学校 - みる会図書館


検索対象: 吾輩は猫である
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1. 吾輩は猫である

295 「だれもおりませんでしたら小使でもよろしゅうございますか」 「ばかをいえ。小使などに何がわかるものか」 、こに至って下女もやむをえんと心得たものか、「へえ」と言って出て行った。使いの主意はやは り飲み込めんのである。小使でも引っぱって来はせんかと心配していると、あにはからんや例の倫 理の先生が表門から乗り込んで来た。平然と座につくを待ち受けた主人はたたちに談判にとりかか ちゅうしんぐら 「ほん 「ただ今邸内にこの者どもが乱入いたして : : : 」と忠臣蔵のような古風な言葉を使ったが おんこう とうに御校の生徒でしようか」と少々皮肉に語尾を切った。 倫理の先生はべつだん驚いた様子もなく、平気で庭前にならんでいる勇士を一通り見回した上、 もとのご・とくを主人の方にかえして、下のごとく答えた p 「さようみんな学校の生徒であります。こんなことのないように始終訓戒を加えておきますが : : どうも困ったもので : : : なぜ君らは垣などを乗り越すのか、 さすがに生徒は生徒である、倫理の先生に向かっては二一一口もないとみえてなんとも言う者はない。 あおとなしく庭のすみにかたまって羊のむれが雪に会ったように控えている。 」々はポー 「丸がはいるのもしかたがないでしよう。こうしで学校の隣りに住んでいる以上は、 ルも飛んで来ましよう。しかし : : : あまり乱暴ですからな。たとい垣を乗り越えるにしても知れな いように、そっと拾ってゆくなら、まだ勘弁のしようがありますが : 「ごもっともで、よく注意はいたしますがなにぶん多人数のことで : : : よくこれから注意をせん 0 、、、 0 といかんぜ。もしポールが飛んたら表から回って、お断わりをして取らなければいかん

2. 吾輩は猫である

、刀 ら一方には自分の勢力が示したく 0 て、しかもそんなに人に害を与えたくないという場合には、 らかうのがいちばんお恰好である。多少人をつけなければ自己のえらいことは事実の上に証拠だ てられない。事実になって出てこないと、頭のうちで安心していても存外快楽のうすいものである。 人間は自己をたのむものである。否たのみがたい場合でもたのみたいものである。それたから自己 , - これだけたのめる者た、これなら安心だということを、人に対して実地に応用してみないと気が すまない。しかも理窟のわからない俗物や、あまり自己がたのみになりそうもなくて落ち付きのな い者は、あらゆる機会を利用して、この証券を握ろうとする。柔術使いが時々人を投けてみたくな るのと同じことである。柔術の怪しいものは、どうか自分より弱いやつに、ただの一ペんでいいカ ら出会「てみたい、素人でもかまわないから投げてみたいとしごく危険な了見をいだいて町内を歩 くのも一、れがためである。その他にも理由はいろいろあるが、あまり長くなるから愁することにい かっふしひとおり いつでも教えてやる。以上に説くとこ たす。聞きたければ鰹節の一折も持って習いに来るがいい おくやま 1 さる ろを参考して推論してみると、吾輩の考えでは奥山の猿と、学校の教師がからかうにはいちばん手 猿に対してもったい ごろである。学校の教師をもって、・奥山の猿に比較してはもったいない。 あないのではない、教師に対しても 0 たいないのである。しかしよく似ているからしかたがない、御 で 承知のとおり奥山の猿は鎖でつながれておる。いくら歯をむき出しても、きや 0 きや 0 駈いでも引 かかれる気づかいはない。教師は鎖でつながれておらない代わりに月給で縛られている。いくら からか「た 0 て大丈夫、辞職して生徒をぶんなぐることはない。辞職をする勇気のあるような者な 簡ら最初から教師などをして生徒のお守りは勤めないはすである。主人は教師である。落雲館の教師 ではないが、やはり教師に相違ない。からかうにはしごく適当で、しごく安直で、しごく無事な男

3. 吾輩は猫である

していた主人は、一言も言わすに専心自分の飯を食い、自分の汁を飲んでこの時はすでに楊枝を使 0 ている最中であ 0 た。主人は娘の教育に関して絶対的放任主義をとるつもりとみえる。今に三人 ~ ひちしきふ 1 ねすみをきふ しつにん が海老茶式部か鼠式部かになって、三人とも申し合わせたように情夫をこしらえて出奔しても、や はり自分の飯を食って、自分の津を飲んですまして見ているたろう。働きのないことた。しかし今 の世の働きのあるという人を拝見すると、うそをついて人を釣ることと、先へ回って馬の目王を抜 くことと、虚勢を張って人をおどかすことと、鎌をかけて人を陥れることよりほかに何も知らない ようだ。中学などの少年輩までが見よう見まねに、こうしなくては幅がきかないと心得違いをして、 本来なら赤面してしかるべきのを得々と履行して未来の紳士だと思っている。これは働き手という のではない。。 ころっき手というのである。吾輩も日本の猫たから多少の愛国心はある。こんな助き 手を見るたびになぐってやりたくなる。一、んな者が一人でもふえれば国家はそれたけ衰えるわけで ある。こんな生徒のいる学校は、学校の恥辱であって、こんな人民のいる国家は国家の恥辱である。 恥辱であるにもかかわらす、ごろごろ世間にごろついているのは心得がたいと思う。日本の人間は 猫ほどの気概もないとみえる。青けないことだ。こんなごろっき手に比べると主人などははるかに 上等な人間といわなくてはならん。いくじのないところが上等なのである。無能なところが上等な ちょこさい のである。猪ロ才でないところが上等なのである。 かくのごとく働きのない食い方をもって、無事に朝飯をすましたる主人は、やがて洋服を着て、 車へ乗って、日本堤分署へ出頭に及んだ。格子をあけた時、車夫に日本堤という所を知ってるかと 聞いたら、車夫は〈〈〈と笑 0 た。あの遊郭のある吉の近辺の日本堤たせと念を押したのは少々 滑稽であった。

4. 吾輩は猫である

わけがない。 先生はかたくなったまま「へ 主人は座布団を押しやりながら、「さあお敷き」と言 0 たがいがぐり え」と言 0 て動かない。鼻の先にはげかか 0 た更紗の座布団が「お乗んなさい」ともなんとも言わ すに着席している後ろに、生きた大頭がつくわんと着席しているのは妙なものた。布団は乗るため の布団で見つめるために細君が勧工勢から仕入れて来たのではない。布団にして敷かれすんば、布 団はまさしくその名誉を毀損せられたるもので、これを勧めたる主人もまたいくぶんか顔が立たな いことになる。主人の顔をつぶしてまで、布団とにらめくらをしているいがぐり君はけ 0 して布団 そのものがきらいなのではない。じつをいうと、正式にすわ 0 たことは祖父さんの法事の時のほか は生まれてからめ 0 たにないので、さ 0 ぎからすでにしびれが切れかか 0 て少々足の先は困難を訴 えているのである。それにもかかわらず敷かない。布団が手持ちぶたさに控えているにもかかわら やっかい す敷かない。主人がさあお敷ぎと言うのに敷かない。厄介ないがぐり坊主た。このくらい遠慮する なら多数集ま 0 た時もう少し遠慮すればいいのに、学校でもう少し遠慮すればいいのに、下宿屋 でもう少し遠慮すればいいのに。すまじきところ〈気がねをして、すべき時には謙遜しない、否大 ろうき る 、こ良藉を働く。たちの悪いいがぐり坊主た。 で ところ〈後ろの襖をすうとあけて、雪江さんが一碗の茶をうやうやしく坊主に供した。平生なら そらサヴ = ジチーが出たと冷やかすのだが、主人一人に対してすら痛み入 0 ている上 ( 、妙齢の女 性が学校で覚えたてのい笠原流で、おつに気取 0 た手つきをして茶わんを突きつけたのだから、坊 主は大いに苦悶のていに見える。雪江さんは襖をしめる時に後ろからにやにやと笑 0 た。してみる と女は同年輩でもなかなかえらいものだ。坊主に比すればはるかに度胸がすわ 0 ている。ことにさ わん

5. 吾輩は猫である

「どこでそんなに磨っているんだい」「やつばり学校の実験室です、朝磨り始めて、昼飯の時ちょっ と体んでそれからくなるまで磨るんですが、なかなか楽じゃありません」「それじゃ君が近ごろ にしいにしいと言って毎日日曜でも学校へ行くのはその珠を磨りに行くんたね」・「全く目下のとこ たまっく としうところ ろは朝から晩まで珠ばかり磨っています」「珠作りの博士となって入り込みしは だね。しかしその熱心を聞かせたら、いかな鼻でも少しはありがたがるたろう。じつは先日ぼくが ろうばいくん ある川事があって図書館へ行って帰りに門を出ようとしたら偶然老梅君に出会ったのさ。あの男が 卒挙後図書館に足が向くとはよほど不思議なことたと思って心に勉強するねと言ったら先生妙な 顏をして、なに本を読みに来たんじゃない、今門前を通りかかったらちょっと小用がしたくなった しんせんう から拝借に立ち寄ったんだと言ったんで大笑いをしたが、老梅君と君とは反対の好例として新蒙 ぎゃう 求に、せひ入れたいよと迷亭君例のごとく長たらしい注釈をつける。主人は少しまじめになって 「君そう毎日毎日珠ばかり磨ってるのもよかろうが、元来いつごろできあがるつもりかね」と聞く。 「まあこの様子じゃ十年ぐらいかかりそうですーと寒月君は主人よりのんきに見受けられる。「十 もう少し早く磨り上げたらよかろう」「十年じゃ早いほうです、ことによると二十年ぐ いちにち ・あらいかかります」「そいつはたいへんた、それじゃ容易に博士にゃなれないじゃないか」「ええ一日 かんじん 猫も早くなって安心さしてやりたいのですがとにかく珠を磨り上げなくっちゃ肝心の生一験ができませ んから : 寒月君はちょっと句を切って「なに、そんなに御心配には及びませんよ。金田でも私の珠ばかり さんちまえ 磨ってることはよく承知しています。じつは二、三日前行った時にもよく事情を話して来ました」 としたり顔に述べ立てる。すると今まで三人の談話をわからぬながら傾聴していた細君が「それで 2 ( ) 5 はかせ

6. 吾輩は猫である

218 まいか」「さよう」と主人が気のない返事をする。「東風君ぼくの創作を一つやらないか」と今度は 寒月君が相手になる。「君の創作ならおもしろいものたろうが、い 0 たい何かね , 「脚本さ , と寒月 君がなるべく押しを強く出ると、案のごとく、三人はちょ 0 と毒気をぬかれて、申し合わせたよう に本人の顔を見る。「脚本はえらい。喜劇かい悲劇かい、と東風君が歩を進めると、寒月先生なお ・すまし返 0 て「なに喜劇でも悲劇でもないさ。近ごろは旧劇とか新劇とかだいぶやかましいから、 ぼくも一つ新機軸を出して俳劇というのを作 ? てみたのさ」「俳劇たどんなものたい、「俳句味の けむ 劇というのを詰めて俳劇の二字にしたのさ」と言うと主人も迷亭も多少煙に巻かれて控えている。 「それでその趣向というのは ? 」と聞きだしたのはやはり東風君である。「根が俳句趣味からくる のたから、あまり長たらしくって、毒悪なのはよくないと思 0 て一幕物にしておいた」「なるほど」 「ます道具立てから話すが、これもごく単なのがいい。 舞台のまん中へ大きな柳を一本植えつけ からす てね。それからその柳の幹から一本の枝を右の方へヌッと出させて、その枝へ烏を一羽とまらせ る」「烏がじっとしていれ ! 、 ( しいが」と主人がひとり言のように心配した。「なにわけはありません、 ぎようすいだらい 烏の足を糸で枝へ縛りつけておくんです。でその下へ行水盥を出しましてね。美人が横向きにな 0 て手ぬぐいを使 0 ているんです」「そいつは少しデカダンたね。第一だれがその女になるんたい , と迷亭が聞く。「なにこれもすぐできます。美術学校のモデルを雇 0 てくるんです」「そりや警視庁 がやかましく言いそうたな」と主人はまた心配している。「だって興行さえしなければかまわんじ や、のりませんか。そんなことをとやかく言ったひにや学校で裸体画の写生なんざできっこありませ ん . 、「しかしあれはけいこのためだから、たた見ているのとは少し違うよ」「先生がたがそんなこと につ・はん を言ったひには日本もまたためです。絵画たって、演劇たって、おんなじ芸術です」と寒月君大い

7. 吾輩は猫である

下を人の知らぬ間に横行するくらいは、仁王様が心太を踏みつぶすよりも容易である。この時吾 輩は我ながら、わが力量に感服して、これもふだんだいじにするしつぼのおかげだなと気がついて うんちょうきう だいみようしんらいは みるとたたおかれない。吾輩の尊敬するしつぼ大明神を礼拝してニャン道長久を析らばやと、ちょ っと低頭してみたが、どうも少し見当が違うようである。なるべくしつぼの方を見て三拝しなけれ ばならん。しつぼの方を見ようとからたを回すとしっぽも自然と回る。追いっこうと思って ~ 目をね てんちんこうさんすんり じると、しつぼも同じ間編をとって、・先へ駆け出す。なるほど天地玄黄を三寸裏に収め・るほどの霊 物だけあって、とうてい吾輩の手に合わない、しつぼをめぐること七たび半にしてくたびれたから やめにした。少々目がくらむ。どこにいるのだかちょっと方角がわからなくなる。かまうものかと めちゃくちゃに歩き回る。障子のうちで鼻子の声がする。ここだと立ち止まって、左右の耳をはす に切って、息を凝らす。「貧乏教師のくせに生意気じゃありませんか」と例の金切り声を捩り立て る。「うん、生意気なやった、ちと懲らしめのためにいじめてやろう。あの学校にや国の者もいる すけふくち からな」「だれがいるの ? 」「津木。ヒン助や福地キシャゴがいるから、頼んでからかわしてやろう しよう′こく 吾輩は金田君の生国はわからんが、妙な名前の人間ばかりそろった所たと少々驚いた。金田君はな あお語をついで、「あいつは英語の教師かいーと聞く。「はあ、車屋のかみさんの話では英語のリード 猫ルか何か専門に教えるんたっ・て言います」「どうせろくな教師じゃあるめえ」あるめえにもすくな からす感心した。「このあいた。ヒン助に会ったら、わたしの学校にや妙なやつがおります。生徒か ら先生番茶は英語でなんと言いますと聞かれて、番茶は savage tea であるとましめに答えたんで 教員間の物笑いとなっています、どうもあんな教員があるから、ほかの者の、迷惑になって困りま すと言ったが、おおかたあいつのことだ、せ」「あいつにきまっていまさあ、そんなことを言いそうな におうさまところてん

8. 吾輩は猫である

間は魂胆があればあるほど、その魂胆がたた 0 て不幸の源をなすので、多くの婦人が平均男子より 、、こなってくたさいと、いう演説 不幸なのは、全くこの魂胆があり過ぎるからである。どうカ : カ寿、。、 なの」 「へえ、それで雪江さんはばか竹になる気なのー とみこ 「やたわ、ばか竹たなんて。そんなものになりたくはないわ。金田の富子さんなんぞは失敬た 0 てたいへんおこってよ」 「金田の富子さんて、あの向こう横丁の ? 」 「ええ、あのハイカラさんよ 「あの人も雪江さんの学校へ行くの ? 」 いえ、ただ婦人会たから傍聴に来たの。ほんとうに ( イカラね。どうも驚いちまうわ」 「でもたいへんいい器量だっていうじゃありませんか」 「並みですわ。御自慢ほどじゃありませんよ。あんなにお化粧をすればたいていの人はよく見え るわ」 る 「それじゃ雪江さんなんぞはそのかたのようにお化粧をすれば金田さんの倍ぐらい美しくなるで あ で 「あらいやだ。よくってよ、知らないわ。たけど、あのかたは全くつくり・過ぎるのね。なんほお 金があったってーーー」 、じゃありませんか [ 「つくり過ぎてもお金があるほうがいし 「それもそうたけれどもーーーあのかたこそ、少しばか竹にな 0 たほうがいいでしよう。むやみに けしよう

9. 吾輩は猫である

283 吾輩は猫である 達している。中学などへ入れて学間をさせるのは惜しいものだ。漁師か船頭にしたらさためし国家 ももひき のためになるたろうと思われるくらいである。彼らは申し合わせたごとく、素足に股引を高くまく ふうてい って、近火の手伝いにでも行きそうな風体に見える。彼らは主人の前にならんだぎり黙然として一 言も発しない。主人も口を開かない。しばらくのあいだ双方ともにらめくらをしているなかにちょ っと殺気がある。 「ぎさまらはぬすっと ) つか」と主人は尋間した。大気炎である。奥歯でかみつぶしたかんしやく えちごじ 玉が炎となって鼻の穴から抜けるので、小鼻が、いちじるしく怒って見える。越後獅子の鼻は人間 かっこう がおこった時の恰好をかたどって作ったものであろう。それでなくてはあんなに恐ろしくできるも のではない。 「いえ泥第ではありません。落雲館の生徒です」 「うそをつけ。落雲館の生徒が無断で人の庭宅に侵入するやつがあるか . 「しかしこのとおりちゃんと学校の記章のついている帽子をかぶっています」 「にせものたろう。落雲館の生徒ならなぜむやみに侵入した」 ールが飛び込んだものですからー 「なぜポールを飛び込ました」 「つい飛び込んだんです」 「けしからんやつだ」 「以後注意しますから、今度たけ許してください」 ちんにゆう 「どこの何者かわからんやつが垣を越えて邸内に闖入するのを、そうたやすく許され「なと思う

10. 吾輩は猫である

「いやな人ね、そんなもの見せびらかして。あのかたは寒月さんのとこへお嫁に行くつもりなん だから、そんなことが世間へ知れちゃ困るでしようにね」 「困るどころですか大得意よ。こんた寒月さんが来たら知らしてあけたらいいでしよう。、寒月さ んもまるで御存じないんでしよう」 「どうですか、あのかたは学校へ行って球ばかりみがいていらっしやるから、おおかた知らない でしよう」 「寒月さんはほんとにあのかたをおもらいになる気なんでしようかね。お気の毒たわねー しいじゃありませんか」 「なぜ ? お金があって、いざって時に力になって、 「叔母さんは、じきに金、金って品が悪いのね。金より愛のほうがたいじじゃありませんか。愛 がなければ夫婦の関係は成立しやしないわ」 「そう、それじゃ雪江さんは、どんな所へお嫁に行くの ? 」 「そんなこと知るもんですか、べつに何もないんですもの」 雪江さんと叔母さんは結婚事件について何か弁論をたくましくしていると、さっきから、わから あないなりに謹聴しているとん子が突然口を開いて「わたしもお嫁に行きたいな」と言いたした。こ 猫の無鉄砲な希望には、さすが青春の気に満ちて、大いに同情を寄すべき雪江さんもちょっと毒気を 物抜かれたていであったが、細君のほうは比較的平気に構えて「どこへ行きたいの」と笑いながら聞 吾 いてみた。 すいどうばし 「わたしねえ、ほんとうはね、招魂社へお嫁に行きたいんたけれども、水道橋を渡るのがいやた から、どうしようかとってるの しようこんしゃ