羅刹女 - みる会図書館


検索対象: 西遊記(下)
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1. 西遊記(下)

らせつによ 空は平気の平左。羅刹女はいささかこわくなって、身をひるがえして逃げようとする。 悟空は、 あねうえ 「姉上、どこへ行かれる。はやく扇をかしてほしい」 らせつによ 羅刹女、 「あたしの宝を、そうやすやすとかせるものか」 「かさぬと言うなら、俺様のこの一棒をくらえ」 ・こ ~ 、う らせつによとら 悟空は片手で羅刹女を捕え、片手で耳の中から棒を取り出し、びと振りして碗ほどの大きさに てつぼう けんふ した。羅刹女がやっとのことで悟空の手を振り切って、剣を振り上げ打ってくれば、悟空も鉄棒 すいうんざん をぶるんぶるんと振り回して打ちかかる。二人は翠雲山のふもとでおお立ち回りをはじめた。 ばしようせん らせつによ・こくう 羅刹女は悟空と日の暮れるまでたがいにわたりあったが、とうていかなわぬと見て、芭蕉扇を どくうふ 取り出し、ばっさとひとあおぎすれば、たちまち悟空は吹きあおがれて、いずこともなく吹き飛 どう らせつによ ばされて行った。かくて羅刹女は勝ちを占めて、洞へ帰った。 らっか せんぶう 悟空は旋風にひるがえる木の葉のごとく、流水にただよう落花のごとく、飄々蕩々と一晩じ ゅう飛ばされつづけ、やっと明け方になって、ある山の上に落ちた。両手で峰の石にだきついて、 しようしゆみせん 気を静めてよく見れば、なんとそこは小須弥山であった。 「いや、なんとひどい女だ。俺をこんなところまで吹き飛ばしやがるなんて。そうだ、ひとっ霊 ′」くう らせつによ かたて たから おれさま おれ かたて おうぎ ぼう し びようひょう - とうとう みね わん ・こ ~ 、う ばん 329

2. 西遊記(下)

わた へんげ 「賢弟、おてがら、おてがら。俺の方はあの牛めと渡りあい、変化をつくして闘「たが、まだ勝 負がっかず、神々もここに降りられて、こうして取り囲んでいるところだ」 ぼしようどう 「あれが芭蕉洞かい」 らせつによ 「そうだ。羅刹女がここにいるのだ」 そうだん おうぎ 「それなら、なぜ打ち入って奴らを殺し、扇をうばわないのだ。このまに奴らは中で相談するぜ」 いしがけ くず っ ゅうぎ と、癶は勇気をふる 0 て、門をめがけてまぐわでびと突きすると、がらがらと石崖も門も崩 れてしまった。 ぎゅうまおう どうない 牛魔王は洞内に駆け込んで、はあはあ息を切らして、悟空から扇を取りもどし、たがいに闘っ おうぎは らせつによ た次第を羅刹女に語っていたが、門を破られたことを聞いておおいに怒り、ロから扇を吐き出し なみだ らせつによわた らせつによおうぎ て羅刹女に渡した。羅刹女は扇を受け取り、涙ながらに言った。 おうぎさる 「大王様、この扇を猿めに渡し、もう応を引かせましよう」 ぎゅうお ) 牛王は、 もう一度戦をして来る 「奥よ、物は小なりといえども、恨みは深しじゃ。まあ待っていなさい。 から」 かっちゅう と言って、かさねて甲胄に身を固め、ふた振りの剣を選び取って門まで駆け出ると、八戒がい ましも門を突き崩しているのにばったり出会い、物も言わず、真向から切りつけた。八戒はこれ けんてい おく お やっ おれ ころ ゃぶ へ けん ・こ ~ 、う まっこう おうぎ し、 やっ ーナカ いくさ はつかい はつかい たたか しよう 376

3. 西遊記(下)

・こ′、う 悟空が らせつによ 「羅刹女よ、そこに残って何をするのだ」 と一一一一口、つと、 「これまでのことは、まことにわたくしが悪うございました。これからはけっしてあのようなこ おうぎ おさ とはいたしませぬ故、どうぞ扇をお返しくださって、わたくしに身を修め、性を養わせてくださ いませ」 土地神も口をそろえて言った。 ほう こころえ おうぎ 「この女は火を消す法を心得ておりますれば、火の根を断って扇を返し、このあたりの住民を救 おんたく ってくだされば、この上ない恩沢です」 悟空、 「火の根を断つにはどうすればよいのか」 らせつによ 羅刹女、 「それには、たてつづけに四十九回あおげば、もうふたたび火は起こりませぬ」 悟空はそれを聞いて扇を取り、カのかぎり四十九回あおぐと、山上に沛として雨が降り出し た。はたして宝物で、火のあるところには雨が降り、火のないところは青空が出ている。三蔵ら よくちょう おうぎらせつによ いっこう 一行は雨にぬれることもなく、一夜を明かし、翌朝馬や荷物を整え、扇は羅刹女に返してやった。 ÅJ ~ 、第ノ た たからもの ふ た は しようやしな さんぞう すく 381

4. 西遊記(下)

・こくうはら 羅刹がぐっと飲みほすと、それといっしょに悟空は腹の中に入り、本相を現わして大声で叫ん あねご 「姉御、扇をかしてくれ。」 らせつ 羅刹はびつくりして色を失い 「門をしめたのに、どうして悟空の声が家の中でするのだろう」 こおんな すると小女は、 「あなた様のお体の中のようです」 らせつ 羅刹、 そんぎようじゃ 「孫行者、どこで術を使っているのだ」 悟空、 おれ あねご 「姉御のお腹の中をみな見てしまった。のどがかわいているようだから、俺が一杯進上しようか」 らせっしたばら すわこ と言うと、足をとんとふみつけた。羅刹は下腹が痛くてたまらず、座り込んで、 「痛い、」と叫ぶ。 「こんどはおやつをあげようか」 っ と言って、頭をぐんと突き上げた。 らせつむね 羅刹は胸が痛くてやり切れず、地面をころがって、真青な顔になり、 らせつ おうぎ なか さけ じゅっ まっさお ほんそうあら いつばいしんじよう さけ 333

5. 西遊記(下)

ぎゅうまおうすがたば ばしようどう そして牛魔王の姿に化けると、雲に飛び乗って、たちまちのうちに芭蕉洞の入口に着いた。 「開門、開門」 ぎゅうまおう 声を聞いて小女が門をあけてみると、牛魔王なので、急いで奥に入り、 おくさまだんなさま 「奥様、旦那様がお帰りになりました」 らせつによ 羅刹女はあわてて髪を整え、いそいそと門に出迎える。 こしもと らせつによ 悟空はうまうまと羅刹女をだまし、手をたずさえて奥へ入れば、腰元どもも茶を捧げて、いち にせぎゅうおう うやま ように主人を敬う。悟空の化けた偽牛王、 ふじん 「夫人、しばらくであったのう」 らせつ と言えば、羅刹も、 きげん 「大王様、ご機嫌よろしゅう」 あいさっ と挨拶し、さて、 きよう 「大王様は新しい女をかわいがり、あたしなんかすっかりお見限りなのに、今日はまた、どうし た風の吹きまわしで、こちらへお帰りなさいました」 ぎゅうおうわら 牛王笑って、 ぎよくめんこうしゅまね 「いや、玉面公主に招かれて行 0 て以来、家事の取りしまりなど、いろいろや 0 かいなことがで ながとうりゅう き、友だちづきあいも多く、つい長逗留になってしまったのだ。けっしてこちらを見捨てていた ・こ ~ 、う こおんな ひと かみ でむか おく みかぎ おく ささ 353

6. 西遊記(下)

らせつによじゅもん おうぎあんず ふく しゅぎよう 羅刹女は呪文を唱えて、扇を杏の葉ほどの大きさにして口に含み、三蔵らに礼をのべると、修行 しようかえ にこころざして行った。のちにこの女は証果を得て、経蔵中にながくその名をとどめたのである。 さんぞう ・こくう いっこう らせつ ・こじよう とうそうしゅご 三蔵ら一行は、羅刹、土地神らに見送られ、悟空、八戒、悟浄は唐僧を守護して旅をつづけた。 はたして幾年を経て、功をとげて東に帰ることができるでありましようか。次回をお聞きくだ いくとせへ こう きようぞう はつかい さんぞう 382

7. 西遊記(下)

土地神は言った。 ぎゅうまおう 「大カ王とは、牛魔王のことです」 ぎゅうまおう 「では、この火は、牛魔王のつけた火か」 「いえ、もしおとがめなければ申し上げますが、じつはこの山の火は、もともと大聖がおつけに なったものです」 「馬鹿を言うな。俺が火つけなどするものか」 「ここには、もとからこんな山があったわけではありません。大聖が五百年前、天宮をさわがさ たいじようろうくん はつけろ たんやくね れ、太上老君によって八卦炉に押し込められ、丹薬が煉り上がって炉をあけたとき、あなたが丹 ろ けたお かえんざん 炉を蹴倒されたので、火気の残ったかけらが、ここに落ちて、火焔山となったのです。わたくし とそっきゅうろ しったい は、もと兜率宮の炉の番人の道士ですが、その失態で老君に追われてここに降り、火焔山の土地 神となった者です」 はんしんはんぎ 悟空はなおも半信半疑で、 「では聞くが、おまえが、大カ王をたずねて行け、と言ったのはどういうわけだ」 たいりきおう らせつによおっと げんざい せきらいざんまうんどう らせつによす 「大カ王というのは、羅刹女の夫ですが、さきごろ、羅刹女を捨てて、現在は積雷山の摩雲洞に まんねんぎつねおう ぎよくめんこうしゅ おります。そこに死んだ万年狐王のみなし児の玉面公主がいて、ばくだいな財産を持っていまし ぎゅうまおうじんつうこうだい ぎゅうまおうらせつによ 3 たが、二年前、牛魔王の神通広大なのを見込み、婿に招いたのです。それ以来、牛魔王は羅刹女 たいりきおう カ おれ たいりぎおう どうし こ むこまね ろうくん たいせい ざいさん お てんきゅう かえんざん たん

8. 西遊記(下)

おうぎ 「おまえ、あの本物の扇はどこにしまっているんだい。 を変えるから、また来てだまして行くぜ」 あんず らせつ 羅刹はくすくすと笑 0 て、ロの中から杏の葉ほどの大きさのものを吐き出し、 「それ、これじゃありません」 悟空は手に取ってみて、なお信じられない様子。 「こんな小さなもので、どうして八百里の火焔があおぎ消せよう」 らせつ しい気持になっているので、 羅刹はもう酒に酔 ぎよくめんこうしゆたましいうば よろこ 「大王様、あなたはあちらで日夜歓びにひた 0 て、玉面公主に魂を奪われなさ 0 たのでしよう。 わす どうして、わが家の宝物のことをお忘れになったの」 と、べらべらその方法をしゃべり出し、 すーしゆいはーしーしーちゅいほー 「そら、左手の親指で柄のところの、七本目の赤糸をびね 0 て、「呱嘘呵吸暿吹呼」とびと声唱 たからへんげ えると、すぐに一丈一一尺の長さになるじゃありませんか。この宝は変化きわまりなしなので、八 万里の火焔だって、ひとあおぎで消せますわ」 ふく おうぎ 悟空はそれを聞いて、よく心に覚え込み、扇を口に含むや、顔をひとなでして本相に返り、 らせつによおれ 「羅刹女、俺がてめえの亭主かどうかよく見ろ。俺にべたついて、み「ともねえことしやが 0 た な。恥ずかしくはないか。え、恥ずかしくはないかよ」 ・こくう ・こくう かえん わら たからもの ていしゅ こ かえん ようす おれ すがた よく気をつけないと、悟空はいろいろ姿 ほんそう 356

9. 西遊記(下)

ゆる 「孫叔々 ( 鴃の ) 、許してくだされ」 悟空ははじめて手足を収めて、 おうぎ みと おれていしゅぎてい 「や 0 と俺を亭主の義弟と認めたな。それじゃ、兄貴の顔にめんじて許してやるから、はやく扇 を持って来い」 ′」くう らせつによ 羅刹女は、すぐに小女に芭蕉扇を持って来させた。悟空はのどまで出て来て、のぞいて見て、 あねご 「姉御、いま口から出るから、大きく三度口をあけてくれ」 らせつ 羅刹が口をあけると、悟空はまた小虫になって飛び出し、芭蕉扇の上にとまった。 らせつ 羅刹はそれに気づかず、しきりに口を大きくあけ、 「叔々、出ていらっしゃい」 おうぎ 悟空はもとの身に返り、扇を手に取り、 おれ 「俺はここにいるじゃないか。いや、ありがたく借りて行くよ」 ど ) と、ゆうゆうと歩いて行くと、小女は急いで門をあけ、かれを洞から出してやった。 あかかべ 悟空は雲を飛ばして東 ~ 向かい、たちまちに、あの赤壁の家に帰。た。八戒は喜んで、 ししようさまあにき 「お師匠様、兄貴が帰って来ました」 ごくうばしようせん ろうじんどじよう さんぞう 三蔵はこの家の老人や悟浄とい 0 しょに門に出迎えた。悟空は芭蕉扇をそばに立てかけ、 おうぎ ろうじん 「ご老人、この扇ではありませんか」 ・こ ~ 、う そんしゅうしゅう ・こ ~ 、第ノ しゅうしゅう こおんなばしようせん ・こ ~ 、第ノ おさ こおんな でむか あにき ばしようせん ゆる はつかい 33

10. 西遊記(下)

とうそ ) 「姉御、そうけちなことを言うない。ぜひ扇をかしてくれ。唐僧に山を越させたら、すぐに扇を しようにん おれしようじきくんし 返すからさ。俺は正直な君子だ。借りた物を返さぬような小人じゃないんだ」 らせつ 羅刹はまたののしって、 わるざる 「悪猿め。なんというわからずやだ。わが子の仇も打たぬうちに、扇がかせるものか。逃がしは けん せぬぞ。この剣を受けてみよ」 らせつ おそ いちじよういちげ 悟空は少しも恐れず、鉄棒で迎え打ち、一上一下、たがいに七、八回もわたりあうと、羅刹は ・こくうぎようてき おうぎ けん 手がくたびれて剣もにぶり、悟空を強敵と見て、扇を取り出し、ひとあおぎしたが、悟空はびく との、、 てつぼうおさ ともしない。鉄棒を収めて、得意になって笑い くらでもあおいでみろ。この俺様が、びくとでもしたら、男と 「こんどは前とはちがうんだ。い はいえんさ」 たからおうぎおさ らせつ 羅刹はあわてて、宝の扇を取め、洞内に駆け込んで、かたく門をしめてしまった。 じようふうたん 悟空はそれを見ると、着物の襟を解いて、定風丹を取り出して口にふくんだ。それから身をひ らせつ とゆすりして一匹の小さな羽虫と変じ、門のすきまからもぐり込んだ。中では羅刹が、 「ああ、のどがかわく。はやくお茶を持って来やれ」 ちやわんそそ こおんなきゅうす 小女が急須から香り高いお茶を、茶碗に注ぐと、ぶくぶくと茶の泡が立った。悟空は喜んで、 あわ えい、と飛び込んで、泡の下に隠れた。 あねご びき かお てつばう し むか えりと どうない わら か あだ こ おれさま こ おうぎ あわ こ ・こくう おうぎ 332