125 と知ってたって私が言ったら、ものすごく腹を立てて、みんなを、特に私を叱ったわ。家出の三 日前にも、私がふさぎこんでいるのに気がついて、自分も病気になるほどふさいでしまって ど - っしたとお思いになる ? 私を喜はせようと、お芝居の切符を買うって言い出したのー 父はそんなことで私の機嫌を直そうとしたのね ! 繰返して言いますけど、父が知っていた、愛 していた私は少女なのよ。私もいっかは一人前の女になるなんて、考えようともしなかったのよ : そんなこと夢にも思わなかったんじゃないかしら。今、私がうちに帰ったとしても、父は私 がすっかり変ったと思うにきまってる。赦してくれたって、その赦す相手がもう違うのよ。私は ともう昔の私じゃない、子供じゃないわ。いろいろ世間を見てしまった女よ。もし万一、私が父に ためいき 人喜ばれるとしても。ーー父はやつばり昔の幸福を思って溜息をつくと思うわ。自分が愛していた少 女時代の私とは全然変ってしまったといって嘆くと思うわ ! 昔のことって、いつでも良く見え れ らるでしよう ! 思い出すと辛くなるでしよう ! ああ、昔はよかったわね、ワーニャー ーと、胸 虐から痛々しくほとばしり出たその叫び声で自分の言葉を打ち切り、自分でも夢中になってナター シャは叫んだ。 「それは全くそのとおりだ」と私は言った。「きみの言うとおりだと思うよ、ナターシャ。とい うことはつまり、お父さんは現在のきみをよく知り、あらためてきみを愛さなければならないと いうことだ。肝心なのは、よく知るということ。大丈夫だよ、お父さんはきっときみを愛してく れる。あのひとがきみをよく知り、理解することができない人だと思う ? あんなやさしい心の もちぬしが ! 」 えこひいき 「ああ、ワーニヤ、依怙贔屓はだめよ ! 私に理解するほどのことは何もないもの。そんなこと しか
ろで、その婦人はあいにく今病気である。そういうケースは伯爵夫人が頭痛のときに起り、した がって夫人の頭痛を待たねばならない。それまでにカーチャはそのフランス女 ( 茶飲み友達とい った感じの老婆だった ) を説得することにした。その婦人は非常に親切な人だという。だが要す るに、ナターシャを訪問する日時を前もって決めることは、やはり不可能だった。 「ナターシャと付き合っても後悔することはないと思いますーと私は言った。「むこうもあなた に逢いたがっているし、それにアリヨーシャをゆすり渡す相手がどんな人間か、それを知ること は必要ですからね。その問題については、あまり心配なさることはありません。あなたが心配な なか さらなくても、いずれは時が解決してくれます。だってあなたは田舎へいらっしやるのでしょ 人う」 れ「ええ、もうじき、たぶん一月ほどして」と俍は答えた。「公爵がしきりにすすめるんです」 ら 「どうお思いです、アリヨーシャもあなた方と一緒に行くでしようか」 「ええ、そのことは私も考えました ! 」と、じっと私を見つめてカーチャは言った。「きっと行 くと思うわ」 「行くでしようね」 「ああ、それで結局どうなるのかしら , ーー分らないわ。ねえ、イワン・。へトローヴィチ、私これ から手紙で何もかもお知らせすることにします。たびたびお手紙しますわ。もうさっそく今日か ら厄介なことばかり申し上げてしまいました。これからはちよくちよく、いらしていただけま 「分りませんね、カチ = リーナ・フヨードロヴナ。事青によりけりです。ひょっとすると全然お 377
「あの、公爵、もうだいぶ遅いですから、それはまた : : : 」 「なんですって ? ああ、気の短い方だ ! そんなに急いで、どこへいらっしやるんです ? ま あ、 いじゃありませんか、ここには酒もあることだし、親友として率直に話し合いましようよ。 私 ; 酔っぱらったとお思いですか。どういたしまして、このほうがいいんです。ははは ! まっ たく、こういうなごやかな話し合いというものは、のちのちまで記憶に残り、思い出すたびに楽 しくなるものです。あなたは冷たい方だな、イワン・ベトローヴィチ。あなたには感傷性という むだづか か、感じやすさがない。私のような友人のための、一時間やそこいらの無駄費いがどうだってい とうんです。しかもこれは例の問題に関係のあることだし : : : それを分ってくださいよ。それに文 人学者だったら、こういうチャンスは祝福してしかるべきです。だって私をモデルにして小説が書 ける、ははは ! ああ、今日の私はかわいらしいほどあけつばなしだな ! 」 れ ら 公爵は酔ってきたようだった。顔つきが変り、なんとなく意地の悪い表情が現われていた。毒 虐舌をふるい、嫌味を言い、噛みつき、あざ笑いたがっていることは明らかだった。『酔ってくれ たほうが好都合かもしれない』と私は思った。『酔っぱらいはお喋りだから』。だが公爵の理性は しつかりしていた。 「さてそこでと」と自分の言葉を楽しむように公爵は喋り出した。「場所柄にふさわしくなかっ たかもしれないが、私はたった今、告白をいたしましたね。ある場合に相手に舌を出してみせた おさ くなる抑えがたい欲望を感じるという、あの告白ですよ。この無邪気でお人よしなあけっぴろげ ポリチネッラ の態度ゆえに、あなたは私を道化役者に比較された。それはまことに愉快でした。けれども、私 的が今あなたにたいして乱暴であるとか、あるいは百姓のように無作法であるとか、要するに急に
「ううん、苛めたりなんかしない」 「じゃ、どうしてなの」 「なんとなくいやなの : : : だめなの : : : 私あのひとに意地悪をするし : : : あのひとはとってもい い人だし : : : でもあなたの家に置いてくれたら、私、意地悪なんかしない、働くわ」と、ヒステ リックに泣きじゃくりながら少女は一一一口った。 「どうして彼に意地悪をするの、ネリー」 「だって : と「というわけで、あの子は『だって』しか言わないんですよ」と、涙を拭いながらアレクサンド きようふう 人ラ・セミョーノヴナは話を結んだ。「なぜあの子はこうも不仕合せなんでしよう。あれが驚風っ れていうのかしら。どうお思いになります、イワン・ベトローヴィチ ら 私たちはネリーのそばへ戻った。少女は横たわり、枕に顔を埋めて泣いていた。私はその前に 虐ひざまずき、少女の手をとって接吻した。少女は手を振りほどき、 いっそう激しく泣き出した。 私はなんと言っていいものやら分らなかった。そのとき、イフメーネフ老人が部屋に入って来た。 「こんにちは、イワン、用事があって来たんだよ ! 」と老人は言って、部屋を見まわし、私がひ あお ざまずいているのを見て驚いた顔になった。老人はこのところずっと病気だった。顔色は蒼く、 けいべっ 痩せ細っていたが、まるでだれかに虚勢を張るように自分の病気を軽蔑し、アンナ・アンドレー エヴナの言うことを聞いて横になることをせずに、相変らす用事で出歩いていたのである。 「じゃ、私は失礼しますわ」と、アレクサンドラ・セミョーノヴナは老人をじろじろ見ながら一 = ロ った。「フィリツ。フ・フィリップイッチに、なるべく早く帰れって言われましたし。うちに用事 436 や ぬぐ
虐げられた人びと 166 て長 分か 涙の な、 を 、の 、たやま いた 皿 技ー ち じゃ しか らま巧し う友やた 、き のた か人 深 能そ い が意 装持 感 弁の なに ナ権 光に 、そ 激 三す だけ をめ たち 葉 けで 全 - 与の も カゝの っ動 体に で勿当理ま しれ 釜よ でだそた す あい ぶか充良 つん たざ つら ナ いそ ナら タ のふ っ公 そ子ななな私 シ 、現気 ; 爵せんで わん ヤ ャち 冫ま 時ん公相 公のは葉 冗と でを こな人と う時言れ事待 しをち刻 どだ も上らにす申 を・ いたおがらま こさ こた し っ話 いた 。と いも へ へ分 たさ 引て じた つん に折 オよー しき 公 喋皐して伺た寄そ息 爵 っぺく は公 のせれ子 おい てだ て人 こら はら をは の こ爵 でま いさ 望あ ナか めな つの を・ るた と 思値 り ズ自 参し、 めの かあ ら も ほ 出でて 、るた タ シ 片心と 手はも 兀 差全倒 の征れ 。れま オこ そ爵公 い て 心 の敬問 っ満別 どちた 。かる た 圧 し っ を 的 っ い る よ っ 取だな ー私後が表呆あさ ん と の 実あ骨 と ら で 0 ) と き は カ ; だ つ の の ーコ は い カ ) も て真は に あ 。たふな タ い を ユ モ と と で 古こ問 し え も の ー感爵 じ アだ衝 し ゼ リ フ らたをかと り う通を 言方 し と い の に あ り し ど そ の ん 。はめな椅 の ぬなそ返期少腰こ時 い く ら ) つ つ や し く シ ャ て頭く いをだ げ の 私 冫ま つ 様 の公し衒百子タ利 っ 。よ っ と き 、ま調どた下さ き 、わ さ。 と 爵純三なな談らななざ爵手そ利か私んは大 い い つ し を ま ぇ は れ る た の ロ は しなぞ ら 。か の場な ロ 、わの公 を 見 し の だ た も の る た おなら て権子 が り し の いれだ い私たでで純先 く へ し - っ っ し にげは く す体伝由 こ様は ら しナ、 へ す し 、そ れ だ し、 がなあー 、を覆ほ い え隠長 そ と を る っ変ー と い く い よ っ いたし く か ロ い う公し家爵 は明初 ら にをを 、ま気待抱な っ 。が ′つ て く い公をはち 許 と 爵お存らま じ . まなま 。人 し間ち 力、でカ ; あ り し はかだ 分でも は粋に 冂 り ま 私かし こ自力 も の で り は し て の っ睫引 毛げシ にヤそ 、席はヘ の と ろ ど ろ 、ポ爵はを る あ し、 だ り ま いすた し の し ま る よ は公う 、爵に は と し
「今は好きしゃない ? 」 「今だって好きだよ」 「じや私がキスしたいって言ったら、キスしてくれる ? 」 「そう、あんたがいい子になってくれたらね」 ここでネリーは我慢がしきれなくなり、また声を立てて笑った。 「この患者はもともと性格が陽気だけれども、今は神経と気紛れのせいだね」と、医者はまじめ ささや くさった顔つきで私に囁いた。 と「じゃ、 いいわ、お薬を飲むわ」とネリ ーがとっぜん弱々しい声で叫んだ。「でも私が大きくな 人って、おとなになったら、お嫁にもらってくれる ? 」 あっけ この新しいいたずらの思いっきは、ひどく少女の気に入っているようだった。いささか呆気に れ くちびるおさ ら とられた医者の答を待って、その目はぎらぎら輝き、唇は抑えた笑いにひきつっていた。 虐「そうだね」と、この新しい気紛れにほほえみながら、医者は答えた。「そう、あんたが気立て しつけ のやさしい、躾のいいお嬢さんになって、人の一言うことをよく聞くようになって、それから : : : 」 「お薬を飲むようになったら ? 」とネリ ーが引き取って言った。 「ほほう ! そのとおりだよ、お薬を飲むようになったらね。 いい子だね」そして医者はまた私 に囁いた。「なかなかやさしい : : 利ロなところがあるね、しかし : : : お嫁にもらってくれるか とは : : 妙な思いっきだ : : : 」 そしてまた薬を少女に運んで行った。だがネリーは今度は策略を使おうともせず、いきなり手 でス。フーンを下から突き上げたのである。薬は気のどくな老人の胸から顔へぜんぶ飛び散った。 418 きまぐ
からなんです」 「あなたに教えるほど頭がいいなんて、どうして分ります ? 」 「だってそれは ! 」カーチャは考えこんだ。「なんの気なしにこんなことを言ってしまいました けど、それより一番大切なことを話しましようよ。教えていただきたいんですけど、イワン・。へ こいがたき トローヴィチ、ナターシャの恋敵である私は、そう確かに感じている私は、一体どうしたらいい んでしよう。だからこそ二人が仕合せになれるかどうかをお訊きしたんです。そのことを、私、 昼も夜も考えていますの。ナターシャの立場は恐ろしいわ、ほんとに恐ろし い ! だって彼はも とうナターシャを愛さなくなって、そのかわりにますます私を愛している。そうじゃありません ? 」 人「そうらしいですね」 れ「でも彼はナターシャを欺しているんじゃないわ。だって愛さなくなったことに自分では気がっ ら いていないんですもの。でもナターシャはきっと気づいているのね。どんなに苦しんでいるかし 虐ら ! 」 「で、あなたはどうするおつもりです、カチェリーナ・フヨードロヴナ」 「計画はいろいろあります」と娘はまじめに答えた。「でも私、迷っているんです。ですから、 それを解決してくださらないかと思って、あなたを一日千秋の思いで待っていましたの。こうい うことを、あなたは私なんかよりずっとよくご存知でしよう。今の私にしてみれば、あなたは神 様みたいな存在なんです。実は初めのうち私はこう考えました。彼とナターシャが愛し合ってい るなら仕合せにならなければいけない、だから私は自分を犠牲にして二人を助けなければいけな い。そうじゃないかしら ? 」
「ぼくはだれもこわくなんかないよ ! 入るよ ! 」と、多少どぎまぎしながらアリヨーシャは一言 った。 「だから入んなさいよ ! ふわふわ遊び歩いてばかりいないで ! 」 「入るともさ ! あ ! あなたもいらしたんですか ! 」と私を見つけてアリヨーシャは言った。 「ああよかった、あなたがいらしてくださって ! ぼくは今帰って来たんです。さて、これから どうやって : : : 」 「構わずに入ればいいでしよう」と私は答えた。「何をこわがってるんです」 と「いや、こわがってやしませんよ、ぼくはちっとも疚しくないんだから。疚しいところがあると 人お思いですか。まあ見ていてください、今すぐ身のあかしを立てます。ナターシャ、入っていい から れかい ? 」と、アリヨーシャは閉じたドアの前に立ちどまり、空元気を出して叫んだ。 ら 返事はなかった。 虐「どうしたんでしよう」とアリヨーシャは心配そうに訊ねた。 「大丈夫ですよ、今そこにいたんだから」と私は答えた。「まさか、何か : : : 」 アリヨーシャは注意深くドアをあけ、こわごわ部屋を見渡した。だれもいない。 かたすみとだな とっぜん部屋の片隅の戸棚と窓のあいだにナターシャの姿が見えた。まるで隠れん坊のように、 息を殺して、ナターシャはそこに立っていたのである。今でもその様子を思い出すと、私はほほ えまずにはいられない。アリヨーシャは用心しいしい、そっとナターシャに近寄った。 「ナターシャ、どうしたの。ただいま、ナターシャ」と、何かおびえたように相手の顔を見なが ら、アリヨーシャはおずおずと言った。
ばあるだけ、激しければ激しいだけ、外へ流れ出たいという欲求はますます強まり、ついには避 けがたい激情の発作となるのである。そして全存在はだしぬけに我を忘れて、この愛と感謝の欲 求に、愛撫と涙におのれをゆだねる : すさ 少女の号泣は凄まじく、とうとうそれはヒステリーの発作に変った。私を抱きしめていた両手 を、私はむりやりふりほどいた。そして少女を抱きあげ、長椅子へ運んだ。私を見るのが恥すか しいように、顔を枕に押しつけ、それでも小さな手で私の手をしつかり握りしめ自分の胸に押し あてて、少女は永いあいだ泣きつづけた。 と泣き声は少しずつ静かになったが、少女はなかなか顔を上げようとしなかった。二度ばかり、 人少女はちらっと私の顔を盗み見たが、その目には測り知れぬやさしさがあり、ふたたび身をひそ おくびよう 」めた臆病な感情がこめられていた。やがて少女は顔を赤らめ、につこり笑った。 ら「楽になった ? 」と私は訊ねた。「病気のせいかな、そんなに感じやすいのは、レーノチカ 2 ・」 ささや 虐「レーノチカしゃない、ちがう : : : 」と依然として顔を隠したまま、少女は囁いた。 「レーノチカじゃな、 し ? じゃ、何と呼べばいいの」 「ネリー」 「ネリー ? どうしてネリーなんだい。でもすてきな名前だね。きみがそのほうがいいんなら、 そう呼ぶことにしよう」 「ママがそう呼んでたの : : ママだけよ、私をそう呼んでくれた人は : : : ママのほかにはだれに もそう呼ばれたくなかった : : : でもあなたならいいわ : : : 私あなたをいつまでも愛するわ、いっ までも・ : : ・」 260
んなことはみんなお終いにしなければいけない。ぼくたちがみんなで手をつなぎ合えば、幸福は たちまち戻ってきて、年寄りたちもぼくらを見習って仲直りするでしよう。案外ぼくらの結婚は 年寄りたちの和解の糸口になるかもしれません ! いや、それよりほかになりようがないと思い ます。あなたはどうお考えですか」 「結婚とおっしやったけれども、式はいっ挙げるのですか」と、ナターシャの顔をちらと見て、 たず 私は訊ねた。 「あすか、あさってです。遅くとも、あさっては、たぶん。いや、つまり、ぼくは自分でもはっ きり分らなかったんで、まだなんにも準備してないんです。ひょっとしたらナターシャは今日来 人ないかもしれないと思ったもんですからね。おまけに父はどうしても今日ぼくを縁談の相手のと れころへ連れて行こうとしましてね ( ぼくには実は縁談があるんです。ナターシャが話したでしょ ら う。ぼくは気が進まないんですが ) 。そんなわけでまだはっきり決められませんでした。でもぼ 虐くらはたぶん、あさってには結婚するでしよう。少なくともぼくはそうなると思います。ほかに なりようがありませんからね。あす早速プスコフ街道に発ちます。実は近くの村に友達がいまし リツェイ てね、貴族学校時代からの、とてもいい友達です。あなたにもご紹介しましよう、その村には司 祭もいます。いや、いるかいないか確かしゃないな。確かめておくつもりだったけど、間に合わ なかった : : : でもそんなことは些細な問題です。肝心なことさえはっきりしていれば構わないで しよう。隣村かどこかから司祭を呼んだっていい。どうお思いですか。隣村がない村なんて考え られませんからね ! ただその友達に一度も手紙を出さなかったのがまずいな。前もって知らせ ておけばよかった。ひょっとしたらその友達は留守にしているかもしれないし : : : でもそんなこ しま さっそく