主人 - みる会図書館


検索対象: シャーロック・ホウムズ 帰る
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1. シャーロック・ホウムズ 帰る

けいさっ いじよう 以上、自分で盗みだしたりはしてくれませんでした。しかし、この家の図面を作ってくれて、 しんしつ しよさい 午前中は、秘書がこの寝室で仕事をするから、書斎にはずっとだれもいないはずだと話してく れました。そこで、とうとうわたくしは勇気をだして、自分でそれを取りにきたわけなのです。 しかし、そのために、なんという大きな犠牲をはらったのでしようー かぎ わたくしは日記と手紙を取りだして、戸だなの鍵をかけようとしていたときに、あの若い男 の方がわたくしをつかまえたのです。その朝、わたくしはその方に会っています。道で出あっ て、主人の秘書だとも知らずに、その方に、コーラム先生の家はどこですかと聞いてしまった のでした。」 ホウムズは、 もど 「そのとおりだ ! まさに、びったりだ ! 秘書は家に戻ってから、途中で出あった女の話 しゅじん を主人にした。だから、死にぎわにそれを言いのこそうとした。あの女ですーーーいまお話しし たばかりの、あの女です、とね。」と、言いました。 めいれい 女は、さも苦しそうに顔をゆがめながら、命令するように、 こう言いました。 たお へやと 「わたくしに話をさせてください。あの人が倒れて、わたくしは部屋を飛びだしましたが、 しゅじんへや しゅじん ドアをまちがえて、気がつくと、主人の部屋へはいってしまっていました。主人はわたくしを 警察の手にわたすと申しました。わたくしは、もしそんなことをすれば、こっちだってあなた ぬす ひしょ ひしょ ゅうき ひしょ とちゅう わか 213

2. シャーロック・ホウムズ 帰る

のいのちをどうにでもできるのたからといってやりました。わたくしを警察につきだすなら、 しゅしんどうし こっちも主人を同志の手にわたすことができるのです。これはただ、自分のいのちが惜しいた しゅじん めではなくて、あくまでも思いをとけたかったからなのです。主人は、わたくしがけっして口 さと うんめい 自分の運命が、この女とどこまでもいっしよなのだと悟 先きだけで言っているのではない ったようでした。そのために、ただそれだけのために、主人はわたくしをかくまってくれまし かくが た。そうして、自分だけが知っている、古代の遺物のような、あの暗い隠れ家に、わたくしを しゅじん ほうりこみました。主人はいつも自分の部屋で食事をしますから、わたくしにわけてくれるこ もど くらやみ けいかん とができたわけで、警官が帰っていったら、夜の暗闇にまぎれて家を抜けだし、二度と戻って やくそくむす こないという約東を結びました。しかし、どうしてでしよう、あなたはわたくしたちの計画を かのじよ 見やぶったのです。」ここで、彼女は服の胸のあたりから、小さな包みを取りだしました。「お すく しまいに申しあけたいことがあります。ここにアレクシスを救えるものがはいっています。あ わた なたの名誉と、正義を愛するお心におすがりして、これをお渡ししたいのです。どうそお受け 取りくださいー ロシア政府へとどけていたたけますね。これでわたくしのっとめは果せまし た。ではーーー」 さけ 「とめろ ! 」と、ホウムズは叫ぶと、ひと飛びに部屋をかけぬけて、彼女の手から小さな薬 びんをもぎとりました。 むね いぶつ しゅじん けいさっ かのじよ 214

3. シャーロック・ホウムズ 帰る

しかく でも、アレクシスはーーーあなたなんか、この名前さえ口にする資格がないけれど・・ー・ーまるで奴 隷のように働かされ、生活しているんですよ。あなたのいのちは、わたくしににぎられている というけれど、こうして生かしてもらってるじゃありませんか ! 」 けだか 「おまえはいつも気高い女だったものな、アンナ。」老人はたばこの煙をはきながら、こう 言いました。 彼女は立ちあがりましたが、苦しそうに、小さな叫び声をあけて、また腰をおとしました。 けいき 「おしまいまでどうしてもお話ししなければ。刑期を終えると、わたくしはあの日記と手紙 を取り戻そうと心に決めました。あれをロシア政府に送りさえすれば、友だちは自由の身にな しゅじん さが れるのです。わたくしは主人がイギリスに来ていることを知っていました。何か月も捜したあ いどころ けく、やっとその居所をつきとめました。主人がいまでも日記を持っていることはわかってい ました。まだシベリアにいたころ、わたくしを責める手紙をよこし、そのなかに、日記からい いんよラ 一」とば しゅじんしゅうねん くつか引用した言葉があったからです。しかし、主人は執念ぶかい男で、自分からすぐに渡し てくれるはずはありません。どうしても、こちらから取りにいくしかない。そのために、わた しりったんていじむしょ しゅじん くしは私立探偵事務所から人をひとりやとい これを秘書に仕立てて、主人の家に送りこみま これが、あなたの二番目の秘書よ、セルギウス、すぐにやめていった、あの男なの。 かれ かぎかた 彼は日記や手紙が戸だなにしまってあるのを見つけて、鍵の型まで取ってくれたけれど、それ れい かのじよ もど はたら ひしょ しゅじん さけ ひしよした ろうじん けむり わた 212

4. シャーロック・ホウムズ 帰る

ぎん 「よし、よし、ウォトスン、なんでも自分の思いどおりにすらすら行くと思っちゃいけな い」かれはしまいにこういいました。 るす ーディング氏が午後まで留守なら、そのときまた来なくちゃなるまい。きみもきっと気 ぎようぞうでどころかた : 、まくはあの胸像の出所を片つばしからっきとめようとけんめいなんた。 がついていると思う力を うんめい せつめい みんなかわった運命をたどっている。それを説明できる何か特別なものがありはしないか、そ れを見つけたいと思って、ね。こんどはケニントン通りのモース・ハドスン氏をたずねて、何 かこの事件の手がかりをくれるか、どうかあたってみよう。」 わたし かいがしよう 一時間ほど馬車を走らせて、私たちは目ざす絵画商の店につきました。主人は小柄ですが、 かっしりしたからだっきで、赤ら顔の、短気そうな男でした。 しゅじん 「そうですよ、だんな。しかも、このカウンターの上でやられたんです。」と、主人はいし ました。「悪いやつにこうずかずか入ってこられて、品物をこわされたんしや、何のために税 金をはらってるんだかわかりませんや。もっときびしく取りしまってもらいたいもんで。さよ きようぞう 0 、 ーニコット先生に胸像を二つ売ったのもこのわたしです。まったく、ひどいことをする きょむとういんし むせいふしゅぎしゃ ものだ ! 虚無党員の仕わざだとわたしはにらんでますね。無政府主義者でもなければ、だれ きようぞう きようわとういん が胸像をこわしてまわったりするもんですか。あいつらのことをわたしは赤の共和党員とよん じけん かんけい でるんです。胸像をどこから仕入れたか、ですって。それが事件と何か関係があるんですかね じけん ばしゃ きようぞう たんき とくべっ しゅじんこがら 114

5. シャーロック・ホウムズ 帰る

よろこ なにめいわくをかけるばかりで、だれも喜ばすことがない あなた自身にさえ、何ひとつい いことはないのに。でも、神のお召しのないうちに、わたくしの手で、あなたの、その細いく のろ びをしめるわけにもいきません。そうでなくとも、この呪われた家のしきいをまたいでからと いうもの、いやというほど、いろいろな目にあいました。でも、お話ししてしまわなくては。 さもないと、手おくれになってしまいます。 つま けっこん かれ みなさん、わたくしはこの男の妻だと申しあけました。結婚しましたとき、彼は五十で、わ たくしはまだはたちの愚かな娘でした。ロシアのある町、そこの大学でーーー名前は申しますま 「何を言う、アンナ ! 」と、老人はまた、つぶやくように言いました。 かくしんは きょむしゅぎしゃ ( 4 ) かれ 「わたくしたちは革新派ーーー革命家ーー虚無主義者でした。彼もわたくしもそうでしたし、 けいかんころ ほかにも大ぜいいました。ところが、あるとき警官が殺されて、ごたごたがおこり、大ぜいの、 しようこ たいほ しゅじん たがくしようきん 者が逮捕されました。証拠が要るという段になって、主人は、自分が助かり、多額の賞金をも うらぎ なかま かれじはく らうのとひきかえに、自分の妻と、大ぜいの仲間を裏切りました。そうです。彼の自白によっ こ , しゆだい て、わたくしたちは根こそぎ逮捕されました。あるものは絞首台にかけられ、あるものはシベ しゅうしんけい しゅじん リアへ送られました。わたくしもシベリア行きでしたが、終身刑ではありませんでした。主人 わた は不正に得た金をもって、イギリスに渡り、それからずっと、ひっそり暮していたのですが、 ふせい おろ なすめ つま ろうじん かくめいか だん じしん くら 210

6. シャーロック・ホウムズ 帰る

れ なかま いどころ もし仲間のものに居所をつきとめられれば、一週間もたたぬうちに、正しい裁きを受けるくら しようち いのことは、百も承知していると思います。」 ろうじん 老人はふるえる手をのばして、たばこを一本とり、 「わしの運命は、もうおまえの思いのままたよ、アンナ。それにしても、おまえはいつだっ て、わしにやさしくしてくれたな。」と、言いました。 ど 5 ・し 「わたくしはまだ、あなたのいちばん悪い仕打ちの話をしていません。同志のなかに、わた けだか あいじよラ くしが心を許しあった友だちがおりました。気高くて、たえずひとのことを考え、愛情のふか せいはんたい ぼうりよくにく およそ主人とは正反対の人でした。その人は暴力を憎んでいました。もしもあれを罪だ つみびと というならーーーわたくしたちはみんな罪人ですけれど、あの人たけはちがいます。いつも手紙 をよこして、そういうことはよしなさいとさとしてくれたものでした。その手紙さえあれば、 かれすく かれ 彼を救うことができるのです。わたくしはまた、毎日日記をつけて、彼に対するわたくしの気 持や、おたがいにかわした意見などを書きつづっていましたが、その日記があってもいいので しゅじん す。ところが、主人はそれを見つけてしまい、手紙も日記もとりあけて、隠し、そればかりか、 しようげん 彼のいのちにかかわるようなことを、けんめいに証言したりしました。さすがに、それはとお りませんでしたが、アレクシスは囚人としてシベリアへ流され、いま、こうしている間も、塩 あくとう 坑で働かされているのです。それを考えなさい、この人でなし、悪党。いま、こうしている時 こうはたら ゆる うんめい しゅじん しゅうじん さば えん 211

7. シャーロック・ホウムズ 帰る

「はい、なにしろこちらではたらいております長の年月、こんなことははじめてでございま したから、思わず頭がくらくらいたしました。」 冫いた。」 「うん、わかった。気分がわるくなったとき、どここ 「その場所ですか。ええと、ここにおりました。ドアの近くの。」 へやすみ すこし 「それはおかしいな。きみは向こうの、部屋の隅にある椅子に腰かけたはずだぜ。椅子はい くらもあるのに、どうして、わざわざむこうまでいって、坐ったのかな。」 「わかりませんです。どこに坐るかなんてことは、わたくしにはどうでもよろしかったの 「ハニスターはほんとうに何もわからなかったと思いますよ、ホウムズさん。なにしろ、ひ どく気分がわるそうでーーーまっさおな顔をしていました。」 しゅじんへや 冫いたのだね。」 「ご主人が部屋を出て行かれたあとも、そのままこここ かぎ 「ほんの一分かそこらでした。それから、ドアに鍵をかけて、自分の部屋に戻りました。」 「きみはだれがあやしいと思う。」 この大学には、そんなことをしてまで、 「ああ、だれがあやしいなんて、めっそうもない。 しん うまくやろうなどと思う方は、ひとりもいらっしやらないはずです 。いいえ、そんなこと、信 じられません。」 なが へやもど す 156

8. シャーロック・ホウムズ 帰る

アフリカへでかけることにします。』」 りえきはか 「わるいことをしてまで、自分の利益を計ろうとは思わなかった、それを聞いて、じつにう れしい。しかし、どうして方針をかえたのかね。」と、ンウムズが言いますと、ギルクリスト は・ハニスターを指さして、 かれ 「ぼくをまともな人間にもどしてくれたのは彼なんです。」と、言いました。 ホウムズは、 せいねんに 「さあ、・ハニスター君。この青年を逃がしてやれたのはきみだけだと、さっき・ほくが言った のこ かぎ から、なっとくしてくれたろう。部屋に残っていたのはきみだし、出るときに鍵をかけたのだ からね。窓から逃げたとは、どうしても考えられない。きみがなぜこんなことをしたか話して、 じけん さいご なぞ この事件の、最後に残った謎の部分をはっきりさせてくれないか。」と、言いました。 「知っておしまいになれば、ごくかんたんなことなんです。しかし、あなたのような頭のい きよう い方でも、これはおわかりになりませんでしたね。わたくしはジ = イベズ・ギルクリスト卿、 しつじ はさん つまり、この方のおとうさまの執事をしていたことがございました。あの方が破産なさいまし がくりようげなん しゅじん むかし たとき、わたくしはこの学寮に、下男としてっとめることになりました。でも、昔のご主人が かたときわす むかし おん 落ちぶれておしまいになったとはいえ、片時も忘れたことはございませんし、昔のご恩がえし にもと、お子さまのお世話をさせていただいておりました。さて、きのうのこと、たいへんた まど のこ ほうしん 171

9. シャーロック・ホウムズ 帰る

というお知らせがあって、この部屋へはいりますと、まず、ギルクリスト様の茶色の手袋が目 にはいりました。わたくしはその手袋には見おばえがありましたし、なぜここにあるかもわか さと りました。もしソウムズ先生に悟られれば、万事おしまいでございます。わたくしはその椅子 に坐りこみまして、ソウムズ先生があなたさまを呼びにでていらっしやるまで、てこでも動き わか しゅじんしんしつ ませんでした。そのあと、この若いご主人が寝室からでていらっしゃいましたので、ひざの上 に抱いて、うちあけ話をのこらずうかがいました。ホウムズさま、あの方をお助けするのは、 おかしいことでしようか。また、なくなられたおとうさまがなさったように、お話し申しあげ とく て、こんなことをしても、なんの得にもならないことをわかっていただこうとしましたことも、 やはりおかしいことだったでしようか。これでも、わたくしをお責めになりますか。」 ホウムズはすっくと立ちあがると、まごころこめて、こう言いました。 じけん 「いやいや、責めるものか ! さて、ソウムズさん、ちょっとしたこの事件も、どうやら解決 ちょうしよく したようですな。ぼくたちも、うちで朝食が待っていますから。さあ、帰ろう、ウォトスンー きたい ああ、それから、ギルクリスト君、ローデシアでのかがやかしい未来を期待していますよ。 はいけん ちどは下へ落ちたけれども、将来、きみがどこまで高く昇っていくか、拝見していましよう。」 すわ しようらい てふくろ ばんじ のば みらい てふくろ かいけっ 172

10. シャーロック・ホウムズ 帰る

はかけらをひとつひとつつまみあげては、もれる光の中でたしかめていましたが、どれもこれ せつこう もふつうの石膏のかけらにすぎませんでした。ホウムズが調べ終ったころ、広間のあかりがっ しゅじんすがた いて、戸があき、シャツにズボンといういでたちのこの家の主人が姿を見せました。でつふり ようき とふとった、陽気な人でした。 「ジョサイア・ブラウンさんですね。」と、ホウムズが声をかけますと、 そくたっぴん 「はい、さようです。あなたがシャーロック・ホウムズさんで。速達便のあなたのお手紙を いただいて、おいいつけのとおりにしておきました。戸には全部中からかぎをかけ、成りゆき を待っていたところです。やれやれ、悪いやつがっかまってなによりでした。どうか、みなさ ん、中へおはいりになって、お茶でも召しあがってください。」 ばしゃよ しかし、レストレイドは犯人を留置場へ連れて行きたがっていましたので、すぐに馬車を呼 かみ みだ はんにん び、四人ともロンドンへもどることにしました。犯人はひとことも口をきかず、ただ乱れた髪 わたし のかげから私たちをにらみつけていて、いちどなそ飢えたオオカミのように近づけた私の手に けいさっしょ 噛みつこうとさえしました。私たちは警察署にかなり長いこといて、犯人の服を調べるのを待 けつか ち、その結果、二、三シリングの金と、柄になまなましい血をいつばいつけた長いナイフだけ がみつかったことを知りました。 けいぶ 「これでじゅうぶんです。」と、別れぎわにレストレイドはいいました。「ヒル警部があの連 わたし はんにんりゅうちじようつ わたし はんにん 127