ヘンリー - みる会図書館


検索対象: シャーロック・ホウムズの回想
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1. シャーロック・ホウムズの回想

がかった目で、うさんくさそうに私たちのほうを見、ものもいわず、立ちあがりもせずに、椅 しめ 子をふたっ、手で示しました。 ・ウッドさんですね。ぼくはパークレー大佐 「このあいだまでインドにいらした、ヘンリー がなくなられたことについて、うかがったのですが。」と、ホウムズはものやわらかにいい 「そんなことは、知っちゃいませんね。」 しようち 「そこをたしかめたかったんです。ご承知のように、真相がはっきりしないと、たぶん、あ つみ なたの古い友だちのバークレー夫人が、ひと殺しの罪で調べられることになるでしような。」 男はぎよっとしたようでした。 「あなたはだれです。それに、どうしてそんなことがわかったんです。いまの話はうそしゃ ないでしようね。」 けいさっ 「夫人が目をさましたら逮捕しようと、警察は手ぐすねひいて、待っています。」 けいさっ 「え ! あなたも警察の方ですか。」 「じゃ、どんな仕事で。」 おこな 「だれでも、正しい行いを見とどけるのが仕事しゃありませんか。」 ふじん ふじん わたし ごろ しんそう たいさ

2. シャーロック・ホウムズの回想

いてみたいので。」 しようさかど 私たちは、少佐が角を曲らないうちに、追いつぎました。 けつきよく 「やあ、ホウムズさん。お聞きになりましたか。こんどのさわぎは、結局、なんでもなかっ たんですよ。」と、少佐はいいました。 「じゃ、 いったい、なんだったんですか。」 けんし しんだん 「検死がいま終わりましてね。医師の診断で、死因はい 0 血だということにきまりました。 つまり、まったくつまらない事件だったわけです。」 ホウムズはにつこり笑って、 はなし 「なるほど、うわっつらだけの、つまらない話だ。さあ、ウォトスン。これでもう、オール ダーショットに用はなくなったようだな。」 私は、駅へ行く道すがら、こうたずねました。 おっと 「もうひとつある。夫の名まえがジ一ームズで、もうひとりの男はヘンリーだ。とすると、 ディヴィッドという名前が出たのはどうしてだ。」 「それはね、ウォトスン。ぼくがほんとうに、きみのでっちあけるような、理想的な推理の こと 4 大家だったら、その言ひとつで、この事件ぜんぶがさっとわかったはずだったのだ。あれは ことば まちがいなく、相手を責める言葉だった。」 わたし わたし しようさ じけん じけん けっ りそうてきすいり 110

3. シャーロック・ホウムズの回想

しん 「あの人に罪はありません。信じてください。」 つみ 「では、罪があるのはきみですか。」 いえ、わたしでもない。」 「それなら、ジェイムズ・バークレ 1 大佐を殺したのはだれです。」 しいですか。あの男の頭をどれほど打ちわってやりたいと思 「神のおぼしめしです。でも、 っていたかしれませんが、たとえ、わたしがそうしたとしても、つぐないにはまだまだ足りな かれ つみせ かったでしよう。彼が自分の犯した罪に責めさいなまれて、死んだのでなかったら、わたしが きっと手をくだしていたと思います。わたしの話がお聞きになりたいですか。よろしい、話し うしろ ていけないことはすこしもない。わたしに後めたいところはまったくありませんからね。 ぼね せね わけなんです。いまでこそ、背骨はらくだのようにまがり、あばら骨もみんなねじ どちょう ウッド伍長といえば、一一七大隊では、いちばんいきな男 れてしまっていますが、ヘンリー・ といわれたこともあったんです。そのころ、わたしたちはインドにいて、場所は、まあ、 へいしゃ ティーといっておきますが、そこの兵舎にとどまっていました。このあいだ死んだバークレー れんたい ちゅうたいぐんそう は、同じ中隊の軍曹でした。そうして、連隊きっての美人といえばーー、・そうです。あんなきれ ぐんぎがかそうちょうむすめ ・ディヴォイでし いな人はまたとなかったでしよう それが、軍旗係り曹長の娘、ナンシー かのじよこい た。ふたりの男が彼女に恋をし、彼女が愛したのは、そのひとりのほうでした。いま、こうや おか かのじよあい たいさ ころ びじん だいたい た 110

4. シャーロック・ホウムズの回想

気でなんにも言えないんですもの。で、あたし、約束を破ってもわるくないと思いました。月 曜日の晩の出来ごとを、すっかり申しあげますわ。 とちゅう あの晩、ワット街教会からの帰り道、ちょうど八時四十五分ごろでした。途中 、ハドスン街 ひだりがわ を通らなければならなかったのですが、あそこはとても淋しい通りなのに、左側にたったひと 力いし J う っしか街灯がありません。そのあかりのそばまでいったときに、ちょうど、ひどく背中のまが はこ かた った男のひとが、箱のようなものを肩からぶらさけて、歩いてくるのが見えました。ひざを曲 げて、前かがみに歩いてきましたので、これはかたわの人だなと思いました。すれちがうとき、 その人は顔をあけて、街灯の光の輪のなかで、あたしたちを見ましたが、そのとたん、立ちど まって、おそろしい声で、〈あ、ナンシーじゃないか ! 〉と叫びました。・ハ ークレーの奥さんは 死人のようにまっさおになり、かたわの人が支えてくれなければ、あやうくそこへ倒れるとこ じゅんさよ ろでした。あたしは巡査を呼ばうかと思ったくらいでしたが、おどろいたことに、奥さんはそ の人に、とてもていねいにあいさつなさったんです。 〈あなたは、三十年前になくなったとばかり思っていましたのよ、ヘンリー 。〉奥さんはふる え声でこういいました。 〈ぼくは死んだんです。〉といった、その人の声は、おそろしいほどでした。まっ黒な、ものす ゅめ かみ ごい顔と、ぎらぎら光る目は、あたし、もう夢に見たくらいでした。髪の毛も、ほおひげも、 ばん ばん 力いレャ ) ささ やくそくやふ さび さけ おく たお おく せなか おく 103

5. シャーロック・ホウムズの回想

まど すがた リスにもどって、むかしの友だちの前に、こんなみにくいかたわの姿をさらしたって、いった いなにになりましよう。かたきをうちたい気持はあっても、だからといって、国に帰る気には かっこう なりませんでした。生きながら、杖にすがってはいまわる、チンパンジーのような格好を見ら れるより、むしろ、ヘンリー ・ウッドはすらりとした姿のままで死んだと、ナンシーや、むか しの仲間に思われていたほうが、どれほどましだかわかりません。わたしは死んだと、みんな は思いこんでいるでしようし、わたしも、そのまま、そっとしておくつもりでした。バークレ ーがナンシーと結婚し、連隊のなかで、とんとん拍子に出世していることも耳にしましたが、 それでも、名のってでる気にはなりませんでした。 こきよう こい しかし、年をとってくると、だれでも故郷が恋しくなるものでしよう。わたしは、長いド がきゅめ イギリスのあかるい緑の原や生け垣を夢みてきました。そうして、せめていのちのあるうちに、 けっしん もういちどそれを見てやろうと、ついに決心しました。そこで、船に乗るだけの金をためて、 へ、い 4 」ーを こころ へいたい 兵隊のいるこの土地へやってきました。兵隊のことなら、その暮し方も、遊ばせ方も、よく心 得ていますし、どうにかやっていけるだろうと思ったからです。」 ふじん 「たいへんおもしろいお話でした。あなたが・ハ】クレー夫人と会って、おたがいに相手をた ふじん しかめあったということは、前に聞いています。そのあと、あなたは夫人の家までついて行ぎ、 ふうふ ふじん ひきよう おっと 窓ごしに夫婦けんかを見たはずですね。夫人はきっとそのとき、むかしの卑怯なやり方を、夫 なかま けっこん みどり れんたい っえ びようし すがた くら 113

6. シャーロック・ホウムズの回想

闇夜にあかりを見つけたようなものだった。いままでばらばらだったものが、い つきにきちん じけんじゅんじよ いうまでもなく、 と並びはじめ、事件の順序がおばろけながらわかってきた。つぎの仕事は、 バークレー夫人の心をあれほど動かした、相手の男を探すことだ。そいつがまだオールダー ぐんじんいがし ショットにいるなら、見つけるのはそれほどむずかしいことではない。軍人以外の人間はあま り多くないし、かたわであれば、人目につくにきまっているからだ。・ほくは一日がかりで探し あるき、その夜ーーーっまり今夜だよ、ウォトスン ついにその男を見つけだした。男の名ま まちげしゆく ウッドと えはヘンリー ふたりの女性と会った、同じ街に下宿していた。きてからまだ とうぎしょ げしゆく 五日しかたっていないそうだ。ぼくは登記所のものだといって、下宿のおかみさんに会い、な げいにん へいしやしゅほ かなかおもしろい話を聞いてきた。そいつは手品をやる芸人で、夜になると、兵舎の酒保をま げい しようば、 わって歩いては、ちょっとした芸を見せるのを商売にしている。いつも何か、動物をのなか へいれて、持って歩き、下宿のおかみは、見たこともないけものだといって、ひどくこわがって いたようだった。それを手品に使うのだともいっていた。おかみの話はそんなところだったが、 みよう ほかにも、あんなにまがったからだで、よく生きていられるものだ、とか、ときどき、妙な外 ことば ばん 国の言葉をしゃべるとか、この二晩ばかり、寝室でうなったり、泣いたりしていたとか、そん しききん なことも話してくれた。金はちゃんとはらってくれるが、敷金に出したのは、どうも、にせの ぎんか ( 1 ) ぎんか ( 2 ) フロリン銀貝じゃよ、 / し、刀 AJ しし 、見せてくれたが、それは、ウォトスン、インドのル。ヒー銀貨た やみよ なら ふじん げしゆく かね こんや じよせい あいて しんしつ さが 106