ホウムズ - みる会図書館


検索対象: シャーロック・ホウムズの冒険
180件見つかりました。

1. シャーロック・ホウムズの冒険

しようせつ しい。そこで、ひまにまかせて小説を書きはじめた。もちろん、はじめから売れるはずもなく、 しゆっぱんしゃ 出版社へ送るたびに、かならす送りかえされていたという。 きようじゅ ドイルがまだ学生のときに、大学にジョゼフ・ベルという教授がいた。この教授はたいへん正 しんだんくだ ひょうばん かんさつりよく かんしやしよくぎよう い当ら しい診断を下すことで評判がよかったばかりでなく、するどい観察力で、息者の職業や、家柄や、 性質などを言いあてることに妙を得ていた。ドイルはこういう型の人間をにして、思いきり かつやく しんく いとけんきゅう 活躍させる小説を書いてみたいと思い、「深紅の糸の研究」という物語を書きあげた。これが、シ とうしよう さいしょちょうへんしようせつ ャーロック・ホウムズの登場する最初の長編小説となったのである。 これもあいかわらす、ほうぼうの出版社からことわられはしたが、やっと一八八七年、ある雑 し ごう 誌のクリスマス号にのり、イギリス本国よりもむしろアメリカで評判が高くなった。第二作「四 人の署名」はアメリカのある出版社の侭頼で書いたほどである。 れきししようせつ その後、歴史小説もいくつか書いたが、やがて、ひとつひとつは独立していながら、そのどれ にもかならすホウムズとウォトスンの活躍する、みじかい小説をつぎつぎに書きはじめ、一八九 まうけん 二年、最初の十二編をまとめて出版した。これが「シャ 1 ロック・ホウムズの冒険」である。こ いちゃくゆうめい せいこう れでドイルは一躍有名になり、この成功に力を得て、「シャーロック・ホウムズの回想」「シャー じけんぽ たんべんしゅう ロック・ホーウムズ帰る」「最後のあいさつ」「シャーロック・ホウムズの事件簿」などの短編集 きようふ ちょうへん と、ススカーヴィルの犬」「恐怖の谷」の長編小説をあいつで発表した。合わせて短編五十六篇、 しよめい しゆっはん はっぴょう どくりつ さっ 315

2. シャーロック・ホウムズの冒険

めることにしよう。」 「それまで君は何もすることがないのかい ? 」 「ないね。」 おうしん 「では、ぼくはまた往診にいって来るよ。だが、タがた、君に言われた時間にはまたもどって じけん かいけっ 来よう。ぼくだって、こんなやっかいな事件がどう解決するか見たいからね。」 しよくじ 「ぜひ来たまえ。七時には食事をする。山シギが一羽あるはすだ。だがこういうことがあると、 りようり しら ぼくもハドスンのおかみさんに、料理するとき、山シギのえぶくろを調べてもらわなくてはなら ないねえ。」 私はひとりの息者にひまどって、もう一どべイカーにいった時は、六時半をすこしすぎてい がいとう ました。ホウムズの家のそばまでゆきますと、背の高いスコッチ帽をかぶった男が、外套のボタ まど はんえんけい ンをあごのところまでかけて、ドアの上のあかり窓からさして来る、明るい半円形の光の中で待 っているのが見えました。私がそこへ着いた時、ちょうどドアがあいて、その男といっしょにホ ・ウムズの部屋へ通されました。 きやく ホウムズはひじかけ椅子から立ち上って、にこにことあいそよく客にあいさつをしました。ホ ウムズはいつも、こんな風にいきなり態度を変えることができるのです。 「ヘンリー・ べイカーさんですね。どうぞこちらへ。火のそばがよろしいでしよう。べイカ かんじゃ ぼう 127

3. シャーロック・ホウムズの冒険

「だって、ぼくは何も話をきいちゃいないんだよ。」 「そりやそうさ。これからすっかり話してあげる。ここへ乗りたまへ。ーーーもういし 君は帰っていいよ。ここに半クラウンある。少いけど、取っておきたまえ。あした十一時ころ、 しつけい また待っててくれないか。手ずなははなしていし 。じゃ、失檄。」 ばしャ くら ホウムズが馬に一むちあてると、馬車は走り出しました。暗い、 人気のないがどこまでもっ づき、やがて道はしだいに広くなって、らんかんのある広い橋を渡りました。橋の下には暗いⅡ たてもの まち の水がゆるやかに流れています。そこから先は、またれんがとモルタルの建物の建ちならんだ街 こうや じゅんさ がくろぐろと荒野のようにつづいて、あたりはしんと静まりかえっています。たまに巡査の重い くっときそく れんじゅう 靴音が規則正しくひびくのと、夜ふけまで酒を飲んでいる連中の歌いさけぶ声がきこえるだけで した。空には雲が静かに流れてゆき、その間から星が一つ二つかすかにきらめいています。 ホウムズは顔をふせたまま、じっともの思いにふけっているらしく、だまって馬を走らせてい そう ます。そのそばで私は、ホウムズがこれほど一しようけんめいにうちこんでいる、この新しい捜 査の話をぜひききたいものだと思いながらも、彼の考えをじゃましたくないと思って、じっとた こうがい べっそうちたい まっていました。馬車は何マイルか走って、ロンドン郊外の別荘地帯へさしかかった時、ホウム さいぜん まんぞく ズは急にからだをふるわせて、肩をすくめ、最善をつくしたという顔つきで、満足そうに、ノイ プに火をつけました。 ひとけ まち

4. シャーロック・ホウムズの冒険

めまち 私たちは沼地のくぼみを横切って、かわいた、かたい草地を四分の一マイルほど歩きました。 しやめん そこはまた翁面になっていて、そのへんにも馬の足あとがありました。それから半マイルほどの 間は足あとが見えなくな 0 て、や 0 とケイプルトンのすぐそばで、また見ることができました。 ゅび 先に見 0 けたのはホウズでした。そして、さもにそうな顔つきで、立 0 たままそれを指さし ています。馬のそばに、人間の足あとが見えていました。 「馬は今までひとりだったじゃないか。」 「そうなんだよ。今まではひとりだった。おや、これは何だろう。」 人間と馬の足あとはそこで急にむきをかえて、キングズ・。 ( イランドのほうへむかっています。 くちぶえ ホウムズはロ笛をふき、私たちはまた、それについて歩きはじめました。彼の目はその足あとば かり追っていますが、私はちょっと横を見て、びつくりしました。同じ足あとが、また反対の方 こう 向へむかっているのです。私がそれを指さして見せると、ホウムズは、 たす 「えらいそ、ウォトスン。これでだいぶ歩くのが助かった。どうせまた、ここへもどって来る んだからね。じゃ、このもどり道の足あとについていって見よう。」 今度は、それほど歩かずにすみました。ケイプルトンうまやの門に通じる、アスファルトの舗 どう 道のところで、その足あとは終っていました。私たちが近づいていくと、ひとりの馬丁がうまや からとび出して来ました。 くさじ はてい はんたい はう

5. シャーロック・ホウムズの冒険

ちのの 0 た縣鵈は。ンドン郊外の一ばん家のまばらなあたりも過ぎて、両側にいなか風の垣が まど つづいている道を走ってゆきました。しかしホウムズの話がすんだ頃は、窓ごしに明りが二つ三 っちらちらと見えている、人家のまばらな二つの村の間をまだ走っていました。 ホウムズは、 「もうリー市の郊外へやって来たよ。ちょっとの間に州を三つも通りすぎて来たわけだ。ミド いっかく ルセックスにはじまって、サリーの一角をぬけ、ケント州までたどりついたことになる。ほら、 あか すぎそう 林の間に明りが見えるだろう。あれが『杉荘』なんだ。あのランプのそばに、女の人が心配そう にすわっていて、きっともう、この馬車のひすめの音をききつけているにちがいないよ。」 「だけど、どうしてあのべイカーの君の家ではできなかったんだい。」 と私はたずねました。 「ここで調べなくちゃならないことが沢山あるからさ。セント。クレア夫人がしんせつに二部 むか 屋もぼくに使わせてくれているし、ぼくの友だちで仕事仲間だと言えば、あの人はよろこんで迎 えてくれるから、君は安心していていいよ。だが、ウォトスン。ぼくはあの人に会いたくないな。 ご主人の知らせを何も持ってこられなかったからな。さあついた。ほら、どう、どう ! 」 ていえん べっそうみうたてもの 私たちの馬車が、庭園の中に立ている大きな別荘風の建物の前に止まると、馬工の少年がか にやりみち けて来て、馬の手ずなを取りました。私はとびおりて、まがりくねったせまい砂利道を、ホウム しら じんか たくさん じん あか た (

6. シャーロック・ホウムズの冒険

ながれん 私がシャーロック。ホウムズと長年つきあっている間に、彼のところへ解決をたのんで来た事 ・けん しようかい おやゅび 件の中で、私が間にはいって紹介したものは、ハザ 氏の親指事件と、ウ支ハートン大佐の ちが どくそう 気狂い事件のたった二つだけでした。このうち、ウ支 ( ートン大佐の事件は、頭がよくて、独創 てきどくしゃ 的な読者には面白いところが多いでしようが、ハザー丿 ー氏の事件のほうは、はじめから一風変 しばい 0 ていて、話のはこびも芝居じみていましたから、ホウズがい 0 もすばらしい成果をあげる、 きかい きろく あのな推理の方法も使う機会はすくなか 0 たのですが、それでも記録にとどめておくだけの ねうちはあろうと思うのです。 この話は、たしか何ども新聞にのりましたが、こんな事件はみんな似たりよったりで、わすか はんだん ひとめ 新聞の半段くらいのところに、一しよくたに押しこめられていたので、人目をひくはすもありま せん。事件がゆっくり目の前に展開して来て、つぎつぎに新しいことが見つかっては、一歩一歩 しんそう 真相に近づいてゆき、なぞがだんだん解けていって、はじめて人の心を動かすものなのでしよう。 こんにち いんしよう その時の出来事はふかく私の心にきざみつけられていて、三年たった今日でも、その印象はすこ しもうすらいでいません。 けっこん これからかいつまんでお話ししようと思う、この事件の起ったのは、私が結婚して間もない、 かいぎよう 一八八九年の夏のことでした。私はもう一ど開業することになり、べイカー街の部屋にホウムズ なっ てんかい かいけっ いつぶう 208

7. シャーロック・ホウムズの冒険

ウォトスン、君はかまわないから、うちたおしてくれたまえ。」 あんぜんそうち 私はしやがんでいる目の前の木箱の上に、安全装置をはすしたピストルをおきました。ホウム けいけん 今まで経験したことも ズはランターンの前に被いをかぶせて、部屋をまっくらにしました。 きんぞく ないほどのまっくらやみです。金属のやけるにおいがしているので、いざというときさっと向け あか られるように、明りをつけつばなしにしていることがわかります。今か今かと待ちうけているた くら あなぐら しもけい めに、すっかり神経が高ぶっていますが、急に暗くなった上に、穴蔵のつめたい、じめじめした 空気にふれていると、何となく気がめいるように沈んで来るのでした。 ホウムズは小声で、 「サックス・コウバーグ・スクエアの家へもどる逃げ道がひとつあるんだが、お願いしておい たことをやっておいてくれたでしようね、ジョーンズさん。」 じゅんさげんかんは 「警部とふたりの巡査が玄関に張りこんでいますよ。」 くろ 「それでは袋のネズミですな。さあ、静かにして待っていましよう。」 待っ時間の、その長いことといったらありません。あとでいろいろと話しあって見ると、わず か一時間と十五分くらいしかたっていなかったそうですが、そとはもう夜があけて、明るくなっ ちょっと てしまったのではないかと思われるほどでした。一寸でも動いてはいけないと思ったので、両足 しんけい きよくどきんちょう はつかれて、棒のようになってしまいました。しかし、神経は極度に緊張していて、耳はするど おお しす

8. シャーロック・ホウムズの冒険

と存じます。」 「もうつかまえてしまいましたよ。」 ホウムズは落ちつきはらって、こう言いました。 大佐も私もびつくりして、ホウムズの顔をまじまじと見ました。 「え、つかまえたんですってー いったいどこにおりますか。」 「ここにいます - よ 0 」 「ここ ! どこに ? ・」 「いま、私と一しょにいるじゃありませんか。」 大佐はおこって、まっ赤な顔になりました。 「ホウムズさん、今度はいろいろ、あなたのお世話になって、ありがたいと思っていますが ' 今のおことばは、たちのよくないじよだんか、それとも、人をばかになさったと考えないわけ はゆきませんね。」 ホウムズは笑って、 「いやいや、あなたが犯人の仲間だなどと申したのではありませんよ。本当の犯人はあなたの すぐうしろに立っています。」 しゅ ( 5 ) 大佐の横をすりぬけて、ホウムズは、あのサラブレッド種のつやつやしたくびに手をかけまし ぞん たいさ なかま

9. シャーロック・ホウムズの冒険

はえ 子に合わせながら、細長い指をしずかにふっているのでした。おだやかに微笑んでいるその顔、 りようけん むじよう ほんやりと夢見るようなその目は、はなのきく猟大のようなホウムズ、無情なほど頭のするどい びんかったんてい 敏活な探偵としてのホウムズとは似ても似つかないものでした。 私はときどき考えるのですが、ホウムズというひとりの人間の中に、二つの性質がかわるがわ はんどう るあらわれて来て、時に詩人のような、もの思いにふける気分から、いきなりその反動のように、 びん きちょうめんで、機敏な性質が頭をもたげて来ます。ひどくほんやりしている時があるかと思う みう と、その次はものすごい活動をはじめるという風に変るので、何日も何日もひじかけ椅子にぶら ぶらしながら、思い出したようにヴァイオリンをひいたり、古い書物を読んでいる時こそ、じっ はほんとうにおそろしいのだということを、私はよく知っていました。そんな時、何かを追いも とめようとする気持が急に身うちにわいて来て、ホウムズのやり方を知らないものが見ると、あ ナいりりよくちょっかく たりまえの人間とは思えぬほどの物知りとあやしむほど、そのすばらしい推理力が直覚と同じよ おんがくどう うにはたらき出すのです。この日の午後、セント・ジ , イムズ音楽堂で、うっとりと音楽に聞き ほれているホウムズを見たとき、私はそろそろ、彼に狩り出される相手の身があぶなくなって来 たなと思ったのでした。 「君は家にかえりたいんだろう、ウォトスン。」 音楽堂を出ると、ホウムズは言いました。 しじん せいしつ

10. シャーロック・ホウムズの冒険

老人はすっかり腹を立てて、どなりちらしました。ホウムズはあいかわらす落ちつきはらって、 ( 6 ) 「しかし、クローカスの花はできがよいそうですな。」 きやく 客は一歩前へ出て、むちをふりながら、 あくにん 「うーむ。こいつめ、言いぬけするつもりだな、ようし、この悪人め ! きさまのことはきい て知っているそ。出しやばり者のホウムズだとな。」 ホウムズはにつこり笑いました。 「このおせつかいのホウムズめ ! 」 だんだん笑いは大きくなります。 けいしちょう やくにん 「警視庁のこつば役人め ! 」 ホウムズはたまらなくなって、ふき出してしまいました。 「いや、どうも、なかなか面白いことをおっしゃいますな。ところで風がはいりますから、お 帰りのときは、ドアをおしめ願いたいもので。」 「言うだけ一言えば、こんなところにぐずぐずしてはおらんわ。わしの家のことに口を出すのは むすめ 止めたほうがいいぞ。娘がここへ来たことはちゃんと知っておる。あとをつけて来たのだからな。 ししカ見ておれよ。」 わしにぶつかってくるのはいのちがけのことだと思え。、、 : ゆみ ひかきまう 男はつかっかと前へ出て、鉄の火掻棒をつかむと、黒い大きな手でぐっと弓のようにまげてし ろうじん 177