「まだ命令はわたしがここで下しているんだぞ」ジェンキンズはいった。 「そうかな ? まあ、おれがいまからいうことを聞きなよ。この仕事は、あんたの手からは離 れたのさ。どっちみち、これが最後の仕事なんだ。これがすんだら、あんたはおれたちに必要 ない。何の用もないからな」 彼は電話を切り、ちょっと考えこんでいたが、受話器をまた取り上げると、ダイヤルをまわ した。 相手が出ると、彼はいった。 「マークか ? ヴァージルだ。今夜ひとっ余分な仕事ができたらしいぞ。爺さんが、あのマク ロードというやつに嗅ぎつけられてるらしいんだ」 彼はちょっと受話器に耳をすましていたが、やがてうなずいていった。 「おれの考えていたとおりだ。じゃ、そこで会おう。ああ。万事、いま相談したとおりだ」 呼鈴に応じて居間を横切るドーナは、しゃれた部屋着を着ていた。 「どなた ? ーと声をかけたが、だれだか彼女にはわかっているのだった。マクロードにきまっ ている。いつものあの「いいわけーというやつを持ってきたのだろう。 しかし、マクロードにしては声が違っていた。 190
だ。裏の理屈は同じだ。獲物が少なければ、まずくいったとき、刑も軽いだろう」 「さあね、そういう法律のことは、あんたも知ってるはずだ。わたしもよくわかっているとは いえないかもしれんが、獲物の額は刑にはそんなに関係しないぜ」 「わたしは法律はわかっているよ、だが、やつらは知らん」 「やつら ? 「ギャングどもさ」 「やつらは知らないで 「やつらをこの仕事に引き入れなければならなかった。クレイトン・ギリス氏がいいそうなせ りふを使えば、やつらの頭を狂わせなければならなかった。もっと大きな仕事に発展させられ るように、自信を持てるように、まず小さな仕事からはじめることの値打ちを彼らに説明しな ければならなかった」 マクロードはロをつぐんで考えこんでいたが、「筋がとおるな」といった。 「それに、警察をほかの方角にキリキリ舞いさせるというわたしの考え方も、やつばり本当だ った」 「いや、違うんだ。ちょっとそっちのほうは考えないでもらいたいな。あんたの考え方はたし かにだれでも考えることだし、わたしも同じ考えはしていた。ただ、わたしがいってるのは、 20 ラ
「ゆうべだ。お前さんのロぶりは、例のコンビューターみたいだぞ」 「おいおい、こっちはただ、その話から少しでも意味のあるところをつかもうとしてるだけだ 「びつくりして狂いださないようにしろよ」 「できるだけそうしよう」 しかし、いままたサマンサの声。 「このギャングたちがなぜマンハッタンを選んだのかは、推測するしかありません。もしかす ると、この最初の仕事が事情を説明してくれるかもしれません。オー・ヘンリーもいうように、 いちばんカモは都会のペテン師。そうすると、この初仕事は事情を説明することになります。 いちばんカモな相手を狙ったということです。 こんどはどこを ( 襲、フかとい , フことです 「残る問題は ここでチャールズ・プライスにかわった。 とこからこのニュースをつかんだ 「ごくろうさん、サム。その線をもっと追ってもらいたい・ かも知りたいしね。では、次はスポーツの 「こいつを切れービータ ー・クリフォード部長がいった。「グローヴァー」 「はい部長ー い 9
「いつまでに欲しいんだね ? 」 「今夜まででは ? 」マクロードはいってみた。 「よろしい、クリフォード部長に、間にあわせるといってもいいよ、 「それはどうも。こっちは、どれだけ助かるかわかりませんよ 彼は戸口に向ったが、エルロイ・ジ = ンキンズが頑張っている小部屋の前をとおるようにま わり道をしていった。 マクロードはその小部屋をのぞきこんだ。 「あんたがここに引っこんでるのが見えたような気がしたんでね。ジ = ンキンズさん、また会 えてよかった」 会釈して、向きなおり、部屋から退散する。 エルロイ・ジェンキンズは、ドアがしまるまでそのうしろ姿を見送っていた。 やがて彼は、首をふると電話に手を伸ばした。 ヴァージレは、アハート の電話のベルが鳴ると、すぐに出た。 「もしもし」といって、すぐにジェンキンズの声とわかった。 「最後のひとつは延期しなければならんぞ」ジ = ンキンズはいった。 「だめだよ、爺さん。これは大仕事なんだ。これだけが値打ちのある大仕事なんだぜ」 188
「本当か ? 」 「本当さ。さあ、支度よ、 しし、力し 2 ・」 「とにかく、あわてて得するためしはないぜー マクロードはいって、拳銃をベルトに突っこむと、帽子をかぶりなおした。 「もっとうまくできそうだと思うなら、もう少し稽古するぜ 「いや、もうたくさんだ」 「おれの故郷では、稽古が完全を作るというがね [ 「あんたの故郷の連中も、この = = ーヨークの連中とご同様に、それなりに狂ってるよ。両方 あわせりや、だれもが気違いということさ。いっかこういうご時勢が来ると、お袋がいってた つけ いや、考えてみると、お袋もこんなご時勢になるとはいってなかった」 「そういう考えはやめろよ。第一、気持が集中できなくなる。どうだい ? 」 「やつばり、おたがいみんな狂っちまってるようだよ [ ふたりは戸口に向った。マクロードがしう 「これも警察の仕事のうちと考えるんだよー 「これも警察の仕事だって ? マクロードはドアをあけながらいった。
「申しわけありませんが、わかっている事実を整理する機会ができるまでは、公式な発表はで きません」 「では、これだけ答えてちょうだい。″ワイルド・ 「わたしの答えは、ブリンクマン警備保障社のコン。ヒ = ーターから何か聞かされるまでは、そ んなことはまじめに考えるつもりはないということですな」ギリスはすらすらと答えた。 「だれから何を聞かされるんです ? 」 「コン。ヒ = ーターですよ、コンビ = ーター。わが社では仕事は近代的なやり方をやっています。 わが社の捜査の仕事では、すべてコンビーターの分析を重視してます。ときには成果が出る のが遅いこともありますが : : : 」 彼の目は、近代的なコン。ヒ = ーターの質問方式が大嫌いなエルロイ・ジ = ンキンズ老人の顔 をまた思い浮かべているようだった。 「 : : : 結局、たどりつけるのです。そう、そこまでいったら、もうこっちのもので : : : 」 しかし、彼は急にだれも相手がいなくなってしまったのに気がついて、言葉を途切らせた。 まるで、どこからともなくたくましい腕が伸びて、聞き手のサマンサ・ジョンソンをさらって でも行ってしまったようだった。 しかし、これがいちばん具体的な事実で、たしかにそのとおりなのだった。 ハンチ団みについてのあなたのお考えは ? 140
拠としては薄弱だな。そんなことから、何もはっきりしたことはいえない。だれだって知って ることだ。それにマクロ 1 ド、だれにだってまちがいはあるよ。とくにコン。ヒュータ 1 にはま ちがいはっきものさ」 「そうかもしれない。たが、エルロイ、あんたはデンヴァ 1 出身だし、クリスマスに故郷に帰 ったと聞いている」 「おいおい、ちょっと待った」ジェンキンズはいった。まだその口調には、調子のいい理詰め なところがあった。「その無法者どもにわたしがいつどこで強盗をやれと、秘密情報を流した のだとすると、こいはわずかばかりの金のために、ずいぶん危険をおかしたことになるぞー 「列車強盗の五万ドルは、悪い仕事じゃないぜ。しかも、あの金を運ぶ男が、どの列車に乗る かだけでなく、どの車輛に乗るかまで強盗どもに教えることができた人間が、ほかにどこにい る ? エルロイ、あんたのほかに、彼の習慣を知ってた人間がどこにいる ? 」 ジェンキンズは肩をすくめた。 「知らんよ。何十人もいるかもしれん。だが、こんな簡単なことに、それだけのことしかいえ ないのだとしたら、もっと厄介な問題はどうするね ? 」 「厄介な問題 ? 」 「銀行強盗さ。あれは五万ドルの仕事じゃない。たかが千百ドルだった。なぜわたしが、そん くに 8
「わたしにも実ははっきりしたことはいえませんよ」 「何を ? 」 「ギリスさんが、い まみたいな質問の答えを求めているのかどうかですよ」 「いまみたいなのというと ? 」 「高校の卒業式にはいていた靴下の色。兄嫁の。フラジャーのサイズ。そういうようなことです よーーあの人がいま研究している、あの新しいみどりの書類にいれられる質問でしようがね」 マクロードはあらためて老人を見なおした。 「あんたはギリスさんみたいなこの機械の信者とよ、 ーしいきれないような口ぶりだな」 いいところを突いたのが、彼にも見てとれた。ジェンキンズは怒っているようだった。 「機械 ? こいつに人間のかわりに考えさせるだって ? とんでもないことですよ」 「そういうことなら、あんたとわれわれは話があう。 , 」この玄関にはいって以来、いまのあん たのせりふが、はじめてぶつかった筋のとおった言葉だったからね」 しいことを教えましよう」ジェンキンズよ、つこ。 ーしオ「わたしは五十年も警察関係の仕事をや ってきてる , ーーとにかく、ブリンクマン社だって防犯の仕事をやってるんですからね。警官と 同じようなもんだ。本当のことを聞きたければいいますが、五十年よりちょっと長いんですよ」 過去の思い出に、その目が輝いた。「全国を股にかけて、無法者や悪党を追いつめたもんだ」 ー 01
の機械の夢だ。しかも、いつも同じ夢だ。わたしがまだ腕白小僧みたいなころにもどっていて、 通信販売のカタログから広告を切りぬいているところだ。そいつを送ると、ミンク園を作れる という広告なんだ。もうけは無限だと書いてある。すぐに送れとも書いてあった。わたしは、 そいつを親父に見せたのを覚えているよ。親父は、肝心なことは、最初は小さくはじめること だといってた。まず二匹のミンクを飼うことからはじめるというのだ。それがうまくいったら、 百匹になる。それをまだうまくつづけていけば、際限はない。二匹のミンクから百匹のミンク に、五百万匹のミンクにできるんだ。だが、最初は小さくはじめるんだという。そうすれば、 うまくいかなくても、大して損はしない。失敗の罰は大きくないー 「わかるような気がするな」マクロードはいった。 「いや、実はあんたがたしかにわかっているとは思えんな。わたしはなぜたかが千百ドルばか りの銀行ギャングの仕事に、あらゆる危険を賭けたのかと尋ねたし、あんたは一応の答を出し た。大変結構な答だった。だが、それでは本当のおまけの理由にまではふれることができなか った」 マクロードはうなずいた 「ミンクのやり方だな」 「それも余分な理由のひとつだ。銀行の小口の仕事を口切りにしたのは、ミンクのときと同じ
ナダやメキシコ。とくにメキシコです」 ギリスはにつこりした。 「きみがそこまで考えつくとは思わなかったよ」 「とにかく、あなたには負けましたよ。あたしはそこまでは考えてなかった」 「だが、わたしは考えた。だから、そいつもここにはいっているんだ」ギリスはしたり顔でい しギリスさん。ちょっとここをお借りして、目をとおさせてもらってい 「あんたはすばらし、 いですか ? 」 「どうぞ、どうぞ。ただ、わたしは失礼するよ。ほかにもやらなければならない仕事があるん 立ち去るギリスに会釈して、マクロードは目の前のリストに注意を向けた。腰をおろして、 楽に坐る。 しかもそうしながら彼は、壁のくばみのような小部屋から、こっそり彼をうかがっているエ ルロイ・ジェンキンズに気がついていた 「ここには出てないらしいな」マクロードはひとり言のようにいって、首をふった。「うーん ' 出ていないぞー 7