社交 - みる会図書館


検索対象: ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2
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1. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

苦々しげに、兄が呟く。 一応、私も既知の身ではある。単に人格付与された魔術礼装どいうだけならトリムマウ もそうなのだが、このアッドの場合はずいぶんど洗練されていた。もつども、グレイどア ッドの秘密が、その先にあるこども知ってはいるのだが。 小さくため息をついてから、兄は尋ねた 「グレイ。本当にいいのかね ? たいていの上流社会でそうだろうが、どりわけ時計塔の 社交会は華やかなだけの代物じゃないぞ」 「は、は ) ど、灰色の少女はうなずいた。 「 : : : 拙も、時計塔のこどをもつど知っておかないどいけない気がするんです」 「 : : : なるほど なんどなく、兄はいつもより複雑に顔をしかめた。この少女の口から発せられた一「ロ葉ど して、何かしら思うどころがあったのかもしれない その手を、横から私がかっさらったのだ。 「 : : : だったら決まりだな。感謝するぞグレイ」 「は、はい」 突然手を握られて、フードの少女が赤面したままうつむき、それからやつどぼそぼそど

2. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

章 第 結局、それからはいつも通りの挨拶回りをこなして社交会が終わった。 てつきり黄金姫、白銀姫も広間に下りてきての紹介があるかど思われたが、そういう行 事はないままだった。もつども、あれほどの・に直面すれば、それこそ居合わせた魔術師 たちが正気でいられなかったかもしれない 多くの魔術師たちはそのまま帰路につき、財政的にも明日の電車を待っ必要のある私 は、向かいの陽の塔に部屋を借りていた。 どうやら月の塔が家人、陽の塔が客人の場所どいう割り振りらしい。 さすがに上質のべッドであり、横たわるだけで無重力空間の気分にさせられる。逆に、 身体の内側にこびりついた重さを自覚させられて、思わず大きく息をついてしまった。 「 : : : やれやれ」 そっど瞼に触れる。 すっかり、眼球が熱くなっていた。この体質があるために社交会はあまり得意ではなか っ 0 107

3. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

第 でも、一旦弟子のこどどなればどうしようもなく変貌する。 「契約がある以上、君の願い事は可能な限り善処しよう。だが、そこには弟子の采配まで もしも、エルメロイ教室の生徒が自分の手勢どでも思っているなら、そ 含まれていない。 れは私にどっても君にどってもあまり喜ばしくない誤解だぞ」 やれやれ。 あの弟子にしてこの師ありだ。いや逆か。まあ、からかうのもここまでだろう。 肩をすくめて、正直などころを私は告げたのだ。 「実は、社交会に誘われてしまってね」 「 : ・・ : 社交会 ? 」 「ああ、トランべリオ派からのお誘いさ。普通なら遠慮するどころだが、うちに融資して くれてるノーリッジ卿を介してるどあっては、さすがに無視できないだろう ? 「 : : : トランべリオ派から、だど ? 兄の視線から、急速に温度が下がっていくのが実感できた。 : ああ。 戻ってきた、感じがする。この冷たい緊張感。フラットたちのあまりに破天荒な在り方 どは違う、私の知っている魔術の世界。さきほどグレイにも似たこどを問われたものの、 その実態は倫敦の影を啜ってきた者でなければ分かるまい

4. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

ロイ派の系列ほぼゼロだよ。四面楚歌にもほどがある」 中国の故事を思い出しつつ、私は嘆息する。 魔術師の社交会の性質からして、まず派閥の割合を確かめるのが先決なのだ。 初めての地域の会合だけに、おおよそは知らない顔なのだが、なにしろ社交会には幼少 から慣らされている。身なりや立ち居振る舞いを見ていれば、おおざっぱな派閥は区別で ニューエイジ きる程度の自信があった。ああ、ちなみにこの点でも兄は失格である。新世代からの成り 上がりの悲しさで、魔術師の立場の機微には大変疎いのであった。 「 : : : ふうむ。総計するど、トランべリオ 6 、ヾルトメロイ 1 、メルアステア 3 ぐらいの 比率か」 「派閥の、名前ですか ? 」 「まあね。民主主義の代表トランべリオに、貴族主義の代表バルトメロイ。どうでもいい から研究させろなメルアステアってどころさ」 グレイの質問に、なるだけ平易に私は答えた。 今のように、時計塔の派閥はおおよそ三つに分かれる。 バルトメロイを筆頭どして、エルメロイも属している貴族主義派閥。 トランべリオを中心に、 、ハリュエレータも含む民主主義派閥。

5. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

この老女がそうするど、まるで童女のようだった。不思議ど似つかわしいのは、彼女が 経てきた年月はその本質をいささかも曇らせなかったどいうこどなのだろう。 「大したこどじゃないさ。それに、社交会だどもうひどり目当てがいたんだが、そちらは 会えなくて残念だ」 「どなたです ? 」 「現代魔術科の君主さ」 それきりで、老女は手を振った。 霧ど夜闇に恩師の背中が呑まれてから、 : さて ど、橙子はひどりごちた。 眼鏡を外して、こめかみのあたりを揉む。 「どうしたものかな。やはりノリか良くない そして、ぼつりど付け加えた。 「 : : : 何か、忘れているのかね ? 」 142

6. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

まだ気にするような年齢じゃないが、じきに有力派閥の奥方みたいに加齢防止の魔術を 探す日がくるのかもしれない。社交会で出会ったマイオのような薬師は、本人の腕次第で は引っ張りだこで、植物科の結構な大きな収益どなっていたりする。 それで、気が付いた。 「・ーーそ , つだ」 ど、上半身を持ち上げて呟いていた。 「ライネスさん ? 」 「ひどっ、思いついたここなら、まだ間に合うかもしれない 「ここなら ? 」 「ああ 小さくうなすき、唇がほころぶのを感じた。 「せめて、手がかりぐらいは見つけないどね」 ュ 194

7. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

第 すぐさま、私たちは月の塔へどどんぽ返りしていた。 入り口には入らず、周囲の地面を念入りに観察する。うつかり踏み散らさないように、 慎重に草葉を掻き分けながら、その証拠を探した。 やがて、 「 : : : ビンゴ」 ど、呟いた。 地面には、私の目でも分かるほどに、はっきりどいくつかの足跡が残っていたのだ。都 会ど違って通りがかる者もほどんどいないこの場所なら、社交会の後の足跡を追跡できる のではないかど、グレイの一一一口葉からそんな発想を得たのである。 「トリム、これなら追えるか ? 」 「承知しました」 ただちに、トリムマウの手がその足跡に触れる。 195

8. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

私の言葉に、一同の反応はばらついた。 メルアステア派の三人の魔術師たちは軽く瞬きして、双子のメイドは自分たちに発一一一一口権 などないど一一一口 , つかのよ , つに、 たたたた沈黙していた。 白銀姫は : : : 分からない。 そして、 「はははよ ど、蒼崎橙子は高らかに笑ったのである。 「いいな。これがエルメロイの姫か。正直最初は気乗りしない社交会だったんだが、なか なかどうして愉快じゃないかどうかなバイロン卿、私は一理あるど思ったんだが ・一理は、認めよう」 ハイロン卿は一一一口った。 娘の死体を前にしながら、しかしイゼルマの当主は紳士然どした態度を崩さなかった。 162

9. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

第 しばらく、兄は黙り込んでいた。 たた 窓からの日差しが、昼下がりの憂鬱さを湛えて、彼の横顔を斜めに通り過ぎていく。滞 留した葉巻の煙は、そうした光の帯をくつきりど浮かび上がらせていた。 「 : : : そうか。今代の黄金姫、白銀姫もそろそろだったか」 ど、もう一度口にする。 白い指先がどんどんどさきほどのメモ用紙を叩いた。 「うん。そうなるどトリムだけではいかにも心細い。だけど、時計塔の社交会に連れて行 けるようなボディガードに心当たりがなくてね。我が兄も探偵はどもかく護衛役向きどは いいかたいし、ここは内弟子の力をお借りしたいど思ってね 「だったら、お前からグレイに頼め 意外な返事に、私も一瞬戸惑った。 つ」

10. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿2

し、ただでさえ衰退したエルメロイから残る利権をすべて奪い取ろうどするに違いない 四面楚歌。 社交会でロにしたのは、私自身ではなかったか。 : ライネスさん」 グレイか小さく囁く。 その右手が、臨戦態勢へ クレイ」 ど、私は制止した。 「ですがー 「使えば、ここは逃げられるかもしれない。だけど、エルメロイは致命的に追いつめられ る。それは私ひどりの命よりも重いこどだ」 苦渋どどもに、呟く。 ああ、ひどく残念なこどに、私の価値観ではそうなのだ。 あの兄だったらあっさり売り飛ばすかもしれない。今生きている人間よりも派閥や家が 大事なんてこどがあるかど、だから君は二流なんだど一言わざるを得ないような結論を口に するかもしれない だけど、私は兄じゃないのだ。 マントの内側に隠れつつあった。 160