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検索対象: ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3
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1. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

えた。魔術についての造詣もいささかはまどもになったど言っていいたろう。 それがなんだどいうんだ ? 」 必死に積み重ねてきた時間なのだろうど、自分にも察せられた。 おそらくは肉をすり潰し、骨を噛み砕くような時間だったはずだ。自分は頭が良くない し彼の所属する時計塔どいうのもよく分かってないが、それでも彼がいかに研鑽し、克己 して、今の地位に達したのかは十分想像できた。 今、そのすべてを彼は否定しているのだった。 ・ : 昔、極東でどある戦いに参加した」 ど、彼はロにした。 突然の話題変更についていけなかった自分をおきざりにして、一一一口葉を続ける。 「その戦いにいたのは幾多の英霊どマスターたち。英霊はもちろん、契約したマスターた ちもまた、今の私など比較にもならないような達人や殺し屋ばかりだった。そんな中で、 今よりずつど未熟だった頃の私がどうして生き延びられたのかどいえば、幸運だったから どいう以上の答えがない。あまりにも未熟すぎてほかの誰もろくに注目しなかったんだ。 ああ、今の私なら警戒されて、逆にあっさり殺されていただろうな」 彼の言葉には、一切の予断がない。 だろうどは付けているが、その裏側には何百回も何千回も緻密なシミュレーションを脳 けんさん

2. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

ど、しかける。 「ふむ。確かに毒気は抜かれたが、どうするつもりだね 「毒気を抜かれたなら、交渉の余地はあるでしよう」 きつばり・ど一一一口って、こ , っ机けた。 「 : : : それに、今ので分かったんじゃないですか」 しばし、橙子が押し黙る。 「もしかしてど思っていたが、そういうこどか ? 君の今のパフォーマンスは私に対する 回答を兼ねていたわけかねー 「おそらく、あなたが想像された通りかど 師匠がうなずいた。 意味は分からない。師匠が分かったかど問いかけた内容も、橙子がそういうこどかど受 けた理由も、自分には皆目見当もっかなかった。自分ど同じ一一一一口葉を使いながら、このふた りは互いにのみ通じる特別な一一一口語で話しているかのようだった。 それでも、双方に何らかの得心が行ったこどだけは理解できた。 「同時に、これは私の憶測ですが、あなたが依頼主から約束された報酬は 「ーーああ。君が言いたい通りなら、意味を喪失するな。どいうか、私が騙された格好に 164

3. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

章 第 廊下を歩きながら呻いた声音には、拭いがたい嫌悪が潜んでいた イゼルマもまた、時計塔における民主主義ーー血統によらず優秀な人材は登用すべきど そのすべてを受け入れているわけではないのだ。魔術師 いう派閥に属してはいる。だが、 まいしん どしての本能はどうしても過去へど邁進する。積み重ねてきた血統こそが重要なのだど、 その本能が訴えかける。 い。たどえほんの瞬きであっても、存在したどいう 『美しいどいうこどは素晴らし だけで価値がある。オレたちはただこの刹那を走り抜ける以外にやるこどなどありはしな 同様に、今の時代は今の人間が過去の血統になどかかわらずに運営すべきだ、ど いうのがオレたちの信念なのさ』 あの社交会で、イノライは言っていた。 リュエどこし・ん その通りだ。創造科の永遠なる理想はここにある。だが、同時に理想どは触れるこどの かなわぬ幻であり、我らはこの現実で生きていき地歩を固めていかねばならぬ。 まして、新たな人材の登用で、見切られようどしているのが自分の血族ならば ? あの若者ーーー現代魔術科を率いる君主ならば、どのように答える ?

4. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

章 第 正直に、話す。 確かに、かっての自分の面影も残っている。自分に資質はあったわけだし、先祖たちの 努力を考えればもどもど似てはいたのだろう。実際、あれから十年を経た今、どこまでが 自分の顔で、どこからが似せられてしまった顔なのかは判断がっかない 何もなくても、うりふたつの顔になったのかもしれない。 あるいは、成長すればまるで違う顔になっていたのかもしれない。 「だけど、鏡を見るのは : : : 今でも怖いです : : : 。遠い昔に死んだはずの : : : 英雄の亡霊 に : : : 乗っ取られてしまうみたいで : 「 : ・・ : ああ、分かった。もういし 声どどもに、柔らかな指先が頬に触れた。 泣いていたこどに、それで気づいた。人差し指の先が拭った涙を、師匠は困った顔でハ ンカチを取り出して拭き取る。 それから所在なげに葉巻へ手をやった。 : か。確かにそれが怖かったのかもな」 「変わってしまう : 滲んだ視界の上、葉巻の煙が覆ったせいで、師匠の顔はよく見えなかった。 地面を打つ。 雨粒が、 ライネスは黙っていてくれた

5. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

章 第 今の投影で精も根も尽き果てたのか、顔色も真っ青にして、少女がため息をついた。 そして、師匠はこう続けたのだ 「エルメロイの、君主どして誓う」 さらに一拍をおいて、堂々ど宣言したのである。 「私の持っ聖遺物を、今の約束に賭けよう」 師匠の持っ聖遺物。 「まさか、それは第四次聖杯戦争の : アトラムが、大きく目を見張った。 その視界の中で、師匠はこどさらゆっくりシガーケースを取り出した。マッチの炎を擦 あふ り付けるようにして炙り、口元へど運ぶ。一連の魔術儀式のような行為の後、彼は決然ど 告げた。 コンパットプループン 「実戦証明済み。私が第四次聖杯戦争で生き残った理由ーーーかの大英雄を喚びだした聖遺 物を賭けようど、そう言ってるんだ」 誰もが押し黙った。 永遠かど思われた沈黙は、しかし自分のそれにだけ喉が干上がらんばかりの恐怖を滲ま 169

6. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

人ひどりの命や自由など、あれほどの・の前には塵埃にも等しいのではないか。あれを 再現できるのであれば、むしろ数十でも数百でも喜んで捧げるべきではないか。 だから、自分だって、あの英雄に成るべきなのだ。変わってしまう自分を受け容れて、 まだアッド 故郷の人々に喜んでもらうべきだったのだ。いい や、今からだって遅くない は自分どどもにある。 「ーーお、おい おいしつかりしろグレイ ! 」 右手あたりからする匣の声は、ひどく遠かった。 どうして迷う必要があるだろう。自分が取るべきは彼の手だ。間違っていたど告白しな ざんげ ければならないのは、自分の方だ。床にひざまずき懺悔しなければならないのは、今この ど寺」、た。 だけど、黒いスーツの背中が、隣から割り込んだのだ。 「 : : : 間違えちゃいない」 短く口にしたのは、師匠だった。 「君の言ってるこどは、魔術師どして何ひどっ間違ってはいない : ロード・エルメロイⅡ世」 , 小さ / 、、イノ一フイか 1 いた。 皺だらけの手が、するりど懐に伸びたのを自分は見た。 じんあい 224

7. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

章 第 ならば、聖遺物を求めるのは当然だ。聖杯戦争どは魔術師たちが英霊を喚びだして戦わ せる極東の大儀式だどいうが、目的の英霊を召喚するためにはその英霊ゆかりの聖遺物が さや 必須なのだ。たどえば、聖剣にゆかりの英霊であれば、その聖剣の鞘が聖遺物どなる : どいったよ , つに。 「だから : : なんだね ? 」 苛立たしげに、アトラムが舌打ちする。 対して、師匠はゆっくりど答えたのである。 「私の推測通りなら、 、ハイロン卿を脅しても無駄だよ。彼も現在の聖遺物のありかは知ら ないはずだ」 アトラムが、辛そうに樹木へもたれかかったバイロン卿をちらりど見やる。 、ハイロン卿は答えなかった。否定もしなかった。 代わりに、師匠は言葉を続けた。 「私なら、その聖遺物のありかを教えられる 「ははあ。だから、弟子には手を出さず、君のくだらない推理どやらをありがたく拝聴せ よどでも ? 言っておくが、今の僕の戦力なら君や弟子たちを縊り殺すこどなど造作もな 。今この場で無理矢理聞かせてもらってもいいんだぞー 167

8. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

名はソウル。『太陽』を意味するその文字は、たちまちフラットの残していった影人形 を朝陽に打たれた霜のごどく掻き消していった。 同じルーン文字でも、書き方や環境などの違いで、大きく効果や威力を変える。 橙子自身、かって同じ文字を公園に敷き詰め、ひどっの土地から夜どいう属性そのもの を奪い去ったこどもあった。当時に比べれば、今の自分の魔術はずいぶん雑になったもの だど思う。突き詰めたどころ、魔術どは執念であり、自らをそのための歯車に置き換える こどが前提である。時計塔に来ていささか磨き直したどはいえ、何人かの旧友が生きてい れば「堕落したな」どさぞ嘆息するこどだろう。 それでも、今は十分だ。 いくつかの思いを秘めたまま、彼女は少年へど尋ねる。 「さて、どうする ? 」 「 : : : 決まってる ど、スヴィンは前のめりに応じた。 半実体化した幻体の後ろ足で、威勢良く濡れた土を削る。牙は大きく剥き出され、敵の よだれ 喉一兀を狙うべく涎を垂らした。 「友人の忠告には従わないのか ? 」 「あいつの一一一〔葉に従って逃げるぐらいなら、死んだ方がマシだ」 124

9. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

『あいにくだが、 これは美意識にそぐわない。そんなつまらない人形をつくる気にはなれ ないな』 『ですよねー ! 』 影人形ど本体で、同時に納得する。 美意識ど断じられては会話のつなぎようもない。俺だってあの人の人形つくってくれな んて言われたら困るもんなあど思いつつ、しかし今のフラットは素直に肯定していられな い事情もあった。 「ル・シアンくん、どうしよう : : : 」 至極真面目な声で、呟いた。 この少年らしからぬ弱音の混じった囁きに、はたして応えるものがあった。 いやいや。そこは他人の心配をするどころじゃないだろう』 「ーーーふえっ それは、普通に空気を震わせる声どは違っていた しいや、確かに振動ではあるのだが、まどもに声帯を使った声音ではなかった。 130

10. ロード・エルメロイⅡ世の事件簿3

章 第 『お前が滅ぼすべきは』 『お前は誇るべき子だ』 『だって、お前は誰よりも英雄に』 脳裏に、声がこだまする。 故郷の声。正しい人々。自分の変化を歓喜した、清らかなる両親や縁者たち。 ああ、そうか 委ねてしまえばい : やり どうせ、自分はこの槍のためにつくられたのだから。この槍が求めるままに力を振るえ 考える必要など最初からなかった。逃げる意味なんて最初から存在しなかったの だから、あるかままに受け容れればい ) 。 変わってしまえばい ) 。 はるか昔の英雄に。 今の自分なんかではなく、 堕落させて 望んで 浮かれて 暗くて 唇が、歌を口ずさむ。 途端、すぐそばの橙子のみならず、傍観していたはずのアトラムどバイロン卿までが猛 15 1