らいしそんしやかむにぼとけ 来至尊釈迦牟尼仏に申し上げた。 ほうざんさんちゃく しゅぎよう 「唐朝の聖僧が、取経のため宝山に参着いたしました」 ぎやたい がらん ぼさっ によらい 如来は、おおいに喜び、ただちに八菩薩、四金剛、五百羅漢、三千掲諦、十一大曜、十八伽藍 りようがわ を集めて、両側にならばせ、唐僧を召し入れるよう伝えた。 ・こ ~ 、う ′」のう・こじよう 三蔵は、悟空、悟能、悟浄に馬を引かせ、荷をかつがせて、威儀を正して山門を入って行った。 れいはい によらい だいゅうでん 四人は大雄殿の前に来ると、如来に向かい、ひれ伏して礼拝した。終わると、左右を拝し、ふ によらい つうかんてがたささ によらい たたび如来に対してひざまずき、通関手形を捧げた。如来は、それにいちいち目を通して、三蔵 あた に返し与えた。 三蔵は、伏して言上した。 ほうざんまい しんきようもと 一うどだいとうこうてし むねほう ていしげんじよう 「弟子玄奘、東土大唐皇帝の旨を奉じ、真経を求め、衆生を済度するため、はるばる宝山に参 強 - ようたも しんおん りまし、た、ねがわくは仏祖、深恩をたれ、すみやかに経を賜うて、帰国せしめたまえ」 じひぶか 一よら、 如来は、はじめて口を開かれ、慈悲深く言われた。 とうど なんせんぶしゅう 「そちの東土、南贍部州は、天高く、地は肥え、物は豊かに人は栄えておるが、むさばり、だま 懸んえん ぶつぎようしたが し、殺すなどということがさかんに行なわれ、仏教に従わず、善縁に向かわず、三光 ()' 月、 ) を敬 じごくわざわ ざいあく あくぎよう ・ここく あざむ せっしよう わず、五穀を重んずることなく、欺き、殺生し、悪業のはて、罪悪は世に満ち、地獄の災いをま さんぞう のぞ さんぞうぎよう くのうちょうだっ わざわ ねくことになったのだ。わが三蔵の経は、苦悩を超脱し、災いを除くことができる。三蔵とは、 とうちょうせいそう さんぞう ころ ぶっそ とうそうめ こ こん・こう った しゅじようさいど らかん さか み さんこう ! ) 、よ要ノ よ、 さんぞう うやま 589
しやく で、頭を上げると六、七尺の高さがある。女怪に向かってひと声叫ぶと、女怪も本相を現わした。 さそりせい せいかん これはまた琵琶ほどもある蝎子の精であ「た。星官がまたひと声叫ぶと、女怪は全身がしびれて、 坂の前で死んでしまった。 はつかい 八戒は近寄って、女怪の胸をふみつけて、 ちくしよう とうばど ~ 、 「畜生め、こんどは倒馬毒は使えまいて」 はつかい 女怪はまったく動かない。八戒がまぐわでびと打ちすると、女怪の体は腐った味のようにな ってしまった。 きんこう ・こじよう 星官はふたたび金光を集め、雲に乗ってもどって行った。悟空と八戒、悟浄は、天に向かって こしもと どうない りようがわふ お礼を言い、洞内に入って行った。多くの腰元たちは両側で伏し拝み、 「わたくしたちは、もともと妖怪ではございません。西梁国の女で妖怪にさらわれて来た者でご おくま な ざいます。あなた方のお師匠様は、奥の間で泣いておられます」 それを聞いて悟空が、 さけ さんぞう 「師匠」と叫ぶと、三蔵は弟子たちがそろって来てくれたのを見ておお喜びした。女怪が蝎子の かんのん ぼうじっせいかん 精であり、観音のみちびきにより、昴日星官をたのんで、これを退治した次第を語ると、三蔵は 感謝してやまなかった。 そこで一同、米やうどん粉を探し出して食事の仕度をし、脚ごしらえをした。またさらわれて かんしゃ ししよう せいかん によかい ちかよ ・こ ~ 、う カナ によかい ししようさま こ むね よ、つ・カし さが によかい したく しいりゃん によかい さけ たいじ おが さけ はつかい よう・カし によかいほんそうあら くさ によかい みそ によかい さんぞう さそり 257
あとをつけて行く。 まうんどう か まつばやし 松林を通り抜けると、そこが摩雲洞の入口で、女は中へ駆け込むと、ばたりと門をしめてしま けしきなが った。悟空はぜびなく鉄棒をしまって、しばらくあたりの景色を眺めている。 さてかの女が汗まみれになり、息を切らして書斎に駆け込むと、おりから牛魔王はそこで静か はらだ むねたお に丹書 ( 術 ) をびもといているところだ 0 た。女は腹立たしげにその胸に倒れかかり、身もだえ して、大声で泣き出した。 「これ、べっぴんさん、悲しむことはない。わけを話してごらん」 すると女は足ずりしてくやしがり、 「この悪者、わたしを殺すつもりなのね」 ぎゅうまおう 牛魔王は笑って、 「どうしてそんなにわしを悪く言うのだい」 女は、泣きじゃくりながら、 「わたしは両親が死んだので、あなたを迎えて頼りになってもらったのよ。世間ではみなあなた きようさいカ くじなしの恐妻家だったのね」 のことを、りつばな男だと言っているのに、あなたは、、 ぎゅうまおう 牛魔王は女を抱いて、 おれ 「俺に悪いところがあるなら、まあ落ちついて話してごらん。おわびもしようから」 たんしょ な わら な あせ てつぼう ころ むか しよさい たよ か こ こ ぎゅうまおう 3 6
さかや りようがわに 一声わめくと、女たちは驚いて、ころびころび両側に逃げ散って、おっかなびつくりで三蔵を眺 めている。 まち いっこう いえな りつば 一行がすすんで行くと、街の家並みはよくそろい、店舗も立派で、塩を売る者、米を売る者、 ころう いっこうまちかど ちゃみせ 酒屋もあれば茶店もある。鼓楼 ( 伏鼓 亥をしや旅館がならび、そのにぎやかなこと。一行が街角を とっぜん みちばた 曲がって行くと、突然、一人の女役人が道端に立って叫んオ じようもん しゆくば 「遠来の旅人は勝手に城門を人ってはいけません。どうぞ宿場の役所に入って、姓名を帳簿につ け、わたしが名前を奏上し、検査をすませてから出かけてください」 さんぞう お げいようえき 三蔵が馬から降りてみると、役所の門に額がかかっており、迎陽駅と書いてある。三蔵は、 げいようえき いなかや 「悟空よ、あの田舎家の人の言ったのはほんとうだな。はたして迎陽の駅というのがある」 ・こじよう はつかい 悟浄は笑って、八戒に、 あにき しようたいせん かげ うつ 「兄貴、照胎泉のそばに行って、影がふたつあるかどうか映してみなよ」 「馬鹿言え。俺はもうあの泉の水を飲んじまったんだ。映してどうする」 三蔵は振り向いて、 はつかい ことば 「八戒、言葉をつつしめ」 いっこうしゆくばまね そして女役人に礼をした。女役人は一行を宿場に招き入れ、茶をいいつけた。その部下もみな わら 女で、茶を運んで女は顔を見あわせて笑っている。茶が終わると、女役人は身をかがめて、 さんそう わら おれ そうじよう けんさ おどろ いずみ りよかん さけ てんぽ ち さんぞう さんぞうなが ちょうぼ 224
う」 さんぞうお 三蔵が押し黙っていると、女怪は、 しいりゃん えんかい 「まあ、くよくよなさいますな。あなたが西梁国の宴会で、なにも召し上がらなか「たことも存 なまぐさしようじん まんじゅう じております。ここに生臭と精進の二皿のお饅頭がありますから、少し召し上がって、気をおち つかせてください」 三蔵はいろいろと前後を考えたすえ、 せっそうしようじん 「拙僧は精進の方をいただこう」と言った。 によかい しようじんまんじゅ ) そこで女童がお茶を持って来る。女怪は精進の饅頭の一つを二つに割って、三蔵に渡した。三 ぞうなまぐさまんじゅう わた 蔵は生臭の饅頭をまるごと女怪に渡すと、女怪は笑って、 「まあ、どうして割ってくださらないの」 がっしよう 三蔵は合掌して、 なまぐさわ 「わたしは出家の身です。生臭を割ることはできません」 こと・は ししようほんしようみだ 悟空は格子の上で二人の言葉のやりとりを聞きながら、師匠が本性を乱されてはと心配し、た ほんそうあら まらなくなって本相を現わし、鉄棒ひっさげてどなった。 ちくしよう 「畜生め、無礼だぞ」 女怪はそれを見ると、ロから一筋の火煙を噴き出して、亭を包み、 によかい さんぞう さんぞう こうし めわらべ しゆっけ ぶれい によかい によかい ひとすじかえんふ てつぼう さら によかい わら さんぞうわた ぞん さん 243
このとき三蔵も鳳輦を降り、女王に向かって手をこまぬき、 うぎよう へいか 「陛下、お帰りくださキイ。 、。出曽こ経を取りに行かせてください」 くる おどろ 女王は驚いて色を失い、三蔵を引きとめたが、八戒は狂ったように口をうごめかし、耳をゆす って女王の前につきすすみ、 われそうりよ 「我ら僧侶たるものが、おまえのような白粉をぬったどくろと夫婦になぞなるものか。さあ、師 しよう 匠を放せ」 ′」じよう ぎようてん 女王は仰天して鳳輦の中へころがり込む。悟浄は人垣の中から三蔵を連れ出し、すぐに馬に乗 せた。 と と、そのとき、びとりの女が道端から跳び出し、 「唐の弟御、どこに行かれます。わたしとここでいいことしましようよ」 ・こじよう 悟浄はののしって、 わるもの 「この悪者、わけのわからぬ女め」 ほうじよう と、宝杖をまっこうから打ちかかった。女は旋風を巻き起こし、びゅ 1 っとばかり、三蔵をさ らって、どこかに行ってしまった。 この女は人か魔物か、三蔵の生命、はたしていかに。それは次回をお楽しみに。 とうおとうと第こ さんぞうほうれんお まもの ほうれん さんぞう さんぞう せっそ みちばた こ おしろい せんぶうま はつかい ひとがき めおと さんぞう さんぞう し 238
おとうとぎみ 「おまえたち、弟君をつかまえて」 ていもんと みつまた と言いおいて、三叉の鉄のさすまたをとり、亭門を跳び出し、 わるざる 「悪猿め、勝手にわが家に入って、わたしの顏をのぞき見したな。逃げるな、このさすまたをく らえ」 しりぞ ・こくう てつぼう 悟空はそれを鉄棒で受けとめ、戦いつつ退き、洞の外に出て打ちあった。 ・こじよう はつかい 八戒と悟浄は石の屏風の前で待っていたが、ふと、悟空と女怪カオカ。 いるのを見ると、八戒はあわてて白馬を引いて、 ・こじよう 「悟浄、馬と荷物を番してろ」 とまぐわを振り上げて駆け寄った。女怪は八戒が来たのを見て、これもまた手なみを見よとば ま けむりは かり、しゅ 1 っと鼻から火を吹き、ロから煙を吐き出すと、身をひとゆすりして、さすまたを舞 わして迎え打つ。女怪は何本手があるのか、めちやめちゃに打ち込んで来る。悟空と八戒とは両 方から攻め立てる。すると、女怪は、 によらい らいおんじ そんごくう 「孫悟空。おまえ、わたしを知らないな。あの雷音寺の如来だって、わたしを恐れているのだ。 けものひき おまえら獣二匹がかなうものか。さあいっしょにかかってこい」 おど とうばどく によかい 三人は長いあいだ戦 0 たが勝負がっかぬ。女怪はばっと身を躍らせて、倒馬毒の杙を出し、不 はいそう ・こくう 意に悟空の頭に突きさした。悟空は、「あいた、」と叫んで、がまんがならず、敗走した。八戒は むか によかい はつかい びようぶ しようぶ によかい によかい はつかい どう さけ によかい こ 、、ゝこゞ、こまヂしくやりあって に ・こくう お はつかい はつかい 2
、上に大きな文字で、 どくてきざんびわどう 「毒敵山琵琶洞」 じゅもん ・こくうじんつう と書いてある。悟空は神通をあらわし、呪文を唱えて、身をひとびねりすると、蜜蜂に変じ、 たんざ 門のすきまからもぐり込んだ。二の門を飛び越すと、庭のまん中の亭にひとりの女怪が端座し、 ′」くう こしもとめわらべ ししゅう 左右に美しい刺繍のある着物を着た腰元や女童がつらなっている。悟空はすっと飛び上がって、 まんじゅうささ 亭の格子にとまってじっと聞いていると、二人の女が二皿のふかし立ての饅頭を捧げて亭にやっ て来て、 しようじんまんじゅう まんじゅう 「お嬢様、一皿は人肉饅頭、一皿はあん入りの精進饅頭でございます」 女怪はにこにこして、 とうおとうとぎみ 「おまえたち、唐の弟君を連れておいで」 まっさお と言った。幾入かの女童が後ろの部屋に行って三蔵を連れて来たが、三蔵は真青な顔をして なみだ 唇は白くなり、目は血走り、涙を流している。悟空はひそかにため息をついて、 ししようどく 「ああ、師匠は毒にあてられたのだ」 女怪は亭から降りて、白くてしなやかな十本の指で三蔵を引っぱり、 きゅうでん 「ご安心ください ここは西梁女国の宮殿のように豪奢にはまいりませんが、かえって静かで気 なか ねんふつかんきん 楽で、念仏看経にはよろしゅうございます。わたしと夫婦になって、百まで仲よく暮らしましょ くちびる てい によかい によかい じようさま こうし さら いくにん こ めわらべ しいりゃん さら へや こ さんぞう ごうしゃ さんぞう めおと さら てい さんぞう みつばち によかい 2 2
悟空は笑って、 「どうして、どうして、師匠はどうなぶられてもいうことを聞かないので、女怪が 0 たため、 あそこにしばられておいでだった。その話をしているとき、女怪が目を覚したので、俺はあわて て逃げて来たんだ」 おしようさま 「よし、よし、やつばりまことの和尚様だ。さあ俺たち、助けに行こう」 癶はそそ 0 かしいので、いきなりまぐわを振り上げて、かの石の門をめがけて力い 0 ばい打 こしもと おどろ ちかかった。門はがらがらとくずれて、粉々になってしまった。腰元たちは驚いて、二の門に駆 け込んで、 「お嬢様、昨日の二人の醜男が、表門をぶちこわしました」 女怪は急いで三蔵をしばったまま奥の部屋に運ばせ、さすまたを取ってののしった。 わるざる はじし 「この悪猿に、野豚の恥知らずめ。なんでわが門を打ち破ったか」 はつかい 八戒もののしり返して、 じよろうぎさまおれししよう 「このあばずれのげす女郎。貴様、俺の師匠をさんざんこまらせたくせに、あべこべにひどい口 ゆる ししようきさま をききやがる。師匠は貴様がだまかして亭主にしようとしたんじゃねえか。さあはやく返せば許 してやる。つべこべ言ったら、俺様のまぐわで、山もろともかき倒すぞ」 きのう 女怪がなんで聞くものか。からだをぶるっとふるわせると、昨日と同じ法を用いて、鼻やロか ・こ′、う によかい に によかい じようさまさくじっ わら さんぞう のぶた ししよう ぶおとこ おれさま おくへや こなごな ていしゅ おれ ゃぶ によかい たお さま によかい おれ カ 251
ごじよう 悟浄、 「いや、こうしちゃいられない。 もう日も暮れる。兄貴は頭にけがをするし、師匠は生死のほど もわからないときている 。いったいどうしたものだろう」 ・こじよう 八戒はじっとしてはいられないから、もう一戦してこようと言ったが、悟浄は、 しぎじよう あにき しゆっけ 「兄貴が頭が痛くては、どうしようもない。師匠はまことの出家だから、色情のために本性を乱 あす されることはあるまい ここはまあ、ふもとで一夜を明かし、気を養って、明日の朝もう一度な んとか考えよう」 そこで三人の弟子は、白馬をつなぎ、荷物を守って、山のふもとで眠たことはこれまでとする。 さてかの女怪は、いまのすごさもどこへやら、ふたたび喜びを満面にたたえて、小女たちに前 めわらべねま 後の門をかたく閉ざさした。また二人の夜番に悟空の来るのを見張らせ、女童に寝間のしたくを しめ させ、香をたかせて、三蔵を奥から呼んでこさせた。女怪はありったけの媚態を示して三蔵に寄 りそい 「さあ、二人で夫婦ごっこをしに行きましよう」と言う。 ころ 三蔵は歯をくいしばって、声も出ない。行かねば殺されるかもしれないし、仕方なく、女怪に によ ついて部屋に入った。が、まるで馬鹿か唖になったようで、頭も上げず、目をそらしたまま、女 あまことば がいかに甘い言葉でさそっても、何も耳に入れない。二人はあれこれ言いあって、そのうちに さんぞうは はつかい こう へや によかい めおと さんぞうおく よ ししよう ′」くう あにき によかい まんめん やしな びたい ししよう さんぞうよ ほんしようみだ によかい 2 8