大丈夫 - みる会図書館


検索対象: 時空のデーモン めもらるクーク
15件見つかりました。

1. 時空のデーモン めもらるクーク

230 「お前、なんか今日はいつにも増して元気だな」 今度は屋台のジャンクフードの品定めに移行した空子の小さな背中は、掛け値なしに生 き生きしている。 「久しぶりだからね—。俊介くんと出歩くの」 「そうだっけか ? 」 「そうだよ : ・一年ぶりくらいじゃないかな—」 「お前それはいくらなんでも誇大表現にもほどがあるから」 「あはは : ・でも久しぶりだよ : ・ほんっと、久しぶり」 「空子 : ここまではしやがれると、『裏返せば今までどれだけ構っていなかったんだ』というこ とになり、それはそれで何となく俊介の脳がちくちくとする。 だしたい、一昨日に一仕事終えたばかりだろ ? 本当に疲れとかないのか ? 「大丈夫、大丈夫だって。最近調子いいんだから— 「なんて言いつつ、いきなりポケられたらアレ焦るんだけどな」 「今度はなに貰おっかな ? 俊介くんとあたしの、初めての出逢いとか」 「お前 : ・それは : ・」 「あはは、冗談冗談・ : あ、たこ焼きだ—

2. 時空のデーモン めもらるクーク

115 第 3 話十年のお預かりで・・ 第 3 話十年のお預かりで : 「見せてみ、どうなってる ? 「大丈夫だって、心配性だなあ俊介くんは—」 と、言いながら、″あの事件〃から一週間後の今日になってやっと包帯を外した右の手 のひらを、にぎにぎとしてみせる空子。 そこにはまだ、親指と人差し指の間から手首まで、斜めに一直線に走った線が、当時の 傷の深さを伝えている。 「生命線がズタズタじゃねえかよ : ・」 「大丈夫、あたしの心臓はまだ動いてる 「あるのか心臓 : ・」 苑宮ビルは、そのオンボロな外見にも関わらず、生意気にもケープルテレビを導入して いる。アニメチャンネルは空子のお気に入りだ。 「基本的に体のつくりおんなじだって。どっちも神様の作ったものなんだから」 「お前を作った神様には″元〃がつくだろ」 傷の塞がり具合を見て、やっと俊介の方にも、空子の組成をからかう余裕が戻ってくる。

3. 時空のデーモン めもらるクーク

213 第 4 話逢魔の平日 「で・ : お客さんたち、買うの ? 買わないの ? 」 いつの間にか、自分たちが一番先頭にな 0 ていることに気づかず、四人組は周囲から浮 き上がりまくり、夢を求めて並んでいる人々と、売り場のおばちゃんの呆れた視線を一身 に浴びていた。 一丁こ一つカ そして、その気まずい雰囲気に慣れていなさそうな若いカップルの方は、結局、宝くじ には手を出さず、先頭からそそくさと離脱する。 「あ—あ・ : お前、あの人たちの一攫千金の可能性を奪ったぞ、空子」 「・ = 大丈夫、大丈夫だよ。あの二人なら、き 0 とこれからも、こっこっと貯金して、いっ か必ずゴールインだよ 5 「あの調子だと、そのいっかがいつになるやら : ・」 これで周囲の呆れた視線は俊介と空子の二人に集中することになるが、そんなことを気 にする二人でないことはお互い深く理解済みのため、いつものように落ち着いて、突き刺 さる冷たさをさらりと受け止める。 「あ、それで俊介くん」

4. 時空のデーモン めもらるクーク

え ? あ、ああ、はい、続きですね。 「お願いだ、どいて下さい : ・私には、やらなければならないことがあるんだ : ・つ」 「お前自身が、それを望んでいなかったとしても ? 」 「そんなことはないっ ! 」 「近寄るな : ・さもなくば」 「何をするって言うんだ」 「大したことできない : ・カ戻ってないから」 「・ : はあ ? 」 : こちらの話」 ・ : あの、大丈夫ですか ? 今、ごちんって : ・あ、はいはい、続きですね。 私はその時、強迫観念に駆られていたんです。だってそうでしよう ? 橋本さんをなん とかしないと、私の、私の : : ? あれ ? えっと : ・どうしてあの時、私は・ : ? あ、すいません、たびたび話の腰を折ってしまって。 とにかく、その時の私は、訳もなく切羽詰まっていました。 だから、その女の人が止めるのも聞かず、それどころか、手に持ったナイフを振り回し て、彼女を追い払おうとまで :

5. 時空のデーモン めもらるクーク

41 第 2 話悪魔が来りて道を説く しかし・ : しかし : その人は・ : 私の予想もっかない、 「つ : : つ、一つ一つ . 「あ、あ、ああ・ : あああ : ・」 「駄目だよ : ・こんなもの、振り回しちゃ、さ : ・つ」 「あああ : ・ああああ : ・」 「刺さったら、痛いんだよ ? 下手すると、死んじゃうんだよ ? 」 「あああああ : ・あああああっ」 さっきまで、冷たくて低かった彼女の口調は : なんだか、苦しそうで、泣きそうで、けれど、優しげで : ナイフの刃先を、右の手のひらで握り込んでいるのに、ですよ ? っ ! ? あ、え、えっと : ・ご、ごめんなさいっ ! だって、まさか、そんなふうに止め られるなんて思いもよらなかったもので : ・そんなに怖い顔で睨まないでくださいよ : え ? あ、その後、ですか ? 「行きなさいよ : ・もう、大丈夫だから とんでもないことをしたんです :

6. 時空のデーモン めもらるクーク

ナイフを持っている側がおいおいと泣き崩れ、縛られている側が、そんな凶悪犯を前に、 気まずそうに顔を見合わせる。 とりあえず、机の上に投げ出されたナイフを受け取ると、俊介は、空子の手足を拘束す るロープの間にくぐらせ、少女の解放を試みる。 「動くなよ 「うん : ・で、ものは相談なんだけど」 「正気か空子 ? 下手すれば刺されてたんだぞ ? お前」 「ま、それはいいじゃん。よりにもよって、あたしなんだからさあ 「はあ : ・信じらんねえ。お前は一度、自分の出自をだなあ」 「あたしはやるって言ってるんだけど、俊介くんは ? : わかったよ。やりやいいんだろやりや」 「だから俊介くんって大好き ) 」 ようやく口ープが切れ、手足の勝手を取り戻した空子は : 「大丈夫、心配しないでおじさんー ・え ?

7. 時空のデーモン めもらるクーク

「そういえば、ご家族は ? 「いえ、恥ずかしながら、未だに家庭を持ったことは : 「それは : ・まあ、怪我の功名というのも妙な話ですが、一人なら、近い将来の再起も可能 でしよう。大丈夫、必ず未来は開けますよー 「そう、ですよね。本当に、なんであんな夢を・ : ? 」 「悪魔の仕業かもしれませんね : ・それも、とびつきりお節介な」 「 : ・私、真面目にご相談に上がったのですが ? 「あはは : ・確かに、最初入ってきたときは、真っ青でしたね 「笑い事でもないんですけど : 「まあ、借金のことは、私ではこれ以上、お役に立てることは : ・」 説 「ええ、わかっています。そちらは愚痴を聞いていただきたかっただけで。自分で何とか を 道するしかありませんから」 「頑張って下さい。けれど、決して無理はなさらないように」 「はい。ありがとうございました 俊介の、役に立っているのか立っていないのかわからない助言を受けて、それでも吉崎 話 第 は、少しだけすっきりした表情で、立ち上がった。 「お大事に :

8. 時空のデーモン めもらるクーク

れる通りに実行した。 「実は運動神経いいってのも反則じゃない ? 」 「あの集中力があれば就職なんて楽勝のような気もするけどな : ・」 そして、それらの作戦が全て失敗したときのため、最後の手段として俊介が書き残した ページは、ご大層にも袋とじページの体裁をなしていた。 ・幸運を祈るー 空子は、一目見てそのメモを思い切り握り潰し : 篤に降りかかるはずの災厄を、自らに降り注いだ。 「さ・ : そろそろそっち、日が暮れるだろ ? 帰ってこいよ」 「痛くて動きたくないよお・ : 」 人通りの多い昼間は、その存在を見とがめられないよう、空き地の草むらに身を潜め、 野良猫と戯れて時間と痛みを無理やり忘れていた。 「だからこっち戻って早く治療するんだよ。大丈夫。久しぶりに契約取れたからな。すぐ に治るって」 「そういえばさあ・ : 」 「なんだよ ? 」 「あのお兄さんの差し出した " 代償。って、なんだったの ? 」

9. 時空のデーモン めもらるクーク

そして俊介は、診察室から出て行く吉崎を、少しだけ苦い表情で送り出す。 手元のカルテに挟まれていた、男が一人で写っている観光地の写真を見つめながら : 「あ : ・吉崎さん」 苑宮ビルから出てきた吉崎を、明るく澄んだ声が呼び止める。 見ると、制服姿の見知らぬ少女が、にこにこと微笑みかけている。 「その・ : 大丈夫、でした ? 「あなたは・ : ? 「あ : ・そか、会ってないことになっちゃったんだ」 「はあ ? 」 「あ—、三階クリニックで助手をさせていただいている苑宮空子って言います。吉崎さん のことは先生から色々と伺っていまして : 「は、はあ : ・」 吉崎は、目の前で屈託なく笑う少女に、怪訝そうな表情を向ける。 メンタルクリニックでの相談者の情報を、たとえ助手とはいえ、簡単に漏らしてしまっ ていたカウンセラーにも、少し不信感を抱いたようだった。

10. 時空のデーモン めもらるクーク

7 第 2 話悪魔が来りて道を説く 「あ、ああ、あ : ・」 ねじれてしまった手首にかかる、全体重。 けれど、そんな痛みよりも、はるかに不快な『手応え』。 「だ、だ、だ : ・大丈夫、ですかあ ? 目の前の男の顔から、徐々に黒目が失われていく。 同時に、生温かい、粘っいたものが、その男の体内から湧き出てくると、全身を絡め取 るかのように覆い被さってくる。 視界の隅の常夜灯が、自らの鼓動に合わせて、点滅の間隔を短くする。 『ばかっ、ばかっ』から、『ばかばかっ』に。 「ちょ、ちょっと・ : 返事してくださいよお」 息すら止めたまま、自分に覆い被さり、行動の自由を奪う相手に対し、男は、さっきま でと同じように、泣き出しそうな、弱気な声で呼びかける。 呆然が焦燥に、戸惑いが恐怖に置き換わっていく、自分以外は動くもののいない空間。 「え、えっと : だからどいてくださいっ ! 」 : 払う、払いますからー