で、ひどいのはヘリが写した、すれ違うパトカーの姿だった。 ざわざわいう声が起こって、マック・ファーギソンがまた立ち上った。 「部長、どうして問題のライトバンを写して見せないんです ? 」 「それは追われているほうで、あんたにはわからんものだ」 「わかってるつもりですよー 「つまり、あんた方はそのライトバンはもう見ている。いま、こっちが見せたいのは、追うほ うの作戦だ。この企画の目的のすべては、そこにあるんです。追われるものでなく、追うもの を見てもらいたい。肝心なのはそこです。このテレビの企画は、テー。フにして全国の銀行家や 警察に見せることになる。警察機構がどう働くかを見てもらわなければならないんです。面白 いのはそこです」 「たしかに面白、 し / トカーカしま 、・、ツクして仲間のパトカーにぶつかった」 クリフォード部長は、モニター・テレビで見た光景が信じられないのだった。 「問題のライトバンが見たいんだね ? まだ見てなかったのかね ? もう一度見たいのかね ? 」 「さあ、正直いって、これから先が楽しみだな」ファーギソンはいった。 「待ちたまえ」クリフォードはそばのテー・フルの電話をとり、「司令室を呼べ . といった。電 話が通じると、「特別作戦だ、問題のライトバンの写真を出せないか ? 」
「トツ。フをいれかえるよ」 「見せてくれ」 「スクープだよ」 ハリスが原稿を渡しながらいうと、顔を上げて、戸口で立ち止まっているサマンサを見た。 「何だ ? 何を待ってるんだ ? 昇給の約東か ? 「違います」 彼女はお賞めの肩叩きは前にもいただいたことがあった。だが、いま彼女は別のあることを やっているのだった。タクシー運転手にマクロードを公園にさそい出す手紙を届けさせて以来、 はじめて彼女は自分の記事が放送されてしまうのだということに気がついたのだった。しかも、 はじめて彼女はその結果を考えはじめたのだった。 「違います、昇給なんかじゃありませんー彼女はまたいった。 「だったら、何が欲しいんだ ? 」 警部に会ったとき、どういうことになるか、いまは 「警察の保護です。こんどあのマクロード じめて気がついたんです。あの人をさぞひどいめにあわせることになるだろうと思って トウヒー・ ハリスは彼女を見つめた。 , 彼女もじっと見かえした。彼女が、彼が第一と考えて いたものに反省を持ちはじめたことはわかりきっていた。
いい捨てると、あわてて寝室に向かう。 つづいて部屋にはいったマクロードは、暗がりで手近の電灯スイッチをさぐり出した。 ドーナはまだ寝室についてなかったし、彼が何をしているかふりかえって気がついた。 「灯りをつけるなといったのよー 「ごめん、ごめん、灯りをつけろといわれたと思ったんだ」 彼女は寝室の戸口で足を止めた。 「きようはあんたは、人にいわれたことはちっとも守らないのねー 「まったくだよ。何やかやと、こんなひどい一日はなかったんだからね。歯が痛いやつがいる といわれて、そいつが熊なのをインディアン女とまちがえたとき以来だ。なあ、今朝鏡に向っ て、″動いたら命はないぞ〃といったときからなんだが、あんなことさえなかったら : : : 」 ナが古いが着ごこちのいい部屋着を着て、ふわ 部屋の奥で卓上スタンドの灯りがっき、ドー ふわの毛のついた大きなスリツ。 ( をはいて立っていた。急いで髪のカーラーははずしたのだっ 「マクロード、あんたは今夜 : 「そのまま、動かないでくれ。きみは生まれたての小馬のようにかわいらしいよ」 歩みよると腕をまわして抱きよせる。彼女はその胸に顔を伏せていった。
またしても返事はない。 「何とかいったらどうなの ? 」 「ああーはっとしたように、彼はいった。「いや : : : むしろ、ちょっと考えたほうがいいよう な気がしてね」 「え、ニ = ーヨークっ子ほど、ひねくれた考え方をする人間はいないんだけど、これだけは、 見たとおり信じないではいられないわよー 「そのとおりだね。ただ、見られるだろうと思っていたとおりのものを見せられるときは別だ : それとも、見せられることが、だれかの。フログラムのなかに組みこまれていたとしたら、 話は別だよ。きみこの壁の古い新聞の切抜きだけを見ているようにね」 「あんただって、同じものを見てるのよー 「そうともいえない 「じゃ、何を見てるの ? 」 「こいつを止めているテー。フを見ていたのさ。ほら、新聞は古いが、テー。フは箱から出したば 一週間か二週間もたっていないよ」 彼女はマクロードを見つめた。 「プログラムどおりといってたわね ? たしか、。フログラムといってたでしょ ? 」 179
「どういう意味だ、これだけですまないなんて 2 「うしろを見ろよ プロードハーストはふりかえった。クレイトン・ギリスはもうひとつの書類キャビネットに 行き、さらにふた組の用紙を出していた : : : 黄色いのとビンクのだった。 彼はふたりのところに来て、それを渡した。 「これでおしまいなんでしようね ? マクロード がず . ば . り・とい , フ 「いやーギリスは皮肉を見せていった。「まだブルーのがあるー 「へえ、ブルーのがね」マクロードは、別の書類キャビネットに行くギリスを見送っていった。 ギリスは引出しをあけて、最後の書類を出して見せる。 「マクロード君、これを見たまえ」 「見てますよ」 「何が見える ? 「フルーの書類ですよ」 「ただの。フルーじゃないんだぜ」 ギリスはいま、書類を持って彼のほうに来ながらいった。 「こんな美しいブルーは見たことがないはずだ。そうだろ」 9
「きれいなもんだぜ、ジョー。出してくれ」 だまってプロードハーストがアクセルを踏み、ライトバンは動きだした。変な顔をしている のが、マクロードには不思議だった。車のとおる道も、マクロードには不思議だった。 「ジョー、何かおれこ、 こししたしことがあるのかい ? 「そっちから何かいうことがあってくれれよ、 こしいと思ってたんだ」 「こっちでいいたいのは、道が違うというだけさ」 「わかってるプロードハ 1 ・ストはしょんばりいっこ。 「二番街をつつ走るはずだったぞ 「計画に変史があったんだ」 「だれが変えたんだ」 「連中さ」 「連中 ? 」 プロード ( ーストは自分でうしろを見ろというように、顔をしかめて見せた。 ふりかえったマクロードは驚いた。目の前に前世紀末の銀板写真のような光景。ライトバン のうしろにすごみを見せている四人組は、白髪に白ひげ、持っているのが恐ろしい散弾銃と六 連発だ。
「さあ、いよいよだぞ」 ヴァー・ンレ・、、 「この世は気違いや、それに類したやつらであふれている」クリフォード部長はいっていた。 「わたしのこの部でさえ、怪しまれている。われわれが何より望まなかったことは、そういう 世間に対する宣伝だったんだ」 「部長、こんどはわたしの失敗です」マクロードはいった。 「いわんでもい 「はっきりした、単純なことでした」 「本当か ? 」 「そうです。それに、責任はすべて負う覚悟はできてます」 「ふん。まあ、 しい。それですべてが変わるとでもいうのか ? いまとなっては、こっちがやら なければならんことは、ニ = ーヨーク全体に、きみが総監にもわたしにも、市警三万の人間に も何も関係がない人間なのだと納得させる手を考えだすことだけだろうな」例の笑顔とはいえ ない笑顔を見せる。「それで、マクロード、はっきりいってわれわれはどうすれよ、 ーししとし、フ んだ ? 」
ヘリにつなぎます」電話の声がいって、電話は切り変えられた。 「クリフォードだ。ライトバンの写真を出してくれ」 「どのライトバンです ? 」 クリフォードの口調はすごみを見せていた。 「どのライトバンだと ? どういうことだ ? われわれが追ってるやつだ。どこにいる ? - 「それを伺おうとしてたとこなんですー 「路地にはいったライトバンのことだ」 「それなんですよ」 「何が ? 「路地にはいったんですが、それつきり出てこないんです」 「だったら、そこにいるはずだ」 「それがそうじゃないんで」 「だったら、建物のどれかにはいったに違いない」 「それなら、その建物の写真を撮っておきますよ。路地のなかには、車がはいるような入口は ひとつもないんですよ」 「だったら、何だって気をつけて見ていなかったんだ ? 常に容疑者のライトバンの上を旋回
「動いたら命はないぞ」 サム・マクロードは真剣だった。コルト・四五口径をびたりと相手につきつけ、目を細くし て無表情なすごみを見せるーー若くて老けた顔 , ーーニ = ー ・メキシコの顔だ。唇を動かさない、 きびきびした口調。 着ているものもそれにふさわしい、羊の毛皮の上着、カウポーイ・ , 、ツトはみ、いと目休に「ワ き下げている。 連邦保安官サム・マクロードは、ニュ ー・メキシコから、このニ = ーヨーク市警に研修のため に配属された、警部待遇の特別捜査官なのだった。 どこか納得がいかないらしく、マクロードはもう一度やってみる。 第一章銀行ギャング
「こんどは、こっちが聞かなかったことにしましようかね。問題は、おたがいがもっと理解し あわなければならないということですよ。おたがいに この犯人どもを、どこから情報を仕入 れたにしろ、法廷に引き出そうということですよ 「あんたはヘルメットを買ったほうがいい クリフォード がすごみを見せていった。 「これもまた、聞かなかったことにしましよう。しかし、実際的な面の話をすませましよう」 「実際的な面などというものがある話だったら、喜んで伺いますよ 「それはわかってます。要点をいうと、おたくのプロードハースト部長刑事とマクロード警部 をうちのヒ = ーリスティック・コン。ヒ、ーター分析にかけることに、もちろん異存はないと思 いますが」 「何に ? 「ヒューリスティック・コン。ヒューター分析ですよ 「なるほど。ところで、それはどういうものか、うかがってもいいんでしような ? 「ご存知なければな。喜んで説明してあげますよ 「喜んででも、悲しんででも、とにかく話してもらいましよう 「ヒ = ーリスティックというのは、予感の科学なんです