三年前 - みる会図書館


検索対象: 時空のデーモン めもらるクーク
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1. 時空のデーモン めもらるクーク

184 『あはは、あの人ならやりそうだよね』 「やりそうでなく、実際やったんだよ。″たとえ、今がどれだけ辛くて悲しくても、人に 頼るつもりはないし、自分ひとりで立ち直ってみせます″ってさ : ・自分がどれだけ切羽っ まってたかを忘れないで欲しいぜ、ったく」 『それは無理じゃないかな、商売柄』 三年前、喧嘩別れしたはずの二人は、彼女の翻意により再会を果たし、彼女の記憶から、 ″二度と会えなかった〃という、悲しい事実は消えた。 『でもさ』 『本当に、これで良かったのかな ? だって彼は : ・』 「俺たちに、不治の病を″なかったことにできる″力なんかない」 昨日までの梅村千秋・ : そして今日からの真鍋千秋は、一年前に結婚した夫、靖のことを ぼっぽっと聞かせてくれた。 三年前に発病してからずっと、彼の闘病生活の支えになり続け、回復の見込みがないと 医師に宣告された一年前、籍を入れたこと。 式には、彼女の親族は一切出席せず、彼の両親と、医師や看護師たち、ごく少数に祝福

2. 時空のデーモン めもらるクーク

134 「三年・ : って、さあ」 「ん・ : ま、そういうことだろうな」 彼の突然の心変わりが起こったのは、三年前。 彼女の前からいなくなる宣言をして、事実いなくなったのは、三年前 あまりにもお約束で、思い当たる節がありすぎて、どうして気づかなかったのか今と なってはさつばりわからないくらい、あり得た理由。 「そんなの、悔やんでも悔やみきれないじゃない・ : っ 「うん、同じこと言ってたな、彼女も」 「ええ、同じようなことを言っておられました。。 こ来店されたときにはいつも」 彼女・ : 梅村千秋はそこまで話し終わると、今までの強気の態度を崩壊させ、気の強さを あらわしていた切れ長の瞳を、見るも無残に赤く腫れ上がらせ、テープルの上を透明の雫 で満たし、みつともなく堂々と、大声を張り上げて泣いた。 その姿を見ていない空子にさえ、その後悔の慟哭が突き刺さるくらいに、それは激しい 感情の発露だった。 「彼女は今、止むことのない後悔に囚われて、心の均衡を崩し、それは体の健康にまで影 響を及ぼしかけている」 何しろ、″事実〃を知ってから、既に百日近くが経過しているのに、未だに、ひとたび

3. 時空のデーモン めもらるクーク

148 ささやく声がメガホンで増幅されつつも距離で摩滅され、微妙な音量で彼女 : ・三年前の 真鍋千秋の鼓膜を触る。 起きるまでは反応せす、けれど音そのものは届いていることを確認した空子 : ・クークは、 また、さっきまでの作業を再開する。 「ねえ、素直になろうよ・ : 本当は、彼に会いたいんでしょ 5 ? 「このままだと、ニ度と会えなくなっちゃうんだよ ? 本当にそれでいいの ? 」 コつ、つ : ・ん、つ一つ一つ一つ 5 ・」 そして梅村千秋 ( 三年前 ) の悪夢は再開する。 梅村千秋さん ( % 歳、女性、会社員 ) の御相談 ( 4 回目 ) 。 「おはようございます。今朝は気持ちよく目覚められましたか ? 」 「あ、あ—、そうですね、それなりに」 「 ? お酒は ? 」 「あ、あ— ・ : たしなむ程度に」 : せめて今の時期は控えてくれって言ったはずですけど

4. 時空のデーモン めもらるクーク

183 第 3 話十年のお預かりで・・・ を取り : 「お疲れさん」 『そっちこそ』 三年前にいる受話器の向こうの相手に、昨日と同じように、ねぎらいの言葉をかけた。 『にしても、何が助つ人よ : ・ただの手抜きじゃないよ』 「適材適所」 『というより、セルフサービス ? 』 「あの強情な姉ちゃんを言い負かすのは大変そうだったからなあ : だから、三年後の本人に言い負かしてもらった。 『あたしなんかさあ、いろんな意味で負けつばなしだったよう』 「 : ・昨日も思ったんだが、一体何やられたんだお前 ? 」 受話器を肩に挟み、空子との会話を続けつつ、俊介は、手の中のワイヤレスイヤホンと マイクを弄ぶ。 『で、千秋さんは ? 』 「帰った。ついさっき 『診察代は ? 』 「いただいたよ。値切られたけどな」

5. 時空のデーモン めもらるクーク

179 第 3 話十年のお預かりで・・・ 「今から思い返してみるとね : ・三年前と、同じパターンよね 「喧嘩したって訳だ、その時も 「そりやもう、放課後帰ろうとした彼を掴まえて、クラスの皆の前で、思いっきりなじっ てやった」 「一つへえ・ 「でもあいつは・ : 困ったような顔で、ただ、ごめん、ごめんって、それだけで : ・」 「ああ : ・てことは、その時も、見事なオチがあったって訳だ 「大体、想像がついてるんでしょ ? 」 「ま、今までの話を総合すると、彼の取りうる行動として考えられるのは : ・」 「やめていった部員たちの家を訪ねて、部に戻るように説得し続けてたって訳ね : ・毎日、 毎晩」 : どうして ? 」 「そりや、千秋が苦しんでたからじゃないの ? 」 「そんなこと聞いてるんじゃないー どうしてそのことをあんたが知ってるわけ」 「なによ今さら・ : 人のこと、悪魔だの、彼の差し金だの、さんざん疑ってたくせに」 「人じゃないでしょあんた : ・」

6. 時空のデーモン めもらるクーク

、これです : ・三年前、家族で蓼科〈と旅行に行ったと え ? ああ、写真ですか ? はい きのスナップで・ : ええ、手元にあるのはこれだけです。え ? これを : ・渡せとおっしやる んですか・ : ? : そうですね。もう、いらないもの、ですから。あ、でも、お願いです。その写真、捨 てたりは : ・そうですか、ありがとうございます。 つまづいたのは、三年前でした。 取引をしていた欧州のメーカーが倒産してしまった : ・ただ、その出来事一つだけです。 そのメーカーの製品は、ほぼ一社の独占輸入状態でしたので、国内の業界全体にはほと んど影響はありませんでした : ・唯一、私どもの会社を除いては。 支払った金も、当然ながら製品も回収できず、そして、そんな状況を敏感に察知した銀 行は、手のひらを返すように追加融資に応じてくれなくなり : ・ええ、後は、もう、絵に描 いたような転落ですよ。 銀行の借金を消費者金融で埋め、その利息を別の消費者金融、巡り巡って、とうとう闇 金にたどり着いたのが、半年前のことでした。 離婚は、私の方から切り出しました。妻は、ありがたいことに、まだ私を支えてくれる と言ってくれていたのですが、私にはもう、そこから先の地獄が見えていたので、とても

7. 時空のデーモン めもらるクーク

127 第 3 話十年のお預かりで・・ し悩む』という話も聞きますけど、私にとっては、それは全くありませんでした。 もし、私たちが恋人同士の関係に進むのであれば、それはお互いがお互いをきちんと理 解しあった上で、本当に自分たちがそんな二人に相応しいのかって、時間をかけて話し合っ てから、ゆっくり、ゆっくりと変わっていくんだろうなって、思ってましたから。 だから、一緒にいても、何の苦しさも感じなかったし、それをぬるま湯だとも思わなかっ た。お互いが変わっても、変わらなくても、友達か恋人のどちらかは続けられる : ・そう、 信じてたんです。多分、お互いに。 ・ええ、そうです。ここに来て、こういう話をしている以上、おわかりかとは思います が、実際には、そうはならなかったんです。 今から三年前・ : 大学四年、学生最後の年です。 私たち二人は、就職先も決まり : ・二人とも地元の企業で、実家から通えることもあり、 『また腐れ縁だね』って、お互いの就職祝いのときも、笑い合っていたんです。 これからは、毎日は会えなくなるけど、それでも、一月に一度 : ・給料日の二十五日には 必ず会って、仕事とか、上司とか、社会人としての愚痴をこぼし合おうねって、そんなっ まらない約束だけは、きっちりしていたんです。 けれど突然 : ・彼は、その約束を、全て反故にしました。

8. 時空のデーモン めもらるクーク

呆然と見つめてくる篤の視線を受け流しながら、院長は、物憂げな表情のまま呟いた。 「にしても、まいったなあ : ・」 : たった今機嫌を損ねてしまったオカルト担当に、どうやってこの仕事を引き受けさせ ようか、悩みながら。 「依頼人の名前は河原篤。一一十三歳」 「旭区川澄町のマンションで、近所のスー 「父親は彼が中学三年の秋に離婚して別居中。また、姉が一人いるが、こちらは三年前に 結婚して東京在住 「去年の春に柳楽市立大学経営学部を卒業。現在は : ・無職」 「 : ・なにもそんな丸呑みせんでも と、相変わらず困った表情のままの俊介を敢えて無視するように、空子は、優に二人分 し ーにてパートタイム勤務の母親と二人暮ら

9. 時空のデーモン めもらるクーク

161 第 3 話十年のお預かりで・・・ つい今しがた、三年前に語られたことになった、新しい過去によって生み出された声。 「で、元気でやってるか ? 」 『人の話をきちんと聞いてたらそういう質問は出てこないはずだけど 5 ! 』 「だってめっちや元気そうなんだもん、お前の声」 『さっきまで沈んでたんだよ—』 「それはそうと、お前、どこに隠れてんだ ? そろそろ一週間だろ 「ん・ : ロフト作った」 「どこにワ・」 「千秋さんの部屋の真上」 「 : ・そりやまた灯台上暗しな。 暗くて狭い屋根裏の、本来なら人が生活できるはすのない空間から、その声は発信され ていた。 床に描かれたべッドはそこそこの柔らかさを提供し、天井に描かれた天窓は柔らかい初 春の日差しを部屋の中に持ち込み、実は結構快適な生活をしているんじゃないかと思わせ なくもない 「お友達もできたんだよ : ・おいで」

10. 時空のデーモン めもらるクーク

177 第 3 話十年のお預かりで・・・ なお、お茶もつまみも″質量保存の法則。にのっとり、完全割り勘持ち込み制。 「だから、これはあいっへの罰。ずっと、曖昧なままでいた報い : ・つてやっ ? 」 「それが、彼にとっての罰になるのかなあ・ : ? 」 「なるに決まってるでしょ ? あいつの前から、私がいなくなっちゃうのよ ? そんなの、 あいつに耐えられるはすがないわよ」 「わ 5 、すごい自信なんだ」 「じ、自信っていうか・ : だって、何年一緒にいると思ってるの ? 」 「七年 : ・だったつけ ? 」 「う、うん。高校の入学式でね・ : 」 「じゃ聞くけど : ・七年も一緒にいて、どうして気づかないの ? 」 「な・ : 何を ? 」 「彼が逃げるときって・ : いつつも、あなたの為でしかないって」 ずっと普通の仮面を外さない少女は、ただ、その声の響きだけを変えて、千秋の胸に、 言葉の針を揉み込んでいく。 「高校のとき、私、バスケ部のキャプテンやらされてたんです。ほら、態度でかいし」 「ああ、そりや確かに : ・いや、何でもない。続けて」