け事件がはっきりするというものだ。ライダー、君は前からモ 1 カー伯爵夫人の青い宝石のこと をきいて、知っていたのか。」 「キャスリン・キューザックからきいていました。」 ライダーはひきつったような声で言いました。 ゅうわく じんじよちゅう いっそく 「そうかーー夫人の女中たな。一足とびに、わけなく金持になれる、そういう誘惑にふらふら づとなったんだろう。今まで、君よりもっとえらい人間でも、やはりそうなったことがあるのだ から、むりもないがね。しかし、ばかなやり方をしたものだ。 あくにんそしつ えんかん それにしても、ライダー。君はなかなか悪人の素質があるようだな。あのホーナ 1 という鉛管 主夫が前にもこんな事件にひっかかったことがあって、あの男なら、わけなく疑いがかかること なかま を、君はちゃんと知っていたんだ。それからどうした。君と、仲間のキ、ーザックとで、夫人の 部屋にすこしばかり細工をしておいて、うまくホーナーをよびにやるようにした。そうして、あ ほうせぎばこ の男の帰ったあとで、宝石箱から盗み出し、大声でさわぎ立てた。かわいそうにホーナーはつか まった。君はそれから・ー。」 ライダーはいきなりじゅうたんの上に倒れると、ホウムズのひざにしがみついて、さけびまし 「どうぞ、お助け下さ い ! おなさけでございます。父のことを、母のことをどうぞ考えてや とう方 こ 0 じけん さいく はくしやくみヒん うたが ほうせき 145
おわ づけさせた。しばらく彼とい 0 しにいたが、終るころよばれて部屋を出た。もど 0 た時はホ がわ ( 9 ) こばこ ーナーのすがたは見えず、たんすはこじあけられてモ。〉「皮の小箱はからのまま、化粧台の はくしやくみじんほうせきい 上に置かれてあ 0 た。後にな 0 て、これが伯爵夫人の宝石入れに使われていたものであること とら どうじっ が知れた。私はすぐに急を知らせ、ホーナ 1 は同日のタがた捕えられた。しかし、宝石はから けつけん だからも、部屋の中からも発見されなかった。 しようげん 伯爵夫人の女中キャスリン・キーザックはこう証言している。ライダーが盗難を発見した時、 おどろいてさけんだ声を私はきいた。部屋にかけこんで見ると、部屋の中はライダーの証言した とおりになっていた。 ていこっ 区の警部ブラ〉ドストリートはホーナーを捕える時、彼は死にものぐるいで抵抗し、けん ぜんか めいに身におぼえのないことを申したてたと証言した。彼に盗みの前科のあることがわか「た じゅんかいさいばん ので、判事は判決をその場でいいわたさず、巡回裁判にかけることにした。ホーナーは裁判中 そと ほうてい ひじうに興奮の色をしめしていたが、には卒倒して、法廷の外に運び出された。」 ホウムズは新聞をよこへなけだしながら、考えぶかそうに、 もんだい 「ふむ。軽罪裁判はまあこんなところだな。ぼくたちがここで解決しようとする問題は、だね。 、 0 ぼうでは宝石箱から宝石が盗まれて、い 0 ぼうではトテナム・「ート衢のガチ「ウのえぶく そっとう かいけっ とうなんはつけん 123
われているわけじゃないんだ。ホーナーの身があぶないというのなら話はべつだが、あいつもこ じけん しぜんき れ以上ホーナーを罪におとすようなことはすまいから、この事件もやがて自然に消えてしまうだ かる ろう。ぼくはひとの重い罪を自分勝手に軽くしてやったように思うが、でも、一つのたましいを すく 救ってやったことにもなるだろうな。あいつはもうけっして悪いことをしないよ。あれほどひど いっしよう けいむしょ くおどかされたんだからな。もし刑務所へ送ったら、あいつはきっと、一生刑務所のやっかいに ゆる きせつ なるようになるぜ。それに、今は罪を許すクリスマスの季節でもあるしね。ひょっとしたことか かいけっ みよう ら、たいへん妙な事件にまきこまれてしまったが、おかげでこれを解決できたのが何よりさ。 しよくじ 次の問題にとりかかることにし すまないが、先生、ベルをならしてくれないか。食事という、 しゅやく よう。これも、鳥が主役になっているがね。山シギという鳥が。」 いじよう つみ
0 て下さいまし ! こんなことが知れましたら、き 0 と胸がはりさけてしまいます。私はこれま で悪いことをしたことがございません ! これからもけ 0 していたしません。ちかいます。聖書 にかけてちかいます。ああ、どうそ裁判ざたになど、なさらないで下さいまし ! おねがいでご ざいます。どうそ ! 」 ホウムズはことばきびしく、 「もう一ど子にすわりたまえ ! 今になって泣きついたり、ペこペこしたりするのもいしカ さいばん かわいそうに、身におぼえのない罪をきて、裁判にかけられているホーナーのことを、君はすこ しも考えてやらないつもりか。」 「私は逃けます、ホウムズさん。この国を逃げ出します。そうすれば、あの人の疑いも晴れる ことでございましよう。」 そうだん 「うむ。それはあとから相談しよう。で、それから君はどうしたんだね。ほんとうの話をきき いちは ほうせき たいもんだな。宝石がどうしてガチョウの腹の中にはいって、そのガチ「ウが市場へ出るように しょクじき なったか。どうしても助かりたいと思ったら、正直にみんな打ちあけてしまうがいい。」 一フィグーはかわいたくちびるをなめてから、こう話しはじめました。 「みんなありのままに申上げてしまいます。ホーナーがっかまりましたとき、私は宝石をもっ しら けいさっ て逃げ出すのが一ばんいいことだと思いました。警察がいつ、私のからだや部屋の中を調べよう つみ うたが 146
流した事件があると言っていいくらいだよ。この宝石は見つかってから、まだ二十年くらいにし あか 2 かならない。南シナのアモイ川の川べりから掘り出されたものだがね。色が青くて、ルビ 1 の紅 こうぎよくとくちょう さをもっていない点がちがうだけで、ほかは紅玉の特徴をぜんぶそろえている、そこがめすらし いところだろうな。世に出てまだいくらもたたないのに、もう縁起のわるい歴史をもっているん ひとごろ じさっ りゅうさん たよ。人殺しが二つ、硫酸をぶつかけた事件が一つ、自殺が一つ、それに盗難が何どか、それが けっしよう ( ) たんそ みんなこの、重さ四十グレインの炭素の結晶のしわざなんだからね。こんなきれいなおもちゃが こうしゆだい けいむしょ 絞首台や刑務所に人を送るご用をつとめているなんて、だれだって思いはしないだろう。 はくしやく方じん きんこ さあ、これを金庫へしまって、かぎをかけて、それから伯爵夫人へ手紙を書くことにしよう。 ぼくたちが大事におあすかりしていますってね。」 つみ 「このホーナーという男に罪はないと思うかい」 「さあ、何とも言えないなあ。」 「それでは、もうひとりのヘンリー・ べイカーという男はどうだい。事件に何か関があた んだろうか。」 丿ー。べイカーにはもっと罪がなさそうに思うね。なにしろこの男は、自分のかついで いた島がぜんぶ金でできているよりも、もっと大したねうちがあることを知らすにいたくらいだ こうこく からな。だが、広告を見てやって来たら、ごくかんたんなテストをやって、関係があるかないか じけん だいじ ほうせき えんぎ れきし とうなん かんけ
財珉を半分くれてもいいとまで、内心思いつめているのを、ぼくはちょ 0 とわけがあ 0 て知 0 て いるんだ。」 「あれはたしか、コスモポリタン・ホテルでなくなったんだったね。」 と私は一一一口いました。 えんかんこう 「そうなんたよ。ちょうど五日前の、十二月二十二日のことだった。鉛管工夫のジョン・ホー うった はんにん ふじんはうせきはこ ナーという男が、夫人の宝石箱からぬすみ出したといって訴えられたんだ。犯人はこの男たとい じけんじゅんかいさいはん一〔 8 ) しようこ う証拠がはっきりしているので、事件は巡回裁判にまわされたところなんだよ。ここにたしか、 記事があったはすだ。」 ホウムズは新聞の日づけを見ながら、あちらこちらかきまわしていましたが、やっと一枚、し せつ わをのばしながら出して来て、小さく折って次のような一節を読みはじめました。 はうせきぬす 「コスモ。ホリクン・ホテルの宝石盗み出さる えんかんこうふ 本月二十二日、鉛管工夫ジョン・ホーナー ( 二六 ) はモーカー伯爵夫人の宝石箱から青い紅 こうはんふ ぬす ゆっめい 玉として有名な宝石を盗み出した罪によって、公判に附された。 しようげん とうなんとうじっ じむちょう ホテルの事務長、ジイムズ・ライグーは次のように証言している。私は盗難の当日、ホー てつごうし けしようしつ ナーをモーカー伯爵夫人の化粧室につれてゆき、ゆるんでいた鉄格子の二ばんめの棒をはんだ きよく つみ はくしやくみじん こう 2