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検索対象: 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)
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1. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

現地へ直行することになっているが、柳沢教授やタレントたちのためには、『鶴岡ホテル』が 予約してあった。そして、明朝、山形大学の教授連中と合流して弥勒寺へ向かうという手はす であった。 滝がその下相談を了えて大師村へ向かったのは、その日の午後である。鶴岡市から湯殿山麓 しようないこ、つつ、つ までは、庄内交通バスで約一一時間ばかりの行程だった。 ろくじゅうりごえかいどうさんがくぶ あかがわせいりゅうじがわ 赤川と青竜寺川にはさまれた六十里越街道を山岳部を目ざして走ると、やがて赤川との合流 ばんじがわ あさひむら ハス道はつづら折 点を過ぎて朝日村へ着く。川はその合流点から分かれて梵字川と名をかえ、 おおあみたむぎまた りの登り坂を登り、大網、田麦俣を経て志津に至る。 大師村は大網と田麦俣のほぼ中間にある、すり鉢状の地形をした村だった。 だんきゅうしき 周囲の山肌はところどころが耕されて、段丘式の水田や畑になっている。すり鉢の底には人 かわらやね 2 家が点在しているが、都会的な瓦屋根にモルタル塗りの家々の合間に、草屋根に神社のような 村千木をせた多層民家が介在して、滝には珍しか 0 た。このあたりは昔、平家の落人遠藤が しらかわごうがっしようづく ひら 切り拓いた場所と伝えられ、その多層民家は民俗研究家のあいだで、白川郷の合掌造りの家と かた 山肩を並べる遺物として注目されたものである。 湯現在はんの祈所までバスが通じているが、大正時代までは。 ( ス道からはずれた七五三 かけぐち ふる 掛ロと大網口に、旧い登拝コースがあったそうた。 ちゅうざいしょ 肖防団の 大師村の。ハス停は、ちょうど農協の建物の前にあった。村役場や郵便局、駐在所、冫 やまはだ ばちじよ、フ つるおかし さんろく

2. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

角日庫 湯殿山麓呪い村 湯殿山麓呪い村 角川文庫 山村正夫作品集 ボウリング殺人事件 湯殿山麓呪い村 ( - D 湯殿山麓呪い村 (F) 断頭 ( 5 月上旬刊行 ) ゆどのさんろくのろむら 湯殿山麓呪い村 ( 下 ) レトルト食品の大手メーカー「アル プス食品』の社長淡路剛造が、自宅の 浴室て、何者かに撲殺された。現場はい わゆる密室状態て、、浴室のガラス戸は 内側から施錠されており、小窓が開い ていたものの、大人て、は絶対に侵入不 可能な小さなものだった。 だが、この事件をさらに奇怪にした のは、犯人がこれ見よがしに置いてい らやかっしよく った遺留品て、ある。それは茶褐色にひ からびたミイラ状の人間の指て、あった。 淡路家と関りのある、光華学園大学史 たきれんたろう 学科助手の滝連太郎は、親友の警視庁 おおぞわ 捜査一課の大曾根警部と事件解決に乗 り出したのだが・・ 角川小説賞受賞の傑作伝奇本格推理。 HERO MAGAZINE どの さん ろく のろ 山村正夫 日本初の文庫版冒険雑誌 小説王 冒険のない時代は、詩のない 時代より暗い。巨星復活 / 山 川惣治の新作絵小説十三妹」 ほか、劇画十瞠目の小説群。 毎月 28 日発売、定価 390 円。 角川文庫緑四一ニ 3 I S B N 4 - 0 4 ー 1 4 1 2 0 ろー X C 0 1 9 ろ \ ろ 4 0 E 定価 340 円 晩印刷 カ / く一

3. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

んで、隠しようもなかったんですよ。 まっさおか しかし、やつ。はり相当のショックを受けたようですな。二人とも真蒼な顔をして、しばらく - 」、つ力し はロもきけませんでしたからね。見せなけりやよかったと、あとで後海しました。 それにしてもあの怪行者は、なぜ信也君たちにあんなことを吹き込んたんですかね。ほかの たた あば 子供たちは、幽海上人の墓を発くとその祟りがあるそというようなことは、一様に聞かされた らしいんですが、この絵のことを一 = ロわれたのは、信也君だけなんですよ。その点がいまだに不 思議でしてね」 こんたん 「何か魂胆があったとお思いなんですか ? 」 「そうとしか考えられんでしよう。一一人はね、この絵を見たあと、いま一つ別なことを聞き そかいしゃ たいと切り出してきたんです。何だと思います ? 三十三年前に大師村で起こった、疎開者の おやこ 2 母娘の蒸発事件のことで、何か知っていることがあったらぜひ教えてほしいというんですよ」 村 「ほう、疎開者の母娘の話を : : : 」 おてん ふしよ、つじ 呪 「あれは大師村の歴史に、終世消えることのない汚点を残した不祥事です。終戦直後といえ きおく 山ば、私はまだ小学一年生でしたから、むろん当時の記億はお・ほろげにしかありませんがね。し 湯かし、津島民江と里子母娘に加えた遇の模様は、親父からはよく聞かされたものです。脱走 兵の家族に対する戦時中の国民感情がそうさせたんでしようが、それを差し引いても、村の連 ひさん 中の仕打ちはすいぶんとひどかったようですね。あの母娘の悲惨な姿が忘れられないと、親父

4. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

124 わお るかわりに、駐在所の一間を借りて寝起きしていたのである。『仙岳荘』がつぶれて以来、村 てごろ 内には手頃な旅館がなくなったところから、小森巡査の好意に甘えたものらしかった。 きゅうしゅうがっぺい 大師村は本来の村に、戦後、付近の二か村が吸収合併されたもので、面積は五六六・五三平 方キロ。県下第一の大きさたが、人口はわずか一万、戸数にして三千戸に過ぎない。その八割 やさいさいばい マスダ が農家で、稲作や畑の野菜栽培のほかに、季節になるとシイタケ、マイタケ、ナメコ、 しゅ、フかく なりわい ケなどキノコ類の収穫も大きな生業の一つになっていた。 たんば ハス道路沿いの中心部は集落地だが、一歩奥へ入るとのどかな田園風景がひろがり、田圃や 畑の合間に人家がまばらに散らばっている。畑にはこのあたりでタダチャ豆と呼ばれる枝豆が、 一面に植えられていた。 「春から夏にかけてが一番いい季節なんですよ。冬になると、積雪が六メートルを越す文字 じばん 通りの雪国ですからねえ。その雪解け水で地盤がゆるむのか、ここから大網村にかけての一帯 は、明治以来、大規模な地すべりの発として有名なんですわ」 グレイの夏の制服を着た小森巡査は、自転車を押しながら道々説明してくれた。 ばんぢようちん との家も軒先に、 だが、滝は家々の門口に掲げてある白張りの盆提灯に注意を魅かれていた。・ 野菜や藁で作 0 た馬や牛が吊り下げてあるのた。庭にを鯤 0 てあるところもあ「た。酒の かか お ひ のきさき

5. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

みつき 「三月ほど前、満願寺の宿坊に五十年輩の遍路がひょっこり泊まったそうなんだ」 「五十年輩の遍路ですって ? 」 あや 滝の胸がにわかに怪しく騒いだ。 「何でも四国八十八か所のに立する前、弘法師の御廟〈参謐を思い立 0 て高野 山を訪れたらしいんだが : : : 」 も、つ 遍路の中には霊場巡拝の最初と最後に、大本山の高野山へ詣でる者が多いのである。 やまがたけん 「その遍路は満願寺に泊まった晩、わざわざ住職を呼んで、自分は山形県の大師村の出身た が、このたび四国八十八か所巡りを思い立ったのはほかでもない。大師村の弥勒寺に百八十年 、つら 間眠りつづけている幽海上人の霊を慰めるため、そして、上人に代わりその恨みを晴らすため、 祈願に行くつもりだと言ったそうた。その遍路の目つきが何かに取り憑かれたように異常で、 言うことも気いじみているもんだから、住職はて 0 きり頭がおかしいんじゃないかと思 0 た 下 らしい。私が幽海上人のことをいろいろ尋ねたものだから、話のついでに思い出して教えてく 村 れたんだがね」 「そ、それで、その遍路はいったいどこの何者なんですか ? 」 山 湯滝は思わず成田と顔を見合わせると、息をはすませて聞いた。 大師村の出身で五十年輩の遍路。幽海上人の恨みを晴らすと言った言葉。何かに取り憑かれ ふごう かいへんろ たような異常な目つき。それは淡路家の門前に現れたあの怪遍路の特徴に、いちいち符合する しゆくばう さわ だいほんざん と と っ

6. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

なみだ 「そんなに優しく一言わないで。涙が出てきちゃうもの。わたしも、滝さんのような。 ( パが欲 しかったわ 滝の知っているそれまでの能理子とは別人のように、ひどくしおらしい口調だった。 涙が出てくると言ったが、本当につぶらな瞳がうるんでいる。能理子は縫いぐるみに顔を押 しつけると頬すりをした。そんなしぐさを見ると、殺人という大人も顔負けの大罪を犯した少 いつばい あふ 女とはとても思えないほど、あどけなさが一杯に溢れていた。 てんばむすめ 〈小生意気なお転婆娘のようでも、やはり年相応の子供だな〉 滝は能理子を見直したような気持ちになった。 あや 「今年の三月頃だったかしら。大師村に怪しい行者風の男がやってきて、村の子供たちに幽 たた 海上人の祟りを触れ歩いた話は知ってるでしよう ? 」 「ああ、伏原欣作の仕業たね。あの男はこの化け物塔婆から、津島民江、里子母娘のを 掘り出して山伏の笈につめ、弥勒寺の愛染堂に運んで手首を切り落とした。それから大師村小 学校の河合先生の家を訪ねて、化け物塔婆にまつわる絵を見せてもらえと、信也君をそそのか したそうじゃないか。それで、能理子ちゃんも信也君といっしょに見に行ったんだろう ? 河 合先生から聞かせてもらったんだがね」 「ええ、ちょうど学校が春休みで大師村へ遊びに来ていたときだから、信也に誘われたの。 でも、あの絵を見たら、描かれていることがあんまり強烈だったでしよう。心臓が止まるほど やまぶしおい ほお やさ ひとみ さそ

7. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

どうそじんやしろ きたくなったんですわ。それでタクシーを帰してぶらぶら道祖神の社の前へ来たところが : 「何があったんです ? 」 「暗がりに白衣姿の都飃か老人が立 0 ていました。そして能理子がダ〉クスフントの縫い ぐるみから取り出したお金を手渡すところに、出くわしてしまったんです。二人はギョッとし ばうぜん たようにうろたえて、呆然と立ちすくんでいました」 しゃいんりよう それは、滝が能理子と別れて『アルプス食品』の社員寮へ引ぎあげた直後の出来事に違いな っこ。 「そのあとどうしました ? 」 「わたしは行者風の老人を一目見るなり、彼が仙岳荘の元番頭の筧久造であることを知りま かいへんろ 2 した。それと同時に、東京に出没していたあの気味の悪いメッセンジャー役をつとめた怪遍路 村であることも、とっさに見抜いたんです。思わずそのことを口走ると、能理子がわたしにすが 呪りついてきました。ママ、助けてちょうだい。お願いだから、この人をこのまま行かせてあげ 山てと言って : 湯 「じゃあ、筧はそのまま : : : 」 「ええ、あたふたと大網村の方角に向かって立ち去っていきました。あれからどこに宿を取 ったかしれませんが、この村からはもうとっくに離れてしまったんじゃないでしようか しゆっぱっ

8. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

といえば、東京から来られた警視庁の警部さんのことも、噂で持ち切りですよ。今日、僊け物 と、つば 塔婆の発掘をするということですが、あれは何の目的があるんですかね ? 警部さんに聞かれ たんで、私がその場所を教えたんですが : : : 」 せんさくしん 河合自身の詮索心も、かなり旺盛のようだった。 「さあねえ」 滝はあいまいな笑いで誤魔化した。 どうやら河合は、そこに津島民江、里子母の死が埋められている事実を知 0 てはいない らしい みまちとう 「あの化け物塔婆は、本来は巳待塔といって、大師村から湯殿山へ登る山道に立っている、 古びた石塔なんですよ。帯にお謐りする人もあ 0 たそうですが、いまは草に埋もれてその位置 2 を正確に知っている者は、私のほかにそう何人もいないはすなんです。由来を知っている者も、 村村の古老のうちでも数えるほどの人だけでしよう」 ・てんめい 呪 「あすこは天明の大飢饉のとき、近郷近在から流れて来た餓死者の死体を、大量に葬ったも 圸のだそうですね ? 」 湯 「よくご存じですな。もと小学校長をしていた私の親父が、生前それについて調べたことが あります。郷土史家としては、私よりも父の方がずっと知識が豊富で、私はその血を受け継い だようなものなんですよ。その当時の資料がありますが、ご興味がおありでしたら、ごらんに だいききん ′」まか おうせい うわさ がししゃ ほうむ ま っ もの

9. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

さんろうちゅう だま 小屋で参籠中のはずだった。従って、彼の身にもしも異変があれば、弥勒寺で黙っているわけ れんらくでんわ おもむ がない。その点は出発前に寺へ連絡電話を入れて確かめているし、第一、一日早く大師村へ赴 いた大曾根警部からも、何らかの急報があるにきまっていた。 それがないということは、道海が少なくとも現在のところはまだ、無事でいる証拠である。 ぐち 「相変わらず、能理子ちゃんの憎まれロはキツィよ」 ひげ 滝はカストロ髭をしごきながら苦笑すると、 「それより能理子ちゃんは、何だって温海温泉なんかへ行ったんだい ? つついて大師村へ行き、ずっとあちらの別荘にいたんたろう ? 」 「そうよ。でも、今日は信也君のお見舞いに行ったのよ」 「見舞いだって ? 」 「ええ、あの子ったら東京でのショックが抜けないらしくて、寺へ帰ってから誰に対しても じへいしよう 口をきかなくなり、自閉症みたいになってしまったの。それで、道海伯父さんが入院させたん だわ。大師村には神経科のお医者さんがいないもんだから、ってをたよって、温海温泉の三浦 病院へ : : : 」 「信也君が神経科の病院にねえ」 滝が弥勒寺〈電話連絡をしたとき、道海の妻のは、それについては何も言わなか 0 た。 彼は信也のことも心配してようすを尋ねたのだが、兼子の返事は「ええ、別に ・ : 」と当たら ぬ 君は道海さんにく しよ、フこ みうら

10. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

らなかった。 じゃま 混雑に邪魔されて、能理子に声をかけてつかまえたのは次の車両のデッキだった。 「あら、まあ、滝のおじさん : : : 」 かいこう 能理子も思いがけない邂逅に驚いたように目をまるくした。 ゅうかいしようにん 「誰かと思っちゃった。幽海上人の発掘調査がはじまるのは、明後日じゃなかったの ? 」 「そうなんだが、先発でや 0 て来たのさ。 0 はいろいろ準備や雑用があるもんだから たんてい 「それだけ ? なあんだ。じゃあ、探偵の方の目鼻がついたってわけじゃなかったのか」 「いや、その方の用もあるにはあるんだがねー 能理子にかかると、いつも滝の方がたじたじとならざるを得ない。 「そういえば、昨日、大師村で大曾根警部さんを見かけたけど、元気がなかったみたいね。 下 やすやす 村あのぼんくら警部さんと滝さんしや、犯人をそう易々とはつかまえられつこはないわよね。こ たんていしようせつ の分では、道海伯父さんの命だって危ないもんだわ。探偵小説に出てくる名探偵は、誰も彳 山が事件を未然に防ぐことができないようだけど、その点たけは滝さんも名探偵並みかな。八月 湯二十一日のわたしのお誕生日には滝さんのストリーキングを、いよいよ見せてもらえることに なりそうね」 大師村〈帰 0 た相良道海は、発掘調査の儀式に備えて精進潔斎ため、すでに儼ん たんじようび