女性 - みる会図書館


検索対象: おんなの仕種
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1. おんなの仕種

の人がかかるロ腔外科には女性患者が多く、ここでも並ぶ女性たちをじっくり見つめるは なまあし めになってしまった。八月の暑い時だったので、女性たちには生足 ( ストッキングをはか ない足をそう呼ぶんですって ? ) が多く、待ちながら足の指をせわしなく動かしていた女 性や、虫に刺されたところを爪の先できゅっと押したりしていて、なんとなくルイス・プ ニュエル監督の映画の世界に入ってしまった。 でもばくの知っている女性で、並んでいたところをスカウトされて女優になった人もい るから、やはり女匪にとって並ぶことはおろそかにできないことなんだとおもう。 147

2. おんなの仕種

いろいろとあって ( 何がいろいろとあったんだ ) 、一九七〇年代に入ったあたりから日 本女性の画期的な仕種、仕種の革命、仕種のニューウェープを考えてみると、やつばりあ れだとおもう。 あれとは、髪をかき上げることだ。この仕種を頻繁に見せたのが、タレントの・さ ) ゞ、 6 ノ、一」年ま ん ( 女優、歌もうたっていた ) で、他の女性もそれをしたのかもしれなしカ ・さんの髪かき上げ仕種が一番印象に残っている。話などしながら、額の髪をもの憂 げにかき上げるのだ。 髪をかき上げる仕種の発端としては、あのワンレングス ( 流行りましたね ) というへア スタイルなども考えられる。一九七〇年代以前の女性は、あまり自分の髪に手を触れたり はしなかった。映画を見ていてもあまりそういったシーンはない。溝ロ健二監督の『赤線 地帯』には、髪をかきむしったりしている女性は出てくるが、まあ普通の女性は髪に手を 触れたりはしなかった、とおもう。今は普通の女性でもしきりと髪の毛に手を触れる。 っしょにいて気疲れするほどに髪をかき上げる女性もいる。うっとうしいからするのかも しれないが、なかにはそれを恰好いいとおもってしているような人も見うけられる ( いや、 別にそれが似合えばいいんです。いけないとは言っていません ) 。 114

3. おんなの仕種

まあまあ、ということで、女性がうまく甘えるということはとても難しい。時々女生に 好意を持たれたり ( そんなことないかな ) するが、女性の甘えと男のすねる感じは、さり 気なく可愛くやらないと往々にして失敗に結びつく。女性タレントなどでも、甘えを売り ものにしているのは案外同性に嫌われたりすることが多い 甘える女性を良しとする男は、よほど人のいい男か、中年以上の男になるだろうが、い くら中年以上の男でも調子にのってあまりやりすぎるとこれも失敗に結びつく 法学部が優秀とされている東京の大学の坂巻教授 ( 仮名だが限りなく実名に近い ) と 不倫をしている虎ノ門の商事で働く宮里昌子さん ( 仮名だが限りなく実名に近い。埼玉 県大宮市出身、二十七歳 ) は、甘えというのは、自分のやるべきことをきちんとやった上 に存在するものだと、先日ばくと青山のバーで会った時言っていた。 「宮里さん、今日は教授は ? 」 「ええ、今研究論文のことでシカゴへ行ってるんです」 彼女はよく不倫相手の坂巻教授と、ここ ( 南青山のバ ・アルク 1 ル ) に顔を出してい 「実は、ばくは今度女性の甘えについてある女性誌に書こうとしてるんですが、宮里さん なんか教授に対して、また会社の人なんかに甘えたりしますか ? 」 「それ、もしかして『マリ・クレール』にお書きになるんじゃない ? 」 「あ、そうそう」 る。 164

4. おんなの仕種

はつかねずみ はコートのポケットのなかにあって、それが二十日鼠でも入れているかのようにもそもそ と動いている。無意識に股のあたりを掻いているのだ。いずれにしても、マイナス面をセ クシーに見せるということは、その国の文化の高さと比例するとおもうので、このところ、 日本女性の身体を掻く姿を見ていると、日本も文化度が上がったのかなあと感じたりする のだ。 先日、青山のスパイラル・ホールで友人を待ちながらビールを飲んでいた。二つ前のテ ープルに、ばくに背中を向け、ココア色のスーツを着た髪の長い女性がコーヒーを飲んで いこ。ばくはばんやりと女性のうしろ姿を眺めた。少しして、彼女はびんと背筋を伸ばし、 その瞬間、左手を背中の腰のあたり、つまりスカートのジッパ 1 のあるあたりに突っ込ん だ。痒いのた 彼女は腰椎のあたりを数回指で掻いた。その度に腰がよじれる。顔の見えないのが残念 たったが、また見えないからよかったとも言える。女性の、身体を掻く行為というのも案 外いいものだと改めておもった。 ひざ 西武池袋線の車内で、ちょっと大人びた顔の女子高生が、膝まで股をびったり合わせ、 その下はハの字に開いて白いル 1 ズソックスに指を入れて足首を掻いている姿も見たこと がある。セーラー服を着て、髪はポニーテールにしていたが、その行為にはしつかりとし た女性の姿があった。 女性が身体を掻くという行為には、細くしなやかな指先と、それを待ち受ける止み難い よ、つつし

5. おんなの仕種

人から頼まれものをすることは、まあたいていの女性はしたことがあるとおもう。俗に 一一一一口うセクハラ ( 一九八七年発行の『コンサイス外来語辞典』にはまだこの言葉は出ていな い ) などもあって、会社でも、あんまり女子社員につまらない仕事を押しつけることはで きなくなっているが、ここではそういったことを言おうとしているわけではない。 ちなみに私事で恐縮だが、ばくは広告代理店と出版社で働いていたことがあるが、女子 社員にコピーやらお茶をいれてほしいなどと頼んだことは一度もなかった ( 当たり前のこ とだが、当時はそうおもっていない人が多かった ) 。つまらないことを人に頼むことが嫌い だったのだ。などと書いているか、もちろんここでそういった自分を偉かったな風に書こ うとしているわけでもない 時々、タクシーなどに乗っていて、あるいは舗道を歩いていて、郵便ポストに郵便を出 しに来ている女性を見かけることがある。彼女たちは私服であったり、会社の事務服を着 ていたりする。一人の時もあるし、同じ歳くらいの ( おそらく会社の同僚だろう ) 二人連 れだったりする時もある。 郵便を出しに来る女生。ばくは意外とそういった風情に感じてしまうところがある。特 に会社の事務服 ( これは制服と言った方が正しいのかな ) を着ている姿に弱い。

6. おんなの仕種

高校生だった頃、親しくしていた大学生の女友だちから「笑いの研究をしている」と聞 かされ驚いたことがあった。笑うことをどうやって研究するのかとおもったが、 , 彼女のそ のひと言がばくのその後の生き方に大きな影響を与えたことは確かだった。人の笑いがと ても気になるようになった。 もうだいぶ前に読んだ本だが、あの三島由紀夫が、自分の欠点として「不必要な高笑い」 と書いていた。おそらくこれは三島氏の正直な気持ちだろうとおもう。 ここは女の仕種について書くべージなので、女性の笑いに絞りたい。女の人でも、三島 由紀夫同様不必要な笑いをする人は多い。そんな女性が電話しているのを聞いていると、 ひと一一一一口、ひと言会話のたびに凄まじい高笑いが起る。おそらく本人はあまり気がついてい ないのだろうが何事が起ったのかとおもうことさえある。どうも電話の話を聞いていると、 相手はさほど面白いことを言っているようにもおもえない。 これは商事に勤めている友人の高木昭夫から聞いた話だ。 「凄いんですよ。三宅という女子社員がいましてね。電話でとにかく凄いんですよ」 彼が言う凄いとは、三宅女子社員の高笑いのことだ。彼の話を再現してみる。商事総 務課、三宅咲代さん三十七歳 ) の電話だ。

7. おんなの仕種

言っておくが、噛んでいる人にはふしぎと男はいない。たいてい女性の方がそれをして いる。もしかしたら、これは洋服のせいではないだろうかと、ばくは勝手に思ったりして いるのだが : 何故かというと、ズボンをはいている女性より、スカートをはいている女性の方が噛ん でいる場合が多いのだ。 あ、わたしも実は噛んでいますなんて自覚された方はぜひ「噛む女性の会」などを作っ てください。ばくは噛んでいる女性を嫌いではありません。このごろは洋服なので、女性 が着物のたもとを噛んで泣く姿など見なくなったけれど、女性はたえず何かを噛んで生き ているのかもしれませんね。そういえば桃井かおりさん主演で『噛む女』などという映画 もありました。 む 141

8. おんなの仕種

時々、女の人に肩のあたりを叩かれることがある。 「やだあ、もう」 こんな時、女性の手が肩のあたりを軽くばんと叩く。なかには突いたりする女性もいる。 ばくは経験はないが背中をおもいっきり叩く女性もいるらしい。ばきーんとやられ、一瞬 息が止まりそのまま昇天した人もいるとか ( 嘘にきまっている ) 。 もちろん、このような行為をしない女性もいる。手が半分まで出かかって、その出かか った指先の、多少熱を含んだ空気がじんわりと肩にったわってくる時もある。これは恋心 と取っていし と、まあこれはばくの勝手な推測です。 「もう、ほんとにひどいんだから」 と、じっと目で見つめる女性もいる。つまり目で叩くわけだ。 「イケズやなあ」 こんな京都弁でじっと見つめられるとやばい。 普通の女性が会話中に男の肩をほんと叩いたりする動作をするようになったのは、ばく の調査によるとだいたい一九七二 ( 昭和四十七 ) 年頃まで遡る。あえて普通の女性と書い たのは、 ) しわゆる水商売と呼ばれる業界の女性たちの間では幕末あたりから見られること

9. おんなの仕種

よくある。 それで一人旅の女性だが、こっちのスタイルはあんがい少ない。やはり女性ということ で、人通りの少ないところなどは危険がともなう。一人旅の男を襲う場合はたいていお金 が目当てだろうが、女性を襲う場合にはそれだけではないから恐い。おどかすわけではな いか、さらわれ ( このごろはあまり使われなくなった一言葉だ ) たりすることもあるという。 今や伝説的な話となって、ホラー的な興味が加わり語り伝えられている、ヨーロッパ一 人旅の若い女性失踪事件がある。パリ で失踪した娘を両親が捜しに現地に向ったところ、 スペインで発見されたというが、両腕と両脚を切断され見せ物にされていたというのだ。 恐い話だねえ。 もちろんこんな話はデマに違いないとばくはおもっていた。ところが昨年のある日、 ーで飲んでいた時、何かの話の流れで、また伝説のヨーロッパ女性失踪事件の話になった。 「あっ、それヨシコ ( 仮名 ) ちゃんのことよ」 そう言ったのは、よくこのバーでいっしょになる某会社社長の奥さんだった。その発見 された娘さんは両親と共に帰国、今は神奈川県にある家で保護されているとのことだった。 ヨシコちゃんは、その某会社社長夫人の高校の同級生だという。驚いたねえ。これがほん との話だったなんて。 話がまたそれてしまった。一人旅の女性のこと。 この一人旅で女性が一番に陥ってしまうものに自己陶酔がある。女性は男性よりも自己 一人旅にて

10. おんなの仕種

先日、青山のレストランでランチを食べていて、何気なく前のほうを見ると、女性が一 人で噛んでいた。食事をするときに食物を噛むのは当り前だが、その女性は遠くを見なが ら、歯をぎゅっと見えるようにして噛みしめていた。もしかしたら無意識だったかもしれ ないが、何かばんやりと考えごとをするでもなくしているとき、そんな風に噛んでしまう のだろう。たとえば無意識に手をぎゅっと握りしめたりするのと同じようにだ。 それであれこれ思い出すのだが、そういえば、ばくの小学校三年の時の担任だった坂木 奈美代先生も、試験の時など顔を上げると、歯をぎゅっと噛み合わせていたつけ。 そんなこんなで、このごろのばくは噛む女性というのにすっかり興味を持ってしまい 電車のなかなどでつい気にかけてしまうのだが、これがあんがいいるのだ。本人は気がっ かないらしいのだが、座っている女性でも、立っている女性でも、歯をがちっと噛み合わ せている女性が多い。歯を噛み合わせるのは当り前なのだが、それを見せているのだ。唇 を心持ち ( 上下五ミリくらい ) 開き、噛み合わせた歯を見せている。それとなく見ている と、その歯に力を込めているようにも見える。女の人には夜歯ぎしりをする人が多いとい うが、もしかしたら噛むことは女性の本能なのかもしれないとおもったりしているこのご ろのばくである。 1 5 8