松下幸之助を成功に導いた三つの要素 経営者としての松下幸之助さんは、ご本人自身が、こういった「衆知を集め る」ことに徹底した方だった。 その理由は、彼が小学校しか出ていないことにある。学問がないから、人の知 恵をいかにしてうまく借りるかということに苦心されたのだ。 その上、小さい頃から病弱で、仕事をしていても健康に自信がない。だから、 論体力のある人に、自分のできない分を補ってもらおうとした。 ダ また、自分自身が貧乏な家の出だったから、貧乏な人たちの気持ちを聴こうと 努力したのだ。 ぶ 学 だから、松下電器の成功の秘密は、創業者の松下幸之助に学歴がなかったこと 神 精 と、病弱だったこと、そして貧乏だったこと、この三つに隠されていたのである。 の 和 自分にハンディがあったからこそ、衆知を集めようという姿勢が生まれてきたの 章 四 第 では、貧乏で、学歴がなくて、病弱であれば、誰でも松下幸之助のようになれ 757
日本人は戦争の痛手をも水に流した : 失敗は神の与えてくれた試練だと考える : 日本人が普遍的に好む「中今の思想」・ 企業は生成化育進歩発展すること自体が尊い : 神道の精神で成功した松下幸之助の経営哲学 : ・ 民と共に生きるのが日本の天皇 : アメリカ人に仲間意識を持たせたソニーの経営理念 : マッカーサーを感動させた昭和天皇 : 「天皇の存在感」を持った経営者が成功する : 第四章「和 , の精神に学ぶリーダー論 日本型のリーダーとはディナーのホスト : 松下幸之助は「和」の精神を大切にした・ : 日本人は世界の国々の衆知を集めることができる : : : Ⅲ 131 139
は道徳的観念でかくあらねばならないと、しばりつける必要もないのである。 神道の精神で成功した松下幸之助の経営哲学 神主の奏上する祝詞に次のような言葉がある。 いかしやみ、はえ 「生業揺るぐことなく、家かど高く富み栄えて、五十橿八桑枝のごとく立ち栄え 極しめ給え・ : 」 の 論 生業が揺るぐことなく、家々が富み栄えて、若枝がますます繁茂していくよう 営 経 に栄えることが尊い。これが神の功徳である。「生業揺るぐことなく」と言うの 型 本 だから、自分の生業をおろそかにしない。即ち、キリスト教的な自己犠牲だとか、 仏教的な脱俗に至る捨身の活動ではない。「われもよし、人もよし」の思想、即 ち自分も生き、人も生きるという生活尊重、相互発展の思想なのである。 を 業 この教えを実行したのが、有名な松下幸之助さんである。松下さんは神道の大 企 事なところを心得ていらっしやった方だ。 章 第松下さんの京都のお屋敷に、根源神社というご自分で建てられた神社がある。 なりわい 725
ことに成功したのである。 私の実家の近所に、松下幸之助さんが寄付なさったという公民館がある。近所 の人たちにいつも利用され、地域のコミュニケーションに大切な役割を果たして いる。こういうふうに、社会に貢献している経営者を持つならば、「私たちの企 業は世の中が生成化育進歩発展するための役に立っていると、社員も誇りに思 、つものだ。 極松下さんはこのようにして、自社の社風をつくっていった。松下電器が成功し 論 たのは、松下さんの哲学によるところが大きい。それを支えるのが、学問宗派の 営 経 教理を越えた天地の法則である、根源様なのである。ある人はこれを松下教だと 型 本 言っているが、松下教とは何なのかと考えるならば、伝統的な神道の精神、特に る 「生成化育進歩発展の思想。をうまく会社の経営哲学に生かしたものなのである。 展 発 天地の法則に合った会社が発展していくのは当然だ。松下電器は、神道の精神 業で会社を成功させた、代表的な例だと言えるだろう。 第 72 /
企業の経営理念として、この「和」の精神を何よりも大切にしていたのが何度 も紹介するが、やはり松下幸之助さんである。 その松下さんが、日本文化の特色として次の三つを挙げている。 一、衆知を集める 二、他国の文化を吸収しても、日本固有の主体性を失わない 三、文化の連続性 つまりこれは、松下さんが日本人としてビジネスを進めていく上で打ち出した、 三つの経営哲学であると私は解釈している。 その一番目に出てくる「衆知を集める」ということ。これが、彼ならではの解 釈によって、「和」の精神を具体的にビジネスに応用したものだと言えるだろう。 日本人は世界の国々の衆知を集めることができる 「衆知を集める [ というのは、たくさんの人の知恵を集めるということである。 そのために必要なのが「和」の精神であり、これがはなはだ日本的な感性なのだ。 7 イイ
主宰神は根源様といって、字宙の根源である。だから社の中には何も入っていな 。字宙の根源を学ぶこと自体が大切だと考えられたのだ。このように、経営の 神様として知られる松下さんは、同時に真摯な信仰者でもあった。 その松下さんがかって、天理教の信者の勤勉さに感動したというエピソ 1 ドが ある。いつ見ても、天理教さんは、喜々として労働に励んでいる。それに対して、 自分の会社の従業員には、そういう明るさがない。なぜだろうと考えたところ、 天理教の信者さんたちには、社会に貢献しようという使命感があることに気づい た。「自分の労働が神にも喜ばれるだろう」と思えるから、一生懸命に働けるの 松下さんはそれからク松下幸之助二百五十年計画クというのを打ち出し、家電 製品を中心に、良い品をより求めやすい価格で買えるように、社会に対して働き かけを行った。このビジョンは、主婦が繁雑な家事から解放されることにもつな がっていった。そういった社会への貢献意識が、社員たちに「この仕事は人の役 に立てるんだ」という使命感を与えた。単に給料をもらうために働いているので はなく、社会に貢献するために働いているんだ、という意識を社員に根付かせる 72
絶対に主体性を失わない日本人 : 衆知を集められる度量が経営者には必要 : 松下幸之助を成功に導いた三つの要素 : ・ ーダ 1 は明るくボジテイプな「和」を導け : 第五章日本型経営論実践篇 中小企業が支える日本経済の屋台骨 : 経営の神様は芸能の神様 : いくつもの顔を使い分けるのが経営 : はじめに販売ありき : 開発は取締役をひきずり出せ : ハランスシートを一日でマスターする : 専門家をバカにしようとする努力が必要 : 労務管理は忍耐につきる : 163 158 171 175 148 157
会社の進歩発展に貢献できることが無上の幸せなのだ。これは、かって村という 共同体のために生きることが尊いと感じられたのと同じことである。長い文化の 中で形成された日本人の本能と言っていいだろう。このように日本型の企業は、 神道の精神を中心とした日本文化の特徴をいろいろと持っているのだ。これにつ いては、各章で角度を変えて説明していきたい。 日本のトッブマネジメントの秘密 る あ 日本経済が神道的な精神に基づくものであることを、もっとも端的に示してい のるのは、経営者自身が信仰を持ち、神道的な精神を経営に取り入れているという 有 蜩事実である。 たとえば、松下幸之助氏があれだけの会社を成功させた奥にはやはり、神道精 景 の神が流れている。いろいろなことが言われているけれども、決してキリスト教的 経 これについては、第三章で詳しく述べるつもりだ。 なマインドではない。 章 ( ドイツの社会学者、経済学者 ) は、カルビン派のプロ マックス・ウェ 1 バ 1 序 9
るようになるだろう。日本には、それだけの底力があるし、その底力は世界の識 者たちが認めるところでもある。では、その底力の根源とは何か。その秘密をさ ぐっていくことが、本書のテ 1 マである。 日本経済は、決して平坦な道を歩んできたわけではない。常に時代の流れの中 でさまざまな問題をかかえながら、そのつど困難を乗り越え、脱皮を繰り返して 来たのである。戦争に負けても、円高で打撃を受けても、エネルギ 1 不足や産業 構造の転換に際しても、いろいろな危機と直面しながらも、ギリギリのところで る乗り越えて来たのだ。 ところで、歴史をひもといてみると、実はこうした傾向は戦後に限ったことで 文 の はないことがわかる。明治維新のときもそうだったし、鎌倉時代も、聖徳太子の 有 固 ときもそ、つだった。 松下幸之助はこうした歴史を鑑みて、「日本は運の強い国だ」と言った。高名 の な評論家、渡部昇一さんは、マイナスのものがしばらくたったら必すプラスに動 済 経 いているとい、つ「パラドクスーを指摘している。 章 それにしても、第二次世界大戦の敗戦で、日本は、経済の基盤そのものが失わ 5
ことが基本であり、その真心を神様が受けて目に見えない功徳を与えてくださり、 ますます豊作になっていくというパタ 1 ンなのだ。 したがって、日本の農村では、強烈なリ 1 ダ 1 シップを持つ人材というのが、 それほど必要とされないのである。 では、日本ではリ 1 ダ 1 の資質として何が求められるかというと、みんなで収 穫物を分かち合って楽しく食べられること。そういった部分の采配なのだ。 たとえて言うなら、ディナ 1 のホストである。みんなが楽しくタ食の席を囲み、 そこに和みが生まれてくるように、場とム 1 ドをつくってくれる。そういう感じ のリ 1 ダ 1 シップを持つ人が、重宝されるのである。 松下幸之助は「和」の精神を大切にした 日本型リ 1 ダ 1 シップというのは、ひと言で言うなら、「和 , の精神である。 調和すなわちハ 1 モニ 1 を導くことのできるセンスなのだ。 この「和ーの思想には、儒教の影響も入っている。儒教が出てきたのが、中国 7 イ 2