かわぶくろ むす 皮袋の中に押し込んでしまった。袋のロをしつかりと結び、梁の上に高々と吊るした。妖精は本 しようあら 性を現わし、 「やい猪八戒、てめえ、両の目をちゃんとあいていながら、この俺が聖嬰大王だとわからなかっ さかな とら てした たのか。引っ捕えたからには、四、五日吊るし、よく蒸して手下どもの酒の希にしてくれよう」 ふくろ 八戒これを聞くと、袋の中でののしった。 「やい、け物め、なんて無礼だ。あの手この手で俺をだましやがって。もしも喰ってみろ、喰 やっ った奴はどいつもふた目と見られぬ疫病やみにしてくれるわ」 とわめきつづけたことはこれまでとする。 おもて ごくうごじようまつばやし さて、悟空は悟浄と松林の中で座っていると、一陣の生臭い風が、すうっと面をかすめたので、 くさめをひとっして、 「こり - や、↓ノよ、 0 この風はどうもいやな予感がする。八戒は道をまちがえたとみえる」 ・こじよう すると悟浄、 「道をまちがえたら、人に聞けば、いだろうに」 「きっと化け物に出くわしたのだ」 「化け物に出くわしたら、逃げて来りやい、・ はつかい ちょはつかい お こ ぶれい に ふくろ えぎびよう よかん しゃないか」 いちじんなまぐさ おれ はつかい り おれせいえいだいおう っ ようせし 1 プ 5
悟空が きようだい 「兄弟、大きすぎるぜ」 と一一一口、つと、一八戒は、 「なに、くるみぐらいの大きさじゃないか。俺なら一と口にもたりねえ」 そこでこれを小箱に収め、兄弟はそのまま帯もとかず眠ってしまった。 よの、ちょう かいどうかん しゆっぎよ さんそう 翌朝、国王は病をおして出御され、三蔵に湯をたまわると、ただちに役人たちに命じて会同館 しんそうそんちょうろうはい やかた に行き、神僧孫長老を拝して、薬をもらって来るように言いつけた。役人たちは館にやって来て、 そんごくう 孫悟空に向かって、地にひれ伏して言った。 われわれ みようやく 「我々、天命によって妙薬をいただきにあがりました」 ・こ′、う 悟空は八戒に小を持って来させ、ふたをあけて、役人に渡した。役人は、 ぞん ほうこく 「これはなんというお薬ですか。帰りまして王に報告いたしたいと存じますので」 悟空、 うきんたん 「この薬は、鳥金丹と申すもの」 はつかい 八戒ら二人は、ひそかに笑って、 うきんたん なべずみ 「鍋墨がまじっているんだから、鳥金丹にはちがいないな」 役人がまたたずねる。 ・こ ~ 、う はつかい ーっ力い やまい こばこおさ わら きようだい おれ おび ねむ わた プ 5
枚落ちていた。二人は雲に乗って、 「それ、追っ駆けろ」 とばかり、空中に駆けのばってみると、怪物は祭りに来たので、えものを持たず、から手で雲 間につっ立ち、 「てめえらは、どこの坊主だ。なんだって俺の邪魔をしやがるんだ」 とどなった。 ちよくめい とうどだいと ) 「なんだと。知らざあ言ってきかせよう。我々は、東土大唐より勅命にて、西天へ取経に行く聖 しゆっけ そう れいかんだいおう 僧の弟子だ。貴様は、霊感大王なんぞとぬかしながら、毎年、子どもを喰らうとか、出家にと 0 きさま すく あくぎよう ては聞きずてならぬ悪業。いたいけな子どもたちを救うため、貴様をとつつかまえに来たのだ。 いままでどれほどの子どもを喰ってきたのか。耳をそろえてそっくり返せば、命だけはかんべん してやる」 と悟空がやり返すと、怪物はばっと逃げ出した。そこへ八戒が一発追い打ちをくらわすと、怪 ぶつきようふうか 物は狂風と化して逃げ去り、通天河の中へ、どば 1 んともぐってしまった。 「もう追うな。おおかたこの河の化け物だろう。あとでゆっくり作戦をね 0 て、奴を捕え、師匠 わた をお渡しするとしよう」 ・こ第、う と悟空が八戒をなだめると、八戒も承知して、二人で廟に取 0 て返し、お供えの豚や羊を、台 ・こ ~ 、第ノ はつかい きさま かいぶつ かわば つうてんが はつかい しようち かいぶつ おれじゃま われわれ びよう はつかい さいてんしゅぎよう そな やっとら ぶたひつじ ししよう 166
きさま けだもの ぬすっと 「盗人たけだけしい獣めが。貴様は知るまいが、俺たちは大唐の聖僧、唐三蔵の弟子だぞ。この じよう あた ぎよくかおう たび、玉華王の王子の頼みにより、武器をかし与えて王府の中庭にとどめおいたところ、夜に乗 たから きさまぬす じて貴様が盗み出しておきながら、あべこべに偽りをでっちあげて宝をだまし取ったとは、なん われ たる言草だ。そこを動くな。我らが三つの丘 ~ を、とくとくら 0 て見よ」 どう 、人、 ) 力し 妖怪も鋒をあげて迎え打ち、たがいに戦いながら中庭から洞の入口へと出て来た。見よ、三僧 が一怪を取り囲み、火花を散らし、血を飛ばす大激戦である。 ・こじよう ひょうとうざん かれらは豹頭山上で、ながらく戦っていたが、妖怪はついに敵しかね、悟浄に向かって一声、 ′」じよう さけ さん 「この鋒を見よや」と叫んで打ち込み、悟浄のひるんだすきに、さっと空中にかけって、東南巽 はつかい きゅう 宮の方へ、風に乗って飛んで行く。八戒、つづいて追いかけようとすると、悟空が、 やっきろ きゅうそねこ 「まあ、ほうっておけ。古より『窮鼠猫をかむ』と一言うぞ。ここは、奴の帰路をすつばり断って しま、つことだ」 と言ったので、八戒も同意した。 どうこう だ、んよう 三人は洞口にたちもどり、大小百十余の群妖をことごとく打ち殺した。それらはいずれも虎、 けものるい どうない ・こくうじんつう おおかみひょう 狼、豹などの精だった。悟空は神通を使って、洞内の品物や、打ち殺した獣類、それに追い上げ ・こじよう しば かちく て来た家畜などをすっかり運び出した。悟浄が枯れ柴をつんで火をかけると、八戒は両耳を使っ てあおぎたて、洞内をきれいさつばりと焼きはらってしまった。そして、持ち出した獲物はすべ さん どうない はつかい むか たの いにしえ ふぎ よ だいげきせん カ おれ よう・カし おうふ だいとうせいそ てぎ ころ ころ とうさんぞう はつかい えもの とら そう そん 499
ぎようかん 三蔵は、 ・こじよう・ りゅうめ はつかい 「八戒に悟浄。そちたちは竜馬を引き、行李を整えておくように。悟空は、わしのかたわらに、 ひかえておれ」 たいそう と命じ、太宗に向かって、 しんきよう ふくほん へいか 「陛下、真経を天下に広めんとするには、副本を作って、散を防ぎ、原本は、たいせつにしまっ て、軽々しくあっかうべきではありませぬ」 たいそう 太宗は、笑顔で、 「そちの言うとおりじゃ」 しんきようとうしゃ と、すぐさま翰林院および、中書科の各官を召して、真経を謄写させた。また、城の東に寺を 建て、謄黄寺と名ずけた。 ずぎよう さんぞうきようかん だんじよう ま、まさに誦経をはじめよ、つとしたとき、さっと 三蔵は経巻をささげて、壇上にのばった。い よ かぐわ すがたあら 芳しい風が吹き渡り、なか空に八大金剛が姿を現わし、高らかに呼んだ。 さいてん : さよう *J ようかん 「誦経の者よ。経巻をおき、我らとともに西天へ帰られよ」 だんか すると、壇下にひかえた悟空ら三人は、白馬もろとも、地上からさっとのばった。三蔵もまた、 だんじよう 経巻を下におくと、壇上から天空へ向かって、ともどもに飛び去って行った。 たいそ うしよかん 驚いた太宗や諸官たちは、空をのぞんで伏し拝んオ さんぞう おどろ とうこうじ えがお ふ かんりんいん ・こくう われ ちゅうしよか : ) 、こんこ、 ) ふ め おが ミ ) 0 ふせ しろ さんぞう 672
・こく。 ) ・こじよう よう力い たたまれず、八戒は顔も上げられず、悟浄は頭を低くして面をおおった。悟空はこれぞ妖怪のし さんぞう わざと見破り、急いで駆け寄ったときには、はやくも妖精は風に乗り、三蔵をさらって行ってし まい、影も形もなく、行くえもわからなかった。 ・こ ~ 、う おそ かがや しばらくして風がやみ、日の光が輝いて来た。悟空が前方を見やると、白馬だけがさも恐ろし ・こじよう はつかい 気にいなないており、行李は道端にころがっていた。八戒は崖下につつ伏してうめき、悟浄は坂 ・こ ~ 、う の前にうずくまって、声をあげている。悟空は大声で呼んオ 「おい、八戒」 はつかい 」ようふう その声に八戒は頭を上げて見回すと、狂風はすでにゃんでいるので、這い起きて悟空をつかま あにぎ 「兄貴、びどい風だったなあ」 ・こじよう すると悟浄も、 あにき 「兄貴よ、こいつあ、つむじ風ってのだな」 と言い、そしてまた、 ししよう 「師匠は、どこえ行かれたんだろう」 はつかい とたずねる。八戒、 「風が吹きまくったとき、俺たちは、てんでに頭を隠して、目をつむって風をよけていたが、師 みやふ かげ はつかい はつかい よ おれ みちばた ひく ようせい よ おもて 、戔 ) 0 がけした ′」くう し 8
信がありますがね」 「よろしい、勝手に連れて行くがよい」 ねどこ ごくうさんぞう 悟空は三蔵のそばをはなれ、八戒の寝床のそばにやって来て、 はつかい はつかい 「八戒、八戒」と呼び起こす。 あほう 阿呆は道中のつかれで、頭を投げ出し、いびきをかいていて、目を覚すどころではない。悟空 はつかい は耳を引っぱり、たてがみをつかんで、ぐいと引っぱり起こして、「八戒」と呼ぶと、八戒はも がいて 「眠たいんだよう、うるさくするなったら。明日はまた、歩かなくちゃあならないんだ」 「うるさくしてるんじゃない、 、、こ。、つしょにやろうせ」 もうけ仕事オ 「どんなもうけ仕事だい」 ようま たいし だれ あす 「あの太子が言うには、妖魔は宝物を持っており、誰もかなわぬすごい奴だそうだ。我らは明日 しろ やっ やったからもの われわれ 城に入って、奴とやりあうことになるが、もし奴が宝物を使って、我々が負けでもしたらまずい 『人を討つには、先手を打て』と一言うではないか。だからおまえと二人で、その宝をこっちが先 に盗み出してきちまった方がい 、と田 5 うんだが : : : 」 あにき どろぼう 「兄貴、おまえは俺をそそのかして、泥棒をやらかそうってんだな。そんなもうけ仕事なら、俺 ようま たからものぬす たからもの も行ってもいいぜ。だがひとっ注文があるんだ。宝物を盗み、妖魔を降したら、その宝物をそっ ねむ おれ よ たからもの はつかい あす さま はつかい やっ よ たから われ 」くう おれ
・こくう と八戒。悟空は鼻を押さえて、 「はやく追い駆けろ、はやく」 トろ・カし うわばみ とせきたてる。妖怪は山に行き着くと、ついに正体を現わした。うろこの赤い、大きな蟒であ だいじゃ 「こりゃあ、大蛇じゃねえか。もし人を喰ったら、一回に五百人でも、まだたるめえ」 と八戒。 「あの二本の槍は、二つに分かれた舌の先だったのだ。奴がくたびれてきたら、後ろから追い打 ちをかけるんだ」 あな 八戒が追いすがり、まぐわで打ってかかった。妖怪はいきなり穴の中にもぐり込んだが、まだ しやく しつほが七、八尺もはみ出している。八戒はまぐわをうっちやり、そのしっぽをしつかりつかん 「つかまえた、つかまえた」 めちゃくちゃ と叫んで、力いつばい減茶苦茶に引っぱったが、びくともしない。 悟空は笑って、 あほう へびさかさま 「阿呆、放しちまえ。やりかたがあるんだ。蛇を逆様に引っぱったってだめだよ」 はつかい 八戒、言われて手を放すと、しっぽはすうっとちぢこまって入ってしまった。八戒は恨めし気 、ーカし はつかい さけ はつかい はつかい わら やり ー、刀し 、ム、 ) 力し あら やっ うら 396
しやく で、頭を上げると六、七尺の高さがある。女怪に向かってひと声叫ぶと、女怪も本相を現わした。 さそりせい せいかん これはまた琵琶ほどもある蝎子の精であ「た。星官がまたひと声叫ぶと、女怪は全身がしびれて、 坂の前で死んでしまった。 はつかい 八戒は近寄って、女怪の胸をふみつけて、 ちくしよう とうばど ~ 、 「畜生め、こんどは倒馬毒は使えまいて」 はつかい 女怪はまったく動かない。八戒がまぐわでびと打ちすると、女怪の体は腐った味のようにな ってしまった。 きんこう ・こじよう 星官はふたたび金光を集め、雲に乗ってもどって行った。悟空と八戒、悟浄は、天に向かって こしもと どうない りようがわふ お礼を言い、洞内に入って行った。多くの腰元たちは両側で伏し拝み、 「わたくしたちは、もともと妖怪ではございません。西梁国の女で妖怪にさらわれて来た者でご おくま な ざいます。あなた方のお師匠様は、奥の間で泣いておられます」 それを聞いて悟空が、 さけ さんぞう 「師匠」と叫ぶと、三蔵は弟子たちがそろって来てくれたのを見ておお喜びした。女怪が蝎子の かんのん ぼうじっせいかん 精であり、観音のみちびきにより、昴日星官をたのんで、これを退治した次第を語ると、三蔵は 感謝してやまなかった。 そこで一同、米やうどん粉を探し出して食事の仕度をし、脚ごしらえをした。またさらわれて かんしゃ ししよう せいかん によかい ちかよ ・こ ~ 、う カナ によかい ししようさま こ むね よ、つ・カし さが によかい したく しいりゃん によかい さけ たいじ おが さけ はつかい よう・カし によかいほんそうあら くさ によかい みそ によかい さんぞう さそり 257
とは」 はつかい 八戒それを見ると、にやりとして、 さる ぎようだいな 「兄弟、泣くな。この猿は死んだふりをして、びつくりさせようてんだ。兄貴の体をさすってみ むね ろよ。胸のところがあったかいかどうか」 「体中氷みたいだ。少しのあたたかみもないよ。どうして生き返ることができる」 「こいつは七十二通りに変われるから、七十二の命があるわけだ。おまえ足を引っぱってくれ。 おれ 俺がなんとかやってみよう」 ・こじよう はつかい 悟浄が足を引っぱり、八戒が頭をささえて体をまっすぐにしてから、あぐらをかかせ、両手で あんま さすってあたため、按摩の法を行なった。八戒がもんだりさすったりしていると、やがて、悟空 は息を吹き返し、 「師匠」 と一声呼んオ 「兄貴は、生きているときも師匠、死んでもまだ師匠を口にしている。おい、しつかりしろ。俺 たちここにいるぜ」 ・こ ~ ) う ごじよう と悟浄が一 = ロ、つと、悟空はばっと目をあけ、 ぎようだい 「兄弟たちここにいたのか。俺はひどい目にあったよ」 あにき ししよう ふ よ おれ ししよう はつかい ししよう あにき ・こ / 、第ノ おれ