全て - みる会図書館


検索対象: 時空のデーモン めもらるクーク
41件見つかりました。

1. 時空のデーモン めもらるクーク

「はあっ、はあっ、はああっー・」 マンションの出口を飛び出すと、勢いを弱めす、路地を全力疾走。 地下鉄の駅までは、そのまま北へとまっすぐ進むだけ。 正面に障害物は見あたらない。途上に信号の無い交差点が三つ存在するが、今はそのよ うな些事に囚われている場合ではない。 ・いーる / : 篤の鋭くなりすぎた感覚が、今の自分にとって余計な情報を削ぎ落としていく。 それは、″元″第三志望の企業の面接時に寝坊で遅刻し、その結果不合格に甘んじたと いう、本人にとって『たったそれだけの理由で落ちたこと』が脳裏に蘇ってきたから。 : もちろん、絶対的にその理由を信じているのは本人だけの様子だった。 「今度こそ、今度こそ、今度こそ・ : つ」 最初の交差点に差し掛かる。 いつもの大学へ行く道とは違う経路、信号のない交差点、極限までの緊急状態。 それら、 非日常とも言えなくもない状況が、篤の全ての力を、正面への視角と直線運 動能力に特化させ、左方から聞こえてくるエンジン音を、ものの見事にシャットアウトし て :

2. 時空のデーモン めもらるクーク

127 第 3 話十年のお預かりで・・ し悩む』という話も聞きますけど、私にとっては、それは全くありませんでした。 もし、私たちが恋人同士の関係に進むのであれば、それはお互いがお互いをきちんと理 解しあった上で、本当に自分たちがそんな二人に相応しいのかって、時間をかけて話し合っ てから、ゆっくり、ゆっくりと変わっていくんだろうなって、思ってましたから。 だから、一緒にいても、何の苦しさも感じなかったし、それをぬるま湯だとも思わなかっ た。お互いが変わっても、変わらなくても、友達か恋人のどちらかは続けられる : ・そう、 信じてたんです。多分、お互いに。 ・ええ、そうです。ここに来て、こういう話をしている以上、おわかりかとは思います が、実際には、そうはならなかったんです。 今から三年前・ : 大学四年、学生最後の年です。 私たち二人は、就職先も決まり : ・二人とも地元の企業で、実家から通えることもあり、 『また腐れ縁だね』って、お互いの就職祝いのときも、笑い合っていたんです。 これからは、毎日は会えなくなるけど、それでも、一月に一度 : ・給料日の二十五日には 必ず会って、仕事とか、上司とか、社会人としての愚痴をこぼし合おうねって、そんなっ まらない約束だけは、きっちりしていたんです。 けれど突然 : ・彼は、その約束を、全て反故にしました。

3. 時空のデーモン めもらるクーク

「その相談所の案内は、毎日、誰にでも大量に送られてくるスバムメールの中に、あから さまに仕込まれていて : を抜かれたり、フィッ 「でも、アクセスしようとしても、他のスバムと同じように、 シング詐欺まがいの入力を要求したり、暗証番号を聞いてきたり、ウイルスをまき散らし たり、挙げ句の果ては、振り込め詐欺の電話がかかってくるようになったり」 「あからさまに怪しい罠がところどころに仕掛けられているんだけれど、その全てに引っ かからないと、その相談所の場所がわからない仕組みになってるって 「で、ですね : ・とうとう、僕のところにも、それらしいメールが届いたんですよ」 先頭に『 subject: 輝ける未来への招待状』と記された、プリントアウトを鞄の中から 取り出し、机の上に広げる。 それは、あからさまにスバムとカミングアウトしているような、胡散臭い文面が爆発し た、ほんと一つに短いメール。 「怖かったけれど、全てリンク先のの指示通りにしたんです。そうしたら : 「・ : 警察を名乗る男にここを紹介された ? 「ええ : ・指定の口座にお金を振り込んだら 「あ、もしかして : ・前にも僕みたいな人が勘違いしてここに来たりしたんですか ? 」

4. 時空のデーモン めもらるクーク

185 第 3 話十年のお預かりで・・ されての質素なものだったこと。 それでも、医師の言うことに間違いはなく、先月安らかに息を引き取ったこと。 いまわの際の、彼の笑顔は、やつばり、可愛いって思えてしまったこと。 『ね、俊介くん』 「なんだよ ? 」 『会えなかった三年間と、彼がだんだん衰弱して、ゆっくり命を失っていく三年間・ : どっ ちが辛かったのかなあ ? 』 「そう思うんなら、なんで全ての記憶を奪わなかった ? 「彼女が差し出したのは、″真鍋靖氏に関わること、全て″だったんだぞ ? 三年間の闘 病生活の記憶だって、いただいて然るべきだったんだ」 ″治療″が終わった後、千秋が闘病中の″夫〃の様子を噛み締めるように語り出したと き、俊介は、つとめて平静を装いながらも、空子のいつもの暴走に頭を抱えた。 『そ、それはさあ : ・あたしがいただいたのは、あたしたちが関わる前の彼女の記憶だから きっと彼女は、すぐに自分の記憶の齟齬に違和感を覚えることになる。 彼と出逢い、同じ青春を過ごし、互いの愛に目覚めるまでの七年間が、ぼっかりと失わ

5. 時空のデーモン めもらるクーク

194 河原篤との契約で得たものは、彼の四年間の大学生活での知識の全て。 ところが、彼が二年の時に取得した哲学の知識は、空子にひらがなを思い出させること で消費され、文系なのに優を取ったと豪語していた解析学は、足し算ができるようになっ たところで相殺された。 三日間で契約は全て履行されたにもかかわらず、残ったのは、小学一年生程度の記憶と 知識と保護者への依存心を抱えた、悪魔で女子高生の少女。 「まいったなあ : ・」 「んしよ、ん—」 膝の上に当然のようにまたがり、抱っこをせがむ空子の背中をぼんぽんと叩きながら、 途方に暮れる俊介。 何しろ、途方にでも暮れないと、空子の小さくて柔らかい身体が、一分の隙もないくら いに密着され、ぐいぐいと押しつけられてくるという現実を思い出してしまうから。 「 : ・つか、離れろ、 この三日間、普段の生活ができない空子の面倒を、それはもう、赤ん坊や介護老人クラ スで見ていた俊介としては、色々な意味で限界に近づいていた。 「おなかすいた—、しゅんすけ」 「さっき食ったばっかだろうが : ・」

6. 時空のデーモン めもらるクーク

「ひいっ」 彼女の指の間から垂れてきたのは : ・血では、ありませんでした。 わかりません。わかりません。今となっては、それが何だったのか。 ただ、覚えているのは : ・それが、赤い色をしていなかったことだけで : 「これが、昨夜見た夢の、全てです」 長い長い話にようやく一区切りつけると、吉崎は、肺の底から大きく息を吐く。 「なるほど : ・興味深いですね」 「確かに私は追い込まれています。毎月の借金の取り立ては厳しく、返済の目処は立って いません。それにしても : 「無理もないでしよう 「こんな不可解な夢を見ることが、ですか ? 」 「一人で抱え込み過ぎなのですよ。現在では、闇金は違法とされるケースも多いのですし、 まずは弁護士等、然るべき相談窓口にあたることをお薦めしますよ」 「は、はあ : ・しかし、そんなに悠長に構えていては・ : 」 「何か問題でも ?

7. 時空のデーモン めもらるクーク

れる通りに実行した。 「実は運動神経いいってのも反則じゃない ? 」 「あの集中力があれば就職なんて楽勝のような気もするけどな : ・」 そして、それらの作戦が全て失敗したときのため、最後の手段として俊介が書き残した ページは、ご大層にも袋とじページの体裁をなしていた。 ・幸運を祈るー 空子は、一目見てそのメモを思い切り握り潰し : 篤に降りかかるはずの災厄を、自らに降り注いだ。 「さ・ : そろそろそっち、日が暮れるだろ ? 帰ってこいよ」 「痛くて動きたくないよお・ : 」 人通りの多い昼間は、その存在を見とがめられないよう、空き地の草むらに身を潜め、 野良猫と戯れて時間と痛みを無理やり忘れていた。 「だからこっち戻って早く治療するんだよ。大丈夫。久しぶりに契約取れたからな。すぐ に治るって」 「そういえばさあ・ : 」 「なんだよ ? 」 「あのお兄さんの差し出した " 代償。って、なんだったの ? 」

8. 時空のデーモン めもらるクーク

121 第 3 話十年のお預かりで・・・ 「そ、そう : ・」 「昨年までは、ペパーダイン大学に渡り、卒業後、日本へと戻ってきて、このクリニック を開業したという訳です」 「なんですか : ・」 「そもそもこのように臨床心理学を極めようと思い立ったのは、やはり、中学時代に半年 間スイスに留学したことがきっかけでして」 「はあ : 「さて、それじゃ、早速お話を伺いましようか ? 遠慮なさらず、心にあるものを全て吐 き出して下さし 、。私は何時間でも黙ってお付き合いしますよ ? 「言いにくいことでも、まずは勇気を持って話してみることです。そうやって、一人でし まい込んで悩むだけでは前に進むことはできません。まずは一歩を踏み出すことです ! 」 「とにかく何でもいいから喋ってみてくださいよ。世間話だってかまいやしません」 「それじゃ、また私の方から、実はこれ、本当にあった話なんですけどね ? 」 「あの : ・」

9. 時空のデーモン めもらるクーク

31 第 2 話悪魔が来りて道を説く 会議に慣らされた吉崎は、違和感なく口を割る。 「今となっては、会社も、家族も、全ては過去の夢、ですが : ・」 「家族 ? 家族いたんだ ? 「ええ、妻と、娘が一人 : ・もう一一年以上も会ってはいませんが」 「そりや : ・運が良かったね」 「ええ : ・今までは」 取りようによ 0 ては皮肉と取れる俊介の言葉を、吉崎はきちんと『借金の累が家族に及 ばなくて良かったな』と、正確に解釈できた。 「なあ、ものは相談なんだけど : ・」 「はい ? 「俺は、ご覧の通り、この小さなクリ = ックで、カウンセラー 0 て職業をやってる」 「ええ、存じてます」 「だから実は、あんたの今の悩みを、カウンセリングによって解消できる 「それは無理です」 「ど一つしてそ一つ思う ? 「だ 0 て・ : 私の悩みは、夜眠れないとか、死にたくなるとか、そういうレベルの話じゃな くなってしまったんですよ ? 」

10. 時空のデーモン めもらるクーク

246 ただ、ほんの少しだけ『こら』と言って、ちょっとそこの屋台に座らせて、自分はビー ル、空子にはウーロン茶でも頼んで、そして : : うわあつ 「お前は、今の時間にいるはずの空子じゃなく : けれど、そんな俊介のいい加減な計画は、今日一日食らったもの全て超える、更なるイ タズラで、ぶち壊されてしまい 「や、ややややや : ・やわっ、やわっつ ! 」 「ん・ : んん : 俊介の断末魔の叫びから伺える『柔らかい』唇の感触が、背後から俊介の頬を襲い 「く、くくくくく— : ・つ」 「おつはよ—、俊介くん」 ふわりと、背中が軽くなった。 「空子つつつに」 周囲にはまだ、立ち並ぶ屋台の喧騒。 俊介の叫びも、空子のちょっとしたイタズラも、気に留める人なんかいない 「おつはよ—、俊介くん」 だから空子も、そんな些細なことは気にも留めず、もう一度、いつも通りの挨拶をかわ す。