ばわる。 - さま 「貴様は何者ぞ、そこでどなるとは。戦はせぬが、俺が呼んだら返事をするか」 悟空せせら笑い 「ああ答えるとも。おまえも俺が呼んだら、返事をするか」 きさまよ 「貴様を呼ぶのは、人を吸い込む宝の葫蘆を持っているからだぞ。そっちが俺を呼ぶというのは 何を持っているのだ」 「俺にも葫蘆があるのだ」 「あるなら見せてみろ」 ころ ごくうそで 悟空は袖の中から葫蘆を取り出し、 まもの 「魔物め、見やがれ」 と、ちらちらっとさせて、すぐしまってしまった。銀角はそれを見て驚き、「奴の葫蘆は、ど うして俺のとうり二つなんだろう。たとい同じつるになったとしても、大小はあるだろうに」 そこで、 きさま 「やい、貴様の葫蘆はどこから手に人れたものだ」 と聞く。だが、悟空がどうしてこの来歴を知るわけがあろう。とっさにこう問い返した。 ころ 「おまえの葫蘆は、どこからだ」 おれ おれ ころ わら ころ おれよ たからころ らいれき いくさ おれよ ぎんかく おどろ おれよ やっ ころ 546
ぎんかくお 銀角は降りてくると地団太ふみ、胸をたたいてくやしがり、 「ああ、世の中はいずこも同じか。こんな宝物でさえ、雌が雄にあえば、吸い込む力を失ってし 亠ま、つとは」 悟空はにやにやして、 「おまえはそれをしまえ。今度は俺が呼ぶ番だ」 きんとうん と、ばっと劬斗雲に乗って空に飛び上がり、葫蘆のロを下にむけ銀角にねらい定めて、 ぎんかくだいおう 「銀角大王」と呼んオ ぎんかく 銀角しかたなしに、 「おう」 ごくうたいじようろうくん と答えると、すうっと葫蘆の中へ吸い込まれ、悟空に太上老君のお札をはられてしまった。 きよう おれむすこ 俺の息子よ。今日はお手柄だったぞよ。 お と悟空は葫蘆に語りかけ、ほくほくしながら雲を降ろすと、師匠を救うべく、蓮花洞めざして 急ぎ行く。 ・こくう とちゅう やまじ 途中の山路はでこばこ道、ましてや悟空はがにまたなので、ひょっくり、びよっくり歩くうち、 ごくうきげん ゆられて葫蘆は、ばちやばちや音を立てつづける。悟空は機嫌よく、にこにこしながら葫蘆に話 しかけ、いっか洞の入口まで来た。葫蘆を手に持ってゆすってみると、ばちやばちゃと鳴りひび ころ じだんだ てがら むね おれよ たからもの めすおす ししようすく ぎんかく す れんげどう 5 8
さて二人の妖怪は、にせの葫蘆を手にして、あらそ「て見ていたが、ふと頭を上げてみると悟 空がいない。 あにき しんせん 「兄貴よ。神仙でもうそをつくのだろうか。宝物をとりかえたら、仙人にしてくれると言「たの あいさっ に、どうして挨拶もせず、行っちまったんだろう」 せいさいき れいりちゅう と伶俐虫が言えば、精細鬼が おれ 「まあいいさ。俺たちが得をしたんだから。葫蘆をこ「ち ~ よこせ。俺がためしに天を吸い込ん でみよう」 と言って、葫蘆を上へ放り投げると、たちまち、からりんこ 1 んと落ちて来た。 「どうしてだめなんだろう。もしゃ悟空が神仙に化けて、にせものとほんものをとりかえたので じゅもん したじき 「ばか言うな、悟空は三山の下敷だ。出られ「こない。あの人の言「た呪文を唱えてやりなおし てみよう」 じゅもん れいりちゅう と、伶俐虫が葫蘆を空に投げ上げ呪文を唱えたが、むにやむにや終わらぬうちに、からりんこ ーんと落ちてきた。 「や、や、こいつはにせもの」 と、二人が気づきわめいたときには、もう悟空は雲の上で、葫蘆に化けさせておいた自分の毛 編人う・カし ・こ ~ 、う ころ ころ ・こくうしんせんば たからもの ころ ころ せんにん おれ す 52 プ
ぎんかく 一んかく 金角はさかずきになみなみと酒をつぎ、両手で銀角に差し出し、 くうごそん さごじよう とうみ - う 「賢弟、おまえは先に唐僧、八戒、沙悟浄をつかまえ、いままた孫悟空と空悟孫をとりこにした。 これは大手柄だ」 、き ぎんかく 銀角は葫蘆を持っていたが、片手でそのさかずきを受けるわけにはいかない。そこでそばの倚 ごくうけしん きかいりゅう 海竜に葫蘆をあずけ、もろ手でさかずきを受けた。その倚海竜こそ悟空の化身であるとは知るよ ぎんかく しもない。見よ、かれはなにくわぬ顔で、かしこまり奉侍しているではないか。銀角はさかずき きんかく をほすと、また一杯を金角に返した。 おれ へんばい 「いや返杯にはおよばぬ。俺はここにあるのでお相手をしよう」 ′」くう と二人はたがいにゆずりあう。悟空は葫蘆をいただき、まばたきもせず二人のやりとりを見守 そでかく っていたが、すきをみて葫蘆を袖に隠し、毛を抜いてそっくりのにせものをつくり、ていちょう に捧げ持っていた。 銀角はさかずきのやりとりがすむと、真仮も見定めずその宝物を受け取り、おのおの席につい たからえ て飲みつづけた。悟空はそっと抜け出し、宝を得て心中ひそかに喜び、 おおとくい ころけつきよくそん 「魔物がいかに腕がたとうと、葫蘆は結局孫さんにもどったではないか」と大得意。 さて、これからどのような方法を用いて師匠を助け、魔物を滅ばすでありましようか。次回を 力いりゅうころ けんてい ぎんかく ささ まもの おおてがら ころ いつばい ころ はつかい かたて しんか ころ ししよう ほうじ まものほろ たからもの そんどくう 5 基ノ
銀角は悟空の下心を知らずまに受けて語り出した。 ころ こんとん てんちかいびやく 「わが葫蘆こそは、混沌初めて分かれ、天地開闢のおりしも、太上老君が女という女神に化し こんろんざん ひとかふせんとう たまい、石を煉って天を補っていたとき、崑崙山のふもとに一株の仙藤があり、そこにこの紫金 ろうくん ゆいしょ こんにち 紅の葫蘆がなっているのを見つけられたのだ。つまり老君から今日まで伝えられた由緒あるもの なのだ」 悟空はさっそくまねをして、 「じつは、俺のもそういうわけだ」 「どうしてわかる」 せいだく 「清濁はじめて開け、天は西北に欠け、地は東南に満たぬおり、太上老君が女蝸と化し、天の欠 おぎな こんろんざん けたるを補って崑崙山のふもとに至ると、一株の仙藤があり、つるに二つの葫蘆がなっていたの だ。俺が手に入れたのは雄で、おまえのは雌だ」 いい。ただ人を吸い込むことができてこそ、宝物と言うべきなのだ」 「雌雄などどうでも 「うん、おまえの言うのはもっともだ。ではそっちから先にやらせてやろう」 ぎんかく 銀角は喜んで空中に躍り上がり、葫蘆を手にとって叫んオ 「悟空孫」 ・こ′、う 悟空はすぐさま、たてつづけに七、八回返事をしたが、どうしても吸い込むことができない。 こう しゅう ぎんかくごくう ごくうそん ころ おれ おれ ね おど おぎな おす す ひとかふせんとう めす さけ 、よ ) 0 たいじようろうくん * じよか たいじようろうくんじよか たからもの す った めがみ しきん 5 7
てもんだ」 せいさいき とばかり、精細鬼は葫蘆を、伶俐虫は浄瓶を悟空に差し出した。 な 悟空はにせの葫蘆を渡して、うまうまと二つの宝物をせしめると、南天門に飛び来たって、那 はたしん むねほうこく 叱太子に、旗をひろげて助けてくれた礼をのべた。太子は宮中に帰ってその旨を報告し、旗を真 くもま ト ( う・カし 武君に返したことはこれまでとする。悟空は雲間にしばしたたずんで、かの妖怪どもがどうする かを、つカカ、つことにした。 ふくん ′」くう いったいどうなりますことやら、次回をお聞きください。 ころ れいりちゅうじようへい たからもの なんてんもん 5 ノ 8
・こ′、う さて悟空は、魔物の宝を手に入れると、袖にしまって、 「奴ら、苦心して俺をつかまえようとしても、水中の月を捕えるようなもの。ところが俺が奴ら を捕えるは、火の上の氷のごとしだ」 え とほくそ笑みながら、こっそり門を抜け出して、本相を現わすと、 第こいおんじよう 「門をあけろい」と大音声。 門番がびつくりして、 「おや、またあなたはどなたです」と、たずねる。 悟空、 ごくうそん 「さっさと魔物に言え、悟空孫が来たとな」 きんかくおどろ 門番が急ぎ大王につげると、金角は驚き、 そんごくうぎんじよう はちす 「これはまずい。蜂の巣をつついてしまったか。孫悟空は金繩でしばり、空悟孫は葫蘆に入れて ぎようだいお あるのに、またもや悟空孫とは。いったい何人兄弟が押しかけて来るのか」 くうごそん こくうそん 「兄者、心配するな。俺の葫蘆は千人っめ込むことができるのだ。まだ空悟孫一人。悟空孫だろ うとなんだろうとこわくはないぞ。俺が出て行って吸い込んで来よう」 「気をつけろよ」 ぎんかく こわだかよ 銀角はにせの葫蘆を手にすると、さっきの手でとばかり勇み立ち、門外に跳び出して声高に呼 やっ とら あにじゃ まもの まものたから おれ こくうそん おれころ おれ そで す ほんそう とら あら くうごそんころ と おれやっ 5 基 5
ごくうしつぼ 悟空は尻尾の毛を抜いて、一尺七寸もある金の紅葫蘆に変えて見せると、 、いけれど、役に立たないのでは : 「この葫蘆は、大きくてかっこうも 人も入れることができるのですよ」 「人を入れるだけならめずらしくなかろう。わしのは天まで吸い込むことができるぞ」 「それ、ほんとうですか」 「ほんとうだとも」 「もしそうなら、わたしたちの見ている前でやってください。そうでなければ信じませんね」 ひとっき 「天が気にくわないときは、一月に七、八ペんは入れちまうんだ。もっとも気に入ってるときは、 半年たっても入れないがね」 伶俐虫が、 お - に製」 「兄貴、天まで吸い込む宝物と、とりかえてもらおうか」 せいさいき 精細鬼、 「天を吸い込むものだもの、人を入れるやつなどと、とりかえてはくれないだろう」 「いやだと言ったら、この浄瓶もおまけにつければいいだろう」 悟空は内心ほくそ笑み、 「一つに二つ、それが相場であろうな」 れいりちゅう す え そうば たからもの じようへ、 しやくすん こうころ 0 こちらのは一つに千 5 ノ 5
だんばん 「俺は孫悟空の弟。わが兄を捕えたと聞き、談判に来たのだ」 きさま 「捕えたとも。洞中にしばりつけてある。貴様が来たからには、戦いをいどむつもりだな。だが きさま おれいくさ 俺は戦はせぬ。ただ貴様の名前を呼ぶから返事をするか」 「ああ、 いとも、千べん呼んだら万べん答えてやる」 銀角は葫蘆を持って空中に飛び上がり、ロを下に向けて、 くうごそん 「空悟孫」と呼んオ 悟空答えず、ひそかに思うよう。 す もし返事をしたら吸い込まれてしまう。 「やい、なんで返事をしないのだ」 「俺はいささか耳つんばだ、大きな声で呼べ」 ぎんかく 銀角さらに大声で、 くうごそん 「空悟孫」 くうごそん そんごくうやつよ 悟空指先でそろばんはじき、わが名は孫悟空、奴の呼ぶのは空悟孫、にせの名前だから大丈夫、 とふんで、 「おう」 と答えると、あら不思議。さっとばかりに葫蘆の中に吸い込まれ、上から札をはられてしまっ とら ぎんかく おれ おれそんごくう ころ よ どうちゅう とら こ よ よ だいじようふ 538
「うん、もっともだ」 こししばんたい と、すぐさま腰の獅蛮帯を解いて悟空に渡した。悟空はその帯で、にせの悟空をしばり、金繩 きんかく こうンさんじよう を袖の中に隠して、毛を抜き幌金繩にかえて、うやうやしく金角に捧げた。金角は酒を飲みなが らよく見もしないでそれをしまい込んオ すがた こわだかさけ 悟空は急ぎ表へ跳び出すと、もとの姿に返って声高に叫んオ 「やい、化け物め」 おどろ 門番の妖怪が驚いて、 「おまえは誰だ」 くうごそん まものちゅうしん 「さっさと魔物に注進せよ、空悟孫が来たとな」 きんかく 妖怪すぐさま報告におよぶと、金角はおおいに驚いて、 くうごそん 「孫悟空はつかまえたのに、まだ空悟孫がいるとは」 すると銀角、 おそ 「兄上、なんの恐れることがあろう。宝はみなわが手中だ。葫蘆を持「て行「て、奴めを吸い込 んで来よう」 と、葫蘆を持って跳び出して行き、 「やいやい、貴様はどこから来た者だ」 そで そんごくう よう・カし よう・カし ぎんかく ぎさま と と と たから ヾ、 ) 0 おどろ ′」くう しゅちゅう きんかくささ 、よ ) 0 おび やっ す ぎんじよう 537