子 - みる会図書館


検索対象: 吾輩は猫である
508件見つかりました。

1. 吾輩は猫である

陽に照らしつけて往来を歩いていた。これが間違いのもとであみ。はげ頭を日にあてて遠方から見 ると、たいへんよく光るものだ。高い木には風があたる、光る頭にも何かあたらなくてはならん。 この時イスキラスの頭の上に一羽の鷲が舞 0 ていたが、見るとどこかでいけ捕 0 た一びきの亀を爪 の先につかんたままである。亀、す 0 ぼんなどは美味に相違ないが、ギリシア時代から堅い甲羅を つけている。いくら美味でも甲羅つきではどうすることもできん。海老の鬼がら焼きはあるが亀の こうらに 子の甲羅煮は今でさえないくらいたから、当時はなろんなか 0 たにきま 0 ている。さすがの鷲も少 少持て余したおりから、はるかの下界にびかと光 0 たものがある。その時鷲はしめたと思 0 た。あ の光 0 たものの上へ亀の子を落としたなら、甲羅はまさしく砕けるにきわま 0 た。砕けたあとから おりて中味を頂載すればわけはない。そうだそうたとねらいを定めて、かの亀の子を高い所か 舞い あいさっ ら挨拶もなく頭の上へ落とした。あいにく作家の頭のほうが亀の甲よりやわらかであ 0 たものたか ら、はけはめちやめちゃに砕けて有名なるイスキラスはここに無惨の最後を遂げた。それはそうと、 解しかねるのは鷲の了見である。例の頭を、作家の頭と知 0 て落としたのか、またははげ岩と間違 えて落としたものか、解決しよう次第で、落雲館の敵とこの鷲とを比較することもできるし、また れきれき あできなくもなる。主人の頭はイスキラスのそれのごとく、またお歴々の学者のごとくびかびか光 で てはおらん。しかし六畳敷ぎにせよいやしくも書斎と号する一室を控えて、居眠りをしなからも、 むすかしい書物の上へ顏をかざす以上は、学者作家の同類と見なさなければならん。そうすると主 人の頭のはげておらんのは、まだはげるべき資格がないからで、そのうちにはけるたろうとは近々 為この頭の上に落ちかかるべき邃命であろう。してみれば落雲館の生徒がこの頭を目がけて例のダム ダム丸を集まするのは策の最も時宜に適したものといわねばならん。もし敵がこの行勤を二凋

2. 吾輩は猫である

426 「むろん読めるさ。読めることは読めるが、こりゃなんたい」 「読めることは読めるが、こりゃなんだは手ひどいね」 「なんでもいいからちょっと英語に訳してみろ」 「みろははげしいね。まるで従卒のようだねー 「従卒でもいいからなんだ」 「まあラテン語などはあとにして、ちょっと寒月君の御高話を拝聴つかまつろうじゃよ、 子 / し、カ 0 ムマ せき たいへんなところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪という安宅の関へかかってるんだ 9 ねえ寒月君それからどうしたい」と急に乗り気になって、またヴァイオリンの仲間入りをする 9 主人はけなくも取り残された。寒月君はこれに勢いを得て隠し所を説明する。 よべっ 「とうとう古つづらの中へ隠しました。このつづらは国を出る時お母さんが餞別にくれたもの 」すが、なんでもお祖母さんが嫁に来る時持って来たものだそうです」 こ気っ 「そいつは古物たね。ヴァイオリンとは少し調和しないようだ。ねえ東風君」 「ええ、調和せんです」 「天裏たって調和しないじゃないか」と寒月君は東風先生をやり込めた。 「調和はしないが、句にはなるよ、安心したまえ。秋さびしつづらにかくすヴァイオリンはどう , だい、両君」 「先生きようはだいぶ俳句ができますね」 そうけ、 「きように限ったことじゃよ、。、 しつでも腹の中でできてるのさ。ぼくの俳句における造諞と、 ったら、故子規子も舌を巻いて驚いたくらいのものさ」

3. 吾輩は猫である

362 てんしんさま ひげ 。そうして天神様のような髯をはやしているもんだから、みんな感心して聞いていてよ」 「お話って、どんなお話なの」と細君が聞きかけていると縁側の方から、雪江さんの話し声を聞 たけがき きつけて、三人の子供がどたばた茶の聞へ乱人して来た。今までは竹垣の外のあき地へ出て遊んで いたものであろう。 「あら雪江さんが来た」と二人のねえさんはうれしそうに大きな声を出す。細君は「そんなに がないで、みんな静かにしておすわりなさい。雪江さんが今おもしろい話をなさるところたから , と仕事をすみへ片づける。 わたしお話が大好き」と言ったのはとん子で「やつばりかちかち山のお 「雪江さんなんのお話、 話 ? 」と聞いたのはすん子である。「坊ばもおはなち」と言い出した三女は姉と姉のあいたからひ ざを前の方に出す。たたしこれはお話を承るというのではない、坊ばもまたお話をつかまつるとい う意味である。「あら、坊ばちゃんの話だ」とねえさんが笑うと、細君は「坊ばはあとでなさい。 「いやーよ、は 雪江さんのお話がすんでから」とすかしてみる。坊ばはなかなか聞きそうにない。 ぶ」と大きな声を出す。「おお、よしよし坊ばちゃんからなさい。なんというの ? 」と雪江さんは けんをん 謙遜した。 「あのね。坊たん、坊たん、どこへ行くのってー 「おもしろいのね。それから ? 「わたちは田んぼへ稲刈しにー 「そうよく知ってること」 「お前がくうと邪になる」

4. 吾輩は猫である

船大沸次郎物日も月も川端康成山利江岸田置士畴 引のある下町の舌 赤穂浪士全一一罸・大沸次郎 8 月端康成鞭を鳴らす女岸田国土 全二冊鶴見祐輔たまゆら川端康成部双面 神岸田国士四 母 三岸田国士間 再婚者川端康成囲落葉日 子 全二冊鶴見祐輔 岸田国士 . みちのくの恋西条八十間新文章読本川端康成善 説の研究川端康成間泉 ( いづみ ) 岸田国士 銭形平次捕物控全一〇冊野村胡堂各に小 久保田万太郎戯曲集久保田万太郎東京の人全三冊川端康成Ⅷ日本人とは岸田国士間 郷全二冊池谷信三駕・各 浅草ばなし久保Ⅲ万太肆間女性開眼川端康成黼望 緑 浅草風土記久保田万太郎囲温泉宿・抒情歌川端康成間城のある町にて梶井基次第 学久保田万大郎句集久保田万太郎間女であること川端康成若き詩人の手紙記井基次 」月徳永直 3 園横光利一間太陽のない彳 本百閒賀筆全三冊内「」白月 日漱石山房の記内田百閒実いまだ熟せす横光利一妻よねむれ徳永直間 説集川端康成 8 春は馬車に乗って・機械横光利一静かなる山々全二冊徳永直 現掌の 「 . 9 﨟たき花中河典一朝蟹工船・党生活者小林多喜二 録伊豆の子・禽獣 多喜一一部 端康成間愛恋無限全二冊中河與一各防雪林・不在地主小林 目浅草紅団 Ⅱ端康成天のタ顔中河興一印貧しき人々の群宮本百合子囲 文母の初恋・高百 ( 子全二冊宮第百合子物 康成 R 香妃・氷る舞踏場中河典一伸 末期の 角 宮本百合子 8 康成失楽の庭中河典一薊播 康成 0 に、 8 劇の季節中河與一朝風知草宮本百合子 つの庭宮本百合子 康成探美の夜全一而中河與一朝 1 人イ 1 の 音 康成秋立つまで・業苦嘉村礒多薊道標全四冊宮本百合子 ・財ハ。し くたび川端康成燗朱と緑片岡鉄兵网婦人と文学宮本百合子 2 幸福について宮本百合子 舞 , 端康成剏膿中の人小島政二郎間 康成 8 山の民全三冊江馬 、一各車の罐焚き中野重治印

5. 吾輩は猫である

ず、障子も立て切「てあるのはお、師匠さんは湯にでも行「たのかしらん。お師匠さんは留守でもか まわんが、三毛子は少しよ、 どろあし うか、それが気がかりである。ひ「そりして人の気合もしないか ら、泥足のまま縁側へ上が「て座布団のまん中へ寝ころんでみると、 しい心持ちた。ついうとうとと して、・三毛子のことも忘れてうたた寝をしていると、急に障子のうちで人声がする。 「御苦労た「た。できたかえ」お師匠さんはやはり留守ではなか「たのだ。 ふっしゃ 「はいおそくなりまして、依師屋〈参りましたらちょうどできあが「たところだと申しまして」 「どれお見せなさい。ああきれいにできた、これで三毛も浮かばれましよう。金ははげることはあ るまいね」〔ええ念を押しましたら上等を使「たからこれなら人間の襷よりも持っと申しており もわっ一 : っ ました。 : それから猫誉信女の誉の字はくすしたほうが恰好がいいから少し画をかえたと申しま した , 、「どれどれさ「そくお仏壇へ上げてお線香でもあげましよう」 によなむあみだぶつ 、どうかしたのかな、なんだか様子が変だと布団の上〈立ち上がる。チーン南無猫誉信 女、南無阿弥陀仏々々々々々々とお師匠さんの声がする。 「お前も回向をしておやりなさい」 チーン南無猫誉信女南無阿弥陀仏々々々々々々と今度は下女の声がする。吾輩は急に動悸がして きた。座布団の上に立「たまま、木彫りの猫のように目も動かさない。 「ほんとに残念なことをいたしましたね。初めはちょいと風邪をひいたんでございましよう・、 カね え」「甘木さんが薬でもくたさると、よか「たかもしれないよ」「い 0 たいあの甘木さんが悪うござ いますよ、あんまり三毛をばかにしすぎまさあね」「そう人様のことを悪く言うものではない。これ も寿命たから」

6. 吾輩は猫である

を承らなくてはわからぬ。 「 : : : それで妻がわざわざあの男の所まで出かけて行って様子を聞いたんだがね : : : 」と金田君 しゅんけん おうふう は例のごとく横風な言葉づかいである。横風ではあるがげうも峻嶮なところがない。言語も彼の顔 面のごとく平板厖大である。 「なるほどあの男が水島さんを教えたことがございますので , ーー・なるほど、よいお思いっきでー ーなるほど」となるほどずくめのはお客さんである。 「と一、ろがなんだか要領を得んので」 くしやみ 「ええ苦沙弥じゃ要領を得ないわけでーーあの男は私がい っしょに下宿をしている時分からじっ に煮え切らない そりやお困りでございましたろう」とお客さんは鼻子夫人の方を向く。 ふとりあっかい 「困るの、困らないのってあなた、わたしやこの年・になるまで人のうちへ行って、あんな不取扱 を受けたことはありやしません」と鼻子は例によって鼻あらしを吹く。 がんこ しようふん なにしろ十年一日のごとくリート 「何か無礼なことでも申しましたか、昔から頑固な性分で ル専門の教師をしているのでもたいたいおわかりになりましよう」とお客さんはていよく調子を合 あわせている。 あいさっ で 「いやお話にもならんくらいで、妻が何か聞くとまるで剣もほろろの挨拶たそうで : : : 」 輩 「それはけしからんわけで 少し学間をしているととかく漫心がきざすもので、その 上貧乏をすると負け惜しみが出ますから しえ世の中にはずいぶん無法なやつがおりますよ。自 分の働きのないのにや気がっかないで、なやみに財産のある者に食ってかかるなんてえのが るで彼らの財産でもまき上けたような気分ですから驚きますよ、ア、 , , ハ。とお客さんは大恐悦の

7. 吾輩は猫である

364 「ええ、それでその男が疲れてしま「て、うち〈帰 0 て寝てしま ~ たから、町内の者はまた相談 をしたんですね。すると今度は町内でいちばん利ロな男が、わたしに任せてごらんなさい、一番や ぼたもち ってみますからって、重箱の中へ牡丹新をいつばい入れて地蔵の前へ来て、「ここまでおいで」と言 いながら牡丹餅を見せびらかしたんた 0 て、地蔵た 0 て食い意地が張 0 てるから牡丹餅で釣れるた ろうと思 0 たら、少しも動かないんた 0 て。利ロな男はこれではいけないと思 0 てね。今度はひょ ちょこ うたんへお酒を入れて、そのひょうたんを片手〈。ふら下げて、片手へ猪口を持 0 てまた地蔵さんの 前へ来て、さあ飲みたくはないかね、飲みたければここまでおいでと三時間ばかり、からか 0 てみ たがやはり動かないんですって」 なか 「雪江さん、地蔵様はお腹が減らないの」ととん子が聞くと「牡丹餅が食べたいな」とすん子が 言った。 さっ 「利ロな人は二度ともしくじ 0 たから、その次にはにせ札をたくさんこしらえて、さあほしいた ろう、ほしければ取りにおいでと札を出したり引っ込ましたりしたがこれもまるで役に立たないん がんこ ですって。よっぽど頑固な地蔵様なのよ」 「そうね。すこし叔父さんに似ているわ」 「ええまるで叔父さんよ。しまいに利ロな人も想をつかしてやめてしま 0 たんですとさ。それ でそのあとからね、大きな法螺を吹く人が出て、わたしならき 0 と片づけてみせますから御安心な さいとさもたやすいことのように受け合ったそうです」 「その法螺を吹く人は何をしたんです」 「それがおもしろいのよ。最初にはね巡査の服を着て、付け髯をして、地蔵様の前へ来て、こら

8. 吾輩は猫である

人も犬も月もなんにも見えません。その時に私はこの『夜』の中に巻ぎ込まれて、あの声の出る所 へ行ぎたいという気がむらむらと起こったのです。〇〇子の声がまた苦しそうに、訴えるように、 救いを求めるように私の耳を刺し通したので、今度は『今すぐに行きます』と答えて欄干から半身 を出して黒い水をながめました。どうも私を呼ぶ声が波の下から無理にもれてくるように思われま してね。一、の水の下たなと思いながら私はとうとう爛干の上に乗りましたよ。今度呼んたら飛び込 もうと決心して流れを見つめているとまた哀れな声が糸のように浮いてくる。ここだと思って力を 込めていったん飛び上がっておいて、そして小石かなんぞのように未練なく落ちてしまいました」 「とうとう飛び込んたのかい」と主人が目をばちつかせて間う。 「そこまでゆこうとは思わなかった」と迷亭が自分の鼻の頭をちょいとつまむ。 「飛び込んたあとは気が遠くなって、しばらくは夢中でした。やがて目がさめてみると寒くはあ るが、ど一、もぬれた所も何もない、水を飲んたような感じもしない。たしかに飛び込んたはずたが じつに不思議た。こりや変たと気がついてそこいらを見渡すと驚ぎましたね。水の中へ飛び込んた い間違って橋のまん中へ飛びおりたので、その時はじつに残念でした。 つもりでいたところが、つ る 前と後ろの間違いだけであの声の出る所へ行くことができなか 0 たのです」寒月はにやにや笑いな にやっかい にがら例のごとく羽織のひもを荷厄介にしている。 一 , ハハこれはおもしろい。ぼくの経験とよく似ているところが奇だ。やはりゼームス教授の ・ : そしてその〇〇 材料になるね。人間の感応という題で写生文にしたらき 0 と文壇を驚かすよ。 子さんの病気はどうなったかね , と迷亭先生が追窮する。 ちまえ 「二、三日前年始に行きましたら、門の内で下女と羽根をついていましたから病気は全快したも

9. 吾輩は猫である

とく、主人も書物を枕もとに置かないと眠れないのであろう、してみると主人にと 0 ては書物は読 なものではない眠りを誘う器械である。活版の睡眠剤である。 今夜も何かあるたろうとのそいてみると、赤い薄い本が主人のロ髯の先につかえるくらいな地位 に半分開かれてころが 0 ている。主人の左の手の指が本の間にはさま 0 たままであるところから 推すと奇特にも今夜は五、六行読んだものらしい。赤い本と並んで例のごとく = ケルの袂時計が 春に似合わぬ寒き色を放っている。 細君は乳飲み子を一尺ばかり先〈ほうり出して口をあいていびきをかいて枕をはすしている。お よそ人間において何が見苦しいとい 0 て口をあけて寝るほどの不体裁はあるまいと思う。猫などは 生涯こんな恥をかいたことがない。元来ロは ~ 言を出すため鼻は空気を吐呑するための道具である。 も 0 とも北の方〈行くと人間が無精にな 0 てなるべく口をあくまいと倹約をする結果鼻で言語を使 うようなズーズーもあるが、鼻が閉塞して口ばかりで呼吸の用を弁じているのはズーズーよりもみ ともないと思う。第一・天井から鼠の糞でも落ちた時危険である。 子供のほうはと見るとこれも第に劣らぬていたらくで寝そべ 0 ている。姉のとん子は、姉の権利 はこんなものだといわぬばかりにうんと右の手を延ばして妹の耳の上〈のせている。妹のすん子は その復讐に姉の腹の上に片足をあげてふんぞり返 0 ている。双方とも寝た時の姿勢より九十度はた しかに回転している。しかもこの不自然なる姿勢を維持し 00 両人とも不平も言わすおとなしく熟 睡している。 さすがに春のともし火は格別である。天爛漫ながら無風流きわまるこの光景の裏に良夜をし めとばかりゆかしけに輝いて見え「 0 。もう何時だろうと室の中を見回すと四隣はしんとしてたた聞

10. 吾輩は猫である

障子の内でお師匠さんが二弦琴をひき出す。「い い声でしよう」と三毛子は自漫する。「いいよう だが、吾輩にはよくわからん。ぜんたいなんというものですか」「あれ ? あれはなんとか 0 ても のよ。お師匠さんはあれが大好きなの。 : お師匠さんはあれで六十二よ。すい。ふん丈夫たわね」 六十二で生きているくらいだから丈夫といわねばなるまい。吾輩は「はあ」と返事をした。少し間一 か抜けたようだがべつに名答も出てこなか 0 たからしかたがない。 「あれでも、もとは身分がたい へんよかったんだって。、 しよういんさま 1 ごゅうひっ しつでもそうお 0 しやるの」「へえもとはなんた 0 たんです」「なんでも天 璋院様の御祐筆の妹のお嫁に行 0 た先のお 0 かさんのの娘なんた 0 て」「なんです 0 て ? 」「あの 天璋院様の御祐筆の妹のお嫁に行った : 「なるほど。少し待ってください。天璋院様の妹の御 祐筆の = = = 」「あらそうじゃないの、天璋院様の御祐筆の妹の = = ・・」「よろしいわかりました天璋院 様のでしよう」「ええ」「御祐筆のでしよう」「そうよ」「お嫁に行 0 た」「妹のお嫁に行 0 たですよ」 「そうそう間違 0 た。妹のお嫁に行 0 た先の」「お 0 かさんの甥の娘なんですとさ」「お 0 かさんの 甥の娘なんですか」「ええ。わか 0 たでしよう」「、 しいえ。なんだか混雑して要領を得ないですよ。 つまるところ天璋院様のなんになるんですか」「あなたもよ 0 ぽどわからないのね。たから天璋院 様の御祐の妹のお嫁に行 0 た先のお 0 かさんの甥の娘なんた 0 て、さ 0 き 0 から言 0 てるんじゃ ありませんか」「それはす 0 かりわか 0 ているんですがね」「それがわかりさえすればいいんでしょ う」「ええ」としかたがないから降参をした。我々は時とすると理詰めのうそをつかねばならぬこ 吾とがある。 障子の内で二弦琴の音がば 0 たりやむと、お師匠さんの声で「三毛や = 一毛や御飯たよ、と呼ぶ。 三毛子はうれしそうに「あらお師匠さんが呼んでいら 0 しやるから、あたし帰るわ、よく 0 て ? 」