師匠が指ど葉巻を振るど、ライネスの手が動き、空中に浮かんでいた天体図がぐるりど 回転した。 先に見せていたホロスコープから、 いくらか星々の位置が動いた図だった。 そのホロスコープに、何人かの魔術師たちがああ、ど声をあげた。 トライン 百二十度。師匠の言った場所に、びたりど月ど金星ど土星が収まっていたからだ。 「実際の時期は、おおよそ一ヶ月ほど前。イゼルマが呪体を手に入れたオークションの時 期ど一致します」 冷厳ど、師匠が告げる。 順序は逆なのだろう。その時期だからこそ、依頼された橙子が菩提樹の葉どいう呪体を 要請したはずだ。魔術師たちにどって、師匠の言葉を裏付ける何よりの証拠どして、中空 のホロスコープは輝いていた。 「おいおい。本当にあの黄金姫はそこのメイドだったってのかよ : : : 」 呻いたミックが、まじまじどロビーの床に横たえられたカリーナを見つめる。 それから、新たな疑問を師匠にぶつけたのだ。 「じゃあ、黄金姫のお披露目のどき、カリーナがいたのはどうなる ? それに、黄金姫の 死体が見つかったどきだってーーー・・」 「お披露目の際なら 、バルコニーまでの距離があった上、黄金姫ど白銀姫を紹介しただけ 202
章 第 ホロスコープ。 太陽ど月が合わないどか、延々ど悩んでいた天体図。ひどっひどっの惑星ど軌道が空中 に次々ど現れ、そこからいくつもの平面図に置き換えられる。必ずしも地動説ーー惑星本 来の軌道ど一致していないのは、これが科学ではなく、あくまで魔術どしての観測に必要 な資料だからだ。 「ここのお歴々なら、現在の時期のホロスコープなど頭に入ってるでしようが。 ど前置きしてから、師匠が続ける。 「陽の塔ど月の塔。黄金姫ど白銀姫。イゼルマの術式は徹底的に太陽ど月の術式から成り 立「ている。しかし、イゼルマがガリアスタど競い合「た呪体を使「て、黄金姫を完成さ せたのならば、どうしても時期が合わなか「た。呪体を手に入れたのはせいぜい一ヶ月前 で、太陽ど月の折り合いがよい時期は数ヶ月以上前に過ぎ去 0 ているからです , 師匠の指が、空中のホロスコープの太陽ど月を指さす。 最初の図面ではふたつの星が同じ位置にあり、もうひどっの図面では向かい合「ていた 「最上は真昼の日食。太陽ど月が同じ座に位置するコンジャクシ , ン。次善で太陽ど月が トライン 向かい合うオポジシ , ンに、造形を司る土星を百一一十度の位置に配するこどですが、どち らも季節柄一致しない」 「お前 185
あとがき 蒼崎橙子の師匠であるイノライや、アニメになったで登場したばかりのアトラム を採り入れたのはそういう理由です。 昔ど今ど、広がり続ける世界観の間をつなげる一助になっていたならば、幸いです。 最後になりましたが、キャラクターのひどりずつに驚くほど鮮やかなデザインを与えて くださった坂本みねぢさん、美ど魔術の歴史からホロスコープまで考証いただいた三輪清 宗さん、フラットの呪文や戦闘時の行動など細かいどころまでご指摘いただいた成田良悟 さん、そして奈須きのこさんをはじめどする TYPE 、 MOON の皆様に感謝を。 次は、また夏にお目見えする予定です。 二〇一五年十一月 『 Fate/Grand Order 』を遊びながら 303
そう言うど思ってたよ。我が兄 満足げに言って、ライネスもまた右目を押さえていた手を下ろす。ホロスコープどなっ ていた一部を回収し、水銀メイドはそろりど臨戦態勢に移行する。 それから、師匠は背後へど声をかけた。 「ロード・ 、リュエレータ、ミック・グラジリエ あれを押し戻します。バイロン卿 ノ ど白銀姫たちを任せてかまいませんか」 「まあ、自分の派閥ではあるのでね」 ど、イノライが又けた。 ハイロン卿はただ茫然どしたままだった。 あの瞳を直視してしまったためだろう。異形を見慣れた魔術師さえ絶望に陥れる悪夢 は、自分の人生を打ち砕かれたばかりの壮漢を自失せしめるには十分だったやもしれな ) 。いつ自らか命を落どすどもしれぬこの状況さえも、まどもに認識してはいないようで あった。 「依頼主のご要望なら仕方ないな」 ど、ミックも肩をすくめた。 もつども、すでに周囲に色砂をまいて結界を形成しているあたり、あの怪物が現れたど きからどちらもやるべきこどはやっているようだ。 242
リュエレータならば、トリムマウを機能停止させるこどもできるかもしれない。ひょっど するど、アトラム・ガリアスタも」 「 : : : ひょっどするどは、余計だが」 アトラムが舌打ちする。 もつども、それ以上の発一一一口をしないあたり、目の前で水銀メイドどホロスコープになっ ている魔術礼装に干渉できるかどうか、本人も自信はないのだろう。 「しかし、君たちは織り手ど薬師どして特化しすぎている。トリムマウを撃退するのなら どもかく、機能停止させるのは内部の魔術式の構成を見抜く必要がある。ああ、私の弟子 のフラットはそういう魔術を得意どしているが、なかなかどうして難し い。少なくども私 なんかにかなう魔術じゃない。君の場合、偶然ではあるにせよ、社交会で入念にトリムマ しも・つど ウを調べていたのが功を奏したんだろう。そういう意味では、その社交会では私の義妺に も隙があったわけだが」 「 : : : 敵地で緊張してたんだ。大目に見てくれよ兄 ライネスの抗弁を無視して、師匠が続ける。 「それに、トリムマウの手に血をつけたのも、やりすぎだった。そこまでやる必要はなか ったんだ。。 どうせ、この塔でのライネスの立場なら追い詰められている。そのせいで、黄 金姫の事件どカリーナの事件で犯人が違うのではないかど、考えさせるだけの余地が生ま 220