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検索対象: 時空のデーモン めもらるクーク
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1. 時空のデーモン めもらるクーク

「ここ一週間くらい、ついつい朝のお掃除も三日に一回はさぼっちゃってたりして。あ— あたし、ちょっとだけ寒がりでして」 ・そう 口調は元気いつばいでありながら年上の人間に対する敬意も忘れず、まさに『よっぽど 親の躾がよかったんだねえ』とご近所でも評判の娘さんっぽい立ち振る舞い けれど、ここ半年ほとんど親以外と話したことのない篤にとって、面識もない、 自分よ り年下 : ・多分、高校生か中学生の少女に親しげに話しかけられることは、もうそれだけで 酸つばいものがこみ上げてくるくらいの苦痛だった。 言しかけてくる少女がまた、彼の個人的見解によるものだけではなく、ほぼ間違いなく 一般的に″可愛い″と認識される容姿を持っていることが、更に居心地の悪さを増してい ることも否定できない。 「あ・ : そういえば、朝ご飯は食べました ? 「え ? いや、まだだけど : 「そっか : ・それじゃっいでだから用意しますね。ちょっとだけ待っててください」 「な : ・え ? ちょっ、ちょっと : しいってば ! 」 そんな居心地の悪さを、少女はまるで意に介すことなく、それどころか、まるでずっと

2. 時空のデーモン めもらるクーク

215 第 4 話逢魔の平日 第 4 話逢魔の平日 「あ、宝くじと言えばさ、今すごいアイデアを思いついたんだけど : 「却下。無理無理そんな 「俺の考えってのは発一一「前から無理無茶無謀と相場が決まってるわけ ? 「だって何を言おうとしてるのかわかってるもん」 「またしても『何年のつきあいだと思ってんのよ』かよ」 「あ、ちょっと違う。『何年のつきあいだと思ってんのよ—』って、語尾がこんな感じで 上がるの , 「違うのかそれは日本語的に少しでも相違点があるというのか盟 平日にしては少しだけ人通りの多い千招寺通りを、二人並んで歩く。 天は高く、空は青く、いつもは役立つアーケードがちょっと無粋に思えるくら、こ、 天気。 「では当ててみせましょ ? 『宝くじなんか空子が過去で買ってこれば—』」 「あれ ? お決まりの『本当にわかってんじゃねえよ』は ?

3. 時空のデーモン めもらるクーク

160 「ひょっろひょっろひょっろ 5 」 自由を奪われながらも、何気なく口で千秋の逆鱗に触れてしまう要領の悪い空子の肩や 太股に、巻きついた触手がじわりとせり上がってくる。 電話のベルが鳴る。 二十一世紀にもなって黒のダイヤル式という、今となってはアンティークショップくら いでしかお目にかかれないのではという電話機から、けたたましいベル音が鳴っている。 ビルの窓から差し込む、物憂げなタ陽に反発するその音を遮るために、俊介は、その黒 光りする重い受話器を取り上げ・ こちら三階・ : 」 『ふえええええええ 5 ん ! 』 「一つあつ」 電話口から届く、けたたましい泣き声に耳をやられた。 『しゅ : ・俊介く—ん ! ちょっとちょっと聞いてよお : ・つ、酷いんだよ千秋さ—ん』 「だからそうやって鬼嫁にいじめられた姑のごとく開口一番泣き言を垂れるな」 『せめて逆にしてよ—に』 それは数日ぶりに聞く懐かしい声。

4. 時空のデーモン めもらるクーク

221 第 4 話逢魔の平日 「どんなに背伸びしても、お前の寿命を追い抜くことはないけどな」 そんな、ちょっと皮肉っぽい現実的な言葉にも我慢して反応せず、少しだけ歯を食いし ばって、俊介の頭をなで続ける。 : 天寿をまっとうしようね ? 」 「長生きして長生きして : 「一言われなくても死ぬまで生きるから」 「うん・ : 頑張ろ」 それは、単なる言葉遊びのようでいて、けれど二人にはほんのちょっとだけ深い呪文。 俊介を一緒に縫いつけたまま空子をこの地に縛りつけた、強大な拘束力を持った契約。 「あ、ごめん、お財布忘れてきた。ねえ、お賽銭貸して ? 」 「てことは、この後の縁日も : ・ ? 」 「えへへ : ・ゴチになります ! 」 「ええい その鳥頭を修正してやる ! ほ—れほれほれ—」 「あああつそ、そこは : ・デコハラ— ! 」 一瞬でおでこにかかった髪をかき上げられた空子が、わたわたと両手を広げて暴れる。 それでも力の差はいかんともしがたく・ : もないけれど、俊介の手を払いのける方向に抵 抗しないので、されるがままに、ほんの少し広めな額を晒す。

5. 時空のデーモン めもらるクーク

144 最後の一文に辿り着いた千秋は、数秒前より、更に呆気にとられた顔を上げた。 コっ・ : ん : こっ、うう・ : うああっ・ : 」 午前四時を少しだけ過ぎた辺り : 『彼女』は、悪夢のさなかにいた。 「な、な・ : んで・ : ちょっとお・ : 待ちな・ : いあ、待っ : こ 悪夢と言っても、今まで体験したこともない理不尽な内容でもなく、ただ、一週間前に 起こった出来事が、ほんのちょっとの脚色付きで、何度も何度も再現されているだけ。 けれど : ・ただ、それこそが、彼女の現・ : 当時の時点での、最大の悪夢であっただけ。 「う、あ : : うああああっ」 感情の高ぶりが、睡眠によって抑えられる許容値を超え、とうとう彼女は、自分に掛け られた布団を跳ね上げて、べッドの上に起き上がってしまう。 : まああああ 5 「は 5 顔じゅうに、びっしりと大粒の水滴を浮かべ、肺の奥から荒い息を次から次へと吐き出 し、顔をしかめ、最後に苦しげに呻く。 顔についた水滴を、寝間着の袖で拭おうとして、それが、汗だけではないことに気づい た彼女は、何故だか悔しそうに歯噛みして、思い切り強く顔をごしごしとこする。

6. 時空のデーモン めもらるクーク

237 第 4 話逢魔の平日 「ふざけるな。どて三本とビ 1 ル五杯でそんなに取る店があるか」 「 : ・ちゃんと目、覚めてんじゃん」 親父は、ちょっとだけ寂しそうに、二千百円と言い直した。 「中に戻りなさ— 落ち着いて、ゆっくりと降りてきなさ— 「あれか : 携帯の呼び出しを続けながら、大通りの方に回ると、そこは既に交通規制が敷かれ、 トカーや消防車、救急車がひしめき、緊迫した雰囲気を醸し出していた。 ビルの真下 : ・宝くじ売り場付近にはロープが張られ、そこからの人垣が二重、三重に張 り巡らされ、とても現場付近に近づける状況ではない。 上を見上げると、どうやら女性らしい小柄な人間が、屋上の手すりに掴まりながら、ビ ルの中を向いて、何かを必死に叫んでいる。 多分、屋上に現われた警官隊と感情的な言い合いをしているのだろう。 「俊介くん、俊介くんー・ 「空子お前一体どこ行ってたんだよ ! 携帯も通じないで : 「だから、ちょっと用事だって : 「お前が外してる間に、なんか大変なことになってるぞ ?

7. 時空のデーモン めもらるクーク

142 ちょっとだけ懐かしげな表情で笑みをこぼす。 「なんです ? 私の言ってること、そんなにおかしいですか ? 」 「いえ : ・好ましいだけです。申し訳ありません」 「では続いて、当院の個人情報の取り扱いについて説明させていただきます」 「は、はあ ? 千秋との会話で初めて優位に立った俊介は、呆気にとられたままの彼女に構うことなく、 その目の前に一枚の書面を広げる。

8. 時空のデーモン めもらるクーク

電話ロで、素っ頓狂な声を上げた後、俊介がしばらく黙り込む。 「・ : ちょっと」 「な、なに ? 」 「何かあったの ? 」 「な、何かって : ・何か ? 」 たったそれだけの何気ない出来事に、クークは言いようのない不安を覚えた。 「さっき、『あ』て言ったでしょ『あ』てー・」 「あ ? あ、あああ 5 」 「なんなのよ ? 気になるよそういう態度 5 何しろ、俊介のロ数が少ないときは、ロクなことを考えていないというのを経験から 知っているから。 「さてと・ : それじゃ、そっち戻るね。やっと日が暮れたし」 「あ ? 」

9. 時空のデーモン めもらるクーク

ちょっと : ・待ってくださいね。どうやら、記憶が混乱してるみたいで : あ、ええ・ : すいません、すぐ思い出しますから。 いえ、そうです、私はそこで、とんでもないことを : とんでもないことに、巻き込まれてしまったんです。 「退け : 橋本さんに続き、路地に入り込んだはずだったのですが : そこに、彼の姿はなく : 街灯の下に佇む″何か〃を、この目に捉えたんです。 「今すぐ、背を向けて立ち去れ・ : 」 女の声、でした。 低く、透き通るような、綺麗で、通る声のはずなのに、はっきりとは聞こえず、でも、 その言葉の持つ意味だけは、頭の中に直接響いてくるような : しいえ、それだけではありません。

10. 時空のデーモン めもらるクーク

「あ ! ちょっと待ってください」 「ま、まだ何か ? 」 「落とし物です : ・はい」 「え、これは : ・覚えがありませんが・ : ? 」 しいえ、間違いありません。クリニックの入り口で拾ったんですから」 「しかし・ : 」 「ほら、受け取って下さ、 し。別に邪魔になるようなものでもないでしよう ? 」 少女は、吉崎の手を取ると、そこに無理やり、さっきまで後ろ手に構えていた右手の中 のものを握らせた。 そして、あまりに突然のことだったので、吉崎は、少女の手のひらに巻かれた包帯の感 触を認識できずにいた。 「え、でも、これって・ : ? 少女が吉崎に手渡したもの、それは : 「これからも、苦しいことや、辛いこと、沢山あると思うんです」 「は ? 」 「そんなときでも、もし思い出せるなら、思い出してみてください」 「思い出すって : ・何を ? 」