きみの - みる会図書館


検索対象: 虐げられた人々
219件見つかりました。

1. 虐げられた人々

ここへ来いってあのひとに言われて、私は 「何と答えたらいいの、ワーニヤ。分るでしよう ! こうして待ってるのよ」と、相変らず苦い笑みを浮べてナターシャは言った。 わら 「でも、いいかい、よく聴いてくれないか」と藁にもすがる気持で私はまたもや哀願し始めた。 「こんなことはまだ取り返しがつくんだ。別のやり方で、何か全然別の方法で片をつけられるー 家出しなくてもすむんだ。どうしたらいいか教えてあげよう、ナターシ = チカ。ぼくが万事うま くやってあげるよ、あいびきだって、なんだって : 。ただ家出だけはやめなさいー : ぼくが 手紙のお使いをしてあげよう、そう、ぼくは構わないよ。今の状態よりはすっとましだ。きっと じようず と上手にやってみせる。きみたちの気に入るように、そう、きっと気に入るようにしてあげるから 人 ・ : 今のやり方じゃ、ナターシ = チカ、身の破滅だ : : : そうさ、まるつきり自分で自分を駄目に れするやり方じゃないか ! そうでしよう、ナターシャ。何もかもうまくいって、きみはきっと仕 ら 合せになる。きみたちは好きなだけ愛し合える : : : 親たちの争いが収まりさえすれば ( きっと争 虐 しは収まるんだ ) そのときは : : : 」 「もうたくさん、ワ 1 ニヤ、よして」とナターシャは私の手を固く握り、、一涙を浮べながらも笑顔 で私の言葉をさえぎった。「ワーニヤ、あなたっていい人ね ! 親切で、まじめな人ね ! 自分 ゆる のことはなんにもおっしやらないのね ! あなたを棄てたのは私なのに、何もかも赦して、私の 仕合せのことしか考えていらっしやらないのね。手紙のお使いだなんて : : : 」 ナターシャは泣き出した。 「分ってるのよ、ワーニヤ、あなたは私を愛してらしたでしよう、今でも愛していてくださるで しよう。それなのに、こんなことになっても、一言も非難めいたことや、強い言葉で責めたりな きっ

2. 虐げられた人々

「いや、マスローエフ君、それは嘘だ」と私は相手の言葉をさえぎった。「第一に将軍という かっこう ものは、たとえ文壇の将軍であっても、今のぼくみたいなこんな恰好をしていない。第二に、失 礼だが、なるほどぼくは二度はかり往来できみを見かけた記憶はあるけれども、きみは自分から ぼくを避けているようだった。相手が避けているのに、こっちから近寄って行く馬鹿はいない。 それに今ぼくが考えていることを言おうか。もし酔っていなけりや今のきみだってぼくに声をか けなかったに違いないんだ。そうじゃないかい ? まあとにかく、久しぶりだね ! きみに逢え うれ てとても嬉しいよ」 と「本当か ! きみの迷惑じゃないのかい : : こんな恰好でも ? しかしそんなことを訊く必要も 人ないな。大したことじゃない。ワーニヤ、おれはよく思い出すんだが、きみはすばらしい少年だ った。覚えてるかい、おれの身代りに笞でひつばたかれたのを。きみは絶対ロを割らず、おれを かば ら庇ってくれたが、おれはそのお返しに一週間もきみを冷やかしたつけ。実に清潔な心のもちぬし せつぶん 虐だ、きみはー いやあ、まったく久しぶり、嬉しいよ ! ( 私たちは接吻をかわした ) 。おれは こんばい もう何年もこうして昼となく夜となく疲労困憊の状態だが、昔のことは忘れちゃいない。忘れら れるものか ! で、きみは、きみはどうなんだ」 「ぼくはどうなんだって、何がだい。ぼくだって疲労困憊さ : : : 」 うつつ 酒に現を抜かしている人間に特有の、あの強い感情をこめて、彼は永いこと私の顔を見つめた。 いや、それでなくとも、この男は極端なお人よしだったのである。 「いや、ワーニヤ、きみはおれとは違う ! 」と、やがて悲劇的な口調で彼は言った。「だって読 きようきん んだよ、ワーニヤ、ちゃんと読んだよー : そう、胸襟を開いて語り合おうじゃないか ! 急い 191 むち

3. 虐げられた人々

のぞ 少女はひどく興奮していた。私は話をしながら、かがみこんで少女の顔を覗いたのである。ま るで私に弱味を見せまいとするかのように、少女が恐ろしい努力を払って内心の動揺を抑えつけ ているのを、私ははっきりと見た。顔はますます蒼くなり、下唇は噛みしめられていた。だがと しま りわけ私を驚かせたのは少女の心臓の奇妙な鼓動だった。その鼓動は強まる一方で、終いにはま りゅう るで動脈瘤の患者のように、二歩も三歩も離れた所からでも聞きとれるようになったのである。 きのうのように少女はわっと泣き出すだろう、と私は思った。だが少女はよく自分を抑えた。 「それで囲いはどこにあるの」 と「囲いって ? 」 人「お祖父さんが死んだところのー れ「教えてあげよう : : : 外に出たらね。ところで、きみの名前はなんていうの」 ら 「いいわよ : : : 」 虐「何がいいんだい」 いらだ 「いいわよ、そんなこと : : : 名前なんかないの」と、なんだか苛立たしげに、ぶつきらぼうに少 女は言い、出て行こうとした。私は引きとめた。 「待ちなさい、きみは変な子だなあ ! ぼくはきみのためを思って言ってるんだよ。きのう、階 段で泣いているのを見てから、ぼくはきみが可哀想でたまらないんだ。思い出すだけでもたまら ない : : : それにお祖父さんはぼくに抱かれて死んだんだし、六丁目と言ったのはきみを思い出し ていたんだとすれば、それはつまり、きみをぼくの手に残して行ったようなものじゃないか。今 でもぼくはきみのお祖父さんを夢に見るんだ : : : この本だってちゃんととっておいたのに、きみ 178 おさ

4. 虐げられた人々

蹴とはもはや不可能。ただ一つだけ言えるのは、もしもおれの内部の人間らしさが目をさまさなか ったのなら、今日きみに寄って行かなかっただろうということだよ、ワーニヤ。前に逢ったとき、 わざと避けたのは、きみが言うとおり。どうしてもきみに近づけなかったんだ。おれはきみに値 しないからな。今日近づいたのは酔っていたからだろうというのも、きみの言ったとおりだ、ワ ーニヤ。いやもう実につまらん話さ、もうおれの話はやめよう。それよりきみのことを話そうじ ゃないか。いや、きみ、読んだよ ! 読んだぜ ! このおれがぜんぶ読んだよ ! きみの処女作 のことさ。あれを読んで、このおれがすんでのことに真人間に立ち返るとこだった ! すんでの とことにね。しかしよく考えて、やつばりやくざであることをえらんだがね。そういう次第さ : : : 」 人それからまださまざまなことを、彼は喋った。酔いはまわる一方で、涙を流さんばかりの感傷 れが押しよせていた。マスロボーエフは昔から愛すべき男だったが、昔から抜け目がなく、どこか ろうかい しら発育の不均衡な人間だった。学校時代から狡くて、老獪で、こすからい陰謀家だったが、本 虐質的には感青的な男であり、一口に一一一口うなら身を持ち崩した人間である。こういう人間はロシア 人のなかには数多い。彼らは往々にして偉大な才能のもちぬしだが、その才能は何か妙に混乱し ており、しかも特定の事柄についての弱さから、彼らはしばしば良心に反する行動をとり、結局 は身を滅ぼすばかりか、おのれの破滅をあらかじめ意識しているのである。さて、マスロポーエ おぼ フはますます酒に溺れていった。 「ところで、もう一言いわせてもらおう」と、彼は話をつづけた。「おれはきみの名声が天下に とどろ 轟きわたるのを聞いて、きみの小説の批評をいろいろ読んでみた ( 本当に読んだんだぜ、おれは もう活字なんか読まないと思ってるんだろ ) 。ところがその後、きみがひどい靴をはいて、泥ん

5. 虐げられた人々

・ : ネリーになるま 『愛と誇りに満ちた心』と私は思った。『たいへんな苦労だったよ、きみが : でが』。だが今や少女の心は永遠に私に捧げられたのだ。それが私にはよく分った。 「ネリ 、あのねーと、少女が落着いたのを見て私は訊ねた。「きみは今、愛してくれたのはマ マだけで、ほかにはだれもいなかったと言ったね。でも、お祖父さんはきみを愛していなかった 「いなかった : : : 」 「でも、覚えてるだろう、そこの階段のところで、きみはお祖父さんのことを思って泣いたじゃ とないか」 び 人 少女はちょっと考えこんだ。 「ううん、お祖父さんは愛してくれなかった : : : 意地悪な人だった」そして何か病的な感情の動 れ ら きが少女の顔に現われた。 。あの人はすっ 虐「しかしそれはお祖父さんに要求しても無理なことじゃなかったのかな、ネリー もうろく な かり耄碌していたみたいだろう。亡くなったときは気違いみたいだったからね。亡くなったとき の様子は、きみにも話したとおりだ」 「ええ、でもぼけてしまったのは死ぬ一月前ぐらいからなの。この部屋に一日じゅう坐ったっき り。私が来なければ、食べも飲みもしないで二日でも三日でも坐ってるの。前はそんなじゃなか ったんだけど」 「前って、何の前 ? 」 「ママが生きていた頃」 261

6. 虐げられた人々

も社交界に引っ張り出され、出世させられるという次第だ。ところで、一」ういう処置をだれより ひと も熱心に主張してるのが、カーチャの継母の伯爵夫人なんだよ。つまり、この女は外国でのご乱 行がたたって、公爵夫人の家にまだ出入りさせてもらえない。そして公爵夫人の家に出入りで きないということは、ほかの家にも出入りできないことになるだろう。だからぼくとカーチャと の結婚話は、願ってもない幸運ということなのさ。だから伯爵夫人は前はこの結婚話に反対だっ たくせに、今日はぼくが公爵夫人の家で首尾よくやったことを物凄く喜んでる。まあ、そんなこ とはいいとして、肝心なことはこうだ。ぼくはカチ = リーナ・フヨードロヴナを去年から知って と いた。でも知り合った頃は、ぼくはまだ子供で、なんにも分らなかったから、あのひとの性質と び 人 いうものが少しも理解できずに : れ「それはその頃、私のほうを余計に愛してらしたからよとナターシャが話をさえぎった。「だ げから理解できなかったのよ。でも今は : : : 」 虐「黙って、ナターシャ ! 」とアリョ 1 シャは熱っぽく叫んだ。「きみはまるつきり勘違いしてい るし、ぼくを侮辱しているー : いや、まあいいよ、話のつづきを最後まで聞いてくれれば、き みにも分ってもらえるはずだから : : : ああ、カーチャにきみを逢わせたいよ ! どんなにやさし い、明朗な、鳩のような心のもちぬしか、知ってもらいたいよ ! でも今に分る、とにかく最後 まで聴いてくれ ! 二週間前、伯爵夫人が外国から帰って来た直後、父に連れられてカーチャに 逢いに行ったとき、ぼくは彼女をじっくり観察してやった。ところが、むこうもぼくをしきりに 観察してるんだね。ぼくは大いに好奇心を刺激された。カーチャをもっとよく知ろうという特別 な気持がぼくにあったことは、言うまでもないだろう。それは、父の手紙をもらって、ひどく驚 ままはは

7. 虐げられた人々

をいきなり抱き寄せてキスするところを胸に描いた。ほんとに、たとえ一瞬間でもいい、昔のよ うにきみを抱きしめられるなら、そのまま死んでもいいと思った。そんなことを想像しているう ちに、とっぜん頭にひらめいたんだ。ぼくはそんなふうに一瞬間でもきみを抱きしめたいなどと 祈っているけれど、そのきみはもう六カ月もぼくと一緒だったじゃないか、ってね。その六カ月 のあいだに、ぼくらは何べん喧嘩をし、幾日お互いに口をきかなかっただろう ! 何日も何日も 喧嘩をして、お互いの仕合せを粗末にしたくせに、今はせめて一瞬間でも墓から出て来てくれ、 : そう思うと、ぼくはもうたまらなくなって、走 そのためならば命も惜しくないと叫んでるー とってここへ帰って来た。きみはもう待っていてくれて、喧嘩のあとで初めてぼくらは抱き合った。 人忘れもしない、ぼくは本当にきみを失いかけたみたいに、この胸にしつかりときみを抱きしめた。 ナターシャー もう絶対に喧嘩はよそう ! 喧嘩はぼくにはいつも辛いんだ ! それに、ああ、 れ きみを棄てるなんて、そんなことが考えられるもんか ! 」 虐ナターシャは泣いていた。二人は固く抱き合い、アリヨーシャはもう一度、決してナターシャ を棄てないと誓った。それから父親の家へ飛んで行った。何もかもうまくいく、何もかも丸く収 まると、固く信じているように。 しま 「何もかもお終いだわ ! もう駄目だわ ! 」と、発作的に私の手を握りしめてナターシャは言っ た。「あのひとは私を愛してる。その気持は変らないと思うわ。でもあのひとはカーチャも愛し てる。もう少し経てば、私よりもカーチャを愛するようになるのよ。あの執念深い公爵はぐずぐ ずしているはずはないでしよう、だから : : : 」 「ナターシャー ぼくも公爵のやり方はきたないと思うけれども、でも : : : 」 313

8. 虐げられた人々

「さあ、どうかな、ナターシャ、それはなんとも一言えないな。ただきみのことを思って悲しんで ること、そしてきみを愛していることだけは、はっきりしている。しかし、ここへ来よ・フとした かどうかは : : : そうだな : 「ロケットにキスしたのね」とナターシャは私の一一 = ロ葉をさえぎった。「キスしたとき、何か言っ ていた ? 」 「脈絡のない叫び声だけだった。やさしい愛称できみの名前を呼んでいたようだった : : : 」 「呼んでいたの」 と「そう」 人ナターシャは声を立てずに泣き出した。 「かわいそうな父と母 ! 」とナターシャは言った。「でも父がすべてを知っていても不思議はな れ らいわ」と、しはらく黙っていてからナターシャは言い足した。「アリヨーシャのお父さんのこと 虐についてもずいぶん詳しいみたいだから」 「ナターシャ」と私はこわごわ言った。「お二人の所へ行かないか : : : 」 「いっ ? 」と、たちまち蒼ざめ、椅子から体を浮かせてナターシャは訊ねた。私が今すぐ連れて 行くのかと思ったらしい。 ほほえ 「だめよ、ワーニヤ」と、私の肩に両手をかけ、悲しげに微笑みながらナターシャは言った。 「だめなのよ。あなたはいつもそうおっしやるけど、でも : : : その話はもうよしましよう」 「そんな調子しや、この恐ろしいいざこざは絶対に、絶対に終らないよ ! 」と私はカなく叫んだ。 和解のきっか 「自分から和解の第一歩を踏み出せないほど、きみは。フライドの強い女なのかー

9. 虐げられた人々

だろう。どんなことを企んでいるのだろう。なるべく早く逢ってみなければなるまい。 「で、ナターシャが棄てられることが、きみと何の関係がある、ネリー 「だってナターシャをとても愛しているんなら」と、目を伏せたままネリーは答えた。「その男 のひとが行ってしまったあと、ナターシャをお嫁にもらうんでしよ」 「いいや、ネリー、ぼくがナタ 1 シャを愛しているほど、ナターシャはぼくを愛していないんだ。 いや、とにかく、そんなことにはならないよ、ネリー」 それに : 「でも私はナターシャとあなたの女中になるの。あなたとナターシャは楽しく暮すのよ」と、私 ささや との顔を見ずに、ほとんど囁くような声で少女は言った。 人『どうしたんだろう、この娘は ! 』と私は思い、何かしら空恐ろしいような気持になった。ネリ ーは黙りこみ、それきり永いこと一言も口をきかなかった。だが私が出かけたあと、泣き出して、 ら一晩中泣きつづけ、とうとう泣き寝入りをしてしまったことは、アレクサンドラ・セミ = ーノヴ うわ 1 」と 虐ナが報告したとおりである、夜中にも少女は眠りのなかで泣き、何か譫言を言っていた。 しかしその日以来、少女はいっそう気むすかしく口数が少なくなり、私とはもうぜんぜん口を きかなかった。もっとも少女が二、三度こっそり私に視線を投げるのを、私は確かに見た。その まなざしにどれほどのやさしさがこめられていたことか ! だがそれは思いがけぬやさしさを惹 き起した一瞬とともに過ぎ去り、ネリーはまるでその衝動に逆らおうとでもするように、ほとん ど一時間ごとにますます陰気になり、医者ですらその変化に驚くのだった。一方、体はほとんど 完全に回復し、医者は新鮮な外気に触れて短時間の散歩をすることをついに許可した。折から明 るい暖かい気候だった。この年、非常に遅れてやって来た受難週間である。私は午前中に外出し

10. 虐げられた人々

んか行かないからね : : : 」 ナターシャは青年を引きとめようとせず、かえって自分から行きなさいとすすめた。アリョ シャが今度はわざと意地を張ってここにとどまり、すっかり退屈してしまうのを、ナターシャは ひどく恐れていたのだった。ただナターシャは自分を引き合いに出しては何も言わないでほしい とだけ頼み、精いつばいの努力をして青年に別れの笑顔を見せた。アリヨーシャは出て行こうと したが、とっぜんナタ 1 シャに近寄り、その両手をとって、そばに腰をおろした。そして言うに 一一 = ロわれぬやさしい目でナターシャを見つめた。 けんか と「ナターシャ、きみはぼくの天使だ、ぼくのことを怒らないでおくれ、もう喧嘩はぜったいしな 人いことにしようね。ぼくのすべてを信じると約束してくれなしカ 、ゝ、ぼくもきみのすべてを信しる れから。ちょっとぼくの話を聞いておくれ、お願いだ。いつだったか、原因は忘れたけれども喧嘩 ら をしたことがあったね。どうせぼくが悪かったんだろうけど。とにかく、ぼくらはお互いに口を げ 虐きかなかった。ぼくは自分から先にあやまるのはくやしかったけど、それでも悲しくてたまらな かった。で、町をぶらついたり、友達の所へ寄ってみたりしたけど、胸の中は苦しくて、苦しく て : : : そのとき、ふっと考えたんだ、もし万一きみが病気か何かで死んだら、ってね。そのこと ものすご を想像したら、ぼくは急に物凄い絶望に襲われた。まるで本当にきみを永遠に失ったみたいにね。 考えることはどんどん苦しい、恐ろしいものになっていった。そしていつのまにか、ぼくはきみ の墓参りをして、お墓の上にばったり倒れ、墓石を抱きしめて、悲嘆にくれている自分を空想し ていたんだ。その墓石にキスしで、せめて一瞬間でもいい、出て来ておくれと呼びかけたり、ほ よみがえ んの一秒間でも甦らせてくださいと神に奇蹟を祈ったりしている自分を空想した。それからきみ 312 きせき