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検索対象: シャーロック・ホウムズの冒険
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1. シャーロック・ホウムズの冒険

ゃないかと思っておりますし、私も時々、そんな気がすることがございます。ああ、もうーーあ ぬす あ、私はもうりつばなどろぼうなのでございます。自分のたましいを売ってまで盗み出した、あ の財産には少しも手をつけてはいませんのに。ああ、神さま ! どうぞお助け下さい ! 」 ライダーは両手に顔をうずめたまま、身をふるわせて、すすり泣きはじめました。 部屋の中は長い間しんと静まりかえっていました。ただ時々きこえるものは、ライグーの苦し きそく そうな息の音と、シャ 1 ロック・ホウムズの指先がテ 1 プルのはじを規則正しくコッコッとたた く音だけでした。 やがてホウムズは立ち上って、サッと戸をあけると、 「出てゆけ ! 」 と一一 = ロいました。 「なんでございますって ! ああ、なんとお礼を中したらよいか ! 」 「なんにも言うな。出てゆけ ! 」 ひつよう かいだん もう何も言う必要はありませんでした。部屋からとび出して、階段をかけ下りていく音、バタ どうろ ンと戸のしまる音、そうして道路をバタバタと走っていく足音。 とうせい ホウムズは陶製の。ハイプのほうへ手をのばしながら、こう言いました。 けいさっ あな 「つまりだね、ウナトスン。ぼくは何も警察におちどがあるからといって、その穴うめにやと ざいさん 1 邱

2. シャーロック・ホウムズの冒険

ながいす 「その長椅子へかけたまえ。」 ホウムズはこう言いながら、自分もひじかけ椅子へもう一ど腰をおろして、両手の指先を合わ せました。これはふかくものを考えようとする時の、ホウムズのいつもの癖なのです。 へいぼんたいくっ 「ねえ、ウォトスン。ぼくたちの毎日の生活は、まったく平凡で退屈なものだが、君もぼくも だいす そのふだんの生活には見られない、何か奇怪な話が大好きなんだなあ。ぼくのやったつまらない ねっしん ぼうけんだん 冒険談まで、あんなにいくつも熱心に書きとめてくれているだけでも、君の好きなことがわかる んだ。もっとも、こんなことをいっちや失礼だが、君はすこし大げさに書きすぎるがね。」 じけん 「君のあっかった事件は、ぼくにはじつに面白くてたまらなかったんだよ。」 と私は言いました。 「いつだったか、ぼくがこんなことを言ったのを、君はおぼえているだろう。あれはたしか、 もんだい ( 1 ) しら メアリー ・サザーランドさんがもちこんで来た、たいへんかんたんな問題を調べはじめようとし きみよう けつまっ た時のことだった。ちょっとかわった結末や、奇妙な事件のもつれあいを見たいと思ったら、人 そうぞうさんぶつ じんせい 間のじっさいの生活の中をさがしたほうがいし 、ってね。人生というやつは、想像の産物よりも、 ずっと思い切ったところがあるものだよ。」 「君の、その考えはどうだかあやしいもんだと、言っておいたつけね。 けんしたが 「そうだった、ウォトスン。だがね、君はけつきよく、ぼくの意見に従わなくちゃならなくな きかい くせ

3. シャーロック・ホウムズの冒険

流した事件があると言っていいくらいだよ。この宝石は見つかってから、まだ二十年くらいにし あか 2 かならない。南シナのアモイ川の川べりから掘り出されたものだがね。色が青くて、ルビ 1 の紅 こうぎよくとくちょう さをもっていない点がちがうだけで、ほかは紅玉の特徴をぜんぶそろえている、そこがめすらし いところだろうな。世に出てまだいくらもたたないのに、もう縁起のわるい歴史をもっているん ひとごろ じさっ りゅうさん たよ。人殺しが二つ、硫酸をぶつかけた事件が一つ、自殺が一つ、それに盗難が何どか、それが けっしよう ( ) たんそ みんなこの、重さ四十グレインの炭素の結晶のしわざなんだからね。こんなきれいなおもちゃが こうしゆだい けいむしょ 絞首台や刑務所に人を送るご用をつとめているなんて、だれだって思いはしないだろう。 はくしやく方じん きんこ さあ、これを金庫へしまって、かぎをかけて、それから伯爵夫人へ手紙を書くことにしよう。 ぼくたちが大事におあすかりしていますってね。」 つみ 「このホーナーという男に罪はないと思うかい」 「さあ、何とも言えないなあ。」 「それでは、もうひとりのヘンリー・ べイカーという男はどうだい。事件に何か関があた んだろうか。」 丿ー。べイカーにはもっと罪がなさそうに思うね。なにしろこの男は、自分のかついで いた島がぜんぶ金でできているよりも、もっと大したねうちがあることを知らすにいたくらいだ こうこく からな。だが、広告を見てやって来たら、ごくかんたんなテストをやって、関係があるかないか じけん だいじ ほうせき えんぎ れきし とうなん かんけ

4. シャーロック・ホウムズの冒険

ちょうばし それでもまだ、なぜそんなことをしたのか、ぼくにはわかりませんでした。調馬師が馬券屋か さいく ら、相手の馬の馬券をたくさん買いこんでおき、自分の馬には何か悪い細工をして、敗けるよう ぎしゆた にさせた話は、今までにもよくあったものです。騎手に手すなをかげんさせることもあるし、時 ヒようす にはもっとたしかな、もっと上手なやり方もあります。ストレイカーはどんなことをやったので なかみ しようか。あの男のポケットの中味を見たら、何かきめることができるだろうと思っていました。 わす はたしてそうでした。あなた方もお忘れではあるまいと思いますが、ストレイカーのにぎって みよう ぶき いたものは、妙なナイフでした。気のたしかな人間なら、武器などにするはずもないようなもの しゅじゅっ ' です。ウォトスン博士も言っているように、あれは外科のほうでも、一ばんこまかな手術に使わ かた れる型のメスで、あの晩も実際こまかい手術に使われるところだったのです。 けいけん ぞん ロスさん。あなたは競馬にいろいろと経験がおありだからご存じでしようが、馬のもものけん にごくわすかきすをつけ、それをひふの下でやって、何のきすあとものこさないようできるそう うんどうさいちゅう ですね。こうするとすこしびつこをひくようになりますが、運動最中におこったすじちがいとか、 ゅめ かるいリウマチとかのせいにされて、たちのよくない手術をうけたなどとは、夢にも思われない のです。」 あくとう 「けしからんやつだ ! 悪党め ! 」 と大佐はさけびました。 はかせ けいば につさい ばけんや 303

5. シャーロック・ホウムズの冒険

ホウムズはしすかに、 「失福ですが、あなたが今、鳥屋のおやじにたすねていらしたことをついきいてしまいました。 何かお力になれはしないかと思ったものですから。」 そん 「あなたが。あなたはいったいどなたですか。こんなことを、どうしてご存じなのでしよう。」 しようばい 「私はシャーロック・ホウムズと申します。ひとの知らないことを知るのが私の商売でして 「しかしあなたはこのことを、何もご存じのはずはないじゃありませんか。」 いっしよう 「失礼ですが、何でも知っているんですよ。あなたは一生けんめいガチウを追いかけていら っしやるでしよう。つまり、プリックストン街のオークショット夫人から、プレッキンリッジと べイカ いう鳥屋に売られ、それからアルフアのウインジゲイトさんに渡り、その次に〈ンリー・ にゆうかい ーさんの入会しているクラプへいった、あのガチョウのことですね。」 「ああ、そうです。あなたこそ私のお会いしたいしたいと思っていた方だ。私はもうガチ。ウ のことで夢中なんです。何と申していいかわからないくらいですよ。」 ゅび こおとこ 小男は手をさしのべ、指をふるわせながら、こうさけびました。 よりんばしゃ シャーロック・ホウムズは、そこを通りかかった四輪馬車をよびとめながら、 いちは 「それでは、こんな風の吹き通す市場などで立ち話をするよりも、居心地のいい部屋の中で、 しつれい むらゆう じん いごこち 141

6. シャーロック・ホウムズの冒険

どうようはんざい 今度の小さな事件もね、きっとそれと同様、犯罪ではないほうの部類にはいるだろうと思うんだ。 はいたっふ ( 3 ) 君は配達夫のビータスンを知ってるだろう。」 「うん、知ってる。」 「これをぶんどって来たのはあの男なんだよ。」 ぼうし 「ああ、これはかれの帽子なのか。」 「そうじゃない。あの男が見つけて来たのさ。まだだれのだかわからない。びとっこれをただ ふるぼうし もんだい の古帽子と思わないで、ちえの問題として見てほしいんだ。いいかい。ます、どうやってここへ ・来たかというとだね。クリスマスの朝、よくふとったガチョウと一しょにここへとどいたんだ。 まるや ガチョウのほうは今ごろピータスンのうちで、まちがいなく丸焼きになっているはずだよ。 しようじき つまり話はこうなんだ。君も知ってのとおり 、、たって正直もののピータスンが、クリスマス の朝四時ごろにね、どこかでほんの少しお酒をのんでからうちへかえろうと思ってさ。トテナ ム・コートを歩いていたんだ。すると自分の前を背のたかい男が白いガチョウをかついで、す かど こしよろよろしながら歩いてゆくのがガス燈の光で見えたのさ。グッジ衡のまがり角までやって ひとくみふりよう 来ると、この男は一組の不良たちを相手に大げんかをはじめたんだ。不良はこの男の帽子をたた すじよう ・きおとす。この男はステッキをふりあげてふせごうとする。そのあげく、頭上にふりまわしたス みせまど テッキがうしろの店の窓ガラスにあたって、そいつをこなごなにこわしてしまったのさ。 じけん とう 112

7. シャーロック・ホウムズの冒険

その他に、かならずそうだとは言えないが、たぶんそう考えていいだろうと思う占 . がいくつかあ ますこの男はひじように頭がいいということ。それに、今でこそおちぶれてしまっているが、 今まで三年くらいの間に、かなりいい暮らしをしていたことがあったということ。この二つはも いつけん いぜんようじん ちろん一見してまちがいないところだよ。それに以前は用心ぶかい男だったが、今はそれほどで なくて、すっかり気持がすさんでしまっている。これは暮らしむきがわるくなってきたことを一 えいきよう しょに考え合せると、何かよくない影響、たぶん酒を飲むくせがこの男をこんなふうにしてしま かれ ったのだろうと思うのだ。また、こんなところから、奥さんが彼をだいじにしなくなったという ことも、はっきりわかると思うね。」 「おい、おい。ホウムズ君。」 私が反対するのも知らぬ顔で、ホウムズは言いつづけます。 じそんしん 、つもすわってばかりいて、 「だがね。それでもまだいくらか自尊心はのこっている。それに、し しらが ちゅうねん ほとんどそとへ出ない。運動もまったくやらない。中年で、髪は白髪まじりで、二、三日前に床 屋へいったばかり、それにライム・クリームを使っている。まあ、ざっとこんなところが、この ぼうし 帽子を見てはっきり推察できることだね。もうひとつ、この男の家にはたしかにガスが引いてな くわ いということも、ついでにつけ加えておこう。」 にか はんたい すいさっ おく とこ 116

8. シャーロック・ホウムズの冒険

0 て下さいまし ! こんなことが知れましたら、き 0 と胸がはりさけてしまいます。私はこれま で悪いことをしたことがございません ! これからもけ 0 していたしません。ちかいます。聖書 にかけてちかいます。ああ、どうそ裁判ざたになど、なさらないで下さいまし ! おねがいでご ざいます。どうそ ! 」 ホウムズはことばきびしく、 「もう一ど子にすわりたまえ ! 今になって泣きついたり、ペこペこしたりするのもいしカ さいばん かわいそうに、身におぼえのない罪をきて、裁判にかけられているホーナーのことを、君はすこ しも考えてやらないつもりか。」 「私は逃けます、ホウムズさん。この国を逃げ出します。そうすれば、あの人の疑いも晴れる ことでございましよう。」 そうだん 「うむ。それはあとから相談しよう。で、それから君はどうしたんだね。ほんとうの話をきき いちは ほうせき たいもんだな。宝石がどうしてガチョウの腹の中にはいって、そのガチ「ウが市場へ出るように しょクじき なったか。どうしても助かりたいと思ったら、正直にみんな打ちあけてしまうがいい。」 一フィグーはかわいたくちびるをなめてから、こう話しはじめました。 「みんなありのままに申上げてしまいます。ホーナーがっかまりましたとき、私は宝石をもっ しら けいさっ て逃げ出すのが一ばんいいことだと思いました。警察がいつ、私のからだや部屋の中を調べよう つみ うたが 146

9. シャーロック・ホウムズの冒険

二、三日これをおあずかりしておりました。しかし、なぜ広告なさらなかったのでしようねえ。」 こんや さん。今夜は寒いですな。あなたの血色を拝見しますと、夏よりは冬のほうが苦手のようにお見 受けします。ゃあ、ウォトスン。ちょうどいい時にやって来たね。べイカーさん、これはあなた のお帽子ですか。」 「さようです。たしかに私の帽子でございます。」 おおとこ べイカーはねこ背の大男で、頭は大きく、幅の広い りこうそうな顔が下のほうへい冫オ がってだんだん細くなり、白髪のまじった、茶色のあごひげにつづいています。鼻と頬がわすか すいさっ に赤く、さしのべた手がすこしふるえています。ホウムズがさっきこの男の酒ぐせについて推察 したことは、なるほどと思えました。うすよごれた、黒いフロック・コートにボタンをびちんと てくび はめており、えりをすっかりたてていました。そでからにゆっと出ている細い手首を見ると、カ ようす フスもシャツもつけている様子はありません。一つ一つ使うことばを気をつけてえらびながら、 がくもん ぼつんぼつんと、ゆっくり話してゆきます。だいたいに学問もあり、本も読んでいる人のように 思われますが、しかし、すっかり不運つづきのような感じを受けました。 ホウムズは、 こうこく じゅうしょ 「あなたのほうから、広告でご住所を知らせてくださるかと、おまちしていたものですから、 客はちょっとはずかしそうに笑って、 きやく ぼうし しらが みうん けっしよくはいけん にがて 128

10. シャーロック・ホウムズの冒険

婦人は外国のことばで二こと三こと、話しかけました。それが、何かものをたすねてでもいる ちょっし へんじ ような調子なのです。大佐が一こと、ぶつきらぼうに返事をしますと、婦人はひどくびつくりし たように、あぶなくランプを手からとり落すところでした。スターク大佐はつかっかと婦人のと ころへ近よって、耳もとへ何かささやくと、出て来た部屋へまた押しもどしてしまいました。そ うして、ランプ片手に、また私のほうへ近づいて来ました。 『しばらくこの部屋で、お待ちになっていて下さい。』 大佐はもう一つのドアをさっとあけて、こう言いました。それは、ひっそりした、小さな部屋 まんなかまる 、で、家具もそまつなものばかりでした。真中に丸テープルがおいてあって、その上にドイツ語の ふうきん すうさっ 本が数冊ちらばっています。スターク大佐は、ドアのそばにある風琴の上にランプをおいて、 『そうお待たせはしませんから。』 くら と言うと、そのまま暗やみの中へ、すがたを消してしまいました。 かがくろんぶん 私はテープルの上の本をちょっと見てみました。ドイツ語は読めませんが、二冊は科学の論文 ししう けしき 「で、あとは詩集たということはわかりました。それから、あたりのいなかの景色でも見えはしな がわまど げん いかと思って、向う側の窓のところへいって見ましたが、カシの木のよろい戸がおりていて、厳 しゅう 重にかんぬきまでかかっていました。 とにかく、ひどくしんと静まりかえっている家です。古い柱時計が廊下のどこかで、チクタク じん はしらどけい ろうか