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検索対象: 時空のデーモン めもらるクーク
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1. 時空のデーモン めもらるクーク

115 第 3 話十年のお預かりで・・ 第 3 話十年のお預かりで : 「見せてみ、どうなってる ? 「大丈夫だって、心配性だなあ俊介くんは—」 と、言いながら、″あの事件〃から一週間後の今日になってやっと包帯を外した右の手 のひらを、にぎにぎとしてみせる空子。 そこにはまだ、親指と人差し指の間から手首まで、斜めに一直線に走った線が、当時の 傷の深さを伝えている。 「生命線がズタズタじゃねえかよ : ・」 「大丈夫、あたしの心臓はまだ動いてる 「あるのか心臓 : ・」 苑宮ビルは、そのオンボロな外見にも関わらず、生意気にもケープルテレビを導入して いる。アニメチャンネルは空子のお気に入りだ。 「基本的に体のつくりおんなじだって。どっちも神様の作ったものなんだから」 「お前を作った神様には″元〃がつくだろ」 傷の塞がり具合を見て、やっと俊介の方にも、空子の組成をからかう余裕が戻ってくる。

2. 時空のデーモン めもらるクーク

15 第 2 話悪魔が来りて道を説く まあ、それに関しては、借金まみれの年上の男に食事をめぐんでしまう少女にも当ては まる性格ではある訳で。 「はい、それじや本当に三十分は戻ってこないこと。洗濯物は奥の部屋 ? 「えっと : ・さすがにそこまで甘えるわけには : ・」 「はいはい、形式的な御託はそこまでにして、邪魔だから出てった出てった。片づかないっ たら」 「あ、お、おい : ・これじゃ俺、まるでヒ : 「はいはいはい、またのお越しを— ばたん。 本日二度目の、乾いた木がぶつかる音や、ガラスの振動音とともに、語尾が容易に想像 できる『捨てられ台詞』を残して、少女が『俊介くん』と呼ぶ青年は、自分の部屋を退場 させられた。 「さてと、 しい具合に荷物が減ってるし、さっさと片づけちゃおっか」 ソファーはともかく、かなりの『準・生活必需品』が、先週見たときよりも減っている。 ああ見えた通り結構、生活費の捻出に四苦八苦していることが伺える部屋を見渡して、 青年が『空子』と呼ぶ少女は、制服の腕をまくり : 「よしつ

3. 時空のデーモン めもらるクーク

「 : ・戻ってきたら空つぼになってるとかいうオチはない ? 」 「ないわよ。だいたい金めのものなんかありやしないんだから」 「そのソファー 、買ったときは二十万もしたんだけどな : 三十分くらい帰ってこなくていいわよ」 「一つお—、 「うそ嘘、大事な商売道具を取り上げたら、仕事こなくなっちゃうもんね」 「ん、まあ : 一度、不機嫌を乗り越えると、後は年相応の少女らしい表情の中に、気のいい ん』の顔が覗く。 「すぐ済ませるから、ちょっとだけ外してて。なんなら食事代貸そうか ? 「半年も家賃を払えない一文無しのくせに : ・ほら俊介くん、こっち向く 「う、それは : ・えっと・ : : : : すまん、空子」 シャツのポケットに突っ込まれた千円札に目をやると、こちらも、さっきまでとはうつ て変わって、その長身を縮こめる。 債権者たる″大家様〃の罵詈雑言よりも、年下の″大家さん″の優しい言葉の方に居心 地の悪さを感じる、小市民的性格の持ち主らしい 『大家さ

4. 時空のデーモン めもらるクーク

200 笑ったりして : ・つ 「はむ : ・ん、れろ : ・あ、はむうん」 まるで囓り取らんばかりに、空子のロ腔が、俊介の右耳をねっとりと犯す。 細っこい、ピンクの舌がちろちろと耳のひだの間を蠢き、たつぶりと堪能したところで、 耳の穴の奥へ奥へと襲いかかっていく。 全身を今まで以上に深く密着させ、小さな身体から伸び、スカートからはみ出した白い 太股が、俊介をがっちりと捕らえて離さない。 ロゴ入りのバッチが、売ってたんだけど、さ : ・その子 「土産物屋にさ : ・何の変哲もない、 が欲しいって : ・俺も、欲しいなって : 「あ : ・つ、はむ・ : ん、ちゅ・ : はあ、はあ、あっ、いあああ : ・」 舌全体で激しい音を立てて耳の奥を責め立て、時々甘噛みで刺激を与え、男を高めてお いて、目的のものを体の奥から放出させる。 どれだけ道徳的でも、あり得ないくらい禁欲的でも、信じられないくらい純清でも : それでもクークは、人間とは違う本能に根付いた存在であることに変わりはなく。 「で、その後、帰り道でさ、俺は、やっと、やっと : 「ふ、ふふ・ : ああ・ : んつ、はあ、あ、あはは・ : ちゅ、ぶうつ だから、男からご褒美を貰うことに、果てしなく貪欲で。

5. 時空のデーモン めもらるクーク

179 第 3 話十年のお預かりで・・・ 「今から思い返してみるとね : ・三年前と、同じパターンよね 「喧嘩したって訳だ、その時も 「そりやもう、放課後帰ろうとした彼を掴まえて、クラスの皆の前で、思いっきりなじっ てやった」 「一つへえ・ 「でもあいつは・ : 困ったような顔で、ただ、ごめん、ごめんって、それだけで : ・」 「ああ : ・てことは、その時も、見事なオチがあったって訳だ 「大体、想像がついてるんでしょ ? 」 「ま、今までの話を総合すると、彼の取りうる行動として考えられるのは : ・」 「やめていった部員たちの家を訪ねて、部に戻るように説得し続けてたって訳ね : ・毎日、 毎晩」 : どうして ? 」 「そりや、千秋が苦しんでたからじゃないの ? 」 「そんなこと聞いてるんじゃないー どうしてそのことをあんたが知ってるわけ」 「なによ今さら・ : 人のこと、悪魔だの、彼の差し金だの、さんざん疑ってたくせに」 「人じゃないでしょあんた : ・」

6. 時空のデーモン めもらるクーク

〃 LO 0- 1 時 5 分—時妬分紅門通り縁日見物〃 「お、空子ちゃん来たね ? 」 「おじさんこんにちはあたしのお野菜元気してた— ? 」 「おっと、そいつは自分の目で確かめてみるんだな ? 」 「む—、なにその自信 ? 」 「ふふふ : ・今日は少しでも傷んでたのは全部置いてきたからな。叩かせないよ ? 」 「そう来ましたか— : なら、ゆっくり品定めさせてもらうからね」 「おうよ。でも、いつくら見ても値切りどころはないと思うぜ ? 」 「・ : お前は毎月いったいどんな戦いを繰り広げているというんだ 空が少し赤くなってきた頃から、道端にぼっぽっと屋台が立ち始める。 平 毎月二十八日は、家電ショップや家具店の建ち並ぶ、ここ紅門通りが、夕方から歩行者 の 魔専用道路となり、その月で一番賑わう日となる。 「うん・ : 俊介くん、ちょっと持ってみて ? ねえ、どっちが重い ? 」 話 第 「わかるかんなもん 「形は右の方がいいんだけどさあ、そんなの切っちゃえば変わんないしね、

7. 時空のデーモン めもらるクーク

19 第 2 話悪魔が来りて道を説く 「う、う、動かないでくださいっー 「俊介くん ! 騒いじやダメっー 「ついてねええええっ」 ほんの三十分の外出から戻ってきてみれば、留守番は手足を縛られてソファーに寝かさ れてるわ、『年齢は三十歳から四十歳くらい、身長 170 センチから 175 センチくらい でやせ型、灰色のスーツ姿の男』がいるわで、俊介は、いつも自分に限って降りかかる不 運を悪魔に呪った。 「な、何もしません ! お嬢さんにも危害は加えませんからっ ! だから、見逃して下さ 「この人の言ってること本当だから ! だからロの端についた紅ショウガ取りなさいー・ 「なんでよに」 「あ、そっちじゃない、反対反対」 「なんでよ : 診察室に足を踏み人れたときに感じた緊迫感が、実は既にほとんど緩和されていること を肌で感じ取った俊介は、とりあえず、左の唇の紅ショウガを口に運んだ。 ついでに言えば、自分に降りかかった不運が一筋縄ではいかないことも、いつもの経験 上、肌で感じ取ってしまった。

8. 時空のデーモン めもらるクーク

232 ごちそうさま たこ焼きたこ焼き 「はほやひはほやひ— : ・ほひほうはま—」 「何言ってんだかさつばりわかんねえよ : ・飲み込んでから喋れ」 んしたげるね 「ほへいひは—んひはヘふへ— 「余計なこと考えるな ! 絶対俺ゃんないからな ! 」 「・ : 何言ってんだかわかってるじゃない俊介くん . と、人の話を全く聞かずに、爪楊枝に刺したたこ焼きを俊介の目の前に掲げる空子。 「ほらほら、あ—んしてあ—ん : ・あ、そういえばつまようじって『妻の用事』ってゆ—意 味もあるんだってね— 「・ : 勘弁してくれ。お前今日テンション高すぎだぞ。 「ほら、だって久しぶりだし—」 「毎日顔合わせてんじゃんかよ、 「あ— : ・そだね 常にゲージを振り切るテンションの高さと、時々ふっと気を抜いたように下がる落差も、 いつもと比べて少し違和感を覚える。 「空子、実はお前、躁鬱のケでもある ? メンタルな悪魔 ? 」 「何その語呂だけ良くてまるつきり意味のない造語 ? 」

9. 時空のデーモン めもらるクーク

185 第 3 話十年のお預かりで・・ されての質素なものだったこと。 それでも、医師の言うことに間違いはなく、先月安らかに息を引き取ったこと。 いまわの際の、彼の笑顔は、やつばり、可愛いって思えてしまったこと。 『ね、俊介くん』 「なんだよ ? 」 『会えなかった三年間と、彼がだんだん衰弱して、ゆっくり命を失っていく三年間・ : どっ ちが辛かったのかなあ ? 』 「そう思うんなら、なんで全ての記憶を奪わなかった ? 「彼女が差し出したのは、″真鍋靖氏に関わること、全て″だったんだぞ ? 三年間の闘 病生活の記憶だって、いただいて然るべきだったんだ」 ″治療″が終わった後、千秋が闘病中の″夫〃の様子を噛み締めるように語り出したと き、俊介は、つとめて平静を装いながらも、空子のいつもの暴走に頭を抱えた。 『そ、それはさあ : ・あたしがいただいたのは、あたしたちが関わる前の彼女の記憶だから きっと彼女は、すぐに自分の記憶の齟齬に違和感を覚えることになる。 彼と出逢い、同じ青春を過ごし、互いの愛に目覚めるまでの七年間が、ぼっかりと失わ

10. 時空のデーモン めもらるクーク

150 せなくなってきている。 「はは : ・それじゃ、始めますか」 「はい、よろしくお願いします」 二人の間に、やっと普通のカウンセラーと患者つぼい信頼関係に満ちた空気が流れる。 はからずも、『普通のカウンセリングを行わない』という取り決めを行った後に。 「すう・ : んう・ : 」 : んしよ、つと」 昨夜・ : というか『その日の一日前の夜』と同じように、千秋の部屋の天井に黒い線の染 みが広がり四角を描くと、その部分が切り取られ、ゆっくりと開く。 そこから、やはり昨日と同じように、ぶらりと長い髪が垂れ、次いで逆さになった顔が 現れ、べッドを覗き込む。 「寝てる寝てる : ・ま、昨日からあんま眠れてないみたいだったしなあ」 夜の闇にもひときわ輝くさらさらの銀髪と、ニつの紅い瞳が、少女 : ・クークの輪郭をぼ うっと浮かび上がらせる。 「千秋さん ? 」