鎮守府 - みる会図書館


検索対象: 提督と甲標的と、あたし
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1. 提督と甲標的と、あたし

2 01 5 / 1 2 / 5 0 コミックマーケット 8 9 \ 4 0 0 宇古木亭艦これニ次創作シリーズ続々刊行中 ! ! ハイバー北上さまの憂鬱 いい艦船になるから、と彼女は言った 新妻の北上さまだよ。 雷巡シュウコツ方ッコ方 l/ ケッコンするのは何隻まで ? 秋雲の制服について コス 7 レイヤー榛名妄想拡張ティスク サマーウアケイション鎮守府の夏休み

2. 提督と甲標的と、あたし

あり、ちょっとした共有の秘密だった。 しいな」 「ああ、それも ) に出来たお菓子屋に行っ 北上が俺の手を引き建物の裏へ引っ張っていく。あ「こんどの休みだけど、 まり使わない装備をしまっておく倉庫くらいしかなてみない ? 大井っちも連れてさ 、いいな。そろそろ炬燵に置いてる菓子を入れ替 く、海と反対側で艦娘寮の窓からも見えないこちらは えなきやと思ってたしな。しかし大井は嫌がるんじゃ 滅多に誰もやって来ない鎮守府の穴場だ。 昼間はサポりや密談に使われているここも夜になれないのか ? 」 ばます誰もやって来ない。 「大井っち、あたしと提督で二人で出かけると拗ねる んだよー 「冷えるねえ」 腕に北上の体温を感じながら他愛もない会話を交わ 北上がそっと寄り添ってきて俺の腕を取る。 す。俺たちはすっかり歩き慣れた裏庭を進み、奥まっ ただの秘書艦と提督の関係から一歩進んで付き合い には一一たあたりに積まれている予備の戦艦の主砲が座るのに だし、だがまだ他の艦娘ーーー例えば大井だ ちょうど良いのでそこに腰を下ろす。 人の関係を明かしていなかった頃。 寄り添ってくる北上の肩を抱く。二人の吐く白い息 あれは北上が改二の雷巡になるかならないかぐらい の頃だったか。 が星空のしたで混ざり合う。 秘書艦と提督として遅くまで仕事をしたあと、こう 「提督、こんなあたしを選んでくれて : : : 本当に、 して鎮守府の裏庭で星を見ながら散歩をする。デートありがとねー とも一一一一口えないようなそれが当時の俺たちの間の日課で 「ああ。俺は趣味がいいからな」 29 提習 4 甲標的と、あたし

3. 提督と甲標的と、あたし

「北上さんから通信です の北上を監督役にし、何かあってもすぐに対応可能な 大井が差し出してきた〈ッドフォンとマイクを手に鎮守府のすぐそばの海域で訓練を行うことにな 0 た。 取る。コードの先は大井の艤装に繋がっている。 総勢で二百隻弱の艦娘を配下に抱えるいま、いちいち 艦娘達の艤装には主に鎮守府との間で使われる長距 個別の演習や訓練の一つ一つに一つ一つに口を出さな 離通信と、艦隊内での連絡に使用する短距離用の隊内 い俺も今回ばかりは見に来ている。 電話の二つがある。 北上のたっての希望で先生役は彼女が行うことに 今回の慣熟訓練は埠頭から見えるすぐそこで行うの なった。もしかしたらこれで大っぴらに阿武隈をいじ でこうして大井の艤装を利用して隊内電話で指示を出れるとでも考えているのかもしれない。大井は通信の すことになっていた。 中継と万が一の場合のバックアップだ。 「二人とも、調子はどうだ」 『北上さん、ぶつかってこないでくださいよリ』 『絶好調だよー』 『そっちこそリ』 『問題ありませんリ』 隊内電話でやりあう一一人の会話に俺は耳を傾ける。 俺の目の前で朝から行われているのは阿武隈改二の 実物の艦船ほどではないにせよ艦娘は急には止まれ 慣熟訓練だった。二回目の改装により大幅に艦娘とし ないので最小単位である一一隻での艦隊運動すら接近し ての状態が変化した阿武隈は出撃のみならずいきなりて行うのは危険を伴う。 演習や遠征に出すのも危ぶまれた。 単縦から並進、そしてまた単縦と陣形をめまぐるし なのでこうして通常の演習のシフトとは別に秘書艦 く変化させ、北上と阿武隈は何度か回頭する。この二 提督と甲標的、あなし 18

4. 提督と甲標的と、あたし

赤城に声をかけられて俺は彼女が通りやすいように そんな家に、今の関係になってからは北上を何度か 椅子を少し動かす。その後についてぞろぞろとやって泊まらせたりしていた。 きた演習を終えた正規空母たちの一団は声高に喋りな 「だがな、そういうのはあんまり大きな声で喋るな」 がら俺の後ろの席に陣取った。 しいじゃん」 今週の夕食のメニュ ーについて、休暇で外出したと 「そうですよ提督。はやく北上さんとケッコンして、 きに見た映画、流行の冬物のファッション。かしまし きちんと責任取ってくださいよ . くしゃべくる空母たちの会話に耳を傾けていると、 大井にまで怒られるのは納得いかないが、万事につ 上がテープルに身を乗り出して話しかけてくる。 け北上の味方をする大井には反論しても無駄だという 「ねえ提督、次の外出のときにまた遊びに行ってもい のはこれまでの経験で身にしみていた。 いまだ北上とケッコン出来ていないのは彼女の練度 「もちろんだとも」 が不十分だからだ。装甲が脆弱で傷つきやすい雷巡は 「へへー、やったあ。ありがとね」 演習で育ててやるべきなのだが、最近になって空母た 鎮守府の営内で暮らしている艦娘達とは違って俺はちに追加された新たな要素がそれを阻んでいた。 外に「提督』用の邸宅を支給されている。しよっちゅ 「加賀さんの烈風、何本線になりました ? 」 う執務室で夜を明かしているのであまり自宅という感 「斜め三本線まで行ったわね」 覚はないが、とはいえプライベートの空間なのは確か 「あ、 いいですね。次は私にも使わせてくださいリ」 「瑞鶴、自分の艦載機くらい自分で育てなさいな」 ヾ、 ) 0 提督と甲標的と、あたし 14

5. 提督と甲標的と、あたし

「大井っち、「提督が北上さんにあんな武器載せよう炬燵に入る北上と軽口を交わしながらやれば俺だけの としたら、私が魚雷で懲らしめてやりますから』だっ時よりもすいぶんと捗った。 た あ 「 : : : よし、今日はこの辺で終わりにしよう」 と 北上の真似する大井の口調があまりにそれつほくて 「おっかれー」 俺は笑ってしまう。正反対のようでいながら、なんだ 書類をしまった俺は執務机から立ちあがり伸びをす かんだで彼女たちは姉妹なのだ。 る。炬燵の中で備え付けのミカンをばくついていた北 「大井は : その、あれについては気にしていない 上が拍手してくれる。 のか」 北上が来てくれて延長したおかげでだいぶ遅い時間 「大井っち、魚雷さえ撃てればそれでいいからー になってしまった。嫌がる彼女を炬燵から追い出し、 言われてみれば確かに、大井はそのあたり実に割り 帰り支度を整えながらこのまま北上を鎮守府の外にあ 切ったものだった。北上とは違って実艦の頃に早く沈 る自宅へと連れ帰れたら、と思ってしま、つ。 んでしまったのもあるのかもしれない だがケッコンしていない艦娘を勝手に外泊させるの 北上が来てくれたことで気力が盛り返した俺はもう いくら俺たちが深い仲とはいえ他の艦娘に示しが いちど仕事に取りかかる。 付かず難しかった。 装備改修の予定表を作成し、駆逐艦たちの練習航海 北上を促して二人で執務室から外に出る。 のローテーションを組み、大型艦の中から演習に出す「提督、帰る前にちょっと散歩していかない ? ものを選ぶ。複雑きわまりない事務作業も、ときおり 昔み

6. 提督と甲標的と、あたし

いわく、駆逐艦寮のトイレの一番奥の鏡に深夜零時 いっかの北上の言葉を思いだして応えると彼女はく に姿が映らなかった娘は次の日に大破する。 すりと笑う。そのまま見つめ合った俺たちはどちらか いわく、夜中にポーキサイト倉庫から廃棄されて資 らともなく口づけを交わす。そうして 源になった艦載機の妖精がシクシク泣く声が聞こえ 「ねえ、へんな声がしなかった ? 」 る。 「声っ・ いわく、誰もいない大浴場の水面がまるで深海棲艦 さっと振り向いた北上があたりを見回しながら小声 「、問、つ の潜水艦が居るようにひとりでに屋しく泡立つ。 いわく 気のせいだろと返そうとして、甲高いどこかで聞い まことしやかに囁かれる蚤談の大半は、たいしたこ たような声が俺の耳にも入る。 とのない現象を大げさにとらえた年若い小型艦たちの どうやらその声はだいぶ遠くのエ廠の裏手あたりか 勘違いが生み出したものだろう。 ら響いてくるようだった。 魚雷戦の教官役を務める北上は駆逐艦と接してその 「もしかして、お化けとか ? ・ 先ほどまでの切なそうな雰囲気をすっかりかなぐり手の怪談をよく知っていて、俺にもなんどか聞かせて くれた。というより蚤談のうちのいくつかは駆逐艦た 捨てた北上は目を輝かせている。そういえば彼女はこ ちを怖がらせるために北上が創作しているのではない の手の話が大好きなのだった。 かと俺は疑っている。 鎮守府には駆逐艦が怖がるような屋談がいくつか流 「見に行ってみようよ " 布している。 提督と甲標的と、あたし 30

7. 提督と甲標的と、あたし

ういう事だった。 け『秘書艦』は存在すると一一一〕えた。 「うーん : ・ : ・大井っち : それはダメ : : : 」 「魚雷 : : : 四十発・・ : : もう撃てないよお・・ ついに炬燵の天板に突っ伏して涎を垂らした北上が いったい何の夢を見ているのか北上は幸せそうにむあ と 寝言を漏らす。気持ちよさそうにしているその姿を眺 にやむにやと呟いている。 めていると実に心が和む。 着任してから色々な艦娘を秘書艦に置いてきて、俺と 『秘書艦』にどこまでの役目を持たせるかは、各々のが最後に行き着いたのがこの北上だ 0 た。 提督のさじ加減と秘書艦を務める艦娘の能力と性格に いくら秘書艦が助けになろうと最終的に決断を下 寄るところが大きい すのは提督たる自分だ。紆余曲折を経てそう考えた俺 情報処理に優れたものを据えて文字通り秘書としては、事務仕事をそのまま手伝 0 てもらうよりもこうし 働かせる提督がいれば、書類仕事は苦手でもリーダー て和ませてくれる方を選んだ。 シップに長けたものを登用して艦娘達の精神的支柱 すぐに終わらせる必要があったいくつかの書類への にする提督もいる。駆逐艦を秘書艦にして艦隊のマスサインを終えて一息ついて伸びをする。 コットにすると同時に提督からは直接目の届きにくい 執務机から立ち上がった俺が炬燵で眠る北上の隣に 駆逐艦娘の世界をのぞく窓にする者もいる。 潜り込むと、目を覚ました彼女は寝ほけ眼でこちらを 持ち回りで様々な艦娘を秘書艦にされることもあれ見やった。 ば、決まった一人だけが重用されたりもする。 「あれ、提督じゃん : 提督の数だけ鎮守府があるのと同様に、提督の数だ そのまま猫のように身体をすり寄せてくる北上。半

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「ええー、ケチ」 俺の後ろに座る正規空母たちがちょうどそのことに 「そ、ついえばさー提督。あたしたちの甲標的にも妖精 ついて話している。 が乗ってるよね ? あれにも艦載機と同じで熟練度が 彼女たちが話題にしているのは、つい先日、空母のあるのかなあ ? 艦娘の装備ーーー艦載機に付属している妖精に突然発生 「エ廠からは報告は来ていないが : それは使って した熟練度の概念についてだ。 る北上の方がよく判るんじゃないのか ? 」 むしろ今までそうい 0 た現象がなか 0 たのが不思議「うーん、あの子たちよくわかんないんだよね。大 だったとも一一一一〔える。砲や魚雷とは異なり空母艦娘の艦井っちはどう ? 載機はパイロット役の妖精がそれぞれに搭乗してお 「私もさつばりです」 り、明らかに自律行動しているのだ。 大井と北上がうなずき合う。 なので、艦娘が経験を積んで練度が上がるのと同様「というか、ず 0 と使 0 てたけど気にしたことなか 0 に艦載機の妖精達にも同じ現象が起きない方がおかし たって一一一口ったほ、つがいい力も かったと一一一一口、んよ、つ。 頬杖をついた北上が小さく呟く。 そうして熟練度の概念が生じたおかげでいまの鎮守 俺の配下の千歳と千代田はすぐに軽空母に改装した 府は空母たちが優先して演習に出撃し、ひたすら艦載ので甲標的母艦として運用されたことはない。木曽は 機を鍛えている。そんなわけで甲標的による長距離攻練度が足りずに軽巡のままなので、俺の元で甲標的を 撃役として役目の被る雷巡はしばらくお役御免だっ 使うのは目の前の北上と大井だけだ。 15 提督と甲標的、あたし

9. 提督と甲標的と、あたし

も、頑張ります 一小書を書き終える。 改装を受けても艦娘そのものの肉体的な部分はほと 「北上、たまには秘書艦の仕事だ。後でこれを配布し んど変化しない。耳に来る甲高い声ばかりは改装でもておいてくれ」 変わらなかったらしく、勇ましい内容に不釣り合いな ーい。でも提督、もう夜だよ。まずはご飯に行こ 幼い声で敬礼すると阿武隈は出て行った。 、つよ」 北上の言葉に壁の時計を見やればそろそろ食堂が混 「なんだが元気が空回りしている感じですね」 「格好は大人っほくなったのに喋り方は前の阿武隈とみ始める時間だった。秘書艦に作ってもらったり食堂 同じなのが変な感じー」 から持ってきてもらったりして執務室で食事を取る提 好き勝手に言い合う大井と北上。自分たちだって女督も多かったが、俺は艦娘全員と接触できる貴重な機 学生のようなプレザーから、何かのキャンペーンガー 会としてできる限り食堂に赴くようにしていた。 北上を大井を伴って執務室を出て食堂へ向かう。ち ルのごときへソ出しミニスカートに格好が変わってお いて人のことなど言えたものか、と俺は思うがロに出なみに提督の執務室と同じ棟にあるのは重巡以上の大 しはしない 型艦向けの食堂で、あまりにも数が多い駆逐艦と軽巡 そのまましばらく北上と大井に喋るままにさせなが向けの食堂は別のところにある。 ら、俺は阿武隈がやってきたことで中断した書類仕事 雷巡は身体こそ軽巡と同じではあるが役目としては を再開する。翌日の演習と遠征の計画、夜のうちにも 駆逐艦を率いる軽巡よりも遠距離攻撃を担う空母など 欠かさない鎮守府前面の哨戒などについて一通りの指に近い。秘書艦とその付き添いとして執務室によく顔 提督と甲標的と , あたし 12

10. 提督と甲標的と、あたし

生身の部分だけで行動しているときにはただの少女 吹きすさぶ朝の風で立てられた波が艦娘出撃用の埠 にしか見えない艦娘達が、妖精達による人智を越えた 頭に押し寄せ水飛沫を上げる。いつもの『提督』の制 テクノロジーの結晶であるのを思い知らされる。 服の上から外套に身を包み、埠頭に立っ俺の帽子を頭 「提督、ど、つかしました ? から降り注ぐ海水が濡らす。 知らぬ間に大井を見つめていた。不審げにする大井 傍らに立っ艤装を完全装備した大井にも等しく水飛 沫は襲いかかるが、雷巡改二の制服で肌をさらす彼女から視線を外し、俺は双眼鏡を構えて改めて沖合を見 はびくりともしない 艦娘出撃埠頭の一キロメートルほど沖合、鎮守府の 俺の見ている前で艤装から生じる斥力が大井の肌に 」こまとんどの海水をはじきとばし、吹き抜ある内海の湾を久しぶりに見る雷巡改二の制服で艤装 到達する前し : けた風はよく手入れされた大井のやや癖のある長い髪を背負 0 た北上が航行し、そのすぐ後ろに阿武隈が真 剣な面持ち北上の航跡を追っている。 を揺らす。 全身に魚雷を身につけ、艤装の煙突から煙を吐きな なんど目にしても驚異そのものの技術だった。水を 受け付けず海水に沈まない彼女たちは海の上で『転ぶ』がら波を立てて疾駆する北上を朝陽が照らす。その姿 的 ことすら可能だ。『提督』として着任してすぐ、練度のは執務室の炬燵でだらけて寝ている少女とは大違い 甲 低い駆逐艦が高速航行中にバランスを崩して転倒してで、俺は改めて感嘆する。 あれこそが北上の真の姿、あれこそがーー艦娘たる そのまま海面上をごろごろ転がっていくのを見たとき の本分。 にはあまりの異常さに驚いたものだった。