求められる。資金繰りはうまくいかない。そういう状況であっても、社員の前で は「もう過去のことを言、つのはやめよう。去年は去年。今年は今年だ」と言える 度量を備えた経営者の方が、どれだけ周りの人間に力を与えるかわからない。社 員も「そうだ、そうだ」と言って頑張ることができる。 こんな会社であれば、不況にあえいでいるときでもすぐに回復する。少しぐら い経営にガタが来ても、すぐに状況が好転するはずである。この回復力によって、 只今を明るく元気でエネルギッシュに生きていこうとする経営者は成功するだろ う。これは世界共通のセオリ 1 である。暗い性格で成功している経営者というの は、まずいないのだから。 真っ暗な夜に、明るいライトが煌々と灯されていたら、誰もがそれを目指すこ とだろう。エネルギ 1 は人をひきつける。従業員はエネルギッシュな経営者に魅 力を感じるわけである。販売先も銀行も、こういう経営者についてくるのだ。只 今に生きる思想が、どんな苦境に立っても精神のエネルギ 1 を生み出す気力の元 になるのである。 ところで、仏教や禅、密教などでは、特に悪因縁が問題にされる。前世からの、 ) っ ) ャっ 778
日本人が普遍的に好む「中今の思想」 孟子の言葉に次のよ、つなものがある。 しんし 「天の将に大任を是の人に降さんとするや、必す先ず其の心志 ( こころざし ) を ノ、、つ・ほ・つ たいふ 苦しめ、其の筋骨を労せしめ、其の体膚を餓えしめ、其の身を空乏 ( からつほ ) にし、行うこと其の為さんとする所に払乱 ( さからいみだす。食い違う ) せし 極むー の 論 この言葉を糧としたのが、明治維新の志士たちだった。彼等は困難に遭遇した 営 経 とき、「ああ、この試練があるのは、天が私にまさに大いなる任を与えているか 型 日らなんだ」と考えた。そして、その困難を通じて自らの心を鼓舞し、改革の志を る 完遂したのである。これは非常に明るく前向きな考え方であり、神道の「中今の 発思想」に、見事に合致していると言えるだろう。 を 業 仏教の因縁・因果の思想は、反省や内省には通じているが、そのままではどう 企 しても否定的な面ばかり見てしまいがちになる。そんな中で、神道的な只今を積 章 第極的に生きる教えを説いた仏教者もいる。日蓮上人などは、その最右翼と言える 亠まさ ふつらん ノ 27
の特質というものを抜きにして語ることはできない。というのは、広い意味での 日本文化というものがあるからこそ、それをベ 1 スにした日本経済固有の特色が 出てくるからだ。 ( ここで「広い意味での日本文化」と書いたのは、学問や芸術といった狭い意味 ではなく日本人のものの考え方、土壌、営みの底にあるものなどを総称した意味 で「日本文化と使っているからである ) 。 系列化や年功序列ほか、日本型企業の特色と言われるものはいろいろある。そ してその奥には、広い意味での日本文化がある。日本経済の型が、西欧の経済の 型と違っているとすれば、それは日欧の「文化の差ーに原因があると言えるだろ う。すなわち、日本経済の発展の秘密をとく鍵は、日本固有の文化の中にこそあ ると言えるのではないだろうか。 古代から受け継がれた日本文化の特性 文化というのは、共同体の規範として育まれていくものである。古代の人たち
れるほどのダメ 1 ジを受けたばかりではなく、いっときとは言え、有史以来はじ めて外国の軍隊の占領下におかれた。そうした意味では、かって経験したことが ないほどの大きな転換期だったと言えるだろう。しかし、受けたマイナスが大き ければ大きいほど、プラスに転換されたときのエネルギ 1 の絶対量が多いという 法則があるかのごとく、日本経済は見事に立ち直った。その理由は、さまざまな 側面から考えることができる。 一つには、それまで維持していた植民地を失ったために、自分の国のことに集 中できたということがあげられる。植民地があった頃は、国家予算を植民地政策 のためにすいぶんと割かなければならなかった。たとえば、学校をつくるのにも、 大阪や名古屋に帝国大学をつくる前に朝鮮に帝国大をつくっている。善し悪しは 別として、電車をひいたり道路をつくったり、都市整備にも莫大な予算をつぎこ んでいた。それがなくなったおかげで身軽になり、自国の再建だけを考えること ができたのである。 戦後は、軍事的にはアメリカの傘の下に入り、軍事費の支出が抑えられたとい うこともある。その分の予算を公共事業などにつぎこんで、それが経済が発展す
をすると、すぐにやられてしまう。 だから、経営というのは精進努力を絶やすことはできないのである。小なりと ハラン それだけの精神力と精進と、 言えど利潤を上げ続けている経営者は偉い。 スの取れた物の考え方と、事業の進め方ができているということだ。どこかが偏 っていると、いびつになって収益性に跳ね返ってこないものだ。 優秀な企業、即ち生成化育進歩発展している会社の経営者に共通して言えるこ とは、まず第一に自分の仕事に誇りを持っているということである。何の業種で も、今自分のしている仕事を「これが俺の天職だ " " ーと確信しているのだ。天職 であるかどうなのか、もっと違う仕事のほうが向いているのではないか、という 迷いが、人間の仕事の能力、集中力、没入力を弱くしている場合が多い。 次に言えることは「世のため人のため」と考えていることだ。これは言い方を 変えれば「お客様第一主義」の精神と一言うことができる。 「お客様は本当に喜んでくれているだろうか」「お客様は何を求めているのだろ 、つか」 常にそう考えていれば、おのすと愛と真心が入ってくる。奉仕の精神というこ 792
中小企業が支える日本経済の屋台骨 これまでの章では、日本経済発展の秘密が、神道の考え方をベ 1 スとした固有 の文化にあることをさまざまな角度から検証してきた。この章では少し角度を変 えて、その進歩発展の法則を実際の経営に積極的に取り入れる方法を、私の経験 に即してご説明しよ、つ。 発展を続けてきた日本の企業も、現在は厳しい状況に置かれている。景気はよ うやく上向きかけたとは言え、企業の体力が完全に回復するまでにはまだしばら くの時間がかかるだろう。この稿を執筆している現在、円高の傾向は多少おさま っているものの、本来あるべき値以上の高値に円が安定してしまった感は否めな い。輸出をメインとした中小企業が大ダメ 1 ジを受けたところへ、外国企業から の攻勢は容赦なく押し寄せ、内外の大規模な資本がさまざまな業種に触手を伸ば している。このような状況の中で、資本の乏しい中小企業はますます厳しい現実 を強いられていると言えよ、つ。 中小企業とは、資本金三億円未満または従業員三百人未満の法人企業をさす。 ノ 58
いくつもの顔を使い分けるのが経営 猿田彦の神様は演劇の神、芸能の神様としても知られている。 経営者は、この猿田彦の神の働きを手本にしたらよいだろう。つまり、あらゆ る場面でそのときどきの役柄を演じ分けるということ、経営というものを一つの ドラマとして常に盛り上げていくことである。経営者というのは役者さんに徹す べきなのだ。 実際、経営者というのは、一人でいくつもの顔を持ち、それぞれの役柄を完璧 に演じ切らなければならない。 ①販売管理 実 ②財務管理 論 ③労務管理 本④資金調達 ⑤税金対策 章 五 第 この五つをバランスよくできなければ、立派な経営者とは言えない。
企業の経営理念として、この「和」の精神を何よりも大切にしていたのが何度 も紹介するが、やはり松下幸之助さんである。 その松下さんが、日本文化の特色として次の三つを挙げている。 一、衆知を集める 二、他国の文化を吸収しても、日本固有の主体性を失わない 三、文化の連続性 つまりこれは、松下さんが日本人としてビジネスを進めていく上で打ち出した、 三つの経営哲学であると私は解釈している。 その一番目に出てくる「衆知を集める」ということ。これが、彼ならではの解 釈によって、「和」の精神を具体的にビジネスに応用したものだと言えるだろう。 日本人は世界の国々の衆知を集めることができる 「衆知を集める [ というのは、たくさんの人の知恵を集めるということである。 そのために必要なのが「和」の精神であり、これがはなはだ日本的な感性なのだ。 7 イイ
「それでうまくいくならば、どんな役割でも積極的に演じてみせよう」という猿 田彦の神の働きとなる。 あるいは、仏教では衆生を救わんとする大慈大悲のために、三十三相に化身さ れる観音様がある。また、日本の伝統的な芸術である能楽師のあり方と全く同じ であると言える。つまり、現実的な経営の場面においては、一即多でなければな らない。もっとも手つ取り早くそれが出来るのは、役柄を演じ分けるという方法 なのである。 経営者は猿田彦様でなければならない。 篇 はじめに販売ありき 践 実 論 経営者が考えなくてはならない五つの課題の中で、一番大切なのは何だろうか。 型 本 会社というのは利潤を追求することを目的とするものである。企業の全ての営 みは、要は資金の流れだということができる。だから、経営に一番大切なのは資 章 第金繰りだという人が多い。しかし、私はどう考えてもそれは違うと思うのだ。
生まれた。これがキリスト教であり、イスラム教である。仏教も基本的には同じ ことだ。世界宗教と呼ばれるものは全て、共同体を世界的な広がりの中で再編す る必要性ができたので広がっていったのである。 日本の場合は、海に囲まれていたから外敵から侵略されることもなく、共同体 が存続し続けた。同時にその固有の文化も連綿と受け継がれていった。それは、 自然と神と人間とが一体となった素朴な自然信仰を中心にした文化だ。こうした 価値観は、宗教発生以前には世界中の共同体が持っていたものなのである。日本 の文化の特色の一つは、古いものが素朴な形でずっと残っているということだ。 もちろん、秘境のようなところでは、古代からの共同体が崩れずに、固有の文 化をずっと受け継いでいるところはある。しかし、日本の場合は、古代から連綿 と伝わるものを残しつつ、他の新しいものもどんどん吸収していったのだ。これ は、世界の中でも非常に珍しいケ 1 スだと言えるだろう。 2