「相手を責めるだって。」 ( 5 ) きゅうやくせいしょ 「そうだ。旧約聖書のなかのディヴィッド ( ダビデ ) は、ときどき道をふみはずした。いちど ( 6 ) ぐんそう は、ジ = イムズ・バークレー軍曹と同じまちがいをやっている。きみはウリヤとバテシ・ハの話 ( 7 ) せいしょちしき をお・ほえているだろう。ばくの聖書の知識はすこしばけてきているが、この話は、サムエル記 じようげ の上か下に、たしか出ていると思う。」 117
しん かれ けいさっ 警察では、彼がペドーズをなきものにして、逃げたと信じているようだ。しかし、ばくは話が まったくあペこペだと思っている。ペドーズのほうが、やけになり、せつばつまって、てつき ふくしゅう しんそう ハドスンに復讐したあげく、手にはいるだけの金をかき集め り真相をあばかれたと思いこみ、 とうぼう て、国外へ逃亡したと、こうみるほうがあたっていると、ばくは思う。話というのは、まず、 しゅうしゅう こんなところだよ、先生。もし、きみの収集の役に立つなら、自由に使ってくれたまえ。」
『そっとするような話だな、トレヴァー君。で、手紙を読むなり、そんなおそろしいことに なったという、 それにいったいどんなことが書いてあったんだ。』 『それらしいことは何も書いてなかった。そこがわからないんだ。文面はばかけた、くだら ないものだった。ああ、神さま、やはりだめだったか ! 』 なみきみち かれ 彼がこういったとき、馬車はちょうど並木路のカーヴをまがり、家のよろい戸の全部おろさ ゅうじん ゅうやみ げんかん れているのが、タ闇をすかして見えた。友人の顔は悲しみにひきつった。・ほくたちが玄関をか くろふくすがたしんし けあがると、黒服姿の紳士が出てきた。 『いつでした、先生。』 『あなたがお出かけになると、すぐでした。』 しぎ 『意識がもどりましたか。』 りんじゅう 『ご臨終の前に、ほんのちょっと。』 『何か、ぼくに話は。』 『日本たんすの引き出しの奥に、書類があると、ただそれだけでした。』 りんじゅ ) へや ヴィクターは医師といっしょに、父の臨終の部屋へあがっていき、一方、ばくは書斎に残っ て、この話をのこらず、なんどもなんども、頭のなかでこねまわし、いままで味わったことも あん いったいなん ないほど暗たんとした気持ちになっていた。このトレヴァーという人の過去は、 し ばしゃ おく しよるい あじ しよさいのこ
す。なんともふしぎな、わけのわからない話で。』 むちゅう ぼくがどれほど夢中になって、彼の話に耳をかたむけたか、きみにもわかるだろう、ウォト き力い スン。なにしろ、この数か月、何も仕事がないまま、待ちに待った機会が、いま目の前にあら せいこう しん われたのだからな。他人が失敗したことでも、ばくはかならず成功してみる、と、ひそかに信 き力い していたし、自分の力を試すその機会を、いま迎えたのだ。・ほくは思わず大きな声でいった。 『どうか、くわしい話を聞かせてください。』 レジナルド・マスグレイヴは、・ほくの向かいがわに坐って、・ほくのすすめたたばこに火をつ けた。 、、ールストーンでは、か 『まず、知っておいていただきたいのは、ぼくはまだ独身なのに なり大勢の召し使いをやとっておかなければならないということです。なにしろ、でたらめに りようきん やしき 建て増した、古い屋敷ですから、ひどく手がかかるのです。それに、ふだんは猟を禁しておい きせつ て、きじの季節には、数日、招待パ 1 ティーをやることにしていますから、人を減らすわけに もいきません。いま、全部で、女中八人、コックに、執事に、下男ふたり、給仕ひとり、それ うまや に、むろん、庭と厩舎には、べつに人をおいています。 このうち、いちばん長くっとめているのが、執事のブラントンです。若いころ、学校の教師 ひろ で、失業していたところを、ぼくのおやじに拾われたのですが、ひじような活動家で、それに しつぎよう おおい つか ため しつばい しようたい むか しつじ しつじ どくしん げなん わか きゅうじ きようし
呼んで、開けさせるしかなかった。 しようさたの けいさっ まず、こんなところが、火曜日の朝、マーフィー少佐に頼まれて、・ほくが警察の仕事の手伝 いに、オールダーショットへでかけたときの状況なのだ、ウォトスン。これだけ聞いても、な じけん かなかおもしろい事件だと、きみも思うだろうが、自分で調べてみると、それどころか、じっ ふうがわ さいは、はじめ思ったよりはるかに風変りなものだった。 部屋を調べる前に、ぼくは召儺いたちにいろいろきいてみたが、いまきみに話してきかせた がおもし ような事実がわかっただけだった。ただひとつだけ、女中のジ一イン・ステ = ワート かのじよ なかま ろいことを思いだしてくれた。彼女が言い争っている声を聞いて、下へおりていき、仲間を連 ふうふ ひく れてきた話はお・ほえているだろう。はじめ、彼女がひとりだったときは、主人夫婦の声が低す ちょうし ぎて、何を言っているのかわからず、話ではなくて、ただ声の調子から、ふたりがけんかして いるのだと思ったという。ところが、そこをもうひと押ししてみると、そういえば、夫人が二 度、『ディヴィッド』という言葉を口にした、といった。なぜ、いきなりあんなけんかがはし じゅうよう まったのか、その手がかりとして、このことはひしように重要なのだ。きみも知ってるとおり、 大佐の名まえはジ = イムズなのだからね。 めしつかい けいさっ わす この事件のなかで、ひとつ、召使たちも警察も、忘れられないほど強い印象を受けたものが かれ ある。それは、大佐の顔がひどくゆがんでいたことだ。彼らの話によると、人間の顏がこれほ たいさ じじっ じけん たいさ あらそ じようきよう かのじよ いんしよう ふじん てつだ
わたしは、彼の事件を耳にしたことがあるのを思いだした。わたしが逮捕されるすこし前、 ひょラばん かれじようりゅう さいのうも 国じゅうにたいへんな評判になったものだからである。彼は上流の出で、すぐれた才能の持ち あくへき ちよめい 主でもあったが、なんとしても悪癖はなおらず、たくみな詐欺の手口で、ロンドンの著名な商 たがく 人たちから、多額の金をまきあげたのである。 かれとくい 〈へえ ! おまえ、おれの話をおばえているのか。〉と、彼は得意になって、いった。 〈よくおばえてるさ。〉 みよう 〈じゃ、あの事件で、どこか妙なところがあると思わなかったか。〉 〈さあ、なんだったかな。〉 〈おれは、ざっと二十五万ポンドの金を手にいれたんだぜ。 ) 〈そういう話だった。〉 〈だが、びた一文、出てこなかったろう。〉 〈そうだ。〉 〈じゃ、その金はどこへいったと思う。〉 〈さつばり、わからんな。〉 〈おれは、おまえの髪の毛よりもたくさんの金を、この手のなかにちゃんとにぎってるんだ。 こころえ 金を持っていて、その扱い方、ふやし方さえ心得ていれば、なんでもできないことはないんだ ぬし かれじけん じけん かみ あっか
きんぞくえんばん の紙きれと、古風なしんちゅうの鍵と、糸玉のついた木のくぎと、さびた金属の円盤を三枚、 つかみだしました。 かれわたし 「さて、これはいったいなんだと思う。」と、彼は私の顔色を見て、にこにこしながら、こう いいました。 みよう 「妙なものを集めたね。」 みよう きみよう 「うん、まったく妙なものだ。これにまつわる話はもっと奇妙だから、きみはきっとびつく りするそ。」 きねんひん 「じゃ、この記念品には歴史があるんだな。」 れきし 「いや、歴史そのものといったほうがいい。」 「それはどういうことだ。」 シャーロック・ホウムズはそれをひとつずつつまんで、テーブルのはしにならべ、あらためて すすわ まんぞく 自分の椅子に坐りなおして、さも満足そうに目をかがやかせながら、ひとわたりながめました。 けしきし 「これはみんな、マスグレイヴ家の式詞の話を思いだすために、とっておいたものなんだ。」 わたし じけん かれ 私は、こまかい点までは知りませんが、そういう事件のあったことはなんども彼から聞いた ことがありました。 「そいつを聞かしてくれるとありがたいんだがな。」 こふう れきし かぎ
ちょ ) し ホウムズはふざけたような調子で、 「へえ、このがらくたをこのままほうっておいて、かい。してみると、きみのきれい好きっ みつかぼうず きろく てのも、あんがい三日坊主なんだな。まあ、それはともかく、この事件を、きみの記録のなか くわ はんざいきろく に加えてもらえればうれしい。そのなかには、イギリスばかりではない 、どこの国の犯罪記録 ふうがわ にもめったに見られないような点があるんだ。この風変りな事件の話をいれなければ、ばくの てがらばなし かんん つまらない手柄話をいくら集めてみても、完全とはいえないだろう。 ごうじけん ふこう あのグロリア・スコット号の事件、それから、不幸だったトリヴァー老人とかわした会話と 1 その最後の話、あれはきみもまだおばえていてくれると思うが、 まくの一生の仕事となった、 しよくぎようしんけん じけん この探偵という職業を真剣に考えはじめたのは、あの事件がきっかけだったのだ。ごらんのと みんかん けいさっ おり、ちかごろ、ばくの名は広く世間に知られるようになり、民間の人からも警察からも、ぼ みかいけつじけん こうとうさいばんしょ くは、未解決の事件をもちこむ、最後の高等裁判所みたいに思われている。きみはそういうば しんく けんきゅう ( 1 ) くしか知らない。きみがばくとはじめて会い、『深紅の糸の研究』という名で書きのこしてくれ じけん た、あの事件のころでさえ、それほど金にはならなかったが、・ ほくにはすでにかなりの依頼人 ぜんと があった。だから、そうなるまで、はじめはどんなにつらかったか、前途のひらけるのを、ど れほど長いこと待たなければならなかったか、きみにはとうていわからないだろう。 だいえいはくぶつかん ・ほくがはしめてロンドンへ出てぎたとき、モンタギ = ー街の、ちょうど大英博物館の横をは . さいご たんてい さいご じけん じけん ろうじん いっしよう らいにん
が婦ふ誠 み 見 し 老 ? が よ て 実別な 軍ーバ と く も な っ 少い な う ん . い れ 佐 : い 見 で れ な け 人。 っ ら も て そ が と も た だ ク ほ て う れ あ ど て で ロ さ レ レ し、 つ 、つ ば も オこ マ お っ っ る と た へ の 大を 結 が く も 大を 、む ん い た と と い 婚 、・佐さ 佐さう が フ が ナど か だ だ て つ の 。後 ら り な 話 の ま と イ ず う き し 性まじ ふ ど た ほ と 格 : さ く い 少庭 十 ひ 思 あ ど ほ ナこ い ′つ 年 、佐 : 生 う き と 不ふ だ り に 活 以し っ 安 : 夫ふ の か た み た 0 ま つ の イ中 た が 人児話 は 上 士し面 の し か 、つ と 官は 消 あ は な っ よ ち の で ず が は な て り り し 五 つ 人 夫ふ乱兒っ た あ い も る や 力、 る 人児暴と の カ ; た 大をふ り っ る と と う と 佐さた て た と し の な し か り あ が の で い ち わ よ て い 目リ わ も う う の で る 人 だ う あ く は か な た 夫ふが ま と 少ま 悲ひ け も だ あ い と 劇し 人 き 佐 : ナこ が が し ね の た は ろ 力、 た の の よ に け 夫すら そ 話 が し ほ て ち お 時見 い 婦ふし で う ね あ と う ふ す 連 る は 愛を だ と は お せ 、ら い 、情ん 隊を な る り な し し て ば の む がうか よ ど う 妙 人 な く と な ろ ふ ふ ち 見 間 か ん か し ど に に 美 0 か よ ふ に ん ど し は れ は い ろ そ な に さ そ な つ さ い 食 ぎ れ は た る ひ ち ん し、 と 模もり 手 事 ど ろ を な か ら 兀 な り 範愛をし と 気 気 ん ら で を で 考 的情く が 分 は し で なちもう マ あ ん て に ら て し、 る 中すあ 陽 た を な 芽っ い . る も 年発り て : 彼 日 教 た 気 る れ る フ の 夫す え ィ ら な で と けっこん 、じよ ) 91
しゅう 「けがをしたんじゃないのか、ホウムズ。」 わたし 部屋にはいるなり、私はこうたずねました。 ホウムズは、おはようのあいさつのつもりで、私たちにうなずきながら、舌打ちをして、答 えました。 「ちょっとしたかすりきずさ。へまをやったんだ。ところで、フェルプスさん。この事件は、 ばくのあっかったものの中でも、たしかにいちばんやっかいなしろものでした。」 とおっしやるかと思って、じつは心配していました。」 「手におえない、 けいけん 「まったく、たいした経験でした。」 ばうけん 「ほうたいを見れば、冒険をやったなということぐらいわかる。どんな目にあったのか、話 してくれないか。」 わたし と、私がたずねると、 「まず、朝めしだ。話はそのあとだよ、ウォトスン。なにしろけさは、五十キロも、サリー こうこく ぎよしゃ 州の空気を吸いつづけだったんだからな。御者さがしの広告に、返事はこなかったろうね。 ばんじ いんだ、いいんだ。いつも、万事そううまくゆくものじゃない。」 しよくたく 、ハドスンのおかみさ 食卓の用意はととのっていて、私がベルを鳴らそうと思ったところへ しよっき んが、紅茶とコーヒーをもって、・はいってきました。ひきつづいて、食器をもってきてくれま こうちゃ わたし わたし したう じけん 176