彼女の声で あった。そんなことを考えているうちに、彼は彼女のもうひとつの理由というのを聞けばよかっ たと思った。その理由というのが、彼が想像しているようなものであれば、彼女の声でそれが語 られるのを聞きたかったのである。 しかし、それでも彼は彼女を愛してはいなかった。愛していないことをよく知っていたのであ る。 そして最後に、彼の手のまんなかにびったりとおしつけた彼女の手の感触をおもい出した。こ うして、手のひらと手のひらをおしつけて、二人は街燈もない街の闇のなかに、一瞬立っていた のだが、二人とも化石したように身動きもしなかったので、人力車が避けて通ったくらいで、車 夫が大声でどなるまで二人とも気づかす、どなられても気にもかけなかった。あまり暗かったの で彼女の眼は見えなかった。そして、彼女も口をきかなければ、彼のほうも口をきかなかった。 頭にあるのは、しつかり握りあった手の感触だけであった。それを考えたとき、発火剤に火がっ いた。いまでも自分が彼女を愛していないことは知っているので、その正体が何やらどうにもわ からなかったが、彼のなかで、なにものかが燃えあがったのである。

6. 大地(三)

扉がひらく音がしたので、元は熱のこもった眼をそのほうにむけたが、こんどは愛蘭ではなか った。それは老夫人で、彼女は、すべての人々に、この家をいつもくつろぎと快適さとに満ちて いるものにしようと心がけている人らしく、静かに入ってきた。うしろに温い食物の皿を盆にの せて捧げた下僕をしたがえていた。「お料理はここにおいてちょうだい。さあ、元、わたしをよ ろこばせたいと思ったら、もうすこしたべてください。だって、汽車のなかの食べものには、こ んなお料理はありませんものね。さあ、おあがり、わたしの息子ーーーわたしには、ほかに息子は いないんだから、元、あなたはわたしの息子ですよ。わざわざわたしを探し求めてきてくれたの が、わたしにはうれしいのです。それに、どうしてここにくるようになったのか、その理由を、 すっかり聞きたいのですよ」 元はこの善良な夫人がやさしくいうのをきき、その顔が表情も真情も誠実なのを見、こころよ くひびく声をきき、テーブルのそばに椅子を寄せてくれたとき、小さなおだやかな眼にあふれる 親切そうな色を見ると、不覚にも涙が眼頭ににじむのをお。ほえた。彼は燃えるようなはげしさで そうだ、こんな 田 5 った。どこへ行っても、こんな心のこもったもてなしをうけたことはない にやさしくしてくれた人はいなかったのだ。急に、この家の温かさ、部屋の色の明るさ、耳にの 地こっている愛蘭の笑い声、この老夫人の気のおけない態度、そうしたものが一つになって彼をつ つみこんだ。彼は心をこめて食べた。それというのが、ひどく腹がすいているように感じたし、 大 料理は店から買ってきたものとはちがって、念入りに調味してあるし、脂もソースも、たっふり 使ってあったからで、元は、かっては田舎料理をうまそうに食べたことは忘れはて、いまはこれ ほどおいしい滋養のある料理はないと思って、満腹するまで食べた。それでも、料理は脂っこく、

7. 大地(三)

と思っていたのであ には銀のカで要人を買収して、城門をひらかせることができるかもれない、 る。 春もなかばで、幾マイルとなくつづく畑には、小麦が二フィート以上ものびて穂を結・ほうとし ていた。駒をすすめながら王虎は、みどりの野に、はるかに眼をはせた。そして、おのれの支配 する土地の美しさと豊かさに誇りを感じ、国王が国土を愛するような愛情をお・ほえた。この土地 の美しさを愛してはいても、しかし彼は、これだけで満足することはできなかった。厖大な軍隊 を維持し、軍資をたくわえるためには、他に新しい地方を手に入れて、税金を徴収しなければな らなくなっていたのである。 こうして彼は自分の支配する地方を離れた。はるかに南下すると、ザクロの木の林があった。 まがりくねった灰色の枝に、他の木よりもおくれて出た陷のような色の小さな新芽が出ているの を見て、新しい土地へきたことを感じた。四方を眺めると、どこを見ても、よく耕やされた豊か な畑がつづき、家畜は肥え、子供たちもふとっているので彼はよろこんだ。それらのすべてに満 足した。けれども彼が部下をひきいて進んでゆくと、畑で働いている農夫たちは、頭をあげて彼 Üらを見ると、顔をしかめた。それまでおしゃべりをして世間話に興じていた女たちは、急に黙 0 てしまって顔色を変え、兵隊のすがたに眼をみはった多くの母親たちは、兵隊のすがたなど見せ まいとして、あわてて子供たちの眼を手でふさいだ。行軍のときによく歌う軍歌を兵隊がどなり 大はじめると、畑の農夫たちのなかには、静かな田園の空気を歌声でかきみだされるのをきらって ' 大きな声でののしるものもあった。部落を通ると、犬が見なれぬ兵隊のすがたをあやしんで、猛 烈に吠えついてくるが、あまりにも厖大な軍勢におどろいて、しつぼを腹にまいて、こそこそと

8. 大地(三)

306 元は眼をまるくして驚いた。彼の学校には女学生もいた。男の学校の多くは、法律で女学生の 入学を許しているのでこの進歩的な海岸都市では、それが習慣になっていたのである。そして、 学問をしようと志す女学生は、あまりそれをよろこばなかったとはいえ、彼の学校だけでも三、 彼女らは、たいてい美しくなく、またいつも勉強 四十人はいて、教室でもちらほら見かけたが、一 ばかりしているので、元は注意もしなければ、学校生活の一部とも考えていなかった。 ところが、この日以来、盛の言葉が気になって、元は女学生たちを以前よりも好奇心をもって 見るようになり、本をかかえ眼を伏せている女学生のそばを通るたびに、こんなとりすました女 が、あんな秘密の陰謀に加担しているなどということが、あり得るだろうか、と田 5 った。とくに 彼の注意をひいた女学生が一人いた。元と盛のクラスでは、それが、ただ一人の女学生だったか らであろう。やせて、餓えた小鳥のように骨ばっていて、顔は繊細でとがり、頬骨が高く、鼻筋 が通って、その下の薄いくちびるは色がわるかった。教室ではロをきかす、書く文章は、よくも わるくもなく、教師に批評されたこともないので、彼女がどんなことを考えているか誰も知らな かった。しかし、彼女は、いつも講義にでて、教師のいう一言葉に、じっと耳をかたむけていて、 ときどきその細い陰気な眼に興味の色が輝くように見えるだけだった。 元は好奇心から、その女学生のほうをよく見ていた。そして、ある日とうとう彼女は彼の視線 を感じて、彼のほうを見返した。それ以後は元が彼女のほうを見ると、いつも相手が、ひそかに じっとこちらを見ているのを発見したので、もう彼女を見るのをやめにした。しかし、その女学 生は誰とも交際していないようなので、彼は、その素姓を盛にたすねてみた。すると盛は笑って 答えた。「あれか ! 例の仲間の一人だよ。孟の友達でね。 - ・ー二人でいつも秘密の相談や計画を

9. 大地(三)

292 い娘は、みんな同じに見えた。みんな美しくて、みんな子供のようにほっそりしていて、みんな お化粧をして、みんな鈴のような声をしていて、たえすよろこびや悲しみの声をあけるのである。 だから元は女のほうは見す、その高名な青年のほうを見た。それは背の高い、物腰のやわらかな 男で、顔は大きくて、のつべりして白くて、薄い赤いくちびる、黒いほそい曝一文字のほそい 黒い眉など、非常に美しかった。しかし、一番眼につくのは、話をしているときでさえ、たえす 動かしているその手であった。大きな手であったが、女の手のようで、指は先がほそく、根もと はふとくてやわらかく、肉はなめらかでオリーブ色で、香油をぬっているらしく、いい匂いのす るーー・、・肉感的な手なのだ。元は挨拶するためその手をにぎったとき、彼の手が自分の手のなかで とけて流れて生温かくなるように感じて、急にふれるのがいやらしくなった。 しかし、愛蘭とその男は、したしげに眼を見かわし、彼の眼は、彼女の美しさを自分がどう思 っているかを大胆に語っていた。そして、それを見ると母の顔には困惑の色がうかんだ。 彼ら四人は、花をはこぶ風のように、とっぜん出て行った。そして、ひっそりした部屋には、 また元と夫人だけになった。夫人は元をじっと見つめた。 「元、わたしがあんなことをお願いしたわけがわかったでしよう」と夫人は静かに言った。「あ の男は、もう結婚しているのですよ。わたしは、ちゃんと知っています。盛にきいたのです。は じめは話そうとしませんでしたが、とうとうそのことをうちあけ、当今では、もし妻が旧式で、 親がえらんでくれた女だったら、男はほかの女と歩いていても、破廱恥だとは考えられていない と教えてくれました。でも、わたしは自分の娘をそんなふうにしたくないのですよ、元」 「ぼく、行きます」と元は言った。そして、前には悪いことだと思われたことも忘れてしまっ

10. 大地(三)

そく奴隷に抱かせて女の子を彼のところへよこすようになった。二人の子供が一緒になった。王 虎も、女の子だけ帰らせろとは言わなかった。最初、彼は、女の子の母親があらわれはしないか、 そして彼と話をする習慣ができはしないか、と心配したが、そんなこともないので安心した。彼 は女の子をしばらくそこにいさせて眺めていた。あちこちと、よちょち歩いている幼児にすぎな いにしても、女性なるがゆえに彼はこの女の子に何かくつろげぬものを感じた。それにしても、 じつにかわいらしい。しばしば彼はこの子を見守っていた。そして彼女が怒ったり笑ったりする のを見、片言を言ったりするのをきくと、声のない笑いをもらした。男の子のほうは、大柄で、 むつつりしていて、めったに笑わないが、女の子のほうは小柄で、すばしつこくて、元気で、そ の眼は、つねに父の眼を追いもとめていた。そして、だれも見ていないと、男の子をいじめたり、 彼の持っているものを引ったくったりした。それほど敏捷なのだ。王虎も知らす知らすのうちに、 ある仕方で彼女のことを気にかけるようになった。奴隷が彼女を抱いて門前の群集のなかにまじ って往来の出来事を見ているようなときでも、すぐわが子だと見わけられたし、ときとしては足 をとめてその小さい手にさわったり、彼女が彼のほうへ視線をなげてほほえむのを、たのしく感 「じたりするのであった。 こうして女の子のほほえみを見たあとで自分の居間へ帰ると、すっかり満ち足りた気持になっ 地 た。ついに、もう孤独は感じなくなった。自分自身のものーー、わが妻たちと子供たちーー・・こ、 大まれているのだと、しみじみ思うのであった。