今ここにいるという実感を楽しむことなのだ。 今というタイミングを擱めば、全ての営みは生き生きとしたエネルギ 1 に満ち たものになる。我々が旬の野菜や果物や魚を味わうときには、常に移りゆく大自 然の中で、今ここにいることを感じているのである。 日本人は冬にキノコを食べたいとは思わない。しかし、たとえそれがハウスで 作られたキノコであっても、秋であれば、 意 極 「おお、これは天然物だ」 の 論 と喜んで食べているのだ。 営 経 型 本 初物を喜ぶ日本人のメンタリティー せ 展 旬の物よりも、さらに日本人が価値を置くのが「初物」である。初物とはその 発 業季節で初めてできたり採れたりした野菜や魚だ。まだ市場にあまり出回っていな 味も旬の物のように成熟していない。しかし、「女房 いから、当然値段は高い。 章 第を質に入れても食え」と言うくらい、日本人は熱心に初物を食べたがる。つまり、 7 の
「それでうまくいくならば、どんな役割でも積極的に演じてみせよう」という猿 田彦の神の働きとなる。 あるいは、仏教では衆生を救わんとする大慈大悲のために、三十三相に化身さ れる観音様がある。また、日本の伝統的な芸術である能楽師のあり方と全く同じ であると言える。つまり、現実的な経営の場面においては、一即多でなければな らない。もっとも手つ取り早くそれが出来るのは、役柄を演じ分けるという方法 なのである。 経営者は猿田彦様でなければならない。 篇 はじめに販売ありき 践 実 論 経営者が考えなくてはならない五つの課題の中で、一番大切なのは何だろうか。 型 本 会社というのは利潤を追求することを目的とするものである。企業の全ての営 みは、要は資金の流れだということができる。だから、経営に一番大切なのは資 章 第金繰りだという人が多い。しかし、私はどう考えてもそれは違うと思うのだ。
第五章日本型経営論実践篇 その間に、株を現金に換えたり、土地を担保に入れたり、危い橋だけは渡って はいけないが、 できる限りの方法で資金を調達すればいいのだ。 税金はきちんと払おう 猿田彦式実戦経営術の五番目は、税金対策ということになるわけだが、税務署 というのは小手先のテクニックで何とかなるところではない。経営者の考える方 法をあらゆる角度から分析して、一つポロを発見すれば、徹底的に突っ込んでく る。 たくさん税金を払うということは、それだけ儲かっているということだから喜 ぶべきことだと私は思っていた。 「どうかたくさん税金を払えるような会社にしてくださいー と神様に発願をして、実際そうなることができた。 ありがたいことである。ありがたいことではあるが困ったこともある。税務署 から見れば、会社というのは税金を払うためにあるのかも知れないが、経営者に 789
ではなく、仏教に対する自説まで唱えているのである。まさに抜群の解釈力だと 言っていいだろ、つ。 儒教に関して力を発揮したのは、江戸時代の日本の儒家たちだった。前述した 如く、伊藤仁斎、東涯親子、及び荻生徂徠の儒教に対する解釈は、中国に逆輸入 されたほどで、当時の文献にもちゃんと残っている。 マルキシズムについても同じだ。字野弘蔵先生 ( マルクス経済学者。字野学派 の代表とされる ) の論考によるマルクスの『資本論』の解釈は、世界一だと折り 紙を付けられている。おそらく欧米諸国では、もう誰も顧みないだろう『資本 論』の研究を、日本では細々とでも受け継いで続けている。なぜなら、『資本論』 の中に、資本論大神とでも呼ぶべき神様の働きを見出しているからである。変な 神様ではあるけれども、昔は活躍した神様として、大切に残しているのである。 ヨーロッパ文化もアメリカ文化も全て神様 岡倉天心が『東洋の理想』という著書の中で、日本は世界文化の博物館だ、と 2
決定権を持った人間に会うことがポイントである。 ところで、日本の場合、若い経営者というのはなかなか信用してもらえないも のである。私は二十六歳で事業を始めたから、これでずいぶん苦労をした。当初 は、私の肩書は常務ということにしておいて、他のある程度の年齢の方に社長を お願いしていた時期もある。しかし、常務にしてもやはり世間から見れば若すぎ るよ、つだった。 歳ばかりは、面の付け替えでは誤魔化せないと思うかもしれない。しかし、猿 田彦式の知恵を使えば、この問題もやりようでクリアできるのである。取締役に 直接会う方法、そして若い私でも信用してもらえる法、商談をまとめる方法など、 幾つものやり方とノウハウがある。それだけで一冊の本になってしまうからここ では省略するが、こうした内容は菱研のセミナ 1 で話しているので、興味のある 方はせひ一度お聴きいただきたい。ともあれ、最初から無理だと決めつけず、決 して諦めずに工夫すれば、必ず道は開くものだ。 770
「ともにこの危機を乗り切ろう。我が社の前途は、君たちの努力によって洋々た るものになる」 とあくまでも志気を鼓舞しつつ、給料の支払いを半分待ってもらう。給料が半 分になっても「頑張るぞ ! 」という気持ちが奮い立っていたら、それは従業員に とって幸せな状態である。たとえやむを得ず給料が半分の状態でも、皆が仕事に 燃えてやりがいを持っていける、そういう会社にするのは、経営者の力量の一つ と言える。従業員を幸せにするのは経営者の義務なのである。 もちろん、経営者は常に従業員とともにあらねばならないから、自分の給料を 真先にカットするのは当然のことである。 篇 そして、次は取引き先とい、つことになる。 践 実 支払いの期日が来てからでは遅い。危ないぞ、と思ったら一週間くらい前に行 論 営 経 型 本 「こういうわけでございまして」 と真正面から頭を下げる。 第「支払いが続くということは長いお付き合いができるので、これもよきご縁かと ノ 8 /
天畠は本家、国民は分家 こういった、ミコトモチを生かす考え方は、天皇から国民を見たときも同じで ある。オオミコトモチである天皇は、ミコトモチである国民それぞれの働きの中 に、神性を見出して尊いと感じる。だからこそ、天皇は自分の存在は国民と共に ある、と思っておられる。 そしてまた、天皇がそうであるように、国民もまた浸すべからざるものを持っ ているからこそ、天皇は国民の一人ひとりを尊敬する。だからこそ、日本の天皇 は城の中に住むことなく、国民と地続きの御所の中にずっといらしたのである。 みんな仲良く行こうというのが、天皇のお考えなのだ。 面白いことに、武士の時代である鎌倉時代でも室町時代でも江戸時代でも、天 皇は廃されなかった。源頼朝は初めて日本を全国的に平定した武士だが、天皇家 は天皇家として殺すことなくちゃんと尊重している。いったいなぜだろうか。 十二世紀に一時、日本は源平の派閥に二分されたことがある。実際には、源氏 と、平氏と、藤原氏と、橘氏などの四つ巴からなる勢力争いなのだが、大きく分
成化育進歩発展していく。これが素晴らしいと思うのだ。だから、無敵のヒ 1 ロ 1 ではないけれども、最後は国土経営の神となった。 艱難辛苦に遭って、それに負けてしまったら何にもならない。映画『ロッキ 1 』のように、やられてもやられても不死鳥のごとく立ち上がっていく。日本な ら『巨人の星』というアニメもあった。艱難辛苦の中でも、めげずに「やるぞオ ツ」と大和魂を燃え上がらせ、やられてもやられてもまた蘇り、生成化育進歩発 展していくのである。 だから、先の戦争に関しても、私たち日本人は原爆を落とされたからといって、 アメリカを恨んだりはしていない。恨むべきは核兵器であって、国や人ではない のだ。そして、気を取り直してコカコ 1 ラを飲み、マクドナルドのハンバ 1 ガー を食べている。 たとえ困難が襲って来ても、困難そのものが問題なのではなく、それによって 気が枯れてしまうことがいけないわけである。だからどんな状況でも自分を奮い 立たせていく。 神道ではこれが尊いのだ。 世界中を驚嘆させた日本の、戦後のあの復興力も、これがあるから可能になっ 9
に生きていることを何よりも尊ぶからである。この精神が、会社の経営者や、あ るいは輸出入の貿易分野で活躍する人にも重要になってくるのではないかと思う のだ。 広島と長崎に原子爆弾が落とされて、十六万人の人が亡くなった。犠牲になっ た人たちのほとんどが、非戦闘員である一般市民だったのだ。しかし、日本はア メリカを恨んではいない。もうすんでしまったことだから仕方がない、という気 持ちで怒りのエネルギーを核兵器廃絶運動へと切り替えている。 敗戦によってボロボロになった国を再建するにあたって、日本は過去のことを 忘れようとした。死者に鞭打っことよりも、只今を生き生きと生きることの方が 大事なのであり、それこそが犠牲者への供養になると考えたのだ。この精神が、 日本の驚異的な復興力に結びついたのである。 日本民族のハングリ 1 精神の素晴らしさは、戦後の目覚ましい立ち直りによっ て、世界中に知られることになった。オイルショック、円高などをはじめ、いか なる困難に直面しても、素早く立ち直ることができるのは、済んだことはいたず らに考えすぎないとい、つ、いし 、意味で過去に拘泥しない性格の表れである。我々
が、ソニーはそうは思わない、と。それを聞いて最初、アメリカ人は苦笑してい たそうだ。ところが、実際にそのように会社の運営がなされているので、彼らは 日本人以上に熱心に働くようになったという。 アメリカの労働生産力は高いと、盛田さんは考えていたと伝わっている。要は 経営者次第だということだ。ソニーは不況になると社長をはじめ役員の賞与をカ ットする。不況を社員と共に耐えていこうとする積極的な姿勢が見られるのであ る。経営者だけがお金をもらい放題ということはないわけだ。 また、経営者側が社員に自分たちの経営理念を明示する。目標が達成されれば、 「今年はこれだけ利益が上がった。これもみんなが努力してくれたおかげだ」と、 結果を報告する。そして、その分ボ 1 ナス賞与として社員に年二回支給する。 そういった姿勢で経営に臨む日本の経営者の方が、社員にとってもメリットが大 きいことは言うまでもない。このソニ 1 の企業理念が大きな成功を収めたことは、 今さら説明するまでもないだろう。 ノ 32