アリヨーシャ - みる会図書館


検索対象: 虐げられた人々
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1. 虐げられた人々

費ったのだが、ナターシャはアリヨーシャの浪費に反対して小言をいったり、時には泣いたりし た。感受性が強いアリヨーシャは、どうかすると一週間もかかってナターシャに何を贈ったらい いだろうか、ナターシャはそれをどう受けてくれるだろうかと楽しい空想にふけり、その間ほか のことはなんにもしないばかりか、自分の期待や夢をあらかしめ私に話したりしたので、ナター シャに小言をいわれたり泣かれたりすると、見るも気の毒なほどしょげかえり、そのあとではき いさか まって贈り物のことから二人のあいだに非難のやりとりや、愁嘆場や、諍いがもちあがるのだっ た。そのほかにも、アリヨーシャはナターシャには秘密でたくさんの金を浪費していた。つまり と悪友について歩いて、ジョゼフィーナとかミーナとかいうたぐいの女のところへ行き、ナターシ 人ヤを裏切っていたのだが、それでもアリヨーシャが彼女を愛していたことに間違いはない。それ はなんとなく苦痛を伴う愛し方だった。アリーシャはよく思い乱れた悲しげな顔で私を訪ねて ら きて、自分はナターシャの小指ほどの値打ちもないとか、自分は粗暴でやくざな男だから彼女を 虐理解する力はないし、彼女の愛にも値しないなどと言った。その言葉にはいくらかの真実が含ま れていた。二人の関係には全く釣合いのとれない部分があったのである。青年はナターシャの前 では自分を子供のように感じ、彼女もまたアリヨーシャをいつも子供扱いしていた。アリヨーシ ヤは涙を流してジョゼフィーナとのいきさつを私に告白し、同時にそのことをナターシャに話し てくれるなと哀願するのが常だった。そしてこういう打明け話のあとで、アリヨーシャは私を連 れておずおずと、恐れおののきながらナターシャの住居へ帰るのだが ( 罪を犯したあとでは彼女 の顔を見るのがこわい、頼みになるのは私一人というわけで、いつも私は連れて行かれるのであ る ) 、ナターシャはアリヨーシャの顔を一目見るなり事の次第を呑みこむのだった。ナタ } シャ 114 たず

2. 虐げられた人々

「何もかも興奮と空想と孤独のせいです : : : あなたはアリヨーシャの軽はずみな行為にすっかり 苛立ってしまわれた : : : しかしこれは単にアリヨーシャが軽率であったというにすぎません。あ なたが今指摘された一番重要な事実、すなわち火曜日の出来事は、むしろあなたにたいするアリ ヨーシャの限りない愛着を証明しているのです。ところがあなたはそれを逆におとりになっ 「ああ、何もおっしやらないでください、せめて今だけでも私を苦しめないで ! 」とナターシャ はむせび泣きながら相手の言葉をさえぎった。「もう前から感じで分っていたわ、ずっと前か とら ! アリヨーシャの今までの愛情はすっかりさめてしまったのよ。それが私に分らないとお思 いになるの : ・ : ・ここで、この部屋で、ひとりで : : : アリヨーシャに棄てられ、忘れられて : : : 私 はじっと我慢して : : : よくよく考えてみました : : : でも、どうしようもなかったわ ! あなたを ら ・ : どうしてあなたは私をだますの。私は自分で自分を 責めてるんじゃないのよ、アリヨーシャ : ・ : それも何べんも、何べんもよ ! ア 虐だまそうとしてみたのよ、それがお分りにならないのー こわね リヨーシャの声音に耳をすましたわ。アリヨーシャの顔色や目の表情を一生懸命読もうとしたわ : もう何もかも駄目になったのよ、葬り去られたのよ : : : ああ、私はなんて不幸なんだろう ! 」 アリヨーシャはナターシャの前にひざまずいて泣いていた。 「そうだよ、そうだよ、悪いのはぼくなんだ ! すべてはぼくのせいなんだ ! 」と泣きながらア リヨーシャは繰返した。 : ほかにいるのよ。それは、そ ・ : 私たちの敵は : 「だめよ、自分を責めないで、アリヨーシャ : こにいる人の仲間よ : : : そこにいる人の仲間なのよ ! 」 302

3. 虐げられた人々

私たちは部屋へ戻った。少し経ってから私はアリヨーシャに言った。 「さっきお父さんに逢いましたよ」 「どこで ? 」と青年はびつくりして叫んだ。 「町で偶然にね。ちょっと立ち話をしましたが、近づきになってほしいとまた頼まれました。あ なたのことを訊いておられたつけ。今どこにいるか知らないか、とね。なんでも、逢ってぜひと も話したいことがあるとか」 「じゃ、アリヨーシャ、行ってお父様に逢ってらっしゃい」と私の意図を察したナターシャが間 髪を入れず言った。 人「でも : : : どこへ行ったら逢えるだろう。うちかな ? 」 れ「いや、確か、これから伯爵夫人のところへ行くとおっしやっていましたよ」 ら 「じゃ、やつばり駄目だね : : : 」とアリヨーシャは無邪気に言い、悲しそうにナターシャの顔を げ 虐見た。 「ああ、アリヨーシャ、駄目じゃないわよ ! 」とナターシャは言った。「私を安心させたいばっ かりに、あなた本当にあちらの交際をおやめになる気 ? そんなの子供っぽい考え方よ。第一そ んなことは不可能だし、第二にカーチャにたいして不誠実だわ。あなた方はお友達なんでしよう、 しっと そんな乱暴な絶交ってないわ。それに私が嫉妬すると思ってるのなら、それはもう私にたいする 侮辱よ。お出掛けなさい、すぐにお出掛けなさい、お願いですから ! それにお父様もきっと安 心なさるわ」 「ナターシャ、きみは天使だ、ぼくなんかきみの小指の先ほどの値打ちもない ! 」とアリヨーシ 326

4. 虐げられた人々

「いいのよ、アリヨーシャ、くよくよしないで」とナタ 1 シャは言った。「あなたより悪い人が ほかにいるんですもの。黙って聴いていてちょうだい、これから私があなたのお父様に申し上げ ることを。もういい加減けりをつけなければいけないわ ! 」 「どうか説明してください、ナターリヤ・ニコラーエヴナ」と公爵がすかさず言った。「ぜひと なぞ もお願いします ! もう二時間も、そういう謎めいたお言葉を聞かされているのですからね。ど うもやりきれなくなってきました。それに、正直を申せば、ここでこんな歓迎を受けようとは夢 にも思わなかったものですから」 と「そうでしようね。私たちがあなたの秘密の魂胆を見抜けないように、言葉で私たちをうっとり 人させようとお考えになっていたのですものね。何を今さら説明することがあるでしよう ! あな たは何もかもご自分でご存知ですし、何もかも心得ていらっしやる。アリ = ーシャの一一 = 〔うとおり ら です。あなたが何よりもまず望むことは、私たちを引き離すことなのだわ。今日ここで何が起る 虐かも、あの火曜日の夜から、あらかじめ目算を立てて、細かいところまですっかり決めておしま いになったのでしよう。さっきも申しましたけれども、あなたは私のことも、ご自分でもくろん だこの結婚話のことも、真剣に考えてはいらっしやらない。私たちをからかっていらっしやるの です。一定の目的があって、お芝居をなさっているのです。あなたのお芝居は成功でしたわ。ア リヨーシャは、あなたが今度のことをボードビルを見るようにしか見ていないと非難しましたけ しか ど、ほんとうにそのとおりよ。あなたはアリヨーシャを叱るどころか、ほんとうは大喜びしなけ ればならないんだわ。だってアリヨーシャはなんにも知らずに、あなたの期待どおりのことをや ってのけたのですから。もしかしたら、それ以上のこともね」

5. 虐げられた人々

まつづけて、自分はナターシャにすまないことをした罪人だと書いていた。自分は救いようのな い男であり、田舎へ出掛けてきた父親の意志に反抗する力のない人間である。そして自分の苦し みを言いあらわす言葉も知らないと書きながら、すぐまた、ナターシャを幸福にする能力が自分 にあることを充分に意識していると言い、とっぜん二人が決して不釣合いではないことを論じ始 めるのだった。そして父親の意見を執拗に、憎しみをこめて排撃し、ナターシャと結婚した場合 のろ の幸福な生活の情景を絶望的に描写し、自分の気の弱さを呪い、そして結局は , ーー永遠の別れを 告げていた ! その手紙は苦しみに満ち満ちた手紙だった。アリヨーシャは明らかに無我夢中で めがしら →」それを書いたのである。私の目頭に涙が滲んだ : ナターシャはもう一通、カーチャからの手 人紙を見せてくれた。それはアリヨーシャの手紙と同じ封筒に入っていたのだが、別こ封がしてあ れった。カーチャはかなり簡潔に、数行で、アリヨーシャが本当に嘆き悲しんでいること、病気に げなりそうなほど絶望していること、しかし自分がついているからきっと仕合せにしてみせると報 虐告していた。その一方でカーチャはナターシャに、アリヨーシャがすぐに気を紛らすことのでき る人間だとか、彼の悲しみは本物ではないとか考えないでほしいと力説していた。『アリヨーシ ヤはあなたを決して忘れないでしよう』とカーチャは付け足していた。『また忘れられるはすも ありません、あのひとはそんな心のもちぬしではありません。あなたを限りなく愛していますし、 これからも愛しつづけるでしよう。もし今後あなたを嫌いになったり、あなたの思い出に胸を痛 めることがなくなったりしたら、そんなひとは私のほうがすぐに嫌いになってしまうでしょ 二通の手紙を私はナターシャに返した。私たちは視線をかわしたが何も言わなかった。前の一一 526 きら

6. 虐げられた人々

「私が公爵に言ったことを、全部は信じていらっしやらないのね ! あなたの顔色で分ったわ。 でも見ていてごらんなさい、私が正しかったかどうか今に分るから。私はただ大ざっはに話した だけよ、公爵がほかにどんなことを考えているか分ったもんじゃないわ ! あれは恐ろしい人間 なのよ ! 四日間この部屋の中を歩きまわって、私すっかり見抜いてしまったの。公爵はアリョ ーシャの心を解放し楽にしてやりたかった。生きることの邪魔になる悲しみや、私にたいする義 務的な愛情からね。あの結婚話を考え出したのは、私たちのあいだに自分の力を割りこませて、 自分の威厳や霓大さでもってアリヨーシャをうっとりさせたいこともあった。本当よ、これが真 と相なのよ、ワーニヤ ! アリヨーシャはそういう性格の人なんですもの。つまり、そうなればア 人リヨーシャは私については安心してしまう。私についての不安は消えてしまう。もうナターシャ はぼくの妻で永遠に一緒なんだから、というふうに考えて、思わず知らずカーチャのほうにいっ れ ら そう注意を向けるようになる。公爵はたぶんカーチャのことをよく研究して、これこそ似合いの 虐妻だ、私よりもアリヨーシャを惹きつける力の強い女だと見抜いたのね。ああ、ワーニヤ ! 今 はもう、あなただけが頼みの綱よ。公爵は何のためか知らないけど、あなたと付き合いたがって いるでしよう。その付き合いに応じてやってくださらない ? そしてお願いですから、なるべく 早く伯爵夫人の家に出入りするようになってほしいの。そのカーチャと知り合って、よく観察し て、どんな人か聞かせてほしいの。ぜひともあなたの目で見ていただきたいのよ。あなたはだれ よりも私のことを理解してくださるでしよ。だから私の見てほしいことも分ってくださるわね。 二人がどの程度に親しいか、二人のあいだに何があるか、二人でどんな話をしているか、そうい うことを見てきて。何よりもカーチャを、カーチャをよく見てきて・ : ・ : 私の大好きなワーニヤ、 314

7. 虐げられた人々

より、私が言いたいのは、いいこと、父親の愛情だって嫉妬深いものなのよ。父がくやしがって みのが るのは、自分と関係のないところですべてが始まり、自分が何も知らず、見逃してしまっている うちに、アリヨーシャと私が勝手に解決をつけてしまったことなのよ。自分ではそれを予感でき なかったことを知っているくせに、私たちの恋愛の不幸な結果や、私の家出は、すべて私の『恩 知らずな』秘密主義のせいにされているの。私は初めから父には相談しなかったし、その後も自 分の心の動きを一々告白したりしなかったわ。それどころか、何もかも自分の胸に秘め、父には 隠していたの。そうなのよ、ワーニヤ、父には恋愛の結果そのものよりも、自分に秘密にされて といたことのほうが、ずっと腹立たしい侮辱なのよーーー私が家出したことや、すべてを恋人に捧げ 人たことよりもね。たとえ今、父が熱烈な愛情をこめて父親らしく私を迎えてくれるにしても、反 れ目の種はあとあとまで残るわ。二日目か三日目には、泣きごとや誤解や非難が始まるのよ。それ ら に父が無条件で私を赦すはずはないでしよう。かりに私が心の底から本当のことを言うとするわ 虐ね。父の顔に泥を塗ってしまったこと、自分が悪い娘だったことを認めるとするわ。アリヨーシ ヤとの仕合せが私にとってもどれほどの犠牲を伴っていたか、私がどれほどの苦しみに耐えたか を、父が理解してくれないで、私が辛い思いをするとしても、自分の辛さは抑えつけるわ、すべ てを我慢するわーーそうなったとしても、父はまだ不満なのよ。きっと、とうてい不可能な償い のろ を私に求めるわ。私が過去を呪い、アリヨーシャを呪い、アリヨーシャへの愛を悔いることを求 まっさっ めるわ。できもしないことを、ーー過去を元どおりにし、私たちの人生からこの半年を抹殺するこ とを望むにきまってるのよ。でも私はだれも呪わないし、後悔もしないわ : : : こうなる連命だっ たんですもの : : : そうよ、ワーニヤ、今は駄目なのよ。まだその時期じゃない」 しっと

8. 虐げられた人々

しっと は非常に嫉妬深か 0 たから、彼の浮気をいつも赦したのはどうしてなのか、私にはよく分らない。 それはいつも次のような具合に起るのだった。アリヨーシャは私と一緒に入って行って、おずお ずとナターシャに話しかけ、弱々しいやさしさをこめた目つきでじっと彼女を見る。ナターシャ は彼の悪事をすぐ見抜くが、決してそんなそぶりを見せず、自分のほうからそのことを話し出し たり、探りを入れたりしない。それどころか、いつもよりすっと愛想よく、やさしく、陽気にな トリックでもなかった。そう、こ る これはナターシャの狂言でもなければ、考えぬいた末の のすばらしい女性にとっては、赦すこと、憐れみをかけることが、一種の無限の快楽だったので とある。アリヨーシャを赦す過程そのもののなかに、この女性は何か独特の洗練された魅力を見出 人していたかのようだった。もっとも、その頃、問題はも 0 ばらジ = ゼフィーナなどに限られてい たのだったが。いっさいを赦そうとするやさしいナターシャを見ると、アリヨーシャはもうたま ららなくなって、何も訊かれないのにすべてを洗いざらい告白したが、それは青年の言葉によれば、 虐気分を軽くし、すべてを「元どおりにする」ためであった。そして赦されるや、青年は歓喜し、 せつぶん 時には喜びと感動に涙を流してナターシャに接吻し、抱擁するのだった。それからたちまち陽気 になって、子供のようなあけっぴろげな態度でジ = ゼフィ 1 ナとの一部始終を喋り出し、げらげ ら笑ったり、ナターシャをむやみやたらに褒めたりして、その夜はめでたく楽しく幕を閉じると いう次第である。金がすっかりなくなると、青年は持ち物を売り始めた。ナターシャが言い張っ て、フォンタンカに狭いけれども安い住居が見つけられた。物を売ることは相変らずつづいた。 さが ナターシャは自分の衣類まで売り、とうとう内職を探し始めた。それを知ったときのアリヨーシ けいべっ のろ ヤの絶望は限りなかった。青年は自分を呪い、自分を軽蔑すると叫んだが、具体的な解決の道を 115 あわ ゆる しやペ

9. 虐げられた人々

るらしかった。伯爵夫人は外国から帰って来たばかりなので、この冬。へテルプルグの社交界で各 方面にまだつながりができておらず、もくろみどおりに自分の地位を固めるに至っていないらし い。この人物のほかには客は一人もいなかったし、一晩中だれも訪ねて来なかった。私は目でカ さが チリーナ・フヨードロヴナを探した。カチェリーナはアリヨーシャと一緒に隣の部屋にいたが、 せつぶん 私たちの到着を聞きつけると、すぐにこちらの部屋へ出て来た。公爵は愛想よくその手に接吻し、 伯爵夫人は私をゆびさしてみせた。公爵がただちに私たちを引き合せてくれた。私はせつかちに カチェリー ナを注視した。彼女はおとなしそうなプロンド娘で、白い服を着ていて、背は高くな とく、顔の表情は冷静で、目はアリヨーシャの言ったとおりとてもきれいな青色で、全体的には青 かん・ヘき 人春の美しさがあったが、それだけのことだった。私は完璧な美人に逢うことを期待していたのだ が、そういう美しさはなかった。整 0 たやさしい輪郭の卵型の顔、かなり整 0 た目鼻立ち、ふ・さ もしこの娘にどこかで逢 ふさして本当にみごとな髪、無造作な髪型、おだやかに凝視する目 虐ったとしても、私はとくに何の注意も払わずに通りすぎてしまったかもしれない。だがそれは第 一印象で、その晩、私はさらに詳しくこの娘を観察したのだった。初め私に手を差しのべたとき、 無邪気なほど何かしら一生懸命になって、なんにも言わずにこちらの目をじっと見つめつづけた その様子だけでも、私を驚かすには充分であった。どういうわけか私は思わすこの俍にほほえみ かけた。たぶん相手が清い心のもちぬしであると直感的に悟ったためだと思う。伯爵夫人はじっ と娘を見守っていた。私と握手してから、カーチャは妙にせかせかと離れて行って、アリヨーシ ささや あいさっ ヤと一緒に部屋の向うの隅に腰を下ろした。アリヨーシャは私に挨拶しながら囁いた。「ほんの ちょっと来ただけです、すぐあちらへ行きますから」 359 すみ

10. 虐げられた人々

ルグを離れました。しかし旅に出るとき、私はもはやアリヨーシャの身を案じてはおりませんで した。私はあなたの気高い自尊心を当てにしておりました。あなたご自身、私たち両家の紛争が 終るまでは結婚を望んでおられないことを、私は存じていたのです。あなたはまた、アリヨーシ ヤと私との和合を乱すことをお望みにならなかった。もしそうなった場合、私は息子とあなたと はなむこ の結婚を絶対に許さないでしようから。そしてまた、あなたは第三者から、あれは公爵の花婿が 欲しかったのだ、公爵家と縁を結びたかったのだと言われることもお望みではなかった。それど ころか、あなたは私どもを無視する態度をおとりになった。そして私のほうからどうか息子と結 と婚していただきたいとお願いに参上する時を待っておられたのかもしれません。しかし、にもか がんきよう 人かわらず私は頑強にあなたの敵としてとどまりました。自己弁護はいたしませんが、その点につ いて、私の理由を隠すつもりもございません。つまり、あなたは高貴の家柄の方ではないし、財 ら産もおありにならない。私には多少の財産はございますが、実はもっと必要なのです。私ども一 まま ちょうらく 虐家は凋落しつつありましてね。贔屓と金が必要です。伯爵夫人ジナイーダ・フヨードロヴナの継 娘は、贔屓こそないが非常な財産家です。ぐずぐずしていたら求婚者が現われて、あのお嬢さん を横取りしてしまうでしよう。このチャンスを逃す手はありません。で、アリヨーシャはまだ若 すぎるのですが、私はこの縁談を進行させようと決意いたしました。ごらんのとおり、私は何一 っ隠してはおりません。おそらくあなたは、我欲と編見ゆえにわが子によからぬ振舞いをけしか けいべっ けた父親の告白を、軽蔑なさるでしよう。なにしろこの息子のためにすべてを捧げつくした心の 清い娘さんを棄てようというのですから、よからぬことに間違いない。しかも従来あなたにたい してこの息子はさんざん疚しいことをしてきましたのにね。しかし私は自己弁護はいたしません。