/ リケードができて 橋のクイーンズ区の側で、自分たちのうしろに、さも役所のものらしいく しまったのも気がっかず、装甲現金輸送車の前の席のふたりは、マンハッタン区に行く橋をい い気になって渡っていた。 「ニューヨーク・シティにようこそ」眠そうな運転手がいった。 「そいつはご同様だな、ご同役ーやはり眠そうな相棒がいう。 「目の前にある、あいつは何だか知ってるかい ? 」 「運転手じゃないのか ? 」 「とんでもない。ただの消火夫よ。いつでもうしろにしか乗せてもらえないんだ」 「じゃ、いままでにこいつを運転したことはないのか ? 」 「ないさ。だが、、 しつもやってみたかったんだ ! 」途方もなく陽気な男だった。「深く息を吸 って、しがみついてろよ。そうれ、行くぞ」 「どこへ ? 」 「クイーンズボロー橋さ。そこへ行きたいんだろ ? 216
「まあ聞け、計画を立てるのはわたしだぞ。いつやるかは、わたしがきめる」 「今夜やるんだ。すべては、さっと襲って逃げ、二度と舞いもどらないというところにかかっ てるんだ」 「刑務所に行きたいのか ? 「ぐずぐず引き伸ばしてたら、そういうことになるだろう。なぜなんだ。何があったんだい ? - 「別にひっくり返えすようなことは何もないんだ。ただ、田舎保安官が嗅ぎまわってるんでな。 だが、すぐにそいつも : 「新聞に出てたやっか ? 」ヴァ 1 ジルが口をはさんだ。 「そいつだ」 「そんなの、始末しちまおうやー 「一一度とそういうことをいうな、こんどいったら、お前ははずしちまうぞ。最初にこの仕事に いれてやったときのように、あっさりとな 「なあ、今夜やろうよ、保安官なんていようがいまいが、かまうもんか」 「いかんといったんだそ」ジェンキンズは怒った。 「だけど、何の理由もなしにだぜ。あんた自身、別に計画がひっくりかえるようなことは何も ないといってたじゃないか。たかが田舎保安官が嗅ぎまわってるだけで」 189
「五分ばかり前に届いたんです」 マクロードは封筒を見た。封はしてなかった。 フロント係を見て尋ねる。 「五分前なら部屋にいたよ」 「そういったんですよ」 「だれに ? 「これを持ってきたやつに。タクシーの運転手みたいでしたね」 「そいつに、わたしは部屋にいるといったんだな ? 」 「ええ、ところが上に行こうとしないんで。ただ、これを渡してくれと」 マクロードは封筒の中身を出して読みはじめた。読みおわり、ちょっと考えてからまたフロ ント係の顔を見る。 「こいつは、ど , フしたらいいと思、フ ? 「さあ、あたしだったら、のこのこ出かけて行く前によく考えますね : : : 」 「じゃ、これを読んだのか ? 」 困ってしまったフロント係の男は、ちょっとどもりはじめた。 「ふ、ふうがしてなかったんで、き、きちがいか何かが、う、うちのお客さんに、いいたず
それだけではなくて、まだまだいろいろあるということさ。結局、さっきわたしは、完全にび ったりの質問をひとつあんたにしたよ。なぜ、千百ドルばかりの金にそんな危険をおかすんだ とね。答はマクロード、 やつらにやらせるにはほかに方法がなかったからということだ。やっ らに、 ミンク園の話をしてやらなければならなかった。古き西部の話をしてやって、大きな列 車強盗の前にいつも小さな銀行強盗が起こっていた話をしてやらなければならなかった。ほら : こういったらいいだろう : : : やつらに個性を与えてやらなければならなかったんだ」 マクロードは笑顔になった。 「そいつらに、大きな列車強盗の前には、いつも小さな銀行強盗が起こったと話してやったん だって ? 」 ジェンキンズはうなずいた。 「それが、どこかおかしいかね ? 」 「いや、ただ、そいつはわたしがクリフォ 1 ド部長にいったのと同じだからさ。それにエルロ イ、その点ではあんたに敬意を示さなければならないな。あんたはそいつらを、わたしが部長 を口説くよりも早く、説きふせたらしいからな」 ジェンキンズはまたうなずいた。 「だが、あんたはまだ、ひとつ見のがしているー 206
クリフォードはいま立ち上って、戸口に向った。 「いわなくてもいい。わたしに考えさせろ」 「そういってくれることを願ってましたよ」 「部内のちょっとした秘密が : : : 」 「そう」 「もはや部内のちょっとした秘密ではなくなっている [ 「ええ」 「しかも、コマーシャルがおわればすぐに : 「そうなんですよ」 「そいつがニュースに出る」 「そいつは、どっちともいえませんね 「どっちともいえんと ? 」 「つまり、一言葉尻をとらえるようですが、すでにニ = ースには出てしまってるんです。コマ 1 シャルのすぐ前に クリフォード部長は頭に手を当てた。 「それで、コマーシャルのあとには ?
ファーギソンはしげしげと彼女を見た。 「サム、そいつはポスに尻を蹴とばされただけでなれるもんじゃないんだぞ」 「あたしがポスにお尻を蹴とばされたと、だれかいったの ? 」 「それでなければ、、 しまここには来てないさ サマンサの目に涙が浮かんだ。 「ファーギー、あたしにとって、この仕事は大事なのよ」 「そうかな ? 」 「そうよ。取材担当になるまでに、五年もかかったのよ」 「それで ? わたしがこうなるのにどれだけかかったと思うんだ ? 」 「わかってないのね、ここでヘまをやったら、あたしは土曜の晩の天気予報番組にも使っても らえなくなるわ 「そいつはあんたがこれまでにいったせりふのなかでは、いちばん理に叶ったことだな」 「それ、どういう意味 ? 」 「つまり、土曜の晩の天気予報番組なんかにしがみついてることはないということさ。ほかの ことをやるんだ。赤ん坊を作るとか、それとも婦人服の店でも買うんだな」 サマンサは泣きだしていた。
にいかないんだ。そいつらの女房やお袋や、爺さまや、昔の英語の先生にまでお目にかかるこ とになる。動機の分析というのを与えられるんだが、その動機の分析というやつが恐ろしくや やこしいんだな。まったく、ややこしいんだ」 部長はたばこの煙を輪に吹いた。 「だったら、きみの求めるものは何なんだい ? 」 「なあ、格好のいい昔の列車強盗だ、それだけでいいんだよ。それだけ望むというのも、ぜい たくなんだろうか ? 」 「いや、それほど手のとどかないものでもなさそうだよ 「ど、フい、つことだ 2 ・」 「つまり、ちょっと前にいってたろう。そういうものが見たいんだったらーー・・格好のいい列車 強盗みたいなものだが もうちっと辛抱して待ってるだけでいいんだよ。さっきもいったよ こういうことは周期的なものなんだ。二十年も見てないというが、もうちっと待ってみ ろというんだよ。わからんよ。いまから五分後に、そいつにお目にかかれるかもしれないんだ から 線路のすぐわきで、散弾銃の打金を上げる音がした。 拳銃の輪胸をまわすような音もする。 工 23
彼は玄関のほうにドーナをつれて行きかけた。フロント係は不思議そうな目でふたりを見送 り、もっと不思議そうな目を階段のほうに向けた。 その間に、マクロードとドーナはまず電話ポックスによった。ドーナが彼女の新聞社の資料 室に電話をかけたからだった。しばらく待って、彼女は目ざす所番地を聞きだすことができた。 、ート・ルロイ・パーカーなら、うちの社でわかっている住所はここだけよ。日曜版に二 回ばかり、古き西部のカラー挿絵を描いただけらしいけど、それも十二年も前のことよ 「わたしの聞いたところでは、そいつは同じところで生まれ、暮して、おそらくそこで死ぬだ ろうというんだった。タクシーを拾おうか ? 」 「歩いたほうが早いでしよ。ここからそう遠くはないわ。それに、道の混み方がひどくて。ど うする ? 」 「そいつはいいね。きみがわたしの足についてこられればね。こっちは歩きだすと、大股で早 いからな」 「ついて行けるわよ、彼女は不機嫌にいった。 が・ナにつづいてロビーにはいると、住人の郵便受 パーカーの住まいにつき、マクロードトー けをながめた。 力しオ「一階だわ。一号よ。きっとそれね」 パーカーね」やっと彼女ゞ、つこ。 176
の機械の夢だ。しかも、いつも同じ夢だ。わたしがまだ腕白小僧みたいなころにもどっていて、 通信販売のカタログから広告を切りぬいているところだ。そいつを送ると、ミンク園を作れる という広告なんだ。もうけは無限だと書いてある。すぐに送れとも書いてあった。わたしは、 そいつを親父に見せたのを覚えているよ。親父は、肝心なことは、最初は小さくはじめること だといってた。まず二匹のミンクを飼うことからはじめるというのだ。それがうまくいったら、 百匹になる。それをまだうまくつづけていけば、際限はない。二匹のミンクから百匹のミンク に、五百万匹のミンクにできるんだ。だが、最初は小さくはじめるんだという。そうすれば、 うまくいかなくても、大して損はしない。失敗の罰は大きくないー 「わかるような気がするな」マクロードはいった。 「いや、実はあんたがたしかにわかっているとは思えんな。わたしはなぜたかが千百ドルばか りの銀行ギャングの仕事に、あらゆる危険を賭けたのかと尋ねたし、あんたは一応の答を出し た。大変結構な答だった。だが、それでは本当のおまけの理由にまではふれることができなか った」 マクロードはうなずいた 「ミンクのやり方だな」 「それも余分な理由のひとつだ。銀行の小口の仕事を口切りにしたのは、ミンクのときと同じ
「鍵をあけろ。少しでも分別をもてるようになるためには、それが第一だ」 「だめ、その前に話を聞いて。ゅうべのことでは、あんたが腹を立てているのはわかってるわ」 「それを聞いて何よりだよ」 「だけど、とにかく聞いてよ。あたしはその埋め合せをするつもりなのよ」 「本当か ? 」彼には、そのあとがどうなるのか考えずにはいられなかった。 「ええ、本当よー 「どうやって ? 「いたって簡単だわー 「いってみろ」 「あんたを有名にしてあげる 「もう有名にさせられちまったぞ ! さあ、あけろ ! 」 彼は把手をガタガタやった。 「いい意味で有名にするのよ、笑い者にじゃないわ」 「そいつは待ちどおしいよ 「その相談をすればいいんだわ 「そんなこと、できるもんか