竜王 - みる会図書館


検索対象: 西遊記(上)
113件見つかりました。

1. 西遊記(上)

りゅうおうちょうあん 竜王は長安を出ると水府に帰「て来た。大小の水神たちが出迎え、 うらなし 「大王様、占い師は見つかりましたか」と聞く。 「いたいた。だがあれははったりやの先生だった。いっ雨が降るかとたずねたら、いついっとち よげん ゃんと雨量まで予言しおった。で、わしは、そいっとかけをしてきたのだ」と、いきさつをくわ しく物語った。 すいじん すると水神たちは、 三いりゅうじん かわそう 「大王様は、八つの河の総とりしまり、雨をつかさどる大竜神におわします。雨の降る降らぬは、 うらなし み心しだい。それは占い師の負けにきまっておりますとも」と、みな笑った。 さいちゅう だんしよう こうしてみなが談笑している最中に、なか空より、 りゅうおう けいが 「涇河の竜王につぐ」の声。 ぎよくていちよくし あお みなが振り仰いで見ると、金衣の使者が玉帝の勅旨をたずさえて、水府にやって来たのである。 りゅうおう 竜王はあわてて衣を整え、香をたいてお受けした。おしいただいて開いてみると、 ちょうあんじよういったい そうとうりゅうおうちよくめい 「八河の総統竜王に勅令する。雷鳴電光を率いて行き、明朝雨を降らせて、長安城一帯を救 ノり・トへ第ノ うらなし え」と書いてあり、その時間と、雨量とは、あの占い師の言ったとおりであった。 われ りゅうおう 竜王はびつくりして、魂も消える思いである。まもなく我に帰ると、水族どもに向かって、 はつか 第ノり・よ・つ・ たましい こう きんい らいめいでんこう ひき すいじん でむか わら すく プ 50

2. 西遊記(上)

「世にも、このような聖人がいようとは ぬわけじゃ」 ひらぐんし すると、軍師が奏上した。 「大王様、ご安心を。かれを負かすのになんのむずかしいことがありましよう。わたくしに、あ の男のロを封じる策がございます」 りゅうおう 竜王がその策を聞くと、 「雨を降らす時間と、雨量を、少しちがえるのです。そうすれば、かれの易はあたりつこありま せん」 りゅうおう さくしたが 竜王はその策に従うことにした。 うんどう ふうはくらいこう さて、あくる日になると、風伯、雷公、雲童、電母と、せいぞろいして、長安城の空高くや って来た。そして、巳の刻 ( 十時 ) に雲をはらせてから、じゅんぐりに時を一つずつずらせ、雨 りよう ずんりん 量は、三寸八厘へらしておいた。 りゅうおう すがた すっかりすむと、竜王は、みなを解散して雲から降り、また白衣の学者の姿に変わった。と、 えんしゅせい やにわに袁守誠の店に跳び込み、看板や、筆、すずりなど、何から何まで、うむを言わさず砕い りゅうおう へいぜん てしまった。だが、かの先生、椅子にかけたまま、平然として動じない。竜王板を振り上げなぐ りかかって、 さく さく そうじよう と 第ノり - 、人ノ せいじん こ かんばん かいさん ふで まことこれ天に通じ、地に徹しておる。かなわ でんぼ お えき ちょうあんじよう てつ ふ プ 5 プ

3. 西遊記(上)

「何事じゃ」 ほうこく そこで手下は話のあらましを報告し、 うらなし 「その占い師に、 こうあてられましては、魚族どもは、やがて根こそぎやられてしまいます。そ さか うなれば、水府の栄え、大王様の威力をどうやってたもっことができましよう」 りゅうおう けん 竜王はかっと怒って、剣をひっさげ、 ちょうあんじよう うらなし 「そ奴を切り捨ててくれん」と立ち上がり、 いまにも長安城に乗り込んで、その占い師をせい りゅうしりゅうそんえびしんかにし さけしようきよう ばいせんばかりのいきおい。するとそばから、竜子、竜孫、蝦臣、蟹士、軍師、鰤少卿、鯉 太宰らがすすみ出て 、いっせいに申し上げた。 「大王様、しばらくりをおしずめくださいませ。よく『また聞きは信ずべからず』と申します。 したが ちょうあん 大王が出向かれれば、かならず雲や雨も従います。そうすれば長安の人びとを驚かし、上天より へんげんじざい おとがめをこうむります。それより大王は変幻自在でございますれば、一人の学者に身を変じて、 ちょうあんじよう やから 長安城内に行き、ひととおりたずね歩かれ、はたしてそのような輩がおりましたら、そのとき あや やつつけてもおそくはございません。もしいなければ、みだりに人を殺めるのはおやめなさいま し」 りゅうおう うんう 竜王はその言を入れて、宝剣を捨てると、雲雨も起こさず、岸に上がって身をゆすり、一人の ちょうあん 衣の読書人 ( 学芸徳行に すぐれた人 ) となった。やがて長安西門通りにやって来ると、人びとに囲まれた、顏っ たいさい やっ ほうけんす りよ第、 こ ひらぐんし おどろ プ 8

4. 西遊記(上)

がいくのではございませんか」 ことば 、よ ) 0 この言葉に、悟空は喜んオ いんむす 「ではすぐ、行って参ろう」と、さっそく橋に跳び上がり、閉水の法を使い、印を結んで、どば レ」う・カし すいろ 1 んと波の中にもぐって行くと、水路はさっと開けて、海底の道がつづく。やがて東海の海底に じゅんかいやしゃ やって来ると、ふいに巡海の夜叉がさえぎり、 「水を分けてこられたのは、どこの神聖ですか。明らかになされば、お迎えするようとりつぎま かかざんてんせいしようにんそんごくう われ 「我こそは、花果山天生聖入孫悟空なるぞ。竜王殿のすぐ隣りに住む者だ。知らないことがあろ 、つか」 ほうこく すいしようきゅう それを聞くと夜叉は、急いで水晶宮に引き返し、報告した。 かかざんしようにんそんごくう 「大王、おもてに花果山聖人孫悟空という者がおり、大王のお隣りとか申して、いまこちらにや って参ります」 とうかいりゅうおう・こうこう りゅうしりゅうそんえびへ 東海竜王敖広は、急ぎ立ち上がると、竜子、竜孫、蝦、蟹将たちを従えて、出迎えた。 しよう じようせん かみざ 「上仙、どうぞ、どうぞ」と請じ入れ、上座につかせて茶を出してから、 え じようせん せんじゅっさず 「上仙には、いっ道を得られ、どのような仙術を授かりましたか」とたずねた。 しゅぎよう 悟空は、これまでの修行をひと通り話してから、 ・こ ~ 、う やしゃ しんせい りゅうおうどの と とな かにしよう とな むか したが でむか 0 )

5. 西遊記(上)

じこく ぎよう 「人を惑わすこのかたりめ。今日の雨は時刻も、雨量も、ちがうじ ~ ないか。だのに平とかま えているとはふとどき千万。はやくここを立ち去れ。死罪にするのはかんべんしてやる」 れいしよう えん おそ と、ののしると、袁先生は少しも恐れず、天を仰いで冷笑し、 「わたしは死罪にはならぬ。むしろあなたの方がなりそうだな。人を惑わすことができても、こ りゅうおう あざむ のわたしを欺くことはできませんぞ。あなたが読書人などではなく、涇河の竜王だということも、 とっくにわかっていたのだ。 かりゅうだい ぎよくていちよくし おぎておか 玉帝の勅旨にそむき、時間と雨量を変え、天の掟を犯しなすった。あなたは刪竜台 ( 雋処 ) で一 刀あびせられるのはまぬがれないのに、まだ、わたしをののしるのか」 聞くなり竜王、きもをつぶし、身の毛もよだっ思い。急ぎ板を捨て、を正してひざまずくと、 「先生、なにとぞあしからず。いま申したのはたわむれです。ああ、うそから出たまことが、天 おきておか すく さもなければ、死んでもあなたを放しませ の掟を犯そうとは。どうかわたしをお救いください ん」 すく 「わたしには、救うことはできません。ただ活路を教えてあげられるだけです」 「なにとぞ、お教えください」 たいそう あす 「あなたは、明日の午の三刻 (%fi に切られることにな 0 ている。しかし、切る役目の者は、太宗 こうてい ぎちょう じようしようだいじん こうてし 皇帝の丞相 ( 大臣 ) である魏徴だから、皇帝におねがいすれば、助けてもらえるかもしれない」 まど りゅうおう しざい 、つ・り・トへ第 ) かつろ とノり・ト宀、つ・ あお しざい けいが まど プ 52

6. 西遊記(上)

しかるべき地位におりますれば、なにとぞごえんりよなく」 ろん おんみようじんき 「わたくしは、こちらのお裁きを受ける身。どうして、陰陽人鬼の道を論ずることができましょ たいそう うか」と、太宗はしきりにえんりよをする。 ざ たいそう やがて太宗は、森羅殿にすすみ、閻王たちと礼をかわして主客の座についた。しばらくすると ぎようしゅ 秦広王が、拱手の礼をしてたずねた。 りゅうおう へいか 「涇河の竜王の申し立てによりますと、陛下は助けると約東しながら、殺したとのこと。これは なにゆえ 何故ですか」 たいそう 太宗は答えた。 ろうりゅう やくそく 「朕は夢の中で、老竜に助けを求められ、その無事を約束しました。ところがかれは、罪を犯し ちんぎ じんそうかんぎちょう て刑を受けることになっており、わが人曹官の魏徴に切られることになっていたのです。朕は魏 でんじよう 徴を呼び、殿上にて碁を打っていましたところ、かれは、なんと夢の中で切ってしまったではあ りゅうおう りませんか。これは魏徴の神出鬼没によるものであり、また竜王にしても罪を犯せば死罪は当然。 ちんあやま これ朕の過ちとばかり言えるでしようか」 ふくれい 十王はこれを聞くと、伏礼して言った。 りゅう じんそう 「あの竜は、以前から南斗星の死簿に、人曹の手によって殺されると、ちゃんと記されているの は、とっくにわたくしどもが承知のことでございます。ただ、竜がなんとしても、こちらで話を しんこうおう ちょうよ けいが ちんゅめ しんらでん ぎちょうしんしゆっぎぼっ なんとせい しようち , もと えんおう やくそく ころ りゅう ゅめ ころ つみおか しる しざい つみおか 766

7. 西遊記(上)

これを聞いた弟の南海竜王は、おおいに怒って、 われへ 「我らをおこして、ひ「捕えてくれようじ ~ ありませんか」 「いやいや、あの鉄柱を振り回されては、当たるもの触れるもの、みなけがをし、命を失うだけ すると末の西海竜王が言った。 やつあらだ 「奴に荒立てするのは、よくないことです。びとまず礼服を与えて、門の外に押し出してしまっ てんちゅう たうえで、玉帝に申し上げ、天誅を下していただきましよう」 ほうんり 「もっともだ。わたしは『はす糸編みの歩雲履 ( くっ ) 』を持っているが」 せいかいりゅうおう と、北海竜王が言えば、西海竜王も、 くさりあ 「ちょうどここに、『鎖編みの金のよろい』を持って来ている」と言い、南海竜王も、「おおとり はねかざ すいしようきゅう しやくどうかんむり りゅうおう の羽根飾りのついた赤銅の冠」を出した。兄の竜王は、たいへん喜び、水晶宮に行って悟空に 三人をひきあわせ、それらの品を差し出した。 きんかんきんこうほうんり によいばう 悟空は、金冠、金甲、歩雲履を身につけ、如意棒を打ち振り、 りゅうおうぎようだい あいさっ 「たいそうおさわがせいたした」と、竜王兄弟に挨拶して、そのまま立ち去って行った。おさ ぎよくていうった まらないのは竜王たちである。すぐさま相談のすえ、玉帝に訴え出ることにした。 ひぎおいざる こちらは悟空、水を開き、鉄板の橋にもどると、四匹の老猿がおおぜいの猿どもを率いて出迎 ′」くう ほっかいりゅうおう ・こ ~ 、う ぎよくてい りゅうおう せいかいりゅうおう なんかいりゅうおう とら あ ふ ふ あた なんかいりゅうおう さる お ひき 3 でむか 5

8. 西遊記(上)

しんき りゅうおう ぎゅうでん 「かねてより竜王には、りつばな宮殿に住まわれ、多くの神器をお持ちとのことで、わざわざご りゅうおう むしん 無心にうかがったしだいです」と切り出した。これには竜王もいやとは言えず、一振りの太刀を 取り出させた。 ・こ・、う ところが悟空は、 ふえて 「わたくしは、とかく刀は不得手につき、別のものをー・ー」と言う。 りぎし そこでこんどは、二人の力士に九股叉 ( かれ、 ) をカついで来させた。すると悟空は、席から跳 び降り、手に取って一振りすると、ほいと投げ出して、 「軽い、軽い、軽い。なにとぞ別のものを」と言う。 りゅうおう 竜王はえみを浮かべて、 「とくと、ごらんいただかなくてはこまります。これは重さが三千六百斤ですぞ」 「いや、どうもびったりしません」 きん りゅうおう 内心ひそかに恐れをなした竜王は、その目方七千二百斤という方天戟 ( ほこ ) をかつぎ出させ た。悟空はすぐ駆け寄って、いじくり回し、さっさっと振ってみて、 「これもまた、軽い、軽い」 りゅうおう 竜王は、ぞっとして、 きゅうちゅう ぶき 「わが宮中に、重いものはこれだけです。これいじようの武器はございません」と言っていると お よ ひとふ きゅうこさ ほうてんげぎ きん ′」くう ひとふ たち と 0 5

9. 西遊記(上)

ど ) こうおう ようお - う・ 猪、野牛、羚羊ーーの妖王たち、七十二洞に住むものみながやって来て、猴王をうやまうよう えんしゆっさんか になった。毎年みつぎものをたてまつり、季節ごとに点呼を受けた。演習に参加する者もあれば、 ばんたん かかざんきんじようてつべぎ しよくりようかた 食糧方を引き受ける者もあって、万端整い、この花果山は金城鉄壁のごとしであった。また妖 きんこ にしき ぎようしゆっ 王たちは、金鼓を献上する者あり、錦の旗、かぶとなど供出し、演習は日をおって華やかに、 盛大になっていった。 びこうおう 美猴王はとくいであった。が、ふとみなに向かって言うには、 へいぎ 「なんじらは弓矢に長じ、兵器にも精通したが、わしのこの刀はぶざまでおもしろくない、どう かな」 すると例の年寄り猿がすすみ出て、 ぶぎ 「大王は、仙聖でございますから、ありきたりの武器では、お役に立たぬと存じます。ところで 大王には、水の中でも平気でおいでになれましようか」 おんしんとん ぎんとうん じんつうりき じゅっ へんげ 「わしは道を聞いてのち、七十二変化の術をこころえ、劬斗雲の大きな神通力を持ち、隠身、遯 かげ しんきほう みち 身、起法、摂法をよくし、天にのばるに路あり、地に入るに門あり、日月に向かって歩くも、陰 さわり はなく、金石に入るも碍なし。水にもおばれず、火にも焼けぬ身だ。ゆけぬはずがあろうか」 一う・カいりゆ・ 5 ・′、う・ じんつうりき 「大王には、すでにそのような神通力がおありとならば、この鉄橋の下なる水は、東海竜宮に通 まんぞく じておりますので、そこに参られて、竜王をたずね、お望みの武器を求められたならば、ご満足 おう せいだい いのししゃぎゅう せんせい せっぽう かもしか としょざる ゆみや けんじよう せいつう りゅうおう てんこ てつばし ぶぎ えんしゅう 、もと ぞん よう 8

10. 西遊記(上)

れば、鬼に金棒どころのさわぎではない。 ぎも しようりゅう りゅうおう 竜王は、もう肝をつぶして恐れおののき、小竜どもは魂も消し飛び、亀やすつぼんのたぐいは、 によい とくいまんめん みな甲羅の中に首をひっこめ、蝦、蟹どもはことごとく頭を隠した。悟空は得意満面、かの如意 でんじよう りゅうおうわら すいしようきゅう すわ 棒を手に取りながら、水品宮の殿上にでんと座って、竜王に笑いながら言った。 ぶき 「さて、こうしてすばらしい武器を手にすると、それにふさわしい礼服がほしくなる。ひとつ、 ちょうだいいたしたい」 「そういうものはありません」 「『一客は二主を犯さず』とか。もしないとなら、わたくしもここを出て行きません」 「海中をひと回りなされたら、あるいはあるかもしれませんが」 けんすわこ 「『三軒回るより一軒に座り込むがましだ』とのたとえどおり、ないとならば、てこでも動きま せんぞ」 りゅうおう 竜王もさんざことわったが、鉄棒をなで回してすごむので、やむなく弟三人に間いあわせるこ りゅうおう きんしようてつこ とにして、非常のときに鳴らす金鐘と鉄鼓を打ち鳴らした。まもなく三海の竜王たちが、すわ一 りゅうおういちぶしじゅう 大事とばかり駆けつけたので、兄の竜王は一部始終を話し、 あま しんき きやつらんぼう 「彼奴の乱暴はじつに目に余る。かの神器も持ち出され、そのうえ礼服を出せと言う。ひとつ、 持ちあわせがあれば、それをやって、あいつを返してしまってはくれまいか」 こうら - げん おにかなぼう ひじよう おか えびかに てつぼう たましい かめ 2 5