マルバ - みる会図書館


検索対象: 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行
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1. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

とんでもない大罪を重ねた人間だ、と言ったが、・ とうやらそれは正しかったようだな。 私の知っている法では、そういうおまえを解放することはできない。おまえは私のもと で学ぶよりも口タク地方のドヲルン寺院にいる偉大な翻訳者、インドの聖者ナロー 直弟子であるマルバのもとに行くがいい。彼は密教に新しい風を吹き込んでいる。おま えは私ではなく、彼とカルマのつながりをもっている」 翻訳者マルバ ( マルバ ・ローツアワ ) 。その名前を耳にしただけで、ミラの内部に、 い知れぬ喜びがこみあげてきた。髪の毛は総毛立ち、目からはとめどもない涙が、こ・ほ れだした。そこで、彼はただちに旅立った。 その数日前から、マル。ハとその妻は、不思議な夢を見つづけていた。彼らは、夢を通 して、ミラの到来を予知していた。マルバはそこで、谷間でミラを迎えるために、農夫 のかっこうをして、畑に出かけて、道端で彼を待った。 最初ミラが出会ったのは、マルバの子供だった。 ミラはこの子に、この近くでマルバ という偉いラマを知らないか、とたずねた。子供は答えた。それはたぶん僕のお父さん のことじゃないかな。お父さんは、ときどきインドへ出かけては、本をいつ。よ、 て戻ってくるんだ。そこで、ミラはさらに進んだ。向こうに畑を耕している農夫が見え た。この農夫の顔を見ると、不思議なことに、大きな喜びの感情が、彼の中にわきあが ってきた。しかし、彼はその農夫が、自分の求めるラマだとは、まだ気づかなかった。

2. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

237 ミラは雹を降らせて、里人を苦しめた。 ミラはもどって、教えを乞うた。マルバが答 える。「おまえはそのぐらいの手柄を立てたぐらいで、わしが艱難辛苦のすえに、イン ドから運んできたダルマを、学びとれると思っているのか。ダルマを学びたいのなら、 まず、呪術を口タク・ラカの人々に差し向けろ。彼らはニャルロンからやってくる、わ しの弟子たちの邪魔をしているからな。それがみごとにできたなら、わしはナロー 偉大な法をおまえに伝えもしよう」 そこで、今度もまた、 ミラは呪術で雹を降らせた。彼はマルバのもとに帰り、ダルマ を求めた。マルバはそれを聞いて、彼をあざ笑った。「はつはつはつ。おまえが犯した その程度の罪が、わしの知るところの神聖な教えに値すると思うのか。大馬鹿者め。こ のダルマは、ダーキニーの炎のようなもの、わしは生命の危険を犯して求めてきた。お 導まえの使う呪術程度のものが、それに値するなどと思ったら、大間違いだ。おまえはヤ の ルトクの人々の被害をうけた畑を元通りにして、ひどい目にあったラカの人々に、つぐ 神 とないをしなければならない。それができたら、わしはおまえにダルマをあたえよう。で 解きないのなら、もうわしの前にはあらわれるな」 の マル。ハはミラをひどくしかりつけた。絶望に打ちひしがれたミラは、ただ位くばかり や - 」っこ 0 翌日、マルバがやってきて言った。「きのうはすまなかった。気にするな。教えない

3. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

241 般若経を読んでほしいと、村人に頼まれた。それを読んでいるうちに、 ミラは常位菩薩 のくだりにいたった。彼はその物語に感動して、マルバのもとにもどったが、グルはた だ彼をしかりつけるだけだった。 ミラは困惑の極致だった。そんな彼をみかねたグルの妻は、彼をラマ・ ゴク。ハの , もと に送っこ。。 オコク。ハは彼になにがしかの教えをあたえた。しかし、なんの進歩もなかった。 ラマの許可がなければ、どんな教えも力をもたないことが、これでわかった。ゴク。ハは、 ミラをマル。ハのもとに送りかえした。数日間は、何事もなく過ぎた。 しかし、ある儀式がおこなわれている最中に、マルバはその場にいあわせた者のすべ てを、手ひどくしかりつけた。この中にはラマ ミラはラマの ・ゴクパも屁じっていた。 怒りの意味を理解して、深い絶望におそわれた。自分の存在が、ゴク。ハや奥さんにとん 導でもない迷惑をかけている。そう思った彼は、絶望のあまり自殺をはかった。 の ラマ ゴクパが自殺を止めた。そのとき、ようやく、マルバの怒りが静まった。グル 神 ミラはこのとき、グルから「ミラ・ドルンエ・キャルツェ 精はミラを身辺に呼び寄せた。 ミラには、デチョクの密教の教 解ン」という、新しい名前をもらって、生まれかわった。 の えがあたえられ、ラマの力をもって、六十二の守護神が、ミラの前に出現した。こうし て、ミラレバは、マルバからすべてのイニシェーションと教えを、もらうことができた のだ。 ミラレ。ハはあらゆる苦しみ、悩み、疑いとたたかった。マル。ハが弟子にあたえた

4. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

農夫にむかって、自分はマルバというラマを探している、案内してほしい、と頼んだ。 「わしが、マルバさんのところへ、ご案内しましよう。ちょっと待っていてください、 すぐに耕しおわりますから」。そう語ると、農夫は彼にチャン酒の入った壺を渡した。 ミラはそれを飲み干した。 ようやく耕作の仕事がすんだ。農夫は彼をともなって、村に向かった。家の前まで来 ると、さきほどの子供が「お父さんーと言って、走り寄ってきた。この農夫こそ、まぎ れもないマルバその人だったのだ。 ミラはマル。ハの前にぬかずいて、彼に求めた。「お お、グルよ。私はとてつもない大罪を犯した人間です。私はあなたに私のすべて、私の 身体、言葉、意識のすべてをささげます。私に悟りをもたらす、教えをお与えください」 ルバが答える。「偉大な黒魔術師よ。あなたがどんなすごい大罪を犯そうと、そん 導なことは私には関わりがありませんな。私がそうしろと命じたわけでもないわけだから。 神だが、偉大な黒魔術師さん、あなたはどんな罪を犯したというんだねー 精 そこで、ミラはことのしだいを詳しく語った。 と 放 それを聞いたあと、マルバは語った。「なにはともあれ、まずはおまえの身体、言葉、 解 の 意識のすべてをささげることだ。おまえは、私から食べ物と着物とダルマの教えを求め ている。だが、。 とちらかしか、私はおまえに与えることはできない。私はおまえに食べ 235 物と着物をやって、ダルマは与えない。さもなければ、私はダルマを教えるが、食べ物

5. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

224 不思議な深い信がわきあがってきた。どうしても、どんな困難を払ってでも、マルバに ミラレバか、マルバの住む南チベット とミラレバは考えた。 出会わなければならない、 の小さな村を訪れてきたとき、師は農夫のかっこうをして、畑を耕していた。道端で最 ミラレバはマルバを見分けることができなかった。だが、その瞬 初に出会ったときに、 間、ミラレバは自分の心が停止して、絶対の時間が出現したように感じたのである。 ようするに、真実のラマに出会えるかいなかは、あなたの心の純粋さとカルマに、か かっているのだ。カルマによって、あなたは、真実のラマの前に押し出されていくだろ う。そうでなければ、横に坐っていても、そのことはわからない。 ラマに出会ったら、まず彼の言葉に、全面的にしたがわなければならない。それがで きたら、彼の立ち居振舞いのすべてから、大事なことを学びとるのだ。世間の諺にも、 こう言われている。 あらゆることは物真似 最善は巧みな物真似から だから、まず最初はグルをよく調べて、間違いのない真実のラマをみいだすこと。っ ぎには、グルに忠実にしたがうことを学ぶこと、そして、グルの考えや行動を真似なが

6. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

239 事をあたえて、健康になったら、わしの許にあらわれるように」 こうして、ミラに帰依のための教えが、あたえられた。グルは語った。「この教えは 顕教だ。もしも、おまえが密教の、タントリズムの教えが学びたいのなら、つぎのよう にしなければならない」。そう語って、マルバは弟子にナロー ハの話を聞かせてやった。 そして最後に、「もちろん、おまえには、このナロー ハと同じことができるよな」。これ を聞いたミラは、はじめてマル。ハにたいする、強い帰依の心がわきあがってきた。彼は、 グルが自分にあたえた試練の意味を理解した。 , 。 彼よ涙を流しながら、答えた。「もちろ んです。あなたのおっしやることを、わたしはなんでもおこないますー それから数日後、マルバはミラを連れて、散歩に出た。道の行き止まりまで来ると、 立ち止まって、こう言った。「ここに九階建ての塔を建てろ。それができたら、教えを 導やろう。食べ物もやろう の ミラは作業にとりかかった。土台ができたところで、マルバのほかの三人の兄弟子が、 神 精 見物に来た。彼らは大きな丸石を、たわむれに転がしてきた。 ミラがそれを使って、塔 と 解を二階まで建てたところで、グルがやってきた。グルは、丸石に気がついた。これはど の うしたのかとたずねた。 ミラはありのままを話した。 「瞑想修行を続けているわしの弟子たちを、おまえがこき使うことは許されん。石を元 通りの場所に戻して、作業をはじめから、自分だけのカでやり直せ」。 ミラは石をはず

7. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

240 して塔を壊し、また塔を作り直しだした。七階まで出来上がったとき、ミラの腰には、 ひどい傷ができた。そのとき、グルがあらわれて言った。「その建物は、それぐらいで 、、。そのかわり、脇に十二本の柱をもったお堂を作れ。全体で中庭ができるようにす るのだ」 ミラの背中の傷は、もう一面に広がってし こうして、中庭が出来上がったときには、 まっていた。 ちょうどそのころ、マル。ハが弟子たちにチャクラ・サンバラとグヒヤ・サマジャの密 ミラは、もう自分もそれに参加し 教のイニシェーションを与える儀式がおこなわれた。 てもいいだろうと思い、お堂の中の席についていた。マルバはミラを発見すると、怒り だし、髪の毛をひつつかんで、外へ投げ出した。 傷はますますひどくなっていったが、ミラはあの過酷な作業をつづけていた。今度は ミラは、グルの妻に頼 へヴァジュラのイニシェーションがおこなわれることになった。 んで立派なトルコ石の宝石を借りた。これを捧げて、儀式を受けようとしたのである。 しかしマルバはそれを見て、ますます怒った。グルは弟子を殴りつけ、またもや、外に 放り出したのである。 自分はきっといつまでも、教えを受けることはできないのだ。そう思って絶望したミ ラは、ふらふらと放浪に出た。彼はロタク・コウ。ハのある村にたどりつき、そこで八千

8. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

わけュニークな密教なのである。 教え方もユニークならば、体験をつくりだす方法や技術がまた、ユニークなのだ。マ ームドラーやラムデは、べンガルを中心にした、インドの後期密教の教え方に、忠実 にしたがっている。その意味では、インド正統的な密教と言えるかも知れない。しかし、 ゾクチェンには、それたけではおさまりがっかないような、不思議なユニークさがある。 ゾクチェンの世界は、ミラレバやマルバがいるマ、 ームドラーの世界などに較べると、 どことなく派手さを欠いているように見える。しかし、それはみせかけにすぎないのだ。 ゾクチェン密教が、あなたに与えることになるであろう体験のあざやかさは、文字どお り、言語を絶している。そこでは、心の本質が、純粋な光となってあらわれる。私は、 このようなゾクチェンのスタイルを、とても気に入っている。 ゾクチェンというチベット語は、「偉大な完成」という意味をもっている。これには、 ふたつの意味がこめられている。ひとつは、これによって、仏教のめざすあらゆる修行 が完成する、という意味で、ゾクチェンパ ( ゾクチ = ンの修行者 ) の並々ならぬ自負を、 あらわしている。もうひとつの意味は、もっと深い。それによると、心は本然の状態に あるとき、それ自体として完成している、あらゆる生き物の意識活動は、もともとゾク チェンとして完成している、純粋である、解脱している、などといった意味が、ここに はこめられていることになる。つまり、この修行によって、私たちはどこか自分とは別

9. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

123 無常 訪れる死を、修行の究極のやすらぎとし この荒れ果てた谷を、死の究極のやすらぎ場所とし 友と敵も、また変転していくものだ。この生で敵であったものが、つぎの生には友と なり、家族となり、恋人や夫婦となるケースだって、めずらしくはない。だから、感情 や結びつきの無常を、あなたはくりかえし瞑想する必要がある。永遠の友とか、永遠の これが法則だ。あなたは、すべてを平等と慈悲の心 敵などというものは、存在しない。 で、見渡すことができなければならない。 幸福や不幸も、また無常だ。貧しい環境に生まれて、身の不幸をなげいていた人が、 最後には、人生の幸福を味わうというケースもめずらしくはないし、その反対のケース もたくさんある。ミラレバの叔父のように、朝には息子の結婚式に、幸福の絶頂を味わ っていたのに、 ミラレ。ハのしかけた呪術によって、屋敷は崩壊して、その夜は不幸のど ん底に叩きこまれてしまった、という人もいる。そして、自分たちの家族に不幸をもた らした叔父の一家に、はげしい恨みをもち、苦しみの中にあったミラレバ自身は、師の マルバに出会い、人生の最後には、たとえようもない幸福を知った。幸福も長続きしな いし、不幸も永遠ではない。そのどちらにも、執着してはいけない。 世間で良いとか悪いとか判断されているものも、けっして恒久のものではない。世間

10. 改稿虹の階梯 : チベット密教の瞑想修行

301 発菩提心 シストは失敗してしまう。 ミラレバがチョン渓谷の洞窟で、瞑想をしていたとぎの話である。祟り神の王で あるビナャカが、彼に目をつけて、さまざまな驚異をおこなった。 ミラレバの部屋には 巨大な目をした魔物アツアラが五匹もあらわれたのである。ミラレバはラマと守護神 ( イダム ) に、深い祈りを捧げたが、それでも魔物はいっこうに去ろうとしない。イダム 田くマントラを を観想によって呼び出す「生起次第 ( キ = ーリム ) 」の瞑想をおこない、弓 唱えてみたが、それでも魔物は動こうとしなかった。そこで、ミラレバは思った。 「私の師であったマルバは、現象の世界とそこにある存在は、すべて私の心であり、私 の心の本性は輝きにみちた空性なのだ、と教えてくれた。それならば、ここに出現した 魔物だって、私の心であり、本性は空性でないことがあるだろうか。それが、自分の外に あるものと思っているうちは、それはいっこうに私から去っていくことはないだろう こうして、ミラレバは心を整えて、魔物たちを真実の認識の目で見た。すると、アッ アラは、恐ろしいうなり声をあげて、消えていったのである。 タクシンモ ( 岩の羅刹女 ) が歌ったという歌にも、つぎのようにある。 あなたのその執着の魔は、あなたの心から生まれる あなたが心の本性を認識しないならば