「そうだったのか : 一人の自分の存在に気づいた時のガイドラインについ ても、帝国海軍では整備されている。基本的には記意「あっちのワタシは、ワタシの存在に : : : 気づいてな の初期による対処が推奨されており、場合によってかったと思いマス。すぐに岩礁の影に隠れたので : 多分。身を潜ませながら、ワタシはあの子達を見てた は解体が行われる。 いや、一分にも満たない ネ。見たのはほんの数分 金剛がその実態をどこまで把握しているのかは分か くらいの短い時間でしたケド : : : それでも、見た時は らない。 スッゴク動揺したデス」 ただ、こうした過去の告白が、何かしら自分の身に 息を詰まらせながら、金剛はゆっくりと話す。 危険を及ほすかもしれないという可能性については考 文字を指でなぞるように、ゆっくりと丁寧に、確か えていたはずだと思う。へタすれば、生きていないの めるよ、つに。 か、もとい、つ一」とについて , も。 「あの子はーー金剛は、確かにワタシと同じ顔をして それでもなお、金剛はそのことを話してくれた たデス。それを見てワタシはすつごく混乱してきたん : 俺、信頼されてるんだな。 デス。ワタシはワタシだけだと思っていたのに、実は 金剛は俯きながらカなく笑った。 「 : : : もう一人のワタシと会ったのは、南方海域に出まったく同じワタシがもっとたくさんいるんじゃない 撃した時デシタ。深海棲艦との艦隊戦の後、他の子達か : : : って。 そう考えたら、なんかもう何もする気が無くなって からワタシだけはぐれて合流する為に待っていた時デ ス。その時、偶然見ちゃったんデス。同じ海域に出撃来ちゃって : : : どうしたら良いのか分からなくなって きたんデス。だってそうじゃないデスカ ? それまで してた、ワタシがよく知る子達と、ワタシ自身を 199 「へーイ提督ゥ ! 珈琲の時間デース ! 」「誰だお前」
もう何度目か分からないため息を吐き出して、俺は 頃は他人なんか興味無さそうだった。自分と同じ一航 戦の赤城が良ければ後はどうでも良い、という感じ言った。 「逆恨みってのは布いもんだろう」 だったのに、今はも、っそれだけではなくなった。 今の言葉のように、誰かを気遣えるようになったの 正規空母加賀 は、曲がりなりにも秘書艦を意識しているからなのか 選考結果評価◎秘書艦適性有り。 まあ、どちらにせよ、良いことだと思、つ。本当に。 総評秘書艦としての能力は文句無し。以前から必 最低限の内容をメモし終えて、俺は顔を上げる。 「もう下がっていいぞ。次に会うときを楽しみにして要以上に秘書艦に対する執着を抱いている。秘書艦と してよりも、それを餌に戦果を稼がせたほうが総合的 いる」 にはメリ . ットが大」いカ 「了解しました。目に物みせて差し上げます」 備考艦載機で爆撃されないよう裏路地に気をつけ そう言い残して、加賀は一礼をして執務室から下 かっていった。ヾ ノタンという音を境にして、執務室は 再び俺と金剛の二人だけになる。 「ウウ、やっと終わった : : 加賀さん怖かったデース 「俺だって怖かったつつーの : : : 」 工 ? テートクも布かったんデス ? 「あたりめーだよ」 る。 31 「へーイ提督ゥ ! 珈琲の時間デース ! 」「誰だお則」
るべき存在よ。間違いないわー 提督がいなくなっ 「霧島の言うとおりですよ ! ちゃったら、金剛お姉さまの話を誰とすれば良いんで 海外艦の三人がそう告げた。まだ触れ合って彼女達① 府 守 しえ、そうでなくたって、私だって提督に死ではあるけれど、世辞なんかじゃないことくらいは明 すかい の なれたら嫌ですっ ! 私でさえそう思うんだから、霧らかだった。 海 の 暁が泣いて、響がそれを止めていた。 島はもっとそう思ってるんですよ」 ろ いなくなった 提督、い、 「びいいやあ ら暁は嫌あ凵 . ひつぐ : : : レディを置いで勝手にいな 霧島は誤魔化すように眼鏡を動かしていた。けど目 : ならないでええ : が赤くなっていたのが見えてしまった。声だって、震 「・・・・ : 提督、暁もこう言ってるよ ? もちろん : : : 私 えていた。 も、同感だな。また提督の珈琲が飲みたいよ」 とも、懸命に声をあげていた。 「雷も同感 ! 司令官は私が死なせないわっー 「提督、自分を犠牲にしちやダメだ ! ボクはそんな ねつ、電もそ、つ思、つわよね ? の : ・・ : よ、よくないと田 5 う ! 」 「あ、当たり前なのですっ ! 司令官さんは電が守る 「同感だわ。嬉しくもなんともないもの」 のですっ ! 」 ヒスマルクが深く頷いていた。 N 3 の言葉に、 暁はただただ駄々をこね、響は苦笑しながらもそれ 「全くね。帝国海軍は自己犠牲を厭わないーその信念 は美しいけれど、現実性も同じく大切よ。貴方は優秀に同意し、雷と電は必死に俺を守ると連呼していた。 駆逐艦だろうと気持ちに変わりはないと、その態度が だわ。死なせるべきじゃない。そんなこと、このたっ た短い期間でもよーく分かってたわ。貴方は私達が守すべてを物語っていた。
い。演習の勝敗による鎮守府間の政治的摩擦を無視す そういって窘めたのは武蔵だった。浅黒い肌と自信 満々のダイナマイトボディー ( ※死語 ) 。エスニックれば良いことづくめのイベントだ。ただし俺は仕事量 で死ぬ。 なイメージを喚起させる色気漂、つ容姿。 武蔵の視線の先には男がいた。白い軍服に軍帽。俺「思ったよりも制空権が取れなかったわね。戦闘機の の姿を認め、帽子を取り一礼する。 積載数を見直すべきかもしれないわー 「ですけど加賀先輩、制空権は優勢が取れたんです 「テートク、知り合いデス ? 」 前 し、そんなに問題があるようにも思えないですが 「俺の後輩だ。 すまない真田。ちょっと待ってく お れるか」 誰 「分かっていないのね翔鶴。制空権が確保できなきや 「構いませんよ。急ぎではありませんから」 ス 「助かる。では手短に先程の演習の反省をするぞ」 爆撃機は飛ばせないのよ。過去の経験を忘れていて ? 「あ 5 あ、後退する速度が甘かったよね、・。装甲が紙 間 時 だってのに無駄に攻撃うけちゃったよ。もうちょっと 演習というのは、先程の一戦のような他提督の艦娘 の 達 6 名以下同士で争う模擬戦闘のことを指す。要する 廩重に来るかと思ってたのになあ」 珈 、つー、や に鎮守府対抗の艦隊戦だ。今回、当鎮守府の代表とし 「鈴谷達がナメられ過ぎたんだよきっとー られたフリってのも難しいなー。 ては俺が選ばれた。結果は勝利。 もう少し相手に砲撃提 危険の伴う深海棲艦との戦闘抜きで艦娘に経験を積を当てた方がいいかもー へ ませられるのはありがたい。しかもペイント弾と擬似 「だね。次はそうしてみよっか 5 炸薬を用いている為、見た目は派手だが危険も少な 「武蔵サン、次は第一撃を戦艦に当てるべきネー
は、自分自身のことを神様みたいに審判を下せる、清 壊したくなる。眠れなくて、夜が怖くて、わけもなく 死にたくなる。だけど : : : 」 廉潔白な聖人君子だなんて : : : 思えない。それに」 苦笑する。 今も深海棲艦達と必死に戦っている艦娘達のことを 自分でもよくわからない感情に支配されて、笑うし 思い浮かべた。 かなかった。 自分のことを大切だと、そう言ってくれた彼女達の 「 : : : だけどまあ、そんなもんだろ人間って。確かに 姿を。 腐った連中だって多い、狂ってるヤッばっかりだ。許「 : : : 俺には、あいつらを裏切ることなんて出来ない せないクズは山ほどいる。けど、だからってそいつら あいつらが鎮守府で幸せそうに日常を過ごす、それ は年がら年中クズってわけじゃない」 だけで俺は嬉しかった。自分自身が感じた苦痛を、あ かって俺がただの奴隷 ! いつらが味わわないで済んでいるんだとーーそう思え こ過ぎなかった頃、俺を指揮 るだけで、癒やされていた。 いたぶって痛めつけた提督が居た。どうしょ うもないクズに見えたそいつの名前は、真田弦一郎と 美味しそうにご飯を食べて、仲良く演習が出来て、 し、つ 些細な出来事で笑い合えているあいつらの姿を見られ 「なあ蛭田、お前は自分が聖人だと思っているのか ? ているだけで、俺は幸せだった。俺が奪われたものを 奪い返すんじゃなくてー・・・ーー与えることができてるんだ と、そ、つ思えたから。 「俺はそ、つは田 5 わない。自分自身かど、つしよ、つもない と思う時はある。自分自身が許せない時だってある。 俺がいなきや駄目だと言ってくれた : : : 俺の、娘達。 俺だってクズだし、お前だってクズだ。少なくとも俺 本当に、笑わせる。救われたのは彼女たちの方なん 261 「へーイ提督ゥ ! 珈琲の時間デース ! 」「誰だお前」
ワタシは妹の為とか、生き延びる為とか、深海棲艦か たら、金剛があんな行動を取っていたのは : : メチャ ら守るためとか、色々な理由をみつけて、頑張って海「ハイ、多分想像ついてると思いますケド : も、つひとりワタシ に出て砲撃をしてきたネ。ケド クチャな戦い方してた時デス。あの頃は、迷いながら かいるなら別にワタシが頑張る意味ってないじゃない ャケクソで戦ってたネ。どうなっても良いやって思っ デスカ。妹達の世話だって大丈夫だし、艦隊戦だっててたから、どうなるかは運に任せようって、そう思っ もう一人のワタシが頑張ればそれで良い。そう思えてて無茶してたデス。その結果がーーー」 「大破、か」 金剛はため息を落とした。 金剛が首肯した。 っ 「『いっそ轟沈した方が楽になれるんじゃ ? 』 「あの時は一番追い詰められていた頃デス : : : それで て考えが頭によぎったんデス。けど、ワタシは妹達の いつもより更に無茶して戦ったネ。そしたら轟沈直前 ことが好きだし、えへへ・ : テートクのコトも好き までいっちゃって : : : 」 だったネ。だから判断はーーー運に任せたんデス。死ぬ 今でもあの時のことは覚えている。 かどうかは、神様が決めてくれるって 当時、金剛は俺の指示を好戦的に解釈しすぎる子 「お前それは、あの頃の : : : 」 だった。進撃と言えば要以上に前線に行くし、艦隊 思い当たる節があった。 戦になれば先陣切って深海棲艦と戦いに行く。血に飢 確かに一時期、こいつは妙にやけつばちになってる えているんじゃないかというくらい戦いを求めている というか、艦隊戦でも勇敢を通り越して蛮勇といえる くせに、妙に臆病で、なのに守ることは一切考えてい くらい無茶な突撃を繰り返す時期があった。もしかし ないやけつばちな戦い方だった。そんな無茶な戦い方 虚ろの海の鎮守府① 20()
かあ ! でも海外ではデビルフィッシュゅうて食べるもんじゃ 恥すいなあもう ! 照れつつプイとそっほを向く龍驤。ちなみにビス子ないんやて。なのに一生懸命食おうとしてはやつばり 無理ってのを何回も繰り返しとってね。『食わんくて ちゃんとはドイツ型艦娘であるビスマルクのことだ。 なるほど、どうやらちゃんと仲良くやれてるみたい もええよ ? 』って言ったんやけど頑として聞かなくて だ。あいつらには海外艦の味方がいるんだ。ああ、安なあ」 心した 「ほえ ? なんでデス ? 」 「それが気になってウチも聞いてみたんよ。そしたら 「キミに世話役を頼まれてから色んなとこ行ったんや 前 お なんて言ったと思う ? ビス子ちゃん、真っ青な顔し けど、だいたいなんでも喜んどったなあ。けど、あの 誰 子らに紹介して一番喜んどったのは寿司を紹介した時たままこう言ったんよ。『ダ、ダメよ、ぜんぶ食べら れなかったら < < —が待ってる : やろうね」 ス 「ぶふつ ! 」 「ほう、寿司屋に行ったのか」 時 これ 「もー、それがおかしゅうておかしゅ、って ! 今の日 「うん。職人さんの手さばきを見て『すごい の が噂のヤーパン・ :«>*X<NV-@なのね ! 』って感本にはもう腹切りの文化は無いんやでって何回説得し 珈 ても聞いてくれなくてなあ。あの日は笑いすぎてお腹 激しとったよ」 督 が痛くなったわ」 「また絶妙に間違えた日本観だな : 提 イ : そ、そーいえば初めてこっちに来た時は 「ホンマにそうなんよ 5 。一番おもろかったのはタコ ワタシも勘違いしてたネー。海の向こうから見た日本 が出たときゃね。あの子ら、大概のもんはウマそうに 食っとったけど、タコだけはダメらしくてなあ。なんはわりとそんなもんデース」
くて」 誰がそんなことを。 金剛が、僅かな逡巡の後、言った。 「その話を聞いて、その : : : ワタシ頑張らなきやって 「ワタシ テートクがもう一人のワタシを沈めたコ 思ったんデス ! 」 ト知ってたんデス ! 」 「なんだと : 困惑する俺を尻目に、金剛が言い繋ぐ。 驚きに目を見開く。 「だって、一人目に負けたくなかったネ凵 確かに金剛は「もう一人の自分ーがいることは知っ 「負けたく、なかった : ている。それは先日金剛が俺に打ち明けてくれたこと 「だって : : : テートクがワタシのことを沈めてたなら た。たが、俺が沈めた経験があるってことまで、どう : 絶対、先にテートクと会ったワタシの方を意識し して。 てるって思ったから : : : だから、負けたくなかったん 「あの : : : 昔、テートクじゃなくて『他のテートク』 デス ! 」 に会ったことがあって、その時にその、教えてもらっ 「それはーーー」 たことがあって : : : だから、テートクがワタシを沈め 「だから : : : テートクの為なら、なんでも一生懸命に たことがあるって、実は知ってたんデス ! 」 頑張ったんデス ! ホントはその、一人目のワタシな 「馬鹿な : : : 」 んかよりもワタシのこと見て欲しかったから、だから 他提督が指揮する艦娘への接触自体は禁止されてい 一生懸命頑張ってたんデス ! だから秘書艦だって辞 ないが、必要以上の会話は推奨されていない。当然、 めたくなかったし、紅茶の方が好きだけど、珈琲だっ イ月ドに秘密に関わる情報を漏らすなど論外だ。一体て覚えようとしたネ ! だからそのテートクの傍にい 虚ろの海の鎮守府① 226
視する為に。だから最初からもう一人いる可能性は捨 「イエス ! 鳳翔サンはこないだお役御免になった てていなかった」 「オオー : なるほどデス」 明るく両手を掲げる金剛。 「そしてそれとは別に、お前がそうなんじゃないかっ だから : : : なんでお前はそんなに明るいんだ : 「まあ、 いい。調子が狂ったが : : : 実際のとこどうなて思ったタイミングがあった」 「いっデス ? のか聞けてよかった」 こっちから質問良い 「お前が、俺の嘘を見抜いた時だ」 「あっ、それじゃあテートク ! デスカい 「テートクが、撤退しろって言った時デスカ ? 俺は頷いた。 「何だよー 「鎮守府に迫った深海棲艦を前にして、俺は蛭田から 「テートク、どうやってワタシが諜報員だって気づい の命令を無視して偽りの指示をお前たちに伝えた。結 たデス ? これでもワタシ、けっこう頑張って隠して 局、その嘘は艦娘達に見ぬかれたわけだが・ーーその たと思うんですケド : 時、まず真っ先に嘘だと断定したのは、金剛、お前だっ 「ああ : 舘いて、俺は椅子に腰を下ろした。 もちろん加賀を始めとして、他の艦娘達も結局は俺 「俺も確信していた訳じゃない。たた : : : 」 の嘘を見ぬいただろう。ただ、誰よりも早く、そして 「ただ ? 」 間違いがないと確信した顔で俺の嘘を突きつけてきた 「俺だったら、諜報員は二人は寄越すだろうと思って のはこい ? ・・・ーーー金剛だった。 いた。お互いがお互いを適切に監視できているかを監 虚ろの海の鎮守府① 28 ( )
琲の淹れ方っていうのは、粉をドリッパーの中に入れ良いタイトルだと思うんだけど。 : 何か気づいたことは無 , 〉父、にー冂・ , ッヾ 「つてそうじゃなくてだな : ノーに描かれている線までお湯を一気に かったのか」 : ってい、つ方法だったんだ」 入れて抽出する : 「ハイ ! 無かったデス凵」 「はあ : : : そうなんデス ? けどそれとこのド 「何も無かったのは残念極まりないが、自信満々なの ーをオススメしないのがど、つ関係するネ は褒めてやろう。回数分けて注いでるだろ。お湯を。 「金剛、珈琲ってどういうふう淹れると思ってる ? 」気づけよ」 に ! そうだったデス」 「ア : : : 確か : こ、つ、ポットを持って何回かに分 日本じゃ複数回に分けてお湯を注ぐが、海外じゃあ けてお湯を注いデ : : : アアい ドバーツとお湯を入れる。特にアメリカなんか 「気づいたか」 そうで、大雑把にダーツと入れてそのまま飲む。メリ 「昨夜のアニメ、録画予約するの忘れてたデス凵 ノーだ。それ故、 タ式はそういう淹れ方の為のドリツ。、 「今思い出すんじゃねえよ お湯が長くドリッパーの中に留まるような構造になっ 「タイトルは『ソ 1 ドアート・オフライン』デス凵」 ている。 「ギリギリのタイトルだな」 これに対して、こっちで行われている数回に分けて 「少年達が竹刀を持って試合をするアニメネ ! 」 お湯を注ぐ抽出方法は、お湯が珈琲粉に触れる時間を 「オフライン関係ねえじゃん なるべく短くすることを目的として行っているもの っそタイトル変えた方がいいんじゃねえ ? クロカネ だ。だからこっちの淹れ方でメリタ式を利用するのは 『黒金』とかどうかな。打ち切られそうな香りがする 157 「へーイ提督ゥ ! 珈琲の時間デース ! 」「誰だお前」