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検索対象: 時空のデーモン めもらるクーク
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1. 時空のデーモン めもらるクーク

153 第 3 話十年のお預かりで・・・ 目の前の、小さな銀髪の少女が指さす空の先には確かに輝く月がある。 はっきりと縁取られている輪郭。意味不明な模様。不自然な出っ張り その出っ張りの部分が鼻と気づけば、残りの模様が目、ロであることは、おはようから おやすみまで分かり切ったこと。 「なに、これ : ・」 千秋の感じた違和感は、それだけではない。 街の灯りが、街の暗がりが、濃紺の空が、灰白色の雲が、黄白色の星が、全て混ざりあ まるで壁面一杯に描かれた抽象画のような景色として辺りに広がる。 というか、そこは明らかに絵画の中の世界。 そして : 「こんばんは、千秋」 彼女の目の前の、明らかに空中と呼んで語弊のない場所。 そんな、支えるものなど何もないはすの場所に、声の主たる少女は、座っていた。 「あ、あ、あ・ : あなた、は ? 」 「あたしはクーク」 しい加減な落書きの中に、突如、出来の悪いアイコラのように、写実的に浮かび上がり、 膝を組み、両手を伸ばして・ : 先の尖った丸太の上に座っている。

2. 時空のデーモン めもらるクーク

159 第 3 話十年のお預かりで・・ その一撃目は辛うじてよけたものの、ものの見事にバランスを崩し、自らが腰掛けてい た鉛筆からずり落ちそうになり : 「立ち去れ : ・この悪魔 5 ! 」 「や、ちょっ、ちょっとお : ・なにこれ・ : いやあああ 5 」 そして無防備になったところを、ニ撃目、三撃目が容易に捕まえる。 そう・ : 捕まえた。 「あ、あは、あはは、あはははは 5 」 千秋が夢の中で想像し、創造したのは、地面をかち割り、粘液をまき散らしながら、粘 つくような水音を立て、何本も蠢く触手だったりした。 最初に捕まえた触手が空子の胴体に巻きっき、空中へと抱え上げると、他が次々と空子 の四肢を掴み、全身に絡みついていく。 「ち、ち、千秋さ 5 ん : ・あなた、普段なに見てるのよ 5 」 「み、見たかった訳じゃないわよー・女友達が卒業記念に面白い 0>0 あげるって持って きて・ : 私だって騙されたんだからっ ! 」 「と、と・ : 友達は選ぼうよお・ : いやあああっ 「そうよ選ぶのよー・もう、あんなウジウジした、自分からじゃ何も言えないチキン野郎 なんてこっちからお断りなんだから 5 ! 」

3. 時空のデーモン めもらるクーク

132 「ありがと、マスター」 「いや、違うだろ : ・」 永井の情報収集力に目をつけた俊介と、その情報収集力により空子に目をつけた永井は、 一年前、必然的にこの店で遭遇した。 「それからこれが、ご依頼のありました資料になります」 「あ : ・ども」 俊介と空子以外の客が全て帰ったのを確認すると、永井はカウンターに一通の大封筒を 今では、三階クリニックの数少ない『窓口』の一つであり、貴重な情報屋の一人だから。 「先ほどの話にありました、″彼〃ですが : ・氏名は真鍋靖。享年二十五歳 . 渡された封筒を開くと、まず最初に目に付いたのは、制服姿のツーショット。 少し猫背で、気弱そうな笑顔を浮かべる少年と、その隣で必要以上に胸を張り、凛とし た表情を浮かべる、どこかで見た少女。 二人の姿勢の違いにより、ほとんど身長差の見られない けれど立場の差ははっきりと 見受けられる写真。 「亡くなったのは、留学先などではなく、柳大病院のべッドの上だったそうです。 柳楽大学病院は、苑宮ビルのある千軒坂から地下鉄で一駅 : ・歩いてだって行ける、パス りゆ - フだい

4. 時空のデーモン めもらるクーク

203 第 I. 2 話禁断の赤字補填 それは、先週まではいつでも見られた光景で : 「空子つ」 懐かしい後ろ姿に呼びかけると同時に、記憶の混濁を自覚し、けれど前後の事情から、 何があったか、自分が何をしたかを、おぼろげに思い出す。 それが何だったかは既に覚えていない『昔の話』を切り捨ててまで守った日常の象徴が、 今、目の前でネギを刻んでいるから。 「おはよ」 「なんだよ ? いつもは挨拶しないと説教するくせに」 ネギが目に染みたのか、鼻をすする音だけで返事をする空子。 どうやらまだ、本当の意味で日常には戻ってきていないらしい 「空子 ? 「空子—」

5. 時空のデーモン めもらるクーク

152 一人は、長い髪をニつに結わえた、最初の女の子よりも、頭一つ半背の低い女の子。 それらの絵は、クークの方から見ると、千秋の頭に浮かんだイメージが吹き出しによっ て具現化されているようにも見え : 「千秋 : ・千秋 ? 」 そして、一一人は、目つきの悪い女の子の″夢の中″で遭遇する。 「やっと話せた : ・こんばんは 5 」 それは、つい今まで目つきの悪い女の子 : ・千秋を悩ませていた、歯切れの悪い青年の声 ではなかった。 彼女にとって一番馴染みの深い、自分の声帯を震わせて届く声でもなかった。 「なに、これ・ : っ・ 周りの風景も、つい今までの、現実と非現実の境界が曖昧になったような、そこそこあ り得るレベルを通り越していた。 「月の綺麗な夜だよね」 「月・ : って、はあ ? 」

6. 時空のデーモン めもらるクーク

156 十分に自覚もしていた。 「想像もしなかったなあ : 「そう ? 」 数秒間だけ目を閉じて考え込んでいた千秋は、その目を再び開いたとき、俊介の予想を % % くらい肯定するような言葉を選んだ。 「人を生き返らせるのって、物語や昔話だと、決まってリバウンドが来ますよね。 「ああ、猿の手の説話とか、フランケンシュタインとか・ : ? 」 自らの浅慮な願いのために失った息子を、同レベルの願いで取り戻そうとした老夫婦。 自らの作り上げた人造人間に妻を殺された男。 「彼は、治る見込みのない病に冒されていた : ・それでも懸命に頑張ってきてた」 しつの世も、蘇生という魔法には、常に因果応報という枷がっきまとう。 「今さらそれを無理やり延命するのは、彼の戦いに対する冒涜じゃないかって、思う 「冒涜 : ・ね」 「おかしいでしょ一つか ? 」 「いいや、おかしくない : ・むしろ、それが正しい けれどそれは、人間という容器が自らに定めた制約のようでもあり。 「君は、正しいよ

7. 時空のデーモン めもらるクーク

「ま、そうだね、 「いくら一時的に自分の罪を忘れても、現実はすぐに目の前にふたたび現れる。誰もが私 を犯罪者として非難し、別れたはずの家族にも、いずれ迷惑がかかるかもしれない」 「人のロに戸は立てられないからね」 「だから、無駄なんです。もう、手遅れなんですよ」 目の前の甘い言葉が、かえって吉崎の冷静さを取り戻させ、徐々に『あきらめる』とい う意志を強固にしていく。 それは、空子が望んだ心とはまさに対極の方向性で : 「数日早く、あなた方のところを訪れていれば、本当に救っていただけてたのかもしれま せんね。返す返すも、今まで一人で抱え込んでしまっていたことが悔やまれます」 「なあ、吉崎さん」 「はい ? 」 「あいにくと俺は、そんな精神論を振りかざすつもりはないんだ」 それは、メンタルケアを生業にしているとは思えない暴論。 けれど俊介は、何の確証があるのか、自信満々に言い放つ。 「あんたの悩みをすつばり解消してやる。自分が人を殺めたなんて、絶対に思い出せない

8. 時空のデーモン めもらるクーク

119 第 3 話十年のお預かりで・・・ それが、百年以上前から脈々と続くおまじないの現代版だということに気づき、俊介は、 それはそれは、そこはかとなく脱力した表情で、部屋から出ていった。 梅村千秋さん ( % 歳、女性、会社員 ) の御相談。 「お待たせいたしました梅村さん ! 私、当クリニックにてカウンセラーを務めさせて頂 いております、三階と申します、 「あ、はい : ・よろしくお願いします 俊介の差し出す名刺を受け取り、その営業スマイルを見上げたのは、彼と同年代か、少 し上くらいの、若い女性だった。 べージュのス 1 ツに身を包み、贔屓目を除いても、美人の部類に人りそうな、ぶっちゃ け一新えば、俊介の趣味に相当に合致しそうな容姿をしている。 目は切れ長で少し吊り上がり、その性格が、どちらかと言えば強そうな印象を与えるの に貢献している。加えて、肩までにとどめたまっすぐで癖のない髪が、またその第一印象 を後押しする。 そして、その瞳の奥からの : 「今年で二十四になります .

9. 時空のデーモン めもらるクーク

55 第 1 話個人情報頂きます 第 1 話個人情報頂きます 「ここ・ : か ? 三日後 : 色々な意味で不幸を背負い込んだ青年、河原篤が電話ロの怒鳴り声に指定された場所は、 自宅から地下鉄で三駅しか離れていない、市内のおんぼろな三階建て雑居ビル。 「中山区香州二丁目三十八・ : 苑宮ビル・ : ここだよなあ」 高校くらいまでは、時々古着やゲームを見に来ていた懐かしの千軒坂駅周辺は、今でも 色褪せたまま、下町の電気街という妙なハイプリッドを形成したままだった。 「おはよう・ございま—す 「え ? あ、ああ・ : 」 とはいえ、篤が今回目的とした場所は、その商店街からほんの少し離れ、アーケードか らもこぼれ落ち、いきなり人通りを減らした路地にぼつんと建っている。 周りの商店街ですら開店前である今の時間帯は、目の前の公園にも人の姿は見えず、目 の前で竹ぼうきをせっせと動かす制服にエプロン姿の少女がいるだけだった。 「寒くなってきましたよね—」

10. 時空のデーモン めもらるクーク

当座の生活に困る訳じゃない。 もともとスネかじりの学生だ」 「・ : なんだかこの後の展開にす 0 ごく嫌な予感がするんだけど」 「というわけで、た 0 た一つのボタンの掛け違えによ 0 て、大学生だ 0 た兄ちゃんは、 まや無職のニーちゃんに」 「それってさあ、本当にその事故が起きなければ防げた未来なの ? : 可能性としては、ある と、俊介は、あくまで自分の心情に忠実に、限りなく玉虫色な声音を返す。 「今から向かう先 0 て、あのお兄さんのマンションの近くなんだよね ? 」 「近くもなにも、現場はマンションの目の前の信号の無い交差点」 三駅目の小木曽で降りて四番出口を出て、小木曽通りを南〈。 駅前はあれほど賑やかだ 0 た街は、大通りを外れて五分も歩かないうちに、生活道路 の入り乱れる狭くて静かな路地 ( と変わ 0 ていく。電柱に縛りつけられたプレートによる と、そろそろ聞いていた住所の『旭区川澄町二丁目』に差し掛かっているらしい 「 : ・先にマンションの方、寄ってもいいかな ? 」 「大体想像がつくが、何をする気だ ? 」 「言 0 てやるのよ。いつまで仕事もせずにプラブラしてるつもり ? 大学卒業したくせに