けつぎよく ほうぎゅう せいてんたいせい さて、斉天大聖とはいっても、結局中身は化け猿にかわりはないから、官等や俸給のことなど ぞん めいもく さらさらご存じなく、ただ名目だけに満足していた。 あさばん 斉天府には役人がいて、朝晩つかえてくれるので、自分はなんにもすることがない。 日に三度 の飯を食べ、夜ともなれば寝床にごろり。勝手きままな暮らしである。ひまなときには友と連れ ほうゆう くん むす * さんせい だって天空に遊び、朋友の交わりを結ぶ。三清に会えば「君」づけで呼び、四帝に出会えば「陛 * , 、ようせし しゆく * しだいてんのう * げんしんごほうごろうふてんせいそう 下」と呼び、九曜星、五方将、二十八宿、四大天王、十二元辰、五方五老、普天星相、天の川の キ、よう ぐんしん きようだい あす 群神などは、どれも兄弟づきあいで、「おまえ」「俺」と呼びあった。今日は東に、明日は西と、 足のむくまま雲を飛ばして遊びほうだい。 ぎよくていちょうぎ ぎよせいようしんじんれつざ ある日のこと、王帝が朝儀におでましになると、許旌陽真人が列座の中からすすみ出て申し上 せいてんたいせい むす 「斉天大聖は、あのように暇をもてあまして、天上の宿星たちと交友を結び、身分もわきまえず かんちゅう 友だち呼ばわりをしております。おそらくは閑中ことを生ずるは必定。何か仕事を与え、ことの 起こらぬようすべきかと存じます」 ぎよくてい ・こく ) ごくうめ 玉帝はこれを聞くと、すぐさま悟空を召された。悟空はいそいそとやって来て、 へいか 「陛下、わたくしに何かごほうびでも」 あま ひま ばんとうえんかんり 「そなたは余りに暇のようだから、ひとっ仕事を授けよう。蟠桃園の管理をするように。朝に晩 せいてんふ めし よ よ ・こほうしよう * ぞん ねどこ びま まんぞく ま ざる さず おれ しゆくせい よ ひつじよう よ あた ばん 7
第五回 ばんとうみだ たいせいくすりぬす 蟠桃を乱して大聖丹を偸み とら てんきゅうむほん 天宮に反して諸神怪を捉う しよしんかい
かんだん 酒がめをあけて、みなとおおいに歓談した。 かんしよく それより悟空は、そのけ。こうな官職におさまりかえ「てす。かり満足し、快適な天宮の暮ら しを楽しんだのである。 さて、このあとはどうなるでありましようか。次回をお楽しみに。 まんぞく かいてきてんきゅうく 6
じび へいか ふく 伏させることはできず、かえって軍を労します。それより陛下がお慈悲を持ちまして、あれに斉 ろくな あた 天大聖の名のみの官を与え、『官有りて禄無し』にするがよろしいでしよう」 ろくな 「『官有りて禄無し』とはどういうことか」 ほうぎゅうあた 「名は斉天大聖ですが、仕事もさせず、俸給も与えず、天上において、ただやしないおいたなら じゃしんおさ ば、その邪心も収まろうかと存じます」 しようち ぎよくてい 玉帝は、さっそく承知され、金星を使者として花果山へつかわした。悟空は、金星が勅使と聞 でむか き、さいさきよしと、隊列を整えて出迎えた。 かんしよく 「大聖に申す。さきには官のいやしきをいとわれたが、『官職は、低きところより、しだいに昇 たいせい るもの』。聞けば、大聖には、斉天大聖の位を望まれている由。かれこれ反対はあったが、それ たいせい ぎよくてい がし大聖のためにとりはからい、玉帝にねがい出て、大聖をおまねきに参った」 なんてんもん これを聞くと悟空はおおいに喜び、いっしょに雲に乗って南天門にやって来た。 そんごくう せいてんたいせい さず 「よくぞ参った孫悟空。いまよりなんじに、斉天大聖の位を授ける。はなはだ高き位である故、 ゅめおろそかにいたすでないぞ」 ばんとうえん ぎよくてい せいてんたいせいふ 玉帝はこう言って、蟠桃園のそばに、あらたに斉天大聖府という役所をつくらせた。そこには ぎよくてい ごとせいかんごくう 役人がいて身の回りの世話をすることになっている。玉帝はその上五斗星官に悟空を送らせ、仙 しゅ そくじつにん 酒ふたがめ、金花十枝をくだして悟空の心をなごませた。悟空も喜び、さっそく即日任につくと、 てんたいせい たいせい せいてんたいせい きんかじっし ぞん せいてんたいせい きんせい かかざん たいせい ひく ・こくう きんせい ちよくし ゆえ せん のぼ 5
いくさ どうない 悟空が戦に勝って花果山に帰ると、七十二洞の妖王と六兄弟たちがお祝いに集まり、洞内では しゆくが力し にぎやかな祝賀会となった。 きようだい 悟空は六兄弟に向かって、 おれせいてんたいせい 「俺が斉天大聖と名乗ったのだから、諸君も大聖と名乗るがよい」 こわだか すると牛魔王が声高に、 けんてい おれ 「うん、賢弟の言うことはもっともだ。俺はさっそく平天大聖と名乗ろう」 こうまおう おれふくかいたいせい おれこんてんたいせい すると蛟魔王も「俺は覆海大聖と名乗るぞ」と言い、鵬魔王も「俺は混天大聖だ」、獅駝王も ざんたいせい おれつうふうたいせい ぐじゅうおう おれくじんたいせい 「わしは、移山大聖ぞ」、猴王も「俺は通風大聖だ」、猖王も「俺は駆神大聖としよう」、と、 めいめいが勝手に名乗った。自称七大聖は、一日をわいわいと楽しんで、やがてそれぞれ散じて 行った。 なだたいし ぎよくてい ほうこく いつぼう、天上に引き上げた李天王と那叱太子は、玉帝の前に平伏して報告した。 せいてんたいせい 「かれは『斉天大聖』と旗に大書し、この官にありつけるならば、戦をやめる、かなわぬなら霊 しようでんせ 霄殿に攻め込む、と申しております」 しよしよう ぎよくていおどろ こいはくきんせ、 れつざ 玉帝は驚き、すぐに諸将にせいばっさせようとなさった。このときかの太白金星、列座の中か そうじよう らすすみ出て奏上した。 たいげん どうり 「あの化け猿は、大言をはくのみにて、道理をわきまえぬ者。応をくり出し戦「ても、一時に降 ′」くう ま ぎゅうまおう ざる こ かかざん びこうおう じしよう りてんのう しよくんたいせい どうようおう へいてんたいせい ほうまおう ぎようだい へいふく 、くさ こう
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うでまえ 「父上お怒りをしずめて、巨霊の罪を許されよ。わたくしが一戦して、奴の腕前を見てくれまし よう」 すいれんど ) なだたいし 那叱太子は、甲胄に身をかため陣営を出ると、水簾洞に至り、巨霊のあだとばかり名乗りを上 けん さんめんろっぴ あらがみ たいかついっせい げ、大喝一声、ただちに三面六臂の荒神となり、六本の手に六種の剣や刀を持ち、それらをぶん ぶん振り回して正面から打ってかかった。 ・こくう 悟空はこれを見て驚いたが 「小僧っ子のくせに、味なことをしやがる。いざ、わが神通力を見よ」とばかり、かれもまた、 によいばう さんめんろっぴ ばっと三面六臂に変わり、如意棒を三本にし、六本の手にそれぞれ持って立ち向かった。まこと だいさつじん に地動き、山ゆらぐばかりの大殺陣である。 太子と悟空、神通力を尽して戦うこと三十合。太子の六つのえものが、千個万個となれば、悟 くうによいぼう 空の如意棒もおなじく千個万個となり、それが空に雨となり、流星となるめざましさ。けれども、 ′」くう こんせんさいちゅう なかなか勝負がっかない。い「たいが手のはやい、そして目ざとい悟空、その混戦の最中に、一 本の毛を抜いて、「変われ」と叫ぶと、それが悟空そっくりに変わ「て、手にはちゃんと棒を持 ち、敵をめがけて立ち向かった。悟空はそいつに相手をさせて、本物の自分は、ひょいと太子の いちげき 背後に回り、左の腕にいきなり一撃をくらわした。この不意打ちに、太子は身をかわそうとした たいさん じゅっと がまにあわず、術を解いて退散した。 てぎ ′こくうじんつうりきつく かっちゅう うで おどろ こ ぎよれい さけ じんえい つみゆる ・こくう ふ じんつうりき きよれい たいし やっ
さお そう言われて巨霊神、目を見開きよく見れば、はたして門外に高い竿が立ち、その上に旗が風 にはためき、「斉天大聖」の四字が書かれているではないか。 きよれいしんれいしよう 巨霊神は冷笑して、 「こけ猿め、わけもわからず、ぬけぬけと、斉天大聖とは何事ぞ。いざわが斧をがつぼりくら え」と、斧を振り上げまっこうから切りかかる。悟空あわてずそれをかわして、棒を振るって迎 ・こ ~ 、う きよれいしんささ え打つ。はなばなしくやりあううちに、やがて巨霊神は支えきれず、悟空の一撃をまともにくら . し あわてて斧で受けると、ばきつ、と音がして斧の柄はまつぶたつに折れたので、いそぎ身を ひいてのがれ去った。 悟空は笑って、 ほうこく 「いくじなしめ。命はとっくにあずかったんだ。はやくもどって報告しろい」 りてんのう きよれいしん 巨霊神は立ちもどって、李天王の前に、はあはあと息を切らしてひざまずき、 ひつばおん じんつうこうだい ゃぶ むねん 「弼馬温ははたして神通広大、無念にもカおよばず、戦い取れて帰りました。なにとぞおとがめ のほどを」 りてんのうげぎど それを聞くと、李天王は激怒して、 やつぎ 「こ奴、わが出鼻をへし折ったな。ひっ立ててこ奴を斬れ」 そばから娜叱太子が、 ごくうわら やっ ざる おのふ なだたいし でばな おの せいてんたいせい きよれいしん お せいてんたいせい おのえ お いちげぎ おの ばう むか 0
「よし、わが礼服をもて」 によいばう ほ第 , ・んり・ しきんかん 悟空はただちに紫金冠をいただき、黄金のよろいを着、歩雲履をはき、手には如意棒を取り、 ひき 兵を率いて門を出て、陣をしいて立ち向かった。 相手の将は、声高らかに、 われ わるざる 「この悪猿め、我を知りおるか」 びんぼうがみ 「どこの貧乏神だ、見たこともないわ。さっさと名乗れ」 たくとうりてんのう せんじんぎよれいてんしよう 「知らぬとな。我こそは雲胖にいます托塔李天王の先陣、巨霊天将なるぞ。聖旨をいただき、な ぎじゅん ぶそう んじを降すために参「た。すみやかに武装を解除し、帰順せよ。もしいやだとあらば、こつばみ じんにしてくれん」 さるおう 猿王、むらむらと怒りがこみ上げ、 やくびようがみ 「この厄病神め。大口をたたくな。この棒の一打ちで、貴様なんざあいちころだ。だが、もど「 ぎよくてい ほうこく て行「て報告をする奴がなくなるから、しばらく命をあずかろう。さ 0 そく天にもど「て玉帝に そんさまむぎゅうのうりよく やっ きさまけん 言え。貴様は賢を用いることのできぬ奴だ。孫様は無窮の能力を持 0 ているのに、なんだ「て馬 飼いなんぞにしやが「た、とな。この旗の文字を見ろ。もしこの字のとおりの官につければ、俺 やつぎよくざ れいしようでん も応を動かさず天地は平和だ。さもなくば、こ。ちから霊霄殿まで攻めのばり、奴を玉座から追 つばらってやる」 しよう われ やっ じん おう・こん かいじよ きさま う お 6
きおう 鬼王が申すには、 一天ほど偉大な、となられま 「神通あらたかな大王に、馬飼いなどとはけしからぬ。い「そう斉天大聖 ( 最高。意 しても、いっこうさしつかえございません」 きげん こう言われて悟空は、たいへんなご機嫌、 「うん、そりゃあよ、 . し 、よい」と、つづけさまに叫んで、「さっそく旗を作って、『斉天大 さお せいてんたいせい 聖』の四字を書き、竿の先にかかげよ。これからは、わしを斉天大聖と呼び、大王と言うことは かくどうまおう しようど、ん 許さぬぞよ。また各洞の魔王たちにも、もれなく知らせるのだ」と、かの四将軍に言いつけた。 この話はこれまでとする。 しんにんびつばおんそんごくう ひく さくじ・つてんぎゅう さて、話かわって、天上界では、新任の弼馬温孫悟空が、官の低きをきらい、昨日天宮より逃 ぎよくてい げ帰ってしまったというので、玉帝はせいばつを決意されて、天兵の軍勢を、下界に差し向けた。 りてんのうなだたいし きよれいしんせんぼう 李天王と那叱太子は命をかしこみ、巨霊神を先鋒として諸将を従え花果山に降ると、地をえらん じんきよれいしんおのふ で陣をしいた。まず第一陣は巨霊神、斧を振り回しつつ水簾洞に押し寄せた。 「一大事、一大事」 さる どうない ちゅうしん 猿どもは、なだれをうって洞内に注進し、 ひぎ てんべい てんしようまい 「門の外に天兵を率いた天将が参って、玉帝の命によりせいばつに来た、と申しております」 ゆる じんつう じん うまカ ぎよくていめい しよしようしたがかかざんくだ すいれんどう さけ てんべい せいてんたいせい よ よ せいてんたい 8 6