待っ - みる会図書館


検索対象: 咲き乱れしは百合の花
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1. 咲き乱れしは百合の花

はつ、まさかさやかちゃんが言うように、告白だったて言ったほうがいいのかな。それとも、こ、 りして。だったらどうしよう。言われる前に言わなくちゃ。ちゃったほうがいいのかな。 こ、告白 ? まだ心の準備ができてないよ。 私は視聴覚室の前で大きく深呼吸をして、勢い良く扉 あー、心臓がバクバクしてきた。 を開けた。 「あのつ、鈴先輩」 「あ、鈴先輩つ」 「は、はひっ」 入るとすぐに、郁美ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。 突然、郁美ちゃんがアップでせまってきて、心臓がロ その笑顔を見るだけで、私の胸の鼓動は早くなってしま から飛び出そうになってしまった。 う。私はもう、郁美ちゃんの虜になってしまっていた。 「明日のことなんですけど」 「ま、待った ? 」 平静を装うとするけど、どうしても意識してあがって「明日 ? ああ、バスケの試合だよね ? 」 「はい。鈴先輩、見に来ていただけますよね」 しまう。 「うん、もちろん」 「いえ、私もさっき来たところですから」 「それでですね。私、試合頑張りますからっ」 「そ , つ」 「わわわっ」 「それで、お話というのはなんでしよう」 いきなり、郁美ちゃんは私の手を握り締めた。いつに 「ふえワ・」 なく真剣、というよりはテンパった感じで口調が早く 「さやか先輩から、鈴先輩がここで何か話があると聞い なっている。 て来たのですが」 「試合には絶対勝ちます。チームメイトの誰よりも活躍 してみせますから ! 」 さ、さやかちゃんに騙された。 「一つ、 , つん」 きっとそうだ。私がなかなか告白しようとしないから、 「そうしたら、鈴先輩に伝えたいことがあります」 お膳立てのつもりなのだろう。 郁美ちゃんの手に力がこもる。 「え、えーと」 うわっ、これはマズイ。郁美ちゃん告白するつもりだ。 どうしよう。素直に、これはさやかちゃんの陰謀だっ こ、告白し

2. 咲き乱れしは百合の花

まうかもしれない。 ないし」 「こ、告白はされてないの。ただ好きだっていわれただ 「なによ、それじや私がその人に迷惑かけるみたいじゃ けで、付き合って欲しいとかそういうのはなかったから」ない」 慌てて手を振って否定してみせるが、さやかちゃんが さやかちゃんは頬を膨らませて私を睨んだ。 そんなことで引き下がるはずもなかった。 「だって名前教えたら、さやかちゃん絶対覗きにいった 「いやいやいや、好きだって言われたんだから告白で りするでしよう」 しよう。で、好きだって言われて終わりなの ? その後「はつはつは。まあね」 の展開は ? 鈴は返事しなかったの ? っていうか、相 やつばり言わないで正解だ。 手は誰なの ? 」 「それじゃあさ鈴、名前を聞かない代わりに、私の質問 うう、やつばりさやかちゃんに相談したのは間違い に一つ答えてもらっていいかな」 だったかも。なんだか相談にのってるというよりは、自 「え ? は、話せることだったら」 分が楽しんでいるだけのように見える。 何を聞かれるのか怖いけど、郁美ちゃんの名前以外の このまま話さなかったら、スッポンのようにいつまでことなら多分問題はないはずだ。 も食いついてくるに違いない。しかたない、 もう少し話 「それでいいわ。ずばり、好きだっていわれたのは昨日 したほうがよさそうだ。 のことね ? 」 「好きって言われたけど、言ったその人も私も心の準備「そ、そうだけど」 が出来てなくて、返事はいらないし、また今度改めて告 「なるほどね」 白するって言われたの」 さやかちゃんは、意味ありげに微笑を浮かべた。一体 「ふーん、急展開だったわけね。で、相手は ? 私の知っなんだというのだろう。もしかして、答えちゃまずかっ てる人なの ? 」 たのだろうか。さやかちゃんは色々と鋭いところがある さやかちゃんは、どうしてもそこにこだわりたいよう から、もっと慎重にしないとダメだったかも。 ここはさっさと話を進めたほうがよさそうだ。 「相手の名前は言えないの。その人に迷惑かかるといけ 「そんなことより、私どうしたらいいんだろう」

3. 咲き乱れしは百合の花

るというだけで、一度も喋ったこともない。 だけど、私は柚子のことがずっと前から気になってい 柚子は今時の女子高生とは少し違っていた。バスを 待っている間、本を読むでもなく、携帯電話をいじるで ほんの少し肌寒くなってきた十月の初め。真っ赤に染もなく、お行儀よく背筋をピンと伸ばして立って待って まる街路樹を横目で見ながら、私は歩く速度を上げた。 いるのだ。その落ち着いた空気が私は好きだった。隣に ハス停に立っ柚子の姿を見つけて、思わず駆け寄りた いるだけで私も清々しい気分になれた。 くなるのをぐっとこらえる。それでも早足になってしま何か武道でもやっていそうな雰囲気だが、それらしい うあたり、子供のようだなあと思ってしまう。 道具を持っているのを見たことがないので実際のところ 少しだけ上がった息を悟れらないように我漫しながら、はどうだかわからない。 いつものように柚子の隣に並んでバスを待つ。 毎朝私よりどれくらい早く来ているのかも知らない。 柚子の隣は私の定位置。もう二年以上も続いてる習慣どこらへんに住んでいるのか、好きなものは何なのか、 私がいつも柚子の隣にいることをどう思っているのかな いっからかは忘れてしまったが、気が付いたときにはんてことも当然知らないのだ。 柚子と並んでバスを待つようになっていた。 極めつけは柚子の顔も知らなかったりする。 一緒に待っているといっても、実は知り合いというわ毎朝隣にいてそれはないだろうと思うかもしれないが、 けではなかったりする。名前は知っているが本人に聞ゝ 私自身の責任もあって未だに柚子の素顔を知らずにいる。 たわけではない。まったくもって見ず知らずの他人で、 柚子はバスを待っている間、ほとんど顔を動かす事を ただ単に柚子の友達と思われる子がそう呼んでいるのをしない。頬まで伸びたカラスの羽のような横髪が彼女の 聞いて知っただけだ。 顔を覆い隠してしまっていて、ちょっと目線を動かすく なにせ柚子は女子高生で私は O と、どこにも接点はらいではうかがい知ることはできなかった。私は私で意 ありはしないのだ。このバス停を同じ時間に利用してい識している事を悟られるのも嫌なので、決して柚子のほ パ入吉〒の少す

4. 咲き乱れしは百合の花

「ちょっと見せたいものがあるのよ」 車は少し街の中心から外れ、山の方へ向かっているよ そういうと、おねーさんは路上に止めてあった車のド うでした。 アを開けました。 「よかったです・ 、私おねーさんに嫌われたかと思い 「えワ・」 ました」 「さあ、乗って乗って」 安心すると、また涙がでそうになってしまいました。 「えっと : : 知らない人の車のドアを開けてしまうのは 「優のこと嫌いに ? そんなことあるわけないでしよ」 いけないと思うのですか」 「だって、夏休みになってから全然会えなくなっちゃっ 泥棒は立派な犯罪です。 たし、電話しても繋がらなくなっていたし。もう、おねー 「なーに寝ぼけたこといってるのよ。これは私の車よ。 さんとお話しもできないんだと思ったら、胸に大きな穴 正確には父親のだけどね」 か開いた気分になって、悲しくて悲しくて : : : 」 おねーさんは、私のオデコを指で軽く弾きました。 「あはは、大げさだねえ」 「はうつ、そうだったんですか」 「大げさなんかじゃありません。私はホントに、ホント 私はそれならと、車に乗り込みました。 おねーさんが運転席に座るのを待って、私は気になっ 私は我漫できなくなって、とうとう大声で泣き出して ていたことを尋ねました。 しまいました。 「おねーさん、車の免許持っていたんですね」 「ああああ、ごめんごめん、泣かないで。連絡できなく 「んー持っていたというか、取ったというか。実は昨日て悪かったと思っているわ。合宿所に着いたらとんでも 取ったばかりなんだ」 ない山奥で電波が届いてなかったのよ。おまけに携帯の おねーさんはエンジンをかけると、ゆっくりと車を動電池も切れちゃって、優の電話番号もわからなくなっ かし始めました。 ちゃってね。それに驚かせたかったしね。でも、私免許 「そうなんですか ? 」 取るっていってなかったつけ ? 」 「いってましたか : 「だから、優に連絡できなかった二週間くらいは、免許 取るための合宿にいってたの」 「確かいったと思一つけど」

5. 咲き乱れしは百合の花

ていた。 それに、さやかちゃんなら、きっといい解決方法を教 「ど、どうしよう」 えてくれるに違いない 突然抱えることになってしまった難題に、知恵熱を出「ちょっと、何があったのよ。私でよければ話くらいは してしまいそうだった。 聞くけど ? 」 ほら、さやかちゃんは優しい スカートを掴んだ手を、ビシビシと容赦なく叩かれ引 「あーもうつ、どうしたらいいんだろう」 き剥がされてしまったけれど・ 翌日、学校に着くなり、私は机に突っ伏した。 私はさやかちゃんが前の席に座るのを待ってから、顔 昨日、郁美ちゃんが帰ってから、ずっと考え続けてゝ しを寄せ耳元に話しかけた。 た。御飯を食べていても、お風呂に人っていても、べッ 「えっと、あ、あのね、昨日ある人が私のことを好きだっ ドの中でも。おかげでちょっと寝不足気味だ。 ていうのが判明したんだけど、私どうしたらいいかわか 「どうしたどうした。いつも能天気な鈴が珍しくお悩 らなくって : : : 」 み ? 」 一応、郁美ちゃんの名前は伏せて話すことにした。 頭の上から降ってきた聞き覚えのある声に顔を上げる 「判明した ? 何それ、誰かから教えてもらったの ? 」 と、親友のさやかちゃんが全然心配してなさそうな顔で 私のハッキリとしない話に、さやかちゃんは怪訝そう 見下ろしていた。 な顔で尋ね返してきた。 一番相談したい相手が現われ、私はさっそく助けを求「違うの。本人から聞いたの」 めることにした。 「 : : : それって、好きだって言われたってこと ? 」 「うー、と一つしょー」 コつ、、つん」 私はさやかちゃんのスカートを、ひしっと掴んで泣き 「なによ、告白されたってことじゃないつ。相手は誰な ついた。郁美ちゃんとのことを他人に話していいものかのよ」 ゝュ丿よゝ。 迷ったけれど、一人で悩んでいると絶対解決できそうに さやかちゃんの目が輝き出して なかった。 きた。このままでは、郁美ちゃんの名前を吐かされてし

6. 咲き乱れしは百合の花

ぶぶつー 「悪かったって。郁美ちゃんもゴメンね」 せつかくのお茶が口から勢い良く噴出していく。霧状 なぜか、郁美ちゃんには手を合わせて謝るさやかちゃ になったお茶は、目の前こ 。いた郁美ちゃんに降り注いだ。んだった。 「ゲホッ、ご、ごめん。ケフケフッ」 「いえ、気にしないで下さい。たいした事ありませんか お茶を拭かないと制服がシミになっちゃう。そう思っ てハンカチを探すが、なかなか見つからない。 「郁美ちゃん。上級生だからって遠慮しないで、思いっ 「鈴先輩、私は大丈夫ですから、鈴先輩がまず落ち着 いきりさやかちゃんを怒っていいんだよ」 てください」 「いえ、ほんとに大丈夫です。これくらいなら、家です 「つ、、つん」 ぐ落とせます。予備の制服もありますし」 私の肩を掴み、につこりと微笑むその姿はまるで天使 郁美ちゃんのセーラーカラーには、お茶で出来てし のよう。今度は自分のコップの中のお茶を飲み干し、よまった点々のシミが薄っすらとできていた。すぐに落と うやくスッキリできた。 せると言うけれど、跡が残ったりしないかちょっと心配 「うーん、郁美ちゃんは大人だねえ」 「さやかちゃんっ ! 」 「郁美ちゃんはそれよりも、鈴に意識してもらえたこと ようやく鞄の中から探し当てたハンカチで、郁美ちゃのほうが嬉しいわよねえ」 んにかかったお茶を拭きながら、さやかちゃんを睨みつ 「そう・ : ・ : ですね」 ける。 さやかちゃんの言葉に郁美ちゃんは少し顔を赤らめ、 こうなった原因を作った張本人は、何事もなかったようつむいてしまった。そんな顔されると、こっちまで恥 うに昼食を再開していた。 ずかしくなってしま、つじゃないか 「ゴメン、ゴメン。そんなに驚くとは思わなかったのよ」 どうやら、郁美ちゃんはポーカーフェイスを装ってい さやかちゃんは、たいして悪びれもせず謝った。 ただけで、意識していないというわけではなかったよう 「もうつ、苦しかったんだからね。それに、郁美ちゃんだ。 にも迷惑かかってるんだから ! 」 「しつかし、間接キスくらいで騒ぐなんて、あんたは小

7. 咲き乱れしは百合の花

ほんのわずかな角度。顔を覗かせるほどではないにしのうちに本当にやってしまっていたなんて。自分を抑え ても、このようなことは初めてだった。 ることができないほどに、意識が混濁していたようだ。 なんだろう、今日はいつもと違う気がした。今なら柚ダメだ、こんな失態を演じてしまうなんて、家で大人 子とお近づきになるチャンスかもしれない。 しく寝ていればよかった。 たわいのない世間話をしながら、正面から見つめ合う柚子は突然こんなことをされても嫌な顔をしていな ことが出来るかもしれない かった。じっと私のすることに抵抗もせず、身を任せて いるようだった。 こんなにも近くにいるのだ、ちょっと手を伸ばすだけ でそれは現実のものになる。そう、こうやって優しく私 その視線に射抜かれて、私の鼓動は早くなっていく。 のほうに振り向かせれば、見開かれた大きな目が、月 それにしてもなんて不思議な目で見るのだろう。 な唇が、寒さで赤く染まった頬が見れる。 感情がまったく読み取ることが出来ない。怒ってはい なんて可愛らしいのだろう。ようやく夢が現実になつないと思うけれど、それ以上のこともわからない。 たのだ。 ・つ、と」 私ま . そんなことよりも何か言わなくては。この状況で柚子 私は . におかしいと思われない言い訳を。 「えっと・ : か、髪の毛に埃がついてて」 なんてべタないい訳なのだろう。しかも絶対におかし でも頭の回転が鈍っていて、これ以上気の利いた言 なぜ私は柚子の顔に触ってこちらを向かせているのだ ろう。一体何がどうなったらこうなるのか理解できない。 い訳は無理だった。 ぎゃああああだとか、うわあああだとかいう叫びが喉私の言葉を聞いても柚子は変わらず身動きすることは から飛び出しそうになる。 なかった。すさまじいまでの緊張が私を襲う。私は息を 実際に声にでなかったのは立派だったと思う。 するのも忘れ、柚子が何かリアクションをするのをじっ と待った。 柚子に触れたまま、私は凍り付いてしまった。 こうできれ、ま 冫いいなと思っていただけなのに、無意識体調不良と緊張のあまり、軽くめまいを覚え、手のひ そこで叫びだしそうになった。

8. 咲き乱れしは百合の花

翌日、私は朝一番でさやかちゃんに相談してみた。す「何が ? 」 ると、さやかちゃんはあきれたような表情で眉間のあた 「その、親に紹介しないといけないのかなあとか、卒業 りを押さえた。 した後も付き合ったままでいいのかなあとか、もっと もっと年をとっても、一緒にいられるのかなあとか」 「鈴う、あんたほんとはわかってるんでしょ ? 」 「わかってるって ? 」 「ぶつ」 「自分の気持ちょ、き・も・ち」 さやかちゃんは、私の話を聞くなり吹き出した。こっ ちは真剣だっていうのに、さやかちゃんはとっても失礼 「鈴も、郁美ちゃんのこと好きなんでしよ。郁美ちゃんな人だった。 「あっはははは。あんた、そんな先のことまで考えてた が鈴を好きっていう気持ちと同じ好きね。違う ? 」 「ちが : : : わないかもしれない・ の ? あーはつはつはつはつはっ ! 」 そう、私だってもう自分の気持ちに気がついていた。 さやかちゃんは、とうとうお腹を抱えて笑い出してし でも、気がついてないフリをしていた。だって、好きにまった。 なってはいけないのだから。この気持ちには、気がつい 「他にもいつばいあるんだよお」 てはいけないのだから。 「わかった、わかった。ぶぶつ」 郁美ちゃんと一緒にいるのは楽しくて、週末のお誘い さやかちゃんは目に涙が浮かぶほど笑いながら、私の は嬉しくて、姿を見つけるたび胸は高鳴った。ただそれ肩を強く何回も叩いた だけ。それ以上の感情は封じ込めてきた。持たないよう 「 , も , つつ」 にしてきた。 「大丈夫だって。鈴が本気で考えてるってことは、わかっ それでよかったはずなのに たから」 もう、我慢するのも限界に近い 「ほんとにいワ・」 自分の気持ちに、素直になっていいのかな。 とてもじゃないけど信じられない。 「うん。だけどね、郁美ちゃんを見くびっちゃいけない 「ねえ、さやかちゃん。もし、付き合うことになったと したら、どうしたらいいのかな」

9. 咲き乱れしは百合の花

違一つってどうい一つことだろう。ま、まさか、からかっ 同士のお出かけで、毎回奢ったりしないでしょ ? 」 ていただけとか。それとも、今まで奢ってもらった分は 「一つーん」 私の言葉に郁美ちゃんは腕を組み、目を閉じて考え込借金になっていて、後から利子をつけて払え、とか言わ れるんだろうか。ちょっと心臓がドキドキしてきた。 んでしまった。少し間を置いて、郁美ちゃんは上目遣い 「私は、先輩とのただのお出かけじゃなくてですね、そ にこちらを見ると口を開いた。 の、優しくて大好きな先輩との楽しいデートのつもり 「鈴先輩、何も気がついてないです ? 」 だったんです。デートなんですから、奢ったりしても別 「何かワ・」 に変じゃないですよね」 郁美ちゃんの不思議な言葉に、私は聞き返すしかない。 「なるほど」 気がつくって、一体何のことだろう。 それなら納得だ。デートなら代金は男性が出すことも 「鈴先輩の、そういうところが魅力でもあるんですけど、 あるだろう。この場合は郁美ちゃんが男性の役割をして はっきり一一一口ったほうがいいですか ? 」 るとい , っことか 「もちろん」 うんうん、一アートならそ , ついっこともありか・ 何をいうつもりかは知らないけれど、聞かずにいられ ん ? デート ? るわけがない。 「つて、ん 「えーとですね。先輩は多分、後輩と遊びに行っている ちょっと待って、デートって一体 : だけって感じだと思うんですけど」 私の脳がようやく事体を把握して、私は驚きのあまり 「そうね。可愛い後輩との楽しいお出かけだわ」 勢いよく立ち上がり大声を出してしまった。 それ以外に、何があるというのだろう。 「あっ」 「ありがとうございます。そう一一一口っていただけると嬉し そんな私を見て、郁美ちゃんがやっちゃったといった いです。でも、私は違うんです」 感じでロを大きく開けた。 「えワ・」 丁寧にお辞儀をする郁美ちゃんに、私は疑問の声をあ「あっ ? 」 「お茶、こぼれてます」 ずる。

10. 咲き乱れしは百合の花

もしかしてー おねーさんは少し離れたところで、笑顔で手を振って いました。 急いで画面を見ると、おねーさんの名前が光っていま した。 「おねーさんっ ! 」 おねーさんだ ! おねーさんです。誰よりも、何より やっと会えたのです。今まで悩んでいたことも、迷っ も待っていた人からの電話でした。 ていたことも、全てどこかへいってしまいました。 震える手で通話ボタンを押すと、その声を聞いただけ 私はおねーさんの下へ一目散に駆け寄り、その胸に飛 で心が激しく揺り動かされてしまうおねーさんの懐かしび込みました。 い声がしました。 「おねーさあんっ・ ・こっ / 、つ」 「優、元気だった ? 」 「よしよし。寂しい思いさせちゃった ? ごめんね」 「おねーさんつ」 おねーさんはやさしく抱きしめてくれました。 泣き声の私とは対照的に、おねーさんは少し興奮した 「いいんです」 ような声をしていました。 本当は、おねーさんに色々いいたかった。おねーさん 「今から会いたいんだけど」 に会えなくて、どれだけ辛かったか伝えたかった。 「私も会いたいです ! でも今塾だから、少し待ってい ても、も , ついし こうしておねーさんにもう一度会う ことができたから、抱きしめてもらえたから。 てください。今から帰るところなんです」 涙は止まらないけれど、嬉しい気持ちでいつばいでし 「あー実は知ってる。今塾の目の前にいるんだわ」 「、んワ・」 私は教室を飛び出し、階段を駆け下りました。 「それじや行きましよ、つか」 正面玄関の自動ドアが開くのを待つのももどかしい。 おねーさんは私の肩を抱き、どこかへ連れて行こうと 少し開いたドアの隙間をすり抜け、急いで外に出ましします。 「え ? どこへです ? 」 おねーさんとなら、どこへでも付いていきますが、行 おねーさんの声が聞こえました。 き先くらいは聞いておきたいものです。 第レ′