121 素晴らしい日々 みたいな話になっているらしい お弁当箱がニ段になってご飯が詰められている日もあるけ 仲良かったと思ってたんだけどそんな噂されたりしちゃうん れど、やつばりおむすびはなんだかワクワクする。 だなと思って、あの頃は結構ショックだった。 そんな訳で自分から彼女達を誘いたいとも思わなくなった。 食欲がない日は一個残しておいて、後の休憩で食べたりも出 来るし。 今は、すっかり平気。 お弁当箱の中身は、まず朝ご飯に卵が出ない日には欠かさ 屋上のべンチに陣取ってから、おべんとうを広げる。 ず人っている、ふつくらで出汁をいつばい含んだ出汁巻き卵 おかずの人っているお弁当箱の上に、ラップにくるまれた、た ( 好物だから、朝ご飯に卵が出た日も、気にせずお弁当に人れ て欲しいんだけど ) わら型に小さく握られたおむすびが三つ乗っている。 三角型の日は、ニつ。俵型の日は三つ。 甘くはなくて、出汁と醤油とちょっぴりのお酒、たまには出 分量を調節するとそうなるらしい 汁をとった鰹節も一緒に卵焼きに人れられている。 今日のは朝ご飯にも出ていたおひたしが入ってた。 おにぎりのうち、梅干のおにぎりには白ゴマかまぶしてある。 こんなにジューシーなのにお弁当箱がびちゃびちゃになった クマさんはゴマや海苔は使う前にかならず軽くあぶるので 未日り , 、か りする事もなく、 コツは卵液にほんの少し片栗粉を溶かす事なんだそうだ。 あとニつの中身はねぎと味噌とおかかを混ぜて軽く寝かせ たものと、私のリクエストで、中身のない塩だけのおむすび。 メインは鶏肉の甘酢煮 どれも香ばしい海苔でくるりと巻かれている。
123 素晴らしい日々 何秒かは自分だとは思わず気がっかないでいたけど、もしか して ? と振り向いたら、一一コニコとこちらをみている女の人と目 が合った。 確かキーバンチャーをやっている、派遣の人だ。 私と同じようにいつも一人で屋上にお昼に来ているみたいだ ったけど、社員と派遣にはなんとなく壁があって、話した事はな かった。 小さなお弁当箱なのに、午後の仕事も頑張ろうって思える。 美味しいご飯は偉大だな。 クマさんって、すごいな。 「いつもお弁当美味しそうですね」 一一つ目のおにぎりにかぶりついていたら、急に声をかけられ 「あの、私、同じ部署にいる前島といいます。派遣の。」 「あ、はい。知ってます」 「よかった、急に声かけて : : : びつくりさせたかと思いました」 マエシマさんはふにやりと丸い顔で笑った。 私と同い年かもう少し若そう。 うん、なんだかいい感じ。 マエシマさんは話してみると、上京して一人暮らしをしている 私より 5 つも年上の人だった。 驚いて、若く見えますね、と言うと、おしゃれや化粧が下手 : と、はにかんだ。 だから大人っぽく見えないだけ : なんだか、やつばりいい人みたいだ。 前から屋上で私を見かけていて、それでいつも凝ったお弁当 を持ってきているから気になったんだとい、つ。 「あ、あ、えーと。はい。あはは」 会社に来て仕事以外で人と話すのは久しぶりで、なんとな「そのお弁当は自分で作ってるの ? 」 くどもってしまう。
124 ! と声をあげた。 「いえ : ・家のものが持たせてくれてるんです。でも、そんな凝って るとかすごい内容じゃないですよ」 調味料も良いものを使っているみたいだし、味付けも偏りが 美味しいですけどね、と言うとマエシマさんは丸顔をほころば なく、甘い辛いしよっぱい酸っぱい、でバランスが取れているし、と せて、 マエシマさんは言う。 「そのお弁当の中の野菜、全部今が旬なのよ」 そんな風にここまで話してハッとした顔で と教えてくれた。 「あの : ・人のお弁当をずっと盗み見してて、ごめんなさい」 と謝った。 気がついた事もなかったけど、たまねぎも小松菜もごぼうも みんな今が旬らしい 「いいんですよ、私なんて旬とか気がっきもしなかったですし」 野菜なんてなんでもスー バーにいけば一年中あるし、旬なん それより、料理の事色々詳しいんですね ? と訊ねると、マエシ て考えたこともなかった。 マさんはまたはにかみながら、自分の事を少し話してくれた。 マエシマさんの話では、私のお弁当はいつもよく考えられてい 体に良くて美味しいご飯を出すお店を持ちたくて、お金を て、旬の野菜中心の献立になってるんだそうだ。 貯めながら料理人を目指している事 さらに今日の内容なら、肉 ( むね肉 ) ・卵 ( 卵焼き ) ・緑黄色野 高校を出てすぐ料理の専門学校に通って調理師免許を取 菜 ( 小松菜 ) ・淡色野菜 ( たまねぎ ) ・根菜類 ( ごぼう ) 乳製品 ( チって、今は栄養士免許に挑戦中だと言う事。 ーズ ) がバランス良く人っている。 昼間は派遣のバイトをして、夜は和食の割烹で働いているけ ど、男注社会で、女性が調理場に人るにのなかなかむつかしい 乞われて、おかずを一口ずつわけてあげたら、すっ ) 」く美味しのだという事。
アフレコ日記番外編 感謝祭での一菷 入月畤直の硺べ、んな、 ~ いお x ) ハハー怒鬚にム言ま、弁当べミ・ 95
122 別に鶏を焼くフライバンと煮る鍋を分けなくても、小さめの フライバンで鶏肉を焼いて、取り出したらさっとキッチンペー 初めて食べたときから気に人って作り方を教えてもらった。 ( といっても後から紙に書かれたレシピをもらったのだけど ) 鶏は安い胸肉でいし 胸肉は火を通すとばさばさ固くなりがちだけど、これはす ごくやわらか。 まず鶏肉は一口大に切って、お酒とお塩を軽く振っておく。 ト麦粉を薄くまぶして、両面を軽く焼く。 後で煮るから中まで火を通す必要は無し。 たまねぎを薄めのくし型に切っておく。 」鍋に、お酢としよ、つゆとお砂糖を 2 : 1 : 2 くらい。 それから出汁をカップ一杯程度いれて、火にかける。 沸騰したら、たまねぎとさっきの鶏肉をいれて、汁気がなく なるまで煮詰めたらおしまい ーで底の油をぬぐって、そのまま調味料とたまねぎを人れて鶏 を戻して煮ちゃえば、忙しい朝でもフライバン一つで出来るお 手軽な料理。 出来上がりにきざんだねぎをかけるといいんだけど、お弁当 の時はクマさんが気を使ってくれて、にんにくやネギなんかの匂 いが強い野菜は入っていない もう少しお酢を効かせてマヨネーズをかけると南蛮漬け風 にもなる お弁当のおかず、あとは、プロッコリーの胡麻和え。詳しくわ からないけどたぶん、みりんと白胡麻、あとおかかかな ? 生トマトは軽くハープ塩をして、チーズをのせて焼いてある。 きんびらごぼうはにんじんとこんにやくに、メインの胸肉のト リ皮部分を人れて、柔らかい ) 」ぼうを厚めに。 おかずは野菜中心に多目に、一品一品は少なく。 デザートには旬の梨が小さいタッパーに。ああ、幸せ :
134 母に電話一本人れれば済む事なのに、私にはそれが出来な いままだ。 これからどうなるんだろう。クマさんはずっと側にいてくれる のかな。 わからない事だらけなのは間違いないけど、今のところ私は、 美味しいしシアワセだ。 知ろうとすれば、わかってしまうかわりに無くす物もあるん じゃないかな。 もうなんでもいいじゃない。 何しろ今日はいい天気だし。お弁当はきっと栗 ) 」飯だし。 「行って来ます " こ クマさんは、にこにこしている エレベータに乗り込むときお向かいの蓮田さんの声がした。 今日もクマさんを買い物に誘っているみたいだった。
125 素晴らしい日々 なんて言おう。 説明しづらい 困った顔でいいよどんでいると、マエシマさんは一つ噴出して楽 しそうに亠 = ロった。 「いい、彼氏なのね」 十十十 夢があるんだな。いいなあ。 「こんなお弁当を持たせてくれるなんて、素敵なお母さんね」 「あっ、あの、おかーさんじゃないんです」 「じゃあ、お父さん ? もしかしてどちらかのお店の方とか」 「あ、いえ。親じゃなくて : ・・ : 」 「ただいまー、クマさん、、」 靴を脱いで、慌てて家に人る。 クマさんはエプロンをつけて迎えに出てくる。 「おかえり」 といってくれた ( 気がした ) 。 しし匂い。ほっとするあったかさ。 1 」はんの炊ける、、、 夕方から急に冷え込んで、朝着て出た七分丈カーディガン じや足りなかった。 「ううう、さむかったよ、、」 私は甘えて、クマさんのもふもふの毛に抱きつく。 いつも思うけど、クマさんはずっとこの着ぐるみを着ているの にぜんぜん臭くないなー 昼間、私がいない間に洗ってるのかな : クマさんはにこにこと、お風呂を勧めてくれた。 ) 」飯のタイマーはあと分で炊き上がりをさしている。 じゃあ、軽く人ってきちゃおうかな。
119 素晴らしい日々 身振り手振りで、携帯は持ったか、財布は、定期は、忘れ物 早くに家を出て何もしていない負い目もあるし、それで親孝 : と O>< 、してしまった。 行になるなら : はないかと確認してくれる。 もう、心配性だな。 そして現実。 仕事用のバックの底には、可愛く巾着にくるまれたお弁当が 「急に訪ねたりしない」どころか何の連絡もなく、母の。ヘットを人ってる。 子供の頃から母にだってされた事ないくらい甲斐甲斐しく 置き去りにされる日々が始まったのだ。 送り出されて・ : 私はちょっと気恥ずかしい。 だから、クマさんの時も母の文字を見た途端 うん、大丈夫、と言うといつも肉球のふかふかした手で、よし、 「ああ、そうでしたか : ・」 というように、あたまをぼん・と撫でてくれる。 と思わず落ち着いてしまった。 私は毎朝のこの儀式がとても好き。 自分勝手な母とのニ人暮らしが長かったせいで、私には「状 況をあるがままに受け人れる」癖がついている。 その時マンションの角部屋の玄関が開いて、ホウキを持ったハ 逆らっても、無駄なのだもの。 スダさんが出てきた。 ハスダさんは、一人暮らしでジャニーズ好きの元気なおばあ さんだ。 「おはようございます、蓮田さん」 十十十 「いってきます」 クマさんは玄関まで見送りにくる。
132 ミルクのたっぷりはいったカフェオレポウル。 テープルにはおかわり用のコーヒーがストレーナに。 ヨーグルトには、あの、りんごジャム。 クマさんはニコニコと、私の事を見ている。 さくりとバンを噛みながら、私もクマさんを見ている。 クマさんは何も言わない。ただニコニコと笑っている。 美味しい朝ご飯を済ませて、カフェオレを飲んでしまったら、 もう家を出る時間だ。 クマさんから、今日もお弁当を受け取って、玄関に向かう。 クマさんには言わないけれど : 実は、この間気がついた事がある。 クマさんが来た時の、母からの手紙をなぜか捨てられずに取 ってあったんだけど、何気なく見ていたらある事に気が付いた。 違うのだ。 いつもの母と。 私の母は、なぜか「宜しく」の「宜」という漢字をずっと覚え 間違っていて、「宣しく」と書く癖があった。 わざわざ訂正してあげた事はなかったが、ウカンムリの下は 「亘」ではなくて「且」が正しいのだ。 クマさんから受けとった手紙には、間違うことなく、「宜しく」 と書かれていた。 そう考えてからよく見てみると、母の字と、違う気もする。 誰かが : ・母の手紙を見た事のある誰かが、真似したもの 「じゃあ、行って来るね」 クマさんは玄関まで見送りに来る。 また、身振り手振りで、携帯は持ったか、財布は、定期は、忘 れ物はないかと確認してくれる。
120 私は同じ部署に年の近い友達がいないから、一人でお昼ご 飯を食べる。 十十十 寮にいた頃は、違う部署の女の子達とも面識があったから 待ち合わせて外食したりしていたけれど、今のマンションに引っ お昼 ) 」はん。天気がいいから屋上に向かう。 越してからは疎遠になった。 人づてに聞いた話だと : ・引越し先がす ) 」いマンションだという 関東ではわりと有名な催事場のある大きなビルに、うちののだけは引越しを手伝ってくれた数人からバレてて、 会社は人っている。 「不倫相手に払ってもらってる」 「おはよう、陽子さん。あら、おはようクマさん」 朝会社に着くとよく「ご招待・お得意様バーゲン」の看板が 人り口にかけられていたりする。 クマさんは、マンションの住人達に ) 」く普通に溶け込んだ。 そのビルに向かう駅からの無料バスも出ているし、地下には 普通なら、ずっと着ぐるみの人なんかが住んでいたら、誰か レストラン街もある。 が騒ぎ出しそうなものなのに、マンションの中の老人たちは平然 したもので一向にその気配がない。 でも屋上には : ・一般のお客様たちは滅多に来ない。 もしかして全員老眼がひどいのかしら。 このビルに間借りしているいろんな会社のさん達が、お それにした「て、クマさんはこのまま近所の商店街に買い物に弁当や、地下で買「てきたサンドイッチなんかを手にちらほら だっていっているみたいなのに : 集まってるくらい エレベータの扉が閉まるまでドアの前に出ていたクマさんを 蓮田さんは商店街の特売へ熱心に誘っていた。