制服 - みる会図書館


検索対象: 提督と甲標的と、あたし
12件見つかりました。

1. 提督と甲標的と、あたし

んな風に改装されるのかは判らないがこれで阿武隈も 北上が滅多に使わないので埃を被りつつある秘書艦 少しは強くなることだろ、つ。 用の事務机に座った大井は手元の茶を一口すする。 そうして、一人で仕事を進めながら時折やってくる 「私たち雷巡改二が寒そうだと思うのなら、改のとき 艦娘達の相手をして過ごすことしばし。 の制服なんて着せていないで何か上着を用意してあげ 窓から差し込む陽差しにタ刻の訪れを感じながら、 ればいいじゃないですか」 俺はお茶を差し入れに来てくれた大井を引き留めて世「そうは言ってもな、さすがに北上ひとりだけを特別 間話に盟 ( じる。 キいするわナこよ、ゝ ししーし力ないだろ」 「それにしても大井、その格好で寒くないのか ? 「北上さんと個人的に親しくしてるのに ? いまさら 「海の上に比べたら陸の上での生活なんて、夏でも冬そんなの白々しいですよ ? 提督ー でも変わりませんよ」 そう指摘されると事実そのものなので、俺は大井に 「いや、そういう話では無くてな : : : 」 返す言葉もない。 寒いからと雷巡改の制服を着て炬燵に入って過ごし 北上とは単なる提督と秘書艦の関係を越えて、既に ている北上とは大違いで、大井は出撃はなくとも毎日お互い恋人同士と言っていい仲になっている。まだ練 きちんと雷巡改二の制服を身につけている。北上とは度が足りていないが、いっか必ずケッコンカッコカリ 違って勤務時間中は炬燵に入ったりすることもない の指輪を渡してやるつもりだった。 同じ球磨型の軽巡をベースにした雷巡でもこれほど お互いの言葉が不意に途切れ、俺と大井の間に沈黙 までに性格が違、つのかと接する度に感心してしまう。 が広がる。なにか言葉を探そうとしたところで執務室 提督と甲標的と、あたし 10

2. 提督と甲標的と、あたし

まの駆逐艦たちが全く寒さを感じさせない様子であた 慣熟訓練中の雷巡改一一の制服から北上は雷巡改の長 りを行き交っていた。 袖に着替え直していた。制服は艦娘寮の部屋で保管し しばらく歩き続けてようやく執務室や大型艦用の食ているから、わざわざ寮まで戻って着替えてからもう 堂のある棟にたどり着き、玄関の扉を開けて中に入っ 一度執務室にやってきたのか。 た俺はそこで一息つく。 艤装を着けていないと寒いから普段は長袖の雷巡改 失敗に終わった慣熟訓練のあとで阿武隈を連れて陸の制服を着ているのだとかって北上は話していた。だ に上がった北上は言葉少なにしていた。常にゆるい態 が今の彼女は、それだけとは思えない何か違う雰囲気 度を貫き、めったに動揺したりしない彼女にとっても をまとっている。 応えたらしい 「今日の訓練、ごめんねー」 阿武隈をエ廠で検査するのが先決だったので北上 「北上は何も悪くないさ。いきなり阿武隈に甲標的を とはすぐに別れていた。もしかすると艦娘 ~ 尞に引きこ 使わせようとした俺がまずかった」 もったりしていないだろうかと危惧しながら執務室の 慰めの言葉にも北上は釈然としない様子だった。 ドアを開けると、窓際にいた北上が俺に振り返る。 窓越しの冬の午後の陽差しが柔らかく北上を包む。 「あ、提督。おっかれー窓から駆逐と話してるの見窓の外に目をやった北上はため息をつく。 えたよ。いちいちまとわりついてきてうざいよねえ」 「考えてたんだ。どうしてあたしは甲標的を使えるの 俺に向かって北上は何事もなかったかのように微笑かなって」 む。 「それは、雷巡だからだろ」 23 提習と甲標的と、あたし

3. 提督と甲標的と、あたし

2 01 5 / 1 2 / 5 0 コミックマーケット 8 9 \ 4 0 0 宇古木亭艦これニ次創作シリーズ続々刊行中 ! ! ハイバー北上さまの憂鬱 いい艦船になるから、と彼女は言った 新妻の北上さまだよ。 雷巡シュウコツ方ッコ方 l/ ケッコンするのは何隻まで ? 秋雲の制服について コス 7 レイヤー榛名妄想拡張ティスク サマーウアケイション鎮守府の夏休み

4. 提督と甲標的と、あたし

「提督、お願いがあるんだけどさ。あの武器だけは、 やつば載せないでよね。頼んだよ : あの冬の日。彼女は俺に、そう告げた。 「提督、呼んだ ? 」 俺が首を振ると北上は不思議そうに小首を傾げ、し ばらくすると先ほどまでのように炬燵の中で暖まりな がらばうっとしだす。書類仕事の傍ら横目で眺めてい ると、数分後には北上はうつらうつらと前後に舟をこ ぎ始める 今にも炬燵の天板におでこをぶつけそうな北上に 「まったく : 笑ってしまいそ、つになりながら、俺は演習向けの艦隊 たつけか ? 編成から開発と建造の指示、つぎの改装対象の艦娘の 俺がふと漏らした独り言に炬燵の中の北上は目ざと選定まで仕事を進めていく。 窓の外では雪がちらっき始めている。駆逐艦たちが く反応してこちらに視線を向ける。その耳ざとさがそ 軽巡に連れられてよくやっている体力作りのための走 れこそ猫のようだ。 季節は冬。提督のーー俺の執務室には秘書艦の北上り込みもそろそろ辛くなってくる季節だろう。 艦娘制服は艤装と組み合わさった状態で百パーセン のたっての希望で炬燵が設置されていた。提督もこの トの力を発揮する。逆に言えば艤装無しのときの制服 中で仕事しようよとなんども誘われながらも炬燵とは は人間の衣類と大差ない。極寒の北洋の海を航行でき 別に執務机を用意しているのはちょっとした意地と、 る艦娘である北上が炬燵に入って丸まっているのはそ 他の艦娘に対する威厳を保っためだ。 なんとかは炬燵で丸くなる、だっ 3 提督と甲標的と、あたし

5. 提督と甲標的と、あたし

俺の配下の艦娘達で言うと、北上と大井を皮切りに ので昔の制服を着たままとは行かないが、こうして秘 駆逐艦の何隻かと重巡の何隻かが二回目の改装を済ま書艦としている分には艦娘制服はただの人間の衣服と 変わらない せて改二になっている。 相棒の大井は真面目に冬になっても改二の薄着で過 「やはり、次の改二は阿武隈だな」 ごしていたが、流石の彼女も真冬になると少し肌寒い 「あの娘が ? 」 北上に餌付けをして遊んだあの日から数日後。改めとこほしていた。 て配下の艦娘の練度一覧を眺めて俺は独りごちると、 「あたしは仲良くしようと思ってるのに、阿武隈が嫌 相変わらず炬燵に入ってうつらうつらしていた北上が がるんだよね , 耳ざとく反応する。 北上はそう一言うが、阿武隈からは嫌がらせばかりさ 「なにか不満か ? 」 れると聞かされている。間に立つ大井に真相はどうな のか聞いてみてことがあるが、彼女も呆れたように首 「んー、不満じゃあないけどさ : ・ それきりもごもごとロの中でなにか呟いている北上を振るばかりだった。 し た あ 艦娘達のかっての記億には濃淡があり、艦としての の横顔を俺は執務机に座ったまま見つめる。ここしば と らく彼女が改二の雷巡でありながらも北上改の頃と同戦歴を克明に記憶している者もいればなんとなくのイ 的 標 じ濃緑のプレザーを着て過ごしているのは単に寒いか メージしかないものもいる。阿武隈と北上の間での衝 ららしい 突についての記意はだいぶ曖味なもののようだった。 出撃ともなれば艤装とのマッチングに問題が生じる 「阿武隈、入ります

6. 提督と甲標的と、あたし

生身の部分だけで行動しているときにはただの少女 吹きすさぶ朝の風で立てられた波が艦娘出撃用の埠 にしか見えない艦娘達が、妖精達による人智を越えた 頭に押し寄せ水飛沫を上げる。いつもの『提督』の制 テクノロジーの結晶であるのを思い知らされる。 服の上から外套に身を包み、埠頭に立っ俺の帽子を頭 「提督、ど、つかしました ? から降り注ぐ海水が濡らす。 知らぬ間に大井を見つめていた。不審げにする大井 傍らに立っ艤装を完全装備した大井にも等しく水飛 沫は襲いかかるが、雷巡改二の制服で肌をさらす彼女から視線を外し、俺は双眼鏡を構えて改めて沖合を見 はびくりともしない 艦娘出撃埠頭の一キロメートルほど沖合、鎮守府の 俺の見ている前で艤装から生じる斥力が大井の肌に 」こまとんどの海水をはじきとばし、吹き抜ある内海の湾を久しぶりに見る雷巡改二の制服で艤装 到達する前し : けた風はよく手入れされた大井のやや癖のある長い髪を背負 0 た北上が航行し、そのすぐ後ろに阿武隈が真 剣な面持ち北上の航跡を追っている。 を揺らす。 全身に魚雷を身につけ、艤装の煙突から煙を吐きな なんど目にしても驚異そのものの技術だった。水を 受け付けず海水に沈まない彼女たちは海の上で『転ぶ』がら波を立てて疾駆する北上を朝陽が照らす。その姿 的 ことすら可能だ。『提督』として着任してすぐ、練度のは執務室の炬燵でだらけて寝ている少女とは大違い 甲 低い駆逐艦が高速航行中にバランスを崩して転倒してで、俺は改めて感嘆する。 あれこそが北上の真の姿、あれこそがーー艦娘たる そのまま海面上をごろごろ転がっていくのを見たとき の本分。 にはあまりの異常さに驚いたものだった。

7. 提督と甲標的と、あたし

判ってないな、とばかりに首を振る北上に俺は何も 俺と一緒に見るでもなく報告書を眺めていた北上が 言えない。 目ざとく何かを見つける。その指先を目で追えば、名し あ 同じ重雷装巡洋艦どうしの北上と大井は艦娘寮で同簿の中の『阿武隈』の文字が目に入る。 と 的 北上の指差した艦娘練度一覧表の阿武隈の欄には、 室で暮らしている。秘書艦と言、つこともあり勤務時間 中の大半は俺と執務室で過ごしている北上だが、秘書工廠の妖精による『改装可能』の判定の印が付けられと ていた。 艦勤務の時間以外のほとんどは大井と共に過ごしてい る。いったい二人で何を話しているのやら。 大井の出ていった執務室で俺と北上はふたたび二人 で寄り添って炬燵で暖まる。 舟女には練度があり、ある程度の高さまで練度が向 流石にもう餌付けをするのも気恥ずかしく、俺は大 井が置いていった演習の報告書をめくる。 上した艦娘は改装を受ける。提督なら誰でも知ってお り、それなりに長く戦っている艦娘なら誰でも経験す ここしばらく戦況も安定し、大規模攻勢の報もない のでこうしてゆるゆると過ごせるのはまことに幸せのることだ。 限りだった。 だが改装にはどの艦娘にも可能な一回目と、限られ た者のみが許された二回目以降がある。装備や制服の 報告書に記載されている演習に出した艦娘達の成績 は上々だった。 みならず場合によっては艦種すら変化する二階目以降 の改装はすなわち歴戦の艦娘の証だった。 「あれ ? 提督、これって」

8. 提督と甲標的と、あたし

監娘と妖精で協力して引き上げておきますよ、と明石 謝りする阿武隈を連れてエ廠に赴いていた。 は約束してくれた。 改装が上手くゆかなかったのではと明石に検査をし あ マフラーを巻き直して俺は執務室のある棟へ歩き出 てもらうも問題は何もなかった。全く新しい種類の装 と 的 備である甲標的に単に置れていないのではというのがす。艦娘でない艦艇のサイズに合わせて設計されてい る軍港の施設を一部流用しているので、いちいち何事と 明石の見立てだが、そんなふうに突き放されても困っ てしま、つ。 もスケールが大きいのが玉に瑕だ。 暖かい間は特に気にならなかったエ廠と執務室のあ 艦娘は建造されたその瞬間から自分が身につけられ る棟のあいだの野外の道のりも、寒くなった今ではだ る装備をある程度は使えるものだ。戦闘で活躍できる いぶおっくうだった。 ほど上手に扱えるかは別として、どの艦娘でも装備可 能なものであれば持たせてすぐ自然と砲は撃てるし魚「提督、お疲れ様です」 「遠征大成功だったびよんリ」 雷も放ち、艦載機を飛ばす。 帰ったら寝るー」 「だるいー だが本来は軽巡の艦娘が装備することを想定してお 遠征帰りの駆逐艦たちが挨拶してくるのに俺は軽く らす阿武隈が実艦としても運用したことのない甲標的 手を挙げて返事する。 は珍しい例外だったらしい 工廠は艤装と装備の保管・整備も行っているので出 改装する前に戻ったかのようにおろおろする阿武隈 には今日はひとまず休むように伝えた。幸いにして慣撃埠頭に近く、行き交う艦娘達はみな艤装と装備を身 につけている。女学生の制服のような薄手の格好のま 熟訓練を行っていた海域は水深が浅いので、後で潜水

9. 提督と甲標的と、あたし

のだ。 「雷巡だから ? 理由はそれだけ ? こちらに向き直り、真剣な面持ちで問、ってくる北上 そうしたかって存在した武器の記憶を媒介にエ廠の に俺はロごもる。 妖精によって生み出される装備たち。そこに何が選ば かって北上を雷巡に改装して甲標的が使えるようにれるかを俺たちは制御できない。前触れなしに新しい なったときには俺は北上に真っ先に装備させた。空母種類の装備が追加されたり、改装された艦娘が見たこ ともない装備を持参したりする。 とは別の遠距離攻撃手段はあればあるだけ良いと思っ たからだ。 そして艦種による制限はあるとはいえ、艦娘の装備 北上自身もただの軽巡から重雷装巡洋艦に改装されは実艦に比べてかなり自由だ。むしろそれこそが彼女 たことを喜んでいた。甲標的が使えるようになったのたちが人の姿を取っている利点だとも言える。 は改装で攻撃手段が増えたくらいにイ : 軽く考えてい なので北上が甲標的を装備できることに俺は疑問を たし、北上もそ、つだったろ、つと思、つ。 持ったことがなかった。だが : 「北上だって艦娘の装備がどれだけいい加減かは判っ 「あたし、昔のことあんまりよく覚えてないんだ 寂しげに、北上はほっりと呟く。 てるだろう。軽巡が 20.3cm 砲を積めるんだぞ ? 」 「それは、そうだけどさ : 「阿武隈とあたし、どっちがどっちにぶつかったかも 艦娘の装備は実艦が搭載していた武器をなぞった名曖昧だったし 称こそ付けられているがあくまでも単なる呼び名に過 艦娘を形作る実艦のころの記憶の濃淡は一人一人ご ぎない。 46cm 砲の口径は 46cm であるわけではない とにかなり違う。それら『記憶』は俺たち後世の人間 提督と甲標的あなし 24

10. 提督と甲標的と、あたし

速輸送艦になった名残なのかもって , がその艦にまつわるエピソードとして語り継いでいる 「北上、お前は改でも改二でも雷巡そのもだよ。俺が ものから構成されている。 保証してやったっていい」 だから他の華々しい戦歴を持っ艦と比較すると目 雷巡改二の北上は雷巡改のころよりさらに大量の魚 立った逸話のない北上が、魚雷へのこだわりの他が抜 雷を身につけている。制服が薄着になろうがなんだろ け落ちているような人格なのは不田 5 議なことではな うが彼女は重雷装巡洋艦の艦娘そのものだ。 かった。 「さっき阿武隈が甲標的を沈めたときに思ったの。あ だが北上には、重雷装巡洋艦だった他にもう一つの れ ? 載ってる妖精はどうなるんだろう、ってさ エピソードがある。 妖精達に生死の概念があるかは定かではない。戦闘 軽巡から重雷装巡洋艦に改装されさらに高速輸送艦 の度に被撃墜が発生する艦載機の妖精達だが、ボーキ に改装された。そしてあの戦争の終わり頃、帰還を前 サイトを消費してエ廠で再び補充の艦載機を製造する 提としないある装備を運搬する能力を与えられた。 とセットになってまた出現していた。あまりにも簡単 「それでも覚えてることはあるんだ。魚雷をいつばい それから、あの武器。 に復活するその様子から、彼女たち艦載機の妖精は搭 積んだことと : と 的 乗員ではなく装備に付随するマスコットのようなもの 身震いした北上は自らの肩を抱く。 標 甲 と考えられていたこともあった。 と 「あたしが甲標的を積めるの、アレを積めたことの代 だが今の彼女たちには戦闘を繰り返すことで経験を わりなんじゃないかと思ったら布くなった。二回目の 改装で服が薄くなって軽くなるのも、もしかしたら高積むという概念が生じている。それなら甲標的の乗員