二人 - みる会図書館


検索対象: おんなの仕種
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1. おんなの仕種

。わたしの前に、同じような仕事やった人なんて仙台で二泊もしたっていうのに、わた しは日帰りよ。彼女は大出てるしねえ」 ちなみに山中美雪さんは神田にある短大卒だ。 「仙台で二泊かあ。小樽は日帰りねえ。でも札幌から小樽の電車の風景っていいよね」 こっちも必死になる。 「ねえ、聞いてよ。日帰りよ、日帰り。考えられないとおもわない。その仕事くれた人、 愛人が二人もいて、しかも一年に三回も家族旅行するんだって。日帰りよ、日帰り。小樽 で日帰りよ。原稿料三万円よ」 「愛人が二人かあ。大へんだろうな。で、小樽のカニ丼どうだった」 「日帰りよ、日帰り。愛人二人よ、原稿料三万円よ」 「小樽、もう寒いのかな」 「日帰りよ、日帰り」 お酒は楽しく飲みたいものだ。酔いにまかせて、奇妙奇天烈な酔い方は身体に覚えさせ ないよう女性 ( 男もだが ) は気をつけたいものです。

2. おんなの仕種

時々肩を寄せ合ったり、腕を組んだりしている。腕を組んで、時々イヤ、イヤといった仕 種を見せる。つまり身体をゆすったりしているのだ。 ばくは、ふうーん、とおもいながら彼女たちを盗み見していた。 地下鉄が銀座に着き、ばくは彼女たちのうしろから降り、階段を上った。何も後をつけ たのではなく、自然とそうなったのだ。 つまりスカートの方の女 二人が改札口を出たところで。ハンツ・スタイルの方ではない、 性が何か言った。 何に対する反応かわからないが、パンツ・スタイルは立ち止まり目を見開いた。その「う かなりはっきりとばくの耳に届いた。二人は肩を寄せ合い階段を上りはじめ、 そー」は、 途中からパンツ・スタイルが、スカ 1 トの女性と腕を組んだ。階段を上りきった後も、二 人は腕を組んだまま銀座の中央通りを新橋方面へと歩いていった。 いやあ 1 、女の人って大人になっても腕なんか組んで歩くんだなあ、と、ばくはばんや りと遠ざかっていく二人を眺めたものだ。 それにしても、あの「うそ 1 」は何に対する反応だったのだろうか。 「ねえ、石坂浩二と浅丘ルリ子が離婚したの知ってる ? 」 「ねえ、橋本龍太郎と貴ノ浪ができてるって知ってた ? 」 を組む 169

3. おんなの仕種

小学生から中学生くらいまで、学校からの帰宅途中、ばくも友だちと肩を組んだりして 歩いたことがあるが、その後はそういった記憶はない。それでいつもふしぎにおもってい ることの一つが、女の人がよく女性どうしで手をつないだり、腕を組んだりして街を歩い ていることだった。子供ならそれはそれでいいのだが、大人の女性どうしだからちょっと わからなくなる。すぐに考えが変な方向へ行ってしまうのだ。 冬の寒い時などはくつついて歩いていると暖かそうだから、少しだけは理解できるのだ が、夏でも女性どうし腕を組んで歩いているから、なんか変だなとついおもってしまうの だ。もちろん男と女とだったら、ばくは何もおもわない。 女性どうしが腕を組んだり、稀に手をつないだりしているのを見かける街としてばくの 観察したところ、一位が圧倒的に銀座、二位が自由が丘、三位が横浜、四位が原宿、五位 が京都の河原町ということになった。感じたのは、全体的にこういったカップルは、比較 的ごみごみした通りは避けているということだった。 先日ばくは表参道から銀座へ出るため地下鉄銀座線に乗った。外苑前駅から歳のころ二 十六、七の女性が二人乗ってきた。容姿はまあまあで、二人とも黒いロング・コートを着 ていた。 一人はパンツ・スタイルだった。ばくも彼女たちも立っていた。仲よしらしく、 168

4. おんなの仕種

エンゼルは、これから食べに行こうとしている蕎麦屋と会社の間にあるプティックで、 その店は主に下着類がたちに人気がある。 「あ、エンゼル、わたしも行こうとおもってたの」 こうして畑野芳江 ( 埼玉県大宮市出身、一一十六歳 ) と山内和美 ( 愛媛県松山市出身、一一 十六歳 ) の二人はランチへと出かけていく。桜はすでに散り、ジャケットなしでも通りは 歩ける。会社の制服であるストライプのベストのままで二人は出かけていく。手には財布 だけを持っている。 財布というのはもちろん誰にとっても大切なもので、中身の金額は別としてそれとなく 持っ指に力が入る。それでも、ランチ・タイムに彼女たちが手にする財布というのは、ど こかきらきらしていて、見ていると涼やかな音が聞こえてくるようだ。 細い指に包まれた女性たちの財布はどこか甘えて見える。赤信号などで止った時、笑い 声とともに胸もとに抱きかかえられたりする。ちょっと周囲を見ると、同じように財布だ けを手にした若い女性がたくさんいたりして、彼女たちはそれぞれに楽しげな笑みをうか 女性の財布、特にたちの財布は小銭入れ ( コイン入れ ) と札入れがいっしょになっ ているのが多く、たいていが二つ折りで、ホルダーにはテレフォン・カードやキャッシュ・ カードが入っている。そんな財布のなかから、女の人がコインを出す時というのは、ばく の見た限り、なんともまどろっこしい。二本の指を突っ込んで底の方からコインをほじり 176

5. おんなの仕種

焼き魚定食五五〇円、豚肉ショウガ焼き定食六〇〇円、マグロ刺身定食七〇〇円 と、たいていがそんな感じで、みそ汁と漬け物が付いている。 若い O *-a たちは二人、三人、四人と、まあ普通はこのくらいのグループで行動している。 「ねえ、何食べるう ? 」 ミチ子さんはロに輪ゴムを銜えて、これから髪をうしろにまとめようとしている。 「スパゲティ、うーん、でも、私今夜イタ飯に行く予定なのよね」 そういうリョウ子さんが右足から靴をはずしたのは靴のなかに何か入っていたらしい 彼女は今夜デ 1 トの予定をしている。彼は複写機のセールスをしていて、先月はじめて二 人は男女の関係になった。 「わたしなんでもし ゝいけど、御飯少なめなのがいいわ」 アユミさんの言ってることはよくわからないが、こんな言葉を発する女生にかぎって妙 に男にモテたりする。彼女はまだ花粉症が尾を引いている。 ランチ・タイムは働く女性の花園でもある。 ランチを決める

6. おんなの仕種

いるように見えるのだろう。 本題に入って待っという仕種だが、これもちょっと考え事をしているのに似ている。た だ立って待っている人は何をしているのかわからないし、喫茶店などで本を読んでいる人 は、ただ読書の好きな人にしか見えない。 しかしばくはそんな、ただ待っという行為に以前から深い何かを感じていた。待っとい うものには心理劇に似た深みがある。サミュエル・べケットの戯曲に『ゴドーを待ちなが ら』という名作があるが ( もしかしたら、ばくは今、人生の深い謎を解明しようとしてい るのかもしれない ) 、これはぜひ一読を勧めたい。 待っという仕種に入るには、まず、そのための舞台が必要となる。有名なのが渋谷駅の ハチ公の銅像前、六本木のアマンドの前などだ ( さすがに上野の西郷隆盛像や皇居前の楠 正成像の前で待ち合わせする人はいないようだ ) 。 ここでは、 ) しちおう恋人を待っ女性の仕種ということで、待ち合わせ舞台として青山の スパイラル・ホールの一階や、日比谷のマリオンなどを例にとって観察してみたい。 スパイラル・ホールで待っ羽田則子さんは O 二年目。薄いべージュ色のスーツは下ろ してから着るのは今日で二度目。彼は今年一月にスキーで知り合った商社マン。誘われて 会うのはこの日で三度目だ。 スパイラル・ホールのティールーム前の椅子に腰を下ろしていたのだが、鏡を見たらマ スカラの調子がくずれていたので化粧室へ行っている間に他の女の人に椅子を取られてし っている

7. おんなの仕種

事の関係上、仕方なく酒場について来たけれど内心は早く帰りたくて仕方がない。彼に電 話をしなくてはならない。電話はしたのだが、約束の時間より二十分ほど遅れてしまった のだ。電話したら彼の電話はコール音をくり返すばかりだった。留守電もはずしてしまっ ている。時間にうるさい彼だから、怒っちゃったのかもしれない。、 とうして遅れてしまっ たのか、その時間に課長がカラオケを二曲も歌ってしまい席を外せなかったのだ。 こんな経験をしたことのある女性は多いとおもう。多くはないにしても数人はいるはず ああ、とても眠いわ。 彼女はおもわず欠伸をする。こうなると気分は幼稚園児のようになってしまい、ロをお さえるどころではない。大きく、「ふああーああ」とやってしまう。ほんとうなら両腕もぐ ーんと伸ばし、両脚もぎゅーんと伸ばしたいのだ。 先日地下鉄丸ノ内線の車内に立っていたら、二人の若いサラリーマンが自分の会社の女 子社員の話をしていた。 「ほら、庶務課の村山このみ」 「ああ、俺好きだよ、あのタイプ」 「うん、普段はいいよな」 「なんかあったの ? 」 「いや、この前、欠伸してんの見ちゃったんだよ」 1 う 2

8. おんなの仕種

まだ成田空港がない時代、広告代理店で働いていたばくは羽田空港に取材に行ったこと ・ショップで休んでいた。すぐ隣のテ 1 プル があった。その時、少し疲れたのでコーヒー に日本の若い女性と、多分アメリカ人とおもわれる中年の紳士がこれといった会話もなく 向い合っていた。これといって気にしていたわけでもないが、二人の会話の少ないことが うりざねがお ちょっとだけ気にかかった。女性の方は瓜実顔で好みだった。 しばらくして、ばくはカメラマンと二人で見送りゲ 1 トに出た ( 当時、羽田空港の見送 りゲートは屋外にあった ) 。八〇メートルほど先に、これから離陸するらしいパンナム機が . ショップ あって、乗客がタラップを上って行くのが見えた。ふと横を向くと、コ 1 ヒー の女性がすぐ隣に立って、じっとパンナム機を見つめている。 ああ、あの外国人を見送りにきたんだな。 ばくはそうおもってパンナム機に目をやった。おもったとおり、中年の紳士が茶色い革 かばん の鞄を持ってゆっくりとタラップを上っていった。女性はわずかに右手を振った。 ばくは今でも彼女のあの涙を忘れられない。 中年紳士はタラップを上りきると足もとに鞄を置き、見送りゲートに大きく両手を振っ たのだ。ばくはおもわず隣に立っている女性を見た。一瞬、彼女が微笑んだかのように見

9. おんなの仕種

ている時や、ウインドー・ショッピングをしている時などはあんがいポケッとした顔をし ているのだ。 「ひどゝ、 しなんでこんな顔してる時シャッター押すのかしら」 時々写真を見てそんなことを言っている女性がいるが、それは写真を撮った人が悪いの でなく、被写体となったあなたは普段そういう顔をしているのです。 写真に関しては、撮られることが好きな女性と、そうでない女性がいる。後者の方は一 般的に恥しがり屋さんなどとおもわれがちだが、安易にそうとばかりは言えない。恥しが るということは、すなわち自意識が強いということであって、実は本質は自分をきっちり と見せたいとおもっている場合が多い。例えば役者などに、きわめて照れ屋さんや、寡駄 な人が多いことを考えてみればよくわかる。普段は照れて何もできない人が、舞台では唖 然とするほど自分を押し出すのだから驚いてしまう。で大活躍しているコメディアン の一人をよく知っているが、普段の彼は実に暗い 「はい、じゃあ、そこに立って。そう、そう」 プティックの創立十周年のパーティ 1 会場で店員である名村芳美 ( 仮名だが限りなく実 名に近い。八王子市出身、二十七歳 ) は、以前二回だけ夕食にさそわれたアパレルメーカ ーの販売主任の岡村さんにカメラを向けられて壁の前に立った。岡村さんは二度目にタ食 に誘った時、食事の後彼女をバーにさそい、そこを出た通りの暗がりで突然キスをしてき たことがあった。なんとか回避したものの、その後声をかけてこなくなった。まずいこと 写真を撮られる 205

10. おんなの仕種

数日前、ある雑誌に「女性の一人旅について」というテ 1 マでエッセイを書いた それで今回はふとおもいついて女性の一人旅というものを一つの仕種と考えて書いてみ ることにした。前回に書いた、待っということも仕種としては当てはまらないかもしれな いが、そうい「た意味では旅をすることも同じだとお叱りをうけそうだが、ここは一つ 『マリ・クレール』誌に免じて ( すみません ) お許しいただきたい。 ばくの旅は基本的にはいつも一人旅と決めている。数人で行くのも楽しくないことはな ゞゝゝ。ばくはそんな風におもっているのだ いが、やつばり旅は一人でばんやりできるの力しし が、女性というのはあんがい一人旅をしない。たいてい、二人か三人、ないしは四、五人 で、きゃあきゃあしていることが多い。 「あのさあ、ほら、平井、階段のとこの ! 」 「え 1 、やだ、でもわかる、わかる」 っ 、つし」 「やっちゃったのお、えー 「もう、まいっちゃ一つな、まあいい力」 これは京都の清水寺の茶店の縁台で甘酒を飲みながらの四人連れの女性の会話である。 何がなんだかさ「ばりわからない。でもこうい「た数人連れの女性の旅に出くわすことは