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検索対象: 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)
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1. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

わ がんかい ろしゆっ きせきあんざんがんきょだい を露出した輝石安山岩の巨大な女陰の形をした岩塊で、その亀裂からはこんこんと温泉が湧き ぎようば ぎようじゃみずごり たき いわはだぬ 出して岩肌を濡らしていた。背後には落差三〇メートルの滝があり、行者が水垢離を取る行場 になっていた。 うすじよ、つ とうはっ , イマツの緑の茂みがさながら頭髪のようにおおっていた。左手には臼状の 霊岩の上部は、、 みたらし たた りゅうがんっ 瘤岩が突き出て、上部のみに青味がかった湯が湛えられ、御手洗状をしている。その下を清 あな みなぎ れつ いわしみず 冽な岩清水が流れていた。また、霊岩の裾にもやはり温泉の漲る小さな穴があり、そこの前が いしだたみようはいじよ 丸石を敷きつめた石畳の遥拝所だった。 しろしようぞく 白装束をした行者姿の信者や一般の参拝客が、今日も大勢おとずれ、五色の幣を奉納したり 浄財をまいたりして祈願していた。 しんこう 温泉の湧き出る岩が御神体ということで、湯殿山神社は全国の銭湯や温泉業者の信仰をも集 2 めているのである。 射奥の院の参拝をすますと、滝は大曾根警部をうながして湯殿山本宮と白木の標柱の立った関 はらいじよ 呪所のような粗末な木の門をくぐり、お祓所の小屋のところに出た。その近くに「語られぬ湯殿 なみだ たもと ばしようくひ 山にぬらす袂かな」の芭蕉の句碑と、「湯殿山銭ふむ道の涙かな」という門人曾良の句碑が並ん 湯で立っている。 「ここらで一休みしようや」 こかげすす 滝は木陰の涼しい場所を選んで岩の一つに腰をおろした。大曾根警部もそれに倣った。 じよいん すそ きれつ なら ほ、つの、フ

2. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

せんでしたか ? 」 「そういえば、そんなことがあったなす。本堂の内陣に飾ってあったはすのものが盗まれた いうて、方丈さんが騒いでおいでたつけが。あんなものを盗んだところで、何の役にも立つま 兼子が新しく茶を入れかえようと自在鉤の鉄瓶に手をかけたとき、にわかに表が騒がしくな と、っちゃく 山門の下に、『関東テレビ』の中継車が到着したのだろう。 兼子は囲炉裏端から腰を上げかけたが、 「奥さん : と、滝が手で制した。 「ちょっと、お願いしたいことがあるんです」 下 村 「何だべか ? 」 呪 「いま奥さんは、信也君のモデル・ガンのことを話して下さいましたね。そういえば東京の 山淡路家で、信也君がそいつを腰にぶらさげて遊んでいるのを僕も見ました。それを貸して下さ 湯いませんか ? 」 「なしてまた、そげなものを : 「どうしても調べてみたいことがあるんです。信也君が東京へ持っていった。ヒストルでない じざいかぎてつびん かざ

3. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

「それより、滝さん : : : 」 謡子ははじめて滝と目を見した。 もど 「兄がまだ、仙人沢の祈所から戻っていないそうじゃないの ? 」 「らしいですね。警察じゃだいぶ心配しているようですが : : : 」 「兼子さんも、さっきからオロオロして大変よ」 護摩壇の向こうの兼子をちらと見やると、 朝よう 「そのことでちょっと、気になることがあるの。今朝方、能理子が妙な一一 = ロ葉を口にしていた ものだから : 「妙なこと ? 」 「ええ、あの子が言うには、今日まで祈疇所で断食修行をつづけていたのは、はたして道海 2 伯父さんだったのかしらって : 村 「能理子ちゃんが、そんなことを言ったんですか ! そ、それはいったい 滝は思わす知らず、あたりがび 0 くりするような大声を出したが、そのとき了海が柳沢教授 山や山形大学の教授の一行を本堂に案内して入ってきた。本日の花形である学術調査団の一行で 湯ある。 「あ、柳沢先生 : : : 」 とういうことなんだね ? 肝腎の主役の道海さんがいないなんて 「いま聞いたばかりだが、。 ごまだん かんじん

4. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

ぜんそく 「そう。君の一一 = ロう通り、そいつは喘息の薬のビリべンザミンさ」 滝はすました顔で言った。 「プラスチックの弾丸のかわりに、 いまそいつを弾倉につめて発射したんだよ」 「何ですって ! 」 まど おほ 「憶えていないか ? それと同じ物が淡路家の浴室の窓の下に落ちていたのを : : : 」 いまいましげに捨てようとした手のひらの上の薬を、香代子は驚いて見直した。 「思い出さないかい ? 」 しようこぶつけん 「思い出したけど、あれは証拠物件として大曾根警部が : : : 」 「むろん、あのときの本物じゃないよ。あれと同じ薬を薬局で買ってきただけさ。ただこの 2 カプセルを、こういう使い方もできるんしゃないかってことを試してみただけなんた。案の定、 村弾倉にびったり合ったよ」 呪 「だから、どうたって言いたいの ? ねえ、滝さん : : : 」 まゆっ 圸香代子が眉を吊り上げんばかりにして、大きな目を見開いた。 すいみんやく 湯 「。ヒリべンザミンって睡眠薬といっしょに、謡子夫人がいつも服用していたお薬でしょ う ? 」 ぜんそくやく 「そうだよ。剛造氏は死の直前に睡眠薬を飲まされていたんだし、おまけにこの喘息薬のカ

5. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

きそくえんえん 間目ともなれば気息奄々とした状態にをはずだから、元気な声で読経していたとなるとこれ は驚異である。 「念のために聞いておきたいんですがね。道海さんが祈疇所に向かわれたときは、何か変わ さんろう ったことはありませんでしたか ? 確か東京から戻られた翌日、湯殿山に参籠されたんでした つけね ? 」 「ええ、そうですが : : : 変わったことと一 = ロわれても、さあ : : : 」 すぐに思い当たることがないらしく、了海はちょっと考えるしぐさをした。 「プライベイトな意味でのゴタゴタならちょっとありましたが、それ以外には別に : 「そのゴタゴタというのは、信也君のこと ? 」 しゃべ 「ええ、まあ : : : 私が余計な内輪話を喋っては、あとで和尚さんに叱られるかもしれません 下が : : : 」 めいわく 村「迷惑を掛けませんから、聞かせてもらえないですか。それは、信也君の入院とかかわりが 呪あるんでしよう ? 温海温泉の三浦神経科病院でしたつけ : : : 汽車の中で能理子ちゃんに出会 山ったら、そう教えてくれたんです」 湯 「ご存じだったんですか。それじゃあ : : : 」 了海は安心して洩らす気になったようだった。 「和尚さんが東京から、信也さんを連れてこの寺に帰ってこられたときから、ようすがおか しか

6. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

だったわ」 なぞ やくそくどお 「まあ、君との約束通り、事件の謎は解明することができたがね。それにしても信じられな かったな。能理子ちゃんが今度の事件の犯人だったとは : : : 」 「これでも、フェアー ・プレイで行ったつもりよ。だから、いつだったかドルリ たんてい の名前を持ち出したでしよう ? 彼と滝さんとを較べたら、どちらが探偵として優れているか って。レーンが解決した『の悲劇』の事件は、子供が犯人だったはずよ。ジャッキーという 十三歳の少年が : : : 」 「そうか。そいつは気づかなかったな。あれが暗示だったのか 「でも、とうとう、、ハレちゃったのよね。わたしのしたことは、もうみんなわかってしまった んでしよう ? 」 「だいたいはね。肝腎な点はわかったつもりだが、疑問の点がまだいくつか残っている」 下 対「滝さん : : : 」 呪 能理子は前方に固定していた視線を動かし、はじめて滝の方をふりむいた。 山 「わたしのことを、さそかし恐ろしい女の子だと思ってるでしよう。悪い娘だと : : : 」 殿 湯 「そうは考えてないさ。ただ、能理子ちゃんがなぜあんな大それたことを仕出かしたのか ? そのわけが知りたいんだよ。きっと何かそれなりの深い事情があったんたろう ? 違うかい ? 名れを正直に聞かせてくれないか」 かんじん

7. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

びんせん まんが アンド・ パティの漫画を印刷したジ = ニア用の可愛らしい便箋で、滝連太郎 それはジミ かなくぎりゅうひっせき したた えんびつ あてに次のような鉛筆の走り書きが認めてあった。子供つぼくたどたどしい金釘流の筆跡で、 ものと、つばは 真相の真に「新」という当て字を使ったり、化け物塔婆を仮名で書いたりしている点が、いか にも年相応である。 ママとの話をこっそり立ち聞きしてしまいました。やっと事件の新相を見抜いたようです ルリー・レーンに負けない名探偵だったわ。せつかく楽しみにし ね。やつばり滝さんは、 ていたストリーキングが見られなくて残念だけど、わたしが負けたのだから、しかたがない わね。おじさんと二人きりでお話ししたいことがあるので、これを読み次第ばけものとうば まで来て下さい。待っています。ただし、滝さんのほかには誰も連れてこないで。約束して 能理子 村 呪 山 殿 湯 滝連太郎おじさんへ その走り書きの皿に目を通した滝は、それを大曾根警部の手に押しつけると、 「ごらんの通りだ。能理子ちゃんのことは、おれ一人にまかせてくれないか 0 かな

8. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

きと、フじよ 一通り検屍のすんだ相良道海の死体は、他殺の疑いが生じたことから、改めて祈疇所の小屋 かいば、つ の中で解剖に付されることになった。執刀がはじまると、大曾根警部は仁王部長刑事に立ち会 いを一任して、滝を小屋の外に連れ出した。 「さあ、くわしく話してもらおうじゃないか。いまおたくは、論理的に判断すると、それ以 外に犯人は考えられないと言ったつけな。その論理的な判断とやらをぜひ教えてもらわんこと 2 には : 村滝のロにした犯人の正体があまりに思いがけなさ過ぎたので、その名前を聞いただけではす きようがくどうよ、つ 呪ぐに信じかねたのも無理はない。それだけ、警部の驚愕と動揺は大きかったのである。 なぞ 山 「そうムキになられても、すべての謎を解明したわけじゃないんだがね。おれの推理はむろ 殿 せ「かくここまで来たんだから、湯殿山神社のにお参りしてみ 湯ん話すよ。どうだい ? れいがん 3 ないか。御神体の霊岩のそばで事件の絵解きをするのも悪くないだろう。ここからは歩いても 片道一・五キロだ。そんなに時間はかからないはずだよー 十三章刑法第四十一条 しっと、つ

9. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

たんてい 「へえ、滝さんて読心術を習ったことがあるの ? そうよ。滝さんのモタモタした探偵ぶり かぶとぬ : タイム・リミットがきて兜を脱いだら、いつだっ を見ているとジリジリしてきちゃって。 て教えてあげるわよ。ただし、そのときは滝さんの負けたから、約束通り東京の青山通りでス ーキングをして頂くわよ」 「いいとも。要するに、能理子ちゃんよりも先に、すべての真相を明白にすればいいんだろ う ? 」 まど 入り口の方が 三人が路上で立ち話をしている姿を、社員寮の窓から見つけたのに違いない。 さわ 騒がしくなったと思うと、サンダルを突っかけたオカルト研究会の学生たち何人かが、口々に せんばい 「先輩」と言いながらこちらに向かって駆けて来た。 滝はその方に手をふりながら、なおも能理子に向かって、 2 「実を一一一一口うとね、能理子ちゃん、僕にも犯人の見当はだいたいついているんだよ。ただ、明 村日の発掘調査がすまないと。はっきりしないことがあるんだ。それがすみ次第、大曾根警部に 呪 山そう言ったが、その言葉は途中で集まってきた学生たちのために中断されてしまった。 湯 とちゅう

10. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

がドアの向こうを離れて二階へ去ろうとする、スリッパの足音がしたのである。 滝は席を立っと、物も一 = ロわずに応接間から飛び出した。 かっこう 階段の途中の手摺りのところに、外出の仕度をした慶子がこちらに背を向けた恰好で立ちす くんでいた。ノースリーブのブラウスの袖からのそいた腕が、ハンド、、ハッグをさげたまま小刻 みに震えている。 「奥さんとの話を、立ち聞きしたんだね ? 」 「ご勉なさい」 慶子は両手で顔を覆ってうなだれた。 「そのつもりはなかったんですけど、出かけようとしてそこのドアの前を通りかかったら、 つい話し声が聞こえたもんですから」 「外出の凩は急ぐの ? 」 下 「成田さんと銀座で会う約束になってるんですー 村 「デートの邪魔をして悪いけど、ほんの五分ぐらいの間でいいから時間をくれないかな。成 呪 山田なら、少しぐらい遅れてもいいだろう。おれがあとであやまるよ」 殿 湯 「じゃあ、わたしの部屋で : : : 」 慶子は逃げるように先に立 0 て階段を躯け 0 た。 滝は香代子とちらと目を見交すと、そのあとを追って慶子の部屋へ行った。 ふる じゃま はな おお やくそく そで うで