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検索対象: 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)
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1. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

つ手があった。あの日、道海さんは信也君を伴って弥勒寺へ帰っているが、帰る早々あの子を おそ 納一尸に閉じ込めているんだ。神経を病んで自殺の怖れがあるという名目でね。そのことは君も かんきん 知っているだろうが、実際のところは、あの子を監禁しておけばあれ以上何もできまいという 配慮が、道海さんの気持ちにあったんじゃないだろうかね。しかも了海さんの話によると、道 海さんはその夜、物置を訪れて信也君を問い糺しているそうなんだが、それは剛造氏殺しの事 実と背後関係を告白させようとしたに相違ないんたよ。 信也君が果たしてどの程度の事実を白状したか、そいつはわからない。その事実を知ってい るのは道海さんだけだが、それはさておき、翌朝、信也君は兼子さんに付き添われて温海温泉 の三浦神経科病院に入院し、道海さん自身は断食修行のために仙人に登 0 たというわけなん 下 「そして今度は、能理子に殺されたというんだろう ? その方はどういうふうに行われたん 村たね ? 」 呪 「その件については、正直な話、おれにもごく大ざっぱな見当しかついていないんだ。道海 山さんが仙人沢へ向かって出発した朝、出がけに能理子ちゃんから電話がかかっている。その電 きとうじよ 湯話がもしも、信也君のことで話があるというような内容だったとすれば、道海さんは祈疇所へ ふるいど 行く前に当然、彼女に会ったに違いない。きっとあの古井戸のあるところまで、いっしょに山 道を登ったんだ」 なんど ただ そ

2. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

むす 道海さんにとって、信也君は津島勘治から無理やり押しつけられて養子にした生さぬ仲の息 子だが、育てているうちにだんだん愛情が芽生えて来ていたんだと思うよ。奥さんの兼子さん ろう体い うかが から聞いた話でも、そのことが窺えるんた。そう考えると、あの晩の道海さんの激しい狼狽ぶ りもうなずけるのさ」 「それで、信也をかばうためにあんな嘘をついたんだな。怪遍路を見たなどと : : : あの糞坊 主めー しんにゆうしゃ 「裏口の木戸が開いていたというのも、道海さんが外からの侵入者の仕業に見せかけるため にそうしたんじゃないのかな。といっても最初のうちは信也君のことを、頭から犯人だと疑っ まど ていたわけじゃないと思う。浴室の窓の下に足跡がなかった点から見ても、道海さんがそこに 近づいて犯行の現場を目撃したはずがない。あくまで玄関を出てすぐのところにある植込みの 2 位置から、 = レの木を見たに櫺避ないんだ。それだけにまさかという否定の気持ちも働いて、 射半信半疑だ 0 たんじゃないのかね。道海さんでなくても、だ 0 てあんな子供が殺人を犯した 呪などとは、信じられないのがあたりまえだよ。 圸しかし、道海さんが信也君を疑わざるを得ない決定的な事態が起こ 0 た。乢櫺の際に剛造氏 がくぜん さんこしょ ひつぎ 湯の柩から凶器の三鈷杵が発見されたことで、彼は愕然となったんだ。それもそのはずたよ。あ の三鈷杵が弥勒寺の本堂から盗み出されたものであることを、道海さんは一目見て知ったから なんだ。 ず あしあと な くそほ、つ

3. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

158 ろなんだ」 「そんな馬鹿な ! 道海さんだったら、今朝の夜明けに、了海さんが祈疇所まで迎えに行っ たはずじゃなかったのかい ? 」 「ああ、断食修行のあとは体力が消耗して、自力では歩行もになる。それで了海君が昔 ながらの山カゴを用意して、ぎ笋の村人たちと共に出かけたらしいんだがね。行 0 てみると、 おしよう から ネ襦所はもぬけの殻たったというんた。了海君は、道海和尚が迎えを待たすに一人で下山した あんそうい のではないかと想像して、寺に引き返してきた。ところが、案に相違して道海和尚は帰って来 ま ていない。そればかりか、待てど暮らせどいまになっても : : : 」 「そりや、ただごとじゃないな」 「だから、寺じゅうがてんやわんやの大騒ぎになっているというわけなんだ」 かんじん まもなく本堂で法要が始まるというのに、肝腎の導師をつとめる道海さんが戻っていないと あっては、関係者がうろたえるのも無理はなかった。 」も 「しかし、道海さんが昨夜まで祈疇所に籠っていたことは確かなんだろう ? 」 まちが ようすを見に行った了海君ばかりか、祈疇所のまわりの警戒に当た 「その点は間違いな、。 っていた大網署の私服連中も、和尚の読経の声を耳にしているんだからね。まあ、そういうわ けで、いますぐに犯罪と結びつけて考えることは早計なんたが、ひょっとすると一人で下山す る途中、和尚の身に何か事故が起こったのかもしれん。いすれにせよほうってはおけないんで むか

4. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

つもりでいたわ。それだったら、わたしのような女の子でも簡単にできるでしよう ? なるほどそう一一 = ロわれてみれば、愛染堂の裏手は切り立った崖になっていた。 「では、あれは祈疇所へ着いてから、とっさに思い立ったことだったのかい ? 道海さんに 誘われたのをいいこと幸いに。それにしては、あんなところに古井戸があるのを君はよく知っ ていたね ? 僕はそのことが不思議でならないんだよ」 滝がひっかかっていた疑問は、その点だけでなくていま一つあった。 それは、相良道海の死因が、餓死だったという事実である。人間は水分を得られない状態で 飢餓に頻すると、一週間から十日間で死に発ゑ法医学的にはそうなのだが、そうした専門知 識を、はたして能理子のような少女が事前に知っていたのかどうか。道海の死体が発見された とつばってき 、、こっこ巳一丁こしては、計算 のは、古井戸に突き落とされてからちょうど七日目。突発的に思しオオ豸彳冫 2 ができ過ぎているのだった。 村「古井戸があったなんて、ぜんぜん知らなかったわ。ただ、祈疇所へ訪ねて行ったら、道海 呪伯父さんにあのそばへ連れ出されて、それではしめて、あんなものがあることがわかっただけ 殿 湯 「いったい、道海さんの話というのは何たったの ? 」 かんきん かく つめられ、隠しきれなくな 「納戸に監禁されていた信也が、夜中に伯父さんから厳しく問い ぎようてん ってとうとうわたしのことを喋ってしまったらしいの。そのためびつくり仰天して、真偽を確 きが なんど ひん しゃべ きび ふるいど

5. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

せたのかい ? 」 「筧久造を雇う可能性のある人間が、少なくとも三人はいることがわかったよ。それについ ては、会って説明した方がよさそうだな」 滝は思わせぶりに言うと、捜査本部で落ち合う約束をして電話を切った。 「筧久造は、光明園を出ていったいどこへ行ったのかしら ? まさか、その行く先は、大師 村じゃないでしようね ? 」 待ちかねたように、香代子がさ 0 そく幸ねた。 ねら 「そのまさかの恐れが多分にあるな。この次狙われているのは道海さんだからな」 まゆ ぶぜん 滝は憮然とした面持ちで眉をしかめ、右手で顔を一撫でした。 大曾根警部の電話で、筧が二日前に光明園から姿を晦ましたと聞いたときから、彼は直感的 にそう睨んでいた。そういえば、相良道海も同し日に信也や能理子を連れて大師村へ帰ってい る。筧が単独の犯人かそれとも共犯者であるかは、まだ不明だが、少なくとも道海の後を追っ たことだけは疑うべくもなかった。 いや、すでにもう道海の身には、 怪遍路は、次にどのような行動に出るつもりなのだろう ? 何らかの危険が迫っているのではないだろうか ? にら ひとな

6. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

182 真重になり過ぎたのが失敗だった。そのせいで、道海さんを死なせてしまったようなものなん 「それでは、もうかなり前から、二人のことを : : : 」 「少なくとも大師村に来たときには、剛造氏殺しの犯人が信也君ではないかという察しはっ いていたよ。能理子ちゃんが、その共犯者であろうということもね。しかし、今度の道海さん の事件は油断し過ぎていた。信也君は温海温泉の三浦神経科病院に入院しているというし、当 きとうじよ の道海さん自身も祈疇所で断食修行をつづけていて無事だという。それでつい安心して、気を 抜いたのがいけなかったんだ。まさかあの二人が交換殺人を行い、道海さんの方は能理子ちゃ んが受け持って、それも祈疇所入りをしたその日に、あの古井戸へ突き落として餓死させよう などとは、夢にも考えなかったからな。 何か起こるとしたら、幽海上人の遺体の発掘調査の当日だろうと予想していたのが、大変な 誤算だったんだよ」 「そうすると、我々は十一二歳と十一一歳の二人のジャリ共にキリキリ舞いをさせられて、翻弄 されていたことになるのかね」 ためいき 大曾根警部が歯ぎしりをしながら言った。滝は深々と溜息をついた。 「その通りだ。大の大人が子供に踊らされてしまったんだよ。そこに今度の事件の何とも一 = ロ えない恐ろしさがあったんじゃないだろうか ? 」 しんちょう ほんろう

7. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

180 滝は、祈疇所の床に横たえられた道海の亡を睨みながら言「た。 さそ 「犯人は、道海さんをあの古井戸のそばに誘って、力いつばい突き落としたんだ。まさか、 道海さんが東京から弥勒寺に帰った翌日、犯行が行われようなどとは夢にも思わなかったよ。 幽海上人の発掘調査の日がヤマ場たと考えていたのが手抜かりだったんだ。こんなぶざまな後 たんてい 手を踏むなんて、おれはやつばり能理子ちゃんの言う通り、ポンクラ探偵たったかもしれん 「では、その犯人というのは ? まさか、筧久造が : : : 」 「いや、彼は事件当初から、あくまでダミーでしかなかったのさ」 滝は首をふった。 やと 「金銭で雇われて、犯人の指示通りに陽動的な役割りを果たしていたに過ぎない。真犯人は そうさ もうてん 別にいたんだよ。それも、捜査の盲点に当たるところにね」 「盲点だ「て ? ぜんたいなんた。その真犯人というのは : : : そのロぶりだと、おたくに はもう見当がついているんだろう ? 」 「ああ、ついているとも。道海さんを殺したのは大人しゃない。今年中学二年生の女の子、 つまり淡路家の能理子ちゃんだったんだよ」 こむすめ 「何だって ! あのお転婆の小娘がかい ? 」 とんきよう 素っ頓狂な声をあげた大曾根警部は、すぐに吹き出した。 て す ゅめ

8. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

さんろうちゅう だま 小屋で参籠中のはずだった。従って、彼の身にもしも異変があれば、弥勒寺で黙っているわけ れんらくでんわ おもむ がない。その点は出発前に寺へ連絡電話を入れて確かめているし、第一、一日早く大師村へ赴 いた大曾根警部からも、何らかの急報があるにきまっていた。 それがないということは、道海が少なくとも現在のところはまだ、無事でいる証拠である。 ぐち 「相変わらず、能理子ちゃんの憎まれロはキツィよ」 ひげ 滝はカストロ髭をしごきながら苦笑すると、 「それより能理子ちゃんは、何だって温海温泉なんかへ行ったんだい ? つついて大師村へ行き、ずっとあちらの別荘にいたんたろう ? 」 「そうよ。でも、今日は信也君のお見舞いに行ったのよ」 「見舞いだって ? 」 「ええ、あの子ったら東京でのショックが抜けないらしくて、寺へ帰ってから誰に対しても じへいしよう 口をきかなくなり、自閉症みたいになってしまったの。それで、道海伯父さんが入院させたん だわ。大師村には神経科のお医者さんがいないもんだから、ってをたよって、温海温泉の三浦 病院へ : : : 」 「信也君が神経科の病院にねえ」 滝が弥勒寺〈電話連絡をしたとき、道海の妻のは、それについては何も言わなか 0 た。 彼は信也のことも心配してようすを尋ねたのだが、兼子の返事は「ええ、別に ・ : 」と当たら ぬ 君は道海さんにく しよ、フこ みうら

9. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

232 とうらい さんが信也を連れて上京してくることになったのを知って、チャンス到来とばかり喜んだって だついじよう わけよ。 ( の入浴時間はいつもきちんとしているし、入浴中に脱衣場との境のガラス戸に鍵 をかけたり、水を飲む習慣があることはあらかじめわかっていたから、密室仕立てにする段取 , んしなし りは別にむずかしくも何ともなかったわ。でも、あれは犯人を大人の範囲内で考えると密室に なるだけの話で、子供もふくめて推理をすれば、本当は密室でも何でもないのよね。信也の代 わりにモデル・ガンを射って紙火薬の音を聞かせたアリバイ作りは、外国のミステリーの応用 「じゃあ、道海さんの殺しの方はどうなんだ ? あの朝弥勒寺に電話をかけたそうたけど、 それで呼び出したのかい ? 」 なんど 「別に呼び出したわけじゃないわ。信也が東京から弥勒寺に帰る早々、納戸に閉じ籠められ たと聞いたもんで、ようすを探るためにかけたたけよ。そうしたら道海伯父さんに、信也のこ とで話があるからんの疇所〈来てほしいと言われたの」 「すると、君を誘い出したのは道海さんだったのか 「そういうことね。いまだから一一一一口うけど、道海伯父さんは、もっと別な殺し方をするつもり だったのよ。そのためわたしもいっしょにくつついてこの大師村へ来たんたけど、幽海上人の 発掘の前に断食修行を思い立つなんて、予期しなかったことだったんですもの。最初の計画で がけ は、発掘の前夜あたりに伯父さんをこっそり壗獻へ呼び出し、愛染堂の裏の崖から突き落とす さそだ かぎ

10. 湯殿山麓呪い村(下) (角川文庫)

174 うすうす予期していたことではあった。 さがらどうかい 法要の時間が過ぎても相良道海が弥勒寺に戻らなかった時点で、すでに滝は最悪の事態を予 想していたのである。それは滝ばかりではない。大曾根警部や道海の妻の兼子も同様だったに 違いなかった。 だが、危具していたことが現実に起きてしまったのだ。は何ともいえぬやりきれない気分 おそ に襲われて、 「何てことだー と、思わすロ走った。 おやこゅ、つかいしよ、つにん 愛染堂でミイラ化した津島母娘と幽海上人のおぞましい死体を目のあたりにした矢先、また また変わりはてた相良道海の姿に対面しなければならないとは。 大曾根警部は、すぐさま警察医と共に現場に急行するという。発掘調査は一段落したところ なので、むろん滝も同行することにした。 めて生唾をのみこんだ。 「仙人沢の祈疇所の近くにある古井戸から、いましがた和尚さんの死体が発見ざれたんだそ うです」 なまつば