12. 鶏の解体 ~ 内臓 ~ 一般に、料理を効率よく行うには、刃物の良否が重要です。私はステンレス製ではなく、鋼鉄製 の大小 2 本の包丁を使っています。大きい方は普通と同じくらいで、小さい方は「ペティナイフ」と 呼ばれるタイプです。鋼鉄製の包丁は、水滴がひと粒付いただけで、すぐに腐食が始まるので、 一回切る度に布巾で水気を拭き取らなければならない面倒さはありますが、切れ味は抜群です。 ②鶏の体内から内臓を引き出します。 0 0 内臓の構造が理解しやすいよう、取り出し た内臓をプロックごとに並べました。 左上角から、赤黒いのが心臓、オレンジ色 の玉が卵黄、その下が砂肝・肝臓・胆のう 、その右が輸卵管、右端が小腸・大腸です。 肝臓は美味しいのですが、柔らくてもろい ので、体内から取り出す時にグチャグチャ に崩れないように注意しましよう。 右の写真の、ホッキ貝のような臓器が砂肝 ( すなぎも ) です。食道と胃の中間にあり 、歯を持たない鶏は胃に負担がかからない よう、飲み込んだ固い食べ物をこれですり 潰すのです。そのため、砂肝は分厚い筋肉 の塊であり、消化管が中を通っています。 砂肝を切って、中の消化管と未消化のエサ を取り除き、焼いて食べると美味しいです。 一般に、よく活用されて発達した筋肉は、 美味しいものです。 右の写真の臓器は、鶏の心臓で、いわゆる ハツです。これも食べられます。 ただし放血が不十分だと、血生臭いゼリー 状の血の塊が中に残って、後味が悪くなる ので注意しましよう。 11. 鶏の解体 ~ 内臓 ~ 屠殺したばかりの鶏をすぐに解体すると、まだ鶏の肉や内臓に温かさと柔らかさが残っています。 それはちょうど、自分が愛する人や赤ちゃんやペット動物の温かさや柔らかさとそっくりだということ に気付きます。そうして、食肉用に殺される家畜と、自分が愛すべき対象との間には、何の区別も ないのだ、ということを体感するだけでも、人生に対して深く、大きな意味があると私は思います。 ①鶏の体内から内臓を引き出します。 肛門の周囲から鶏の体内に手を差し込んで、 体壁に沿って指を進めます。すると体内の 薄い筋膜が破れて、内臓が体壁からはがれ 始めます。 大腸をつかんで、ゆっくりと引きずり出す と、それに連れて他の内臓も一塊になって 外へ出て来ます。 指で指した緑色の臓器が胆のうです。これ を破ってしまうと、中に入った胆汁が肉や 他の臓器に着いて、苦くなってしまいます ので気を付けましよう。 これは食用にはなりません。 胆のうの周囲の茶色い臓器が肝臓です。 生で食べると、プリンのような食感とウニ のような旨味が味わえます。 黄色い玉は卵の黄身です。鶏の場合、輸卵 管の中にはいくつもの黄身が入っていて、 順次送り出されるに連れて周囲に固い殻が 着き、体外へと産み落とされるのです。 右の写真の中央に、一番大きな黄身が輸卵 管の中に入っているのが見えます。 卵の黄身も食べられますが、破れやすいの で、気を付けて扱いましよう。 あるいは、さっとお湯に通して表面を固め ると、美味しく食べられます。 日本国内の専門的な養鶏場では、感染症に よる危険や損失を防ぐため、衛生的に管理 された環境で鶏を育てていますので、内臓 を生食することも可能でしよう。 しかし、衛生的に不安のある環境で育った 動物は、寄生虫、細菌、ウイルス等に感染 していると考えるべきであり、健康に自信 のある人でも、生食は避けるべきでしよう。 内臓を取り出した後の体内の様子を展示し ました。 この鶏は、栄養を十分に与えて飼育された ようで、体壁に黄色い内臓脂肪が、分厚く 残っています。 この後、精肉店に並んでいるような分類で 鶏の体の各部分の肉を切り取っていきます。
26. 鶏の解体 ~ 胸肉・鶏ガラ ~ 鶏の本体から左右の胸肉を切り離します。 ( → ) 、犠牲になられた方々がより強く望むのは、同様の悲劇を繰り返さないことと、その教訓を私 達の今現在の生き方に直接、反映させ続けることではないでしようか ? 私は自衛隊での訓練中、 配給された食料を前にする度に、サイバンで戦死した祖母の弟さんの最後の食事を想うのです。 ⑨ 本体から胸肉を引き剥がします。 2 本体の骨格と胸肉の隙間に差し込んだ親指 の先を下腹の方へ進めて、骨盤から胸肉を 引き剥がします。 25. 鶏の解体 ~ 笹身・胸肉 ~ 鶏の本体から左右の笹身と胸肉を片方ずっ切り取ります。 私が食べ物のありがたさを感じる機会の一つは歴史書を読むときです。特に、それなりに食糧の 安定供給に成功していた明治以降の日本社会が飢餓地獄に突き落とされた ( というより、自ら落ち 込んでいった ) 大東亜戦争の記録は酷烈です。戦没者を慰霊する行事も大事ではありますが ( → ) ⑤笹身を胸骨から切り離します。 笹身は胸骨の稜線下の L 字形の溝に沿って 貼り付いています。 笹身を傷付けないように注意しながら刃先 と指先を使って、胸骨から笹身を剥がし、 取り出します。 ⑥笹身を取り出しました。 笹身は脂身の少ない、あっさりとした淡白 な味です。 ⑩ 本体から胸肉を引き剥がします。 3 本体の骨格と胸肉の隙間に差し込んだ親指 の先を首の方へ進めて、肩甲骨・肋骨から 胸肉を引き剥がします。 ⑩ 骨格から肉が取り去られました。 これまでの作業で、本体から四肢と主要な 肉を取り去った結果、骨格と、その表面に こびり付いた肉片しか残りません。 残った鶏ガラもスープの出汁を取るなどに 有効活用したいものです。 ⑩ 鶏ガラ・胸肉・笹身に分けました。 左から鶏ガラ、胸肉、笹身の順に並べまし どれも、それぞれに特徴があって美味しい 味がします。 以上で屠殺と解体の説明を終わります。 ⑦背筋に切れ目を入れます。 背筋に沿って、腰骨の上端から首の付け根 まで切れ目を入れます。 これは、本体から両脚を切り取る前の準備 と同じく、本体力ら胸肉を切り取りやすく するための準備す。 ⑧本体から胸肉を引き剥がします。 1 ⑦で入れた切れ目に親指の先を刺し込み、 肩甲骨や肋骨から胸肉を引き剥がします。
05. 鶏の屠殺 ~ 屠殺の準備 ~ 06. 鶏の屠殺 ~ 屠殺の準備 ~ いよいよ、鶏を屠殺します。鶏に無用な苦痛を与えたり、肉を食べられなくしてしまったり、美味し 鶏は、両足首と羽根の付け根を紐で縛れば、動けなくなります。そして、あらかじめ垂らしておい さを損なったりしないためにも、作業は手早く、よどみなく、正確に行うようにしましよう。 た紐と足首を結び合わせて、逆さ吊りにします更に、鶏の体全体を覆うようにポリ袋を被せます。 とはいえ実際には、いざとなると多くの人は、鶏くらいの大きさの生きた温血動物 ( つまり、人間と こうすると、頸動脈を切ったときに流れ出る血カ周囲に飛び散らないので、後始末が楽になります。 DNA が近縁な生物 ) を直接、刃物で殺して解体することに、ためらいを感じるようです。 実際の放血では、大量の血液が噴水のように吹き出るというわけではありません。 ⑦鶏を取り出します。 両の羽根の付け根を縛ります。 ⑩ 屠殺するため、鶏を段ボール箱から取り出 両の羽根の付け根を紐で縛ります。 します。 鶏のくちばしや爪、羽などは固くて鋭いの で、必ず軍手をはめて取り扱うようにしま しよう。 0 ヾ、 ⑩ 鶏を逆さに吊るします。 用意しておいた紐に、鶏の足を縛った紐を 結び合わせて、鶏を逆さに吊るします。 ⑧両方の脚を縛ります。 左右の足首を紐で結び合わせます。 ここでは特に、固くて鋭い爪でケガをする 可能性がありますので、必ず軍手をはめて 作業しましよう。 ⑩ 血液を回収するポリ袋を被せます。 垂直に垂らした紐に、ガムテープでポリ袋 の端を取り付けます。 こうすれば、鶏の頸動脈を切って放血して も血液が周囲に飛び散らず、速やかに回収 することができます。 ⑨両方の羽根を縛ります。 左右の羽根の付け根を握ってまとめます。 ここでも、固くて尖った羽根の先でケガを する可能性がありますので、必ず軍手をし ましよう。
23. 鶏の解体 ~ 手羽 ~ 本体から切り離した手羽の肘関節を切り離し、手羽を 2 つに分けます。 ところで、日本の適正人口は具体的には何人なのでしよう ? 私は人力で維持可能な最大限の 土地開発と生産収量で養える人数、つまり農業機械と化学肥料がなかった江戸時代末期の人口 が基準になると思います。輸出入を絶たれた最悪の状態でも日本国民は生存が可能だからです。 ⑨本体と手羽を切り離します。 2 本体と手羽を並べました。 24. 鶏の解体 ~ 笹身 ~ 鶏の本体を中央で切り分け、胸肉の内側に隠れている笹身を取り出します。笹身は、柔らかくて ちぎれやすいので、刃物の先で笹身の縁を囲むように切ったら、親指の爪を差し込んで、剥がす ようにすると、きれいに採れます。 ( 撮影の都合上、①④と②③は別の鶏の写真を使いました。その ため、①④は右側、②③は左側の胸肉を切り取っています。 ) ① 胸の中央を切り開きます。 1 胸肉の中央に刃先を突き刺し、縦に走って いる胸骨の稜線に沿って、胸肉を切り開き ます。 ⑩手羽の肘関節を切り離します。 1 本体から切り離した手羽の肘関節の隙間に、 刃先を刺し込みます。 ② 胸の中央を切り開きます。 2 ①で現れた胸骨の稜線の左右どちらかの側 に刃先を沿わせます。 深さ 1 センチほど刃先を刺し込み、深さを 保ったまま、胸肉を切り開きます。 胸肉の下に隠されている笹身を傷付けない ためです。 ③ 笹身を露出させます。 ②で入れた切れ目に指先を差し込んで胸骨 から胸肉を剥がすと、胸肉の内側に隠れて いた笹身が現れます。 笹の葉に形が似ているので、笹身と呼ばれ るようです。 ④ 笹身を露出しました。 胸肉の下に隠れていた笹身が現れました。 胸骨の稜線と胸肉の間に、笹身があること が分かります。 ⑩手羽の肘関節を切り離します。 2 手羽を肘関節から、手羽元と手羽先の 2 っ に切り離します。 0 ⑩手羽を 2 つに切り離します。 手羽が手羽元と手羽先の 2 つに切り離され ました。 左側の手羽元が、いわゆる「チューリップ」 です。
09. 鶏の屠殺 ~ 屠殺の実行 ~ 死んだ鶏の消化管の中には、未消化のエサや糞が詰まっており、腸内細菌が存在しています。 そして、鶏の体温の残りや気温によって細菌は活動を続け、腐敗が始まります。ですからもし、この 後に続く解体がすぐにできないようでしたら、取り敢えず羽毛をすべて取り除いてしまい、鶏の体を 新しいポリ袋に入れて、丸ごと冷蔵庫に入れて冷やし、なるべく早いうちに解体を再開しましよう。 ⑥鶏の体をお湯に浸けます。 お湯の温度と同じく、お湯に浸ける時間も キッチンタイマーなどを使って、 30 秒 ~ 60 秒間を正確に守りましよう。これより短い と羽毛が抜けず、これより長いと鶏の皮膚 が柔らかくなり過ぎたり、脂分が抜けて、 食感がパサバサになってしまいます。 ⑦お湯から引き上げます。 鶏の体をお湯から引き上げて、羽毛を抜く 場所へ移動させます。ここでも、ポリ袋を 使うと、余分なお湯や血液の残りが周囲に 飛び散らず、ボロ布に吸い取られて作業が しやすくなります。 10. 鶏の解体 ~ 解体の準備 ~ これから、鶏の体を各部分ごとに解体して行きます。作業中は刃物を握る手が脂と体液でベト ベトになり、滑りやすくなって危険です。手元にタオルを 2 ~ 3 枚用意して、小まめに手 と刃物の柄の汚れを拭き取りながら作業を進めましよう。また、切れない刃物の方が切る ときに余分な力が入って危険ですので、よく研いでおくようにしましよう。 ① 鶏の体をまな板の上に置きます。 鶏の体をまな板の上に置きます。 これからの作業では、刃物を握る手が脂と 体液でベトベトになって、滑りやすくなり ます。 なので、手元にタオルを 2 ~ 3 枚用意して 、小まめに手と刃物の柄の汚れを拭き取り ながら作業を進めましよう。 ② 頭部を切り落とします。 頭部は食用にならないので切り落とします。 首の骨は太くて固いので、無理に切ろうと すると刃が欠けてしまいます。なので、指 の先で骨の継ぎ目を探り当て、そこに刃先 を差し込んで、軟骨の感触を確かめながら 深く刃を入れて切り落としましよう。 ⑧羽毛をむしり取ります。 ポリ袋の中で、羽毛をむしり取ります。 お湯で温まった鶏の体が冷えないうちに 手早く、よどみなく作業を進めましよう。 手羽の固くて太い羽根は、生えている方向 に向けてまっすぐに引き抜きます。 それ以外の全身の細かい羽毛は、首から足 の先に向かって斜めに生えているので、逆 方向 ( 足先から首の方向 ) へ向かって引き ちぎるように引っ張ると、早く、きれいに 抜けます。 皮を食べたとき、ロの中に毛が引っ掛かる と気持ちが悪いので、できるだけ丹念に 細かい毛まで全て取り除きましよう。 ③ 肛門の周囲を切り開きます。 肛門の周囲を広めに切り落とすようにする と、アーチ形に体内への入り口が開けます。 肛門の裏には大腸がつながっていて、中に は糞便が詰まっていますので、この段階で は大腸を切り離さないようすると、周囲や 他の内臓を汚さずに作業ができます。 ④ 肛門の周囲を広げます。 この後から、手を体内に差し込んで、内臓 を取り出します。 まずは肛門の周囲を広げて、体内の状態や 内臓の配置を確かめます。 写真の黄色いものは、内臓脂肪です。