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検索対象: シャーロック・ホウムズ 帰る
185件見つかりました。

1. シャーロック・ホウムズ 帰る

かぎ わす ホケットをさぐると、鍵はちゃんとあるのです。合 ま忘れていったなと、まず思いましたが、 : げなん かぎ 鍵はわたしの知っているかぎりでは、下男のバニスターが持っている一個だけのはずです。・ハ しようじきもの ニスターはこの十年間、わたしの部屋の世話をしている男で、とても疑えないような正直者で けつきよくかぎかれ す。結局、鍵は彼のもので、わたしがお茶をのむかどうかを聞きに部屋へはいり、出るときに、、 かれ わす うつかり忘れていったことがわかりました。彼がはいったのは、わたしの出ていったすぐあと かぎ わす らしく、 いつもなら、鍵をおき忘れたって、なんでもないことですが、それがきようにかぎつ て、まことにとんでもない結果を招いてしまったのです。 しけんようし つくえ 机の上を見たとたんに、わたしは、だれかが試験用紙をかきまわしたことに気づきました 9 こうせいず 校正刷りは長い紙三枚で、わたしはそれをぜんぶまとめておいていったはずなのに、帰ってみ まど ると、一枚は床に落ちており、もう一枚は窓のそばのサイド・テープルの上に、そうして、三 . 枚目だけがもとの場所にあったのです。」 ホウムズはこの時はじめて、身動きして、 「一。ヘージ目は床に、二ページ目は窓ぎわに、三ページ目がもとの場所にあったんですね。」 と、念をおしました。 「そのとおりです、ホウムズさん。おどろいたな。どうして、それがおわかりになったので すか。」 ゆか ゆか けつか まね へや まど うたが 141

2. シャーロック・ホウムズ 帰る

チャーチ街のかどにある、ちっぽけな本屋、ごそんしですか。いや、お目にかかれて、とても うれしいです。だんなさんも本はおあつめでしよう。ここに『イギリスの鳥』『カタラス詩集』、 それに『聖戦』がありますーーみんな掘りだしものですよ。五冊もあれば、あそこの本だなの、 だんめ 二段目のすき間がふさがるんですがね。すき間があっちゃ、おかしいですよ。ねえ、だんなさ ん。」 わたし 私はうしろの本だなをふりかえって、さてもういちど前を向くと、どうでしよう。シャーロ しよさいづくえ ソク・ホウムズがニコニコ笑いながら、書斎机の向こうに立っているではありませんか。 私はすっかりおどろいて、思わず立ちあがり、しばらくじっと相手の顔を見つめました。そ わたししようがい れから、どうやら気をうしなってしまったらしいのです。こんなことは、私の生涯に、あとに もさきにもまったくなかったことでした。目の前に火色のもやがぐるぐるうずをまき、それが 睛れると、カラーがはずされ、ビリビリするブランデーのあと味がくちびるに残っているのに かたて わたしいす 気がっきました。ホウムズは酒びんを片手に、私の椅子の上へのしかかるようにしていました。 「ウォトスン。ごめん、ごめん。きみがこんなにびつくりするとは思わなかったよ。」 ききおぼえのある、なっかしい声です。 わたし 私はそのうでをぐいとっかみました。 「ホウムズ ! ほんとうにきみかい。ぎみが生きてるなんて、まるで夢のようだな。あのす わたし 力し せいせん ( 4 ) わら さか さっ ゅめ のこ

3. シャーロック・ホウムズ 帰る

そのあいだ、ここにかけて、待っておるからね。』と、あの人は言うのです。 たしようじようけん んざいさん わたしは写しをとりはじめましたが、多少の条件つきで、全財産をわたしにゆずると書いて おどろ あるのを見たとき、わたしがどんなに驚いたか、わかっていただけると思います。あの人は、 まゆげ みよう 小柄で、眉毛の白い、まるでイタチのような、妙な人でした。そうして、あの人の顔を見あけ するど ると、その鋭い、灰色の目で、さも楽しそうに、わたしをじっと見つめていました。わたしは ゆい・こん 遺言の文章を読んで、自分の目をうたがいたくなったほどでしたが、あの人の話では、自分は ひとり者だし、親戚で生きているものもほとんどいない、それにきみの両親のことは、若いこ せいねん ろよく知っていたし、君が援助しがいのある、りつばな青年だということを、いつも聞いてい ざいさん たから、自分の財産を、そういう値うちのある人間にゆずりたいと思っていた、と、そう言う ゆいどんじようせいしき のです。もちろん、わたしは、もつれる舌でお礼を言うのがやっとでした。遺言状は正式にで きあがり、署名もすみ、わたしの書記が証人として名前を書きいれました。この青い紙のほう がそれで、こっちの紙きれは、さきほどもお話ししたように、下書きです。ジョナス・オウル たてものたいしやくけいやくしょ ふどうさんしようしょ ていとうしようしょ ディカーさんは、ほかにもいろいろ、建物の貸借契約書だの、不動産証書だの、抵当証書だの、 しよるい かりかぶけん 仮株券だの、書類がたくさんあって、・ せひいちど目をとおして、おぼえておいてほしいのだと ばんじかた 万事片がついてしまわぬことには、気が安まらないし、いろいろと取りきめたいことも ゆいどんじよう やしき あるから、こんや遺言状をもって、ノーウッドの屋敷へ来てくれないか、と言うのです。『だ こがら しよめい しんせき はいいろ きみえんじよ した しようにん わか

4. シャーロック・ホウムズ 帰る

らね。では、おやすみなさい。」 わたし 私たちは暗い中庭に出ると、もういちど窓を見あけました。インド人はまだ部屋のなかを歩 きまわっていましたが、ほかの二人の姿は見えませんでした。 しつないゅうぎ 「さて、ウォトスン。この事件を、きみはどう思う。まったく、つまらん室内遊戯だよ 三枚カードの手品みたいなものじゃないか。ここに三人の男がいます。そのうちのひとりをあ ててください。さあ、どの男でしよう、ってなものだね。」ホウムズは大通りへ出ると、こう 言いました。 すじよう 「まず、四階にいた、ロのわるい男。あいつは素性もいちばんよくない。もっとも、インド 人だって、ずるそうなやつだ。なんだって、いつも部屋のなかを歩きまわっているんだろう。」 あんき 「ありゃなんでもないさ。だれだって、暗記をするときは、あんなことをするものだ。」 「おかしな目つきで、こっちを見てたぜ。」 しけんじゅんび れんちゅう 「あしたの試験準備にいそがしくて、一分でも大切だというときに、知らない連中にどやど やとはいりこまれたら、きみだってきっとああいう目つきをするだろう。あれも、なんでもな えんびつ いと、・ほくは思う。鉛筆も、それに、ナイフもーーみんな、あやしいところはない。だが、ひ つかかるのは、あの男だ。」 「だれだ、あの男っていうのは。」 じけん すがた まど たいせつ

5. シャーロック・ホウムズ 帰る

「火事だあ ! ーみんないっせいにどなりました。 「ありがとう。もういちど、どうそ。」 「火事だあ ! 」 「では、もういちどだけ、諸君、いっしょに。」 さけ 「火事だあ ! 」その叫び声は、きっとノーウッドじゅうにひびきわたったでしよう。 ろうか それが消えるか消えないうちに、びつくりするようなことがおこりました。廊下のはしの、 あな かべ いままでかたい壁だとばかり思っていたところに、いきなりパッと戸があいて、まるで穴から とびだしたウサギのように、しわくちゃの小男がころがりでてきました。 「うまくいったそ ! 」と、ホウムズは落ちつきはらって、言いました。「ウォトスン、バケ ゆくえふめい しようにん ツの水を、わらにかけてくれ。それでよし ! レストレイド君、行方不明の大事な証人、ジョ しようかい ナス・オウルディカー氏を紹介します。」 警部はびつくりして、このとびだしてきた男を、ばんやりと見つめているばかりです。男の ろうか わたし ほうは、廊下のあかるさに目をパチクリさせながら、私たちと、くすぶっているわらとをなが かいはくしよく まゆげ めていました。いかにもみにくい うさんくさい、灰白色の目と、白い眉毛をもった、ずる てきい そうな、敵意にみちた、意地のわるい顔でした。 . し事ー . し どうしたんだ、おい。、 しままで、おまえは何をしていたんだ。」と、レストレイ し しよくん

6. シャーロック・ホウムズ 帰る

しらが り、彼の食欲のよさがよくわかりました。たてがみのような白髪の頭と、かがやく眼を私たち のほうへ向けたとき、その風采はまことにうす気味わるいものでした。いつも消えることのな けむり ひじ いたばこの煙が、あいかわらずロもとにただよっています。教授は服を着て、暖炉のそばの肘 すすわ かけ椅子に坐っていました。 じけんなぞと 「やあ、ホウムズさん、事件の謎は解けましたか。」教授は横の机のうえに置いてあったた お ばこの大罐を、ホウムズのほうへ押してやりました。ホウムズも同時に手をのばしましたから、 かんつくえ わたし 二人の手のあいだで、罐は机のはじからころけ落ちてしまいました。私たちはみんなでひざを ひろ ついて、思いがけないところまで散らばったたばこを、一、二分かかって拾いあつめました。 わたし もういちど立ちあがったとき、ホウムズが目をかがやかせ、ほほを赤く染めているのに、私は せんとうき 気づきました。これは戦闘旗がするするとあがったことであり、事態が急を告げるときでなけ れば見られないものなのです。 なぞと 「ええ、謎は解きました。」と、ホウムズは言いました。 まる スタンリー・ホ。フキンズも私も、びつくりして、目を丸くしました。老教授のやせた顔には、 わら 何かあざ笑うようなかげが浮びました。 「ほんとうですか ! 庭で見つけたんですか。」 「いや、ここでです。」 かれしよくよく おおかん ふうさい わたし ち きようじゅ きようじゅ じ た つくえ ろうきようじゅ だんろ わたし

7. シャーロック・ホウムズ 帰る

じよせいと あいて、なかからひとりの女性が飛びだしてきました。 「おっしやるとおりよ。おっしやるとおりー わたくしはここです。」奇妙な外国なまりで、 さけ 女はこう叫びました。 かのじよ ほんばこ かべ 彼女はほこりで茶色にまみれ、本箱の壁のくもの巣を頭からぶらさげていました。顔もよご どうじよう れていましたが、みがいてみても美しくなる顔だちではけっしてありません。見るからに強情 そうな、長いあごをしているほかは、前にホウムズが予想したとおりのからだっきをしていま くらやみ した。もともと目がわるいうえに、いきなり暗闇から明るいところへでてきたものですから、 ばしょ 目がくらんだらしく、じっと立ったまま、私たちの居場所と顔をたしかめようと、しきりにま ばたきしていました。ところが、こんなひけめがあったにかかわらず、彼女の態度にはどこか きびん どうどう・ 気品がただよい、そのごうまんそうなあごも、けっして伏せない顔もじつに堂々としており、 そんけいねん 思わず相手に感心させ、尊敬の念をおこさせずにはおかないほどでした。スタンリー・ホ。フキ うで かのじよ ンズは女の腕をつかんで、逮捕するといいましたが、彼女はその手をしずかにはらいのけ、し どうどう げん けいじ かも、その堂々たる威厳には、」 事も従わざるを得ませんでした。老人は椅子の背にそりかえ って、顔をひきつらせ、思いつめたようなまなざしで、彼女をじっと見つめています。女は話 しはじめました。 「はい、わたくしはあなたに捕された女です。本箱のなかで、す 0 かりお話を聞き、あな したが わたし んばこ よそう かのじよ ろうじん かのじよたいど きみよう

8. シャーロック・ホウムズ 帰る

まど くをつけねらっている男だよ、ウォトスン。そうして、むこうでは、ぼくたちにつけねらわれ ていることを、すこしもごそんじないのだ。」 ホウムズの計画はだんだんにはっきりしてきました。身をかくすにはもってこいのこの部屋 から、見張りのものを反対に見張り、追うものをさらに追うかたちになっています。向こうの わたし 窓にうつるぎごちない人かけは、敵をおびきよせるえさ、そうして、私たちは狩人です。くら やみの中に、ものもいわず、私たちはじっと立ったまま、目の前をあわただしくゆききする人 かけを見つめていました。ホウムズはひとこともしゃべらず、身うごきさえしませんが、けん めいに気をくばって、道ゆく人の流れからけっして目をはなさないようにしているのがわかり ます。さむい、荒れもようの晩で、風がひゅうひゅうと、するどい音をたてながら、長い街路 いったりきたり を吹きまくっています。外套やえりまきにすつ。ほりと身を包んだ人が大ぜい しているなかに、一、二度、どうも同じ人間を見かけたような気がしましたし、ことに街路の ずっと向こうの、一軒の家の戸口で、風をよけているらしいふたりづれに気がっきました。ホ かれ ウムズにそれを教えようとしましたが、彼はいらいらしたような声をちょっとだしただけで、 かべ あいかわらず道のほうをじっと見つめています。そわそわと足をうごかし、指で壁をこっこっ とたたいたことも一度や一一度ではありません。だんだん不安になってきていて、計画がすこし も思いどおりに進んでいないことがわかります。 あ けん がいとう ばん わたし てき ふあん かりうど 力いろ がいろ へや

9. シャーロック・ホウムズ 帰る

「まったくだ。」 かれはんにん 「ほかにうまい考え方が成りたたないかぎり、あの男は助かるまい。彼を犯人だとする警察 の言い分には、どうもすきがないのだ。それに、調べていけばいくほど、向こうが強くなる。 しよるい みよう ところで、れいの書類のことだが、そのなかに、ちょっと妙なところがあって、そのあたりか よきんざんだか ちょラさ ら調査の糸口がっかめるかもしれないんだ。銀行の通帳をのそいてみると、預金の残高がすく ないのは、去年一年間に、多額の小切手が、コーネリアスという男に振り出されたためだとい けんちくぎようしゃ うことがわかった。じつをいうと、もう仕事をやめたはずの建築業者と、こんな大きな取り引 だれ きをした、このコーネリアスという男よ、 をいったい誰なのか、ばくは知りたくなってきた。こ じけんかんけい の男がこんどの事件に関係があるとは、考えられないだろうか。コーネリアスはたぶんプロー たがくしはら カーだろうが、この多額の支払いにびったり合うような受け取りが見つからなかった。ほかの げんきん 手がかりはぜんぶだめだったのだから、こんどは、銀行へ行って、小切手を現金にかえた人間 めん・ほく けつきよく せいねんこうしゅ をつきとめなくてはなるまい。しかし、面目ないが、結局は、レストレイドがあの青年を絞百 けいしちょう 台へ送っておしまいということになりそうだ。警視庁もさそ喜ぶことだろう。」 わたし ねむ シャーロック・ホウムズが、その夜、すこしでも眠ったかどうか、私にはわかりませんでし よくあさ かれ たが、翌朝、食事におりて行くと、青ざめて、やつれた彼が、目のふちにくまどりをこしらえ、 光る目をいっそうギラギラと光らせていました。椅子のまわりのじゅうたんには、たばこの吸 たがく よろこ

10. シャーロック・ホウムズ 帰る

ホウムズは興奮して、するどく息をすいこみました。頭をぐっと前へつぎだし、注意を集中 して、全身をこわばらせています。れいのふたりの男は、まだ戸口のところにうずくまってい るらしいのですが、そのすがたはもう見えません。あたりはまっくらで、物音ひとっせず、た だまんなかに黒い影をうっした黄色い窓が、目の前にあかあかと見えるだけでした。このしん しす かんとした静けさの中に、もういちどしゆっという、か・ほそいひびきがきこえました。それは、 かれ こうふん わきあがる興奮を、なんとかおさえつけようとしている彼のため息なのです。そのあとすぐ、 わたし ホウムズはいちばんくらい部屋のすみへ私を引きもどし、気をつけろというように、私のロを 手でおさえました。私をつかんでいる指はぶるぶるふるえています。いままでホウムズがこん がいろ くらい街路は、しずか なに興奮しているのを見たことがありません。しかも、ひとけのない、 に、長々と、目の前にびろがっているばかりです。 かんか第、 ホウムズの感覚はずっとするどいので、前からわかっていたのでしようが、しかし、私も、 急にそれに気がっきはじめました。きこえたのは、低い、しのび足の音で、しかもそれはべイ わたし カー街の方角からではなく、私たちのかくれている家のうしろからひびいてくるのです。ドア ろうか があいて、しまりました。つづいて廊下をそっと歩いてくる足音 なるべく音をたてまいと あや しているらしいのですが、もともと空き家ですから、気味のわるいほどひびきわたります。ホ かべ かれ ウムズは壁ぎわにうずくまり、私も。ヒストルの柄をにぎりしめて、彼にならいました。くらや こ 5 ふん んしん こうふん かげ わたし きいろまど わたし ひく わたし わたし